第99話 最強の師弟関係

 5体の石化の魔物は、それぞれ石化の方法が異なる。


 コカトリスは石化のブレス。魔法で相殺出来ず、対応として風魔法で多少直接触れる面積を防ぐのみ。ニワトリとドラゴンを足して割った見た目をしている。


 バジリスクの石化は病。感染した人や魔物や動物に近づくと、次々と石化を広げていくやっかいな代物だ。見た目は頭に羽毛の生えた蛇とトカゲの間の子みたいな感じ。


 メドゥーサは石化の魔法。目があったものをすべて自動で敵判定する。魔法でガード可能。髪の毛が蛇の、青銅色の肌をした、巨大な女の頭だけの魔物だ。


 カトブレパスは石化の効果を持つ毒のレーザーを目から放つ。熱線としての攻撃力も高い。石化は魔法でガード不可。豚の頭を持つ牛の魔物で、頭と首がグニャグニャと柔らかく、基本頭が地面に置かれて下から見上げてくる。


 玉藻前は逆に石化を自身のガードに使い、攻撃は毒を放ったり、体当たりした敵の上で石化して、重みで潰したりする。


 と効果は様々だ。石化を防ぐ護符は、体が石化する瞬間にそれを解除してくれるので、これらを1つで一度に防げるスグレモノだけど、普通に魔法やスキルで防ごうと思うと、同時に攻撃されると、1人では不可能に近い。


「石化!」

 俺はすべての魔物に石化を伴う攻撃を開始させる。

「反射。状態異常解除。」

 ノアが魔法による石化を反射、スキルによる石化を解除してくる。だがブレスや熱線、病はそうはいかない。


 ずっと周囲に石化ガスが放たれ続け、解除してもしても、それが周囲から消えるまで石化を繰り返すやっかいな攻撃だ。

 熱線にも病にも反射はきかない。だから石化後に状態異常解除で石化はとけても、熱線で削られた分は回復魔法で回復するしかない。


 だがテイマーが使役する魔物には回復魔法が使えるが、ネクロマンサーは死体または魂を召喚して体を与えている為、魔物に回復魔法がかからない。

 状態異常解除がおいつかず、ノアの魔物が何体か石化する。


「なぎ払い。」

 ノアの乗っている魔物の口から放たれた、右から左に動くレーザービームが、俺と俺の召喚した魔物を切り裂く。


「ディメンションウォール!」

 土魔法の壁を作るも、それごと切り裂かれて、俺は腹に傷を負った。内臓が飛び出るんじゃないかという恐怖に、俺は慌てて腹を抑えて回復魔法を使う。


「回復量低下。」

 ステータスを見ると、回復量が50%減のデバフがかかっていた。

 ちっくしょー、回復の為に使うMPがハンパねえ!!

 それでもフルマックスで回復魔法を使うしかない。


 俺の召喚した魔物はなぎ払い一閃ですべて倒された。真っ二つに切り裂かれ、霧散するように消えてゆく。

 なんという攻撃力だろうか。恐らく魔物の元々のステータスが高いのと、ノアの知力ステータスが俺より高いのだ。


 ノアが俺と同じ魔物を使役したら、きっともっと強い敵となる。実力差があり過ぎる。俺はギリギリと歯噛みした。

「お前の使える魔物じゃ、俺の使役してる魔物は倒せねえみてえだな?」

 ノアが余裕の笑みを浮かべた。


「──まだだ!!

 スキル合成、霊媒師、千里眼、ネクロマンサー。

 指定召喚対象、半径100メートル以内、レベル50以上の魔物に限定。

 ──アンリミテッドインフィニティサモン!」


 俺の周囲に一斉に魔物がわく。俺の知らない、だがこの近辺で死んだレベルの高い魔物たち。

 最も魔族の国に近いチムチ王国だからこそ、過去に大量の強い魔物が湧き、討伐されている。


 霊媒師は死霊しか検索出来ない上にステータスは見れない。

 ネクロマンサーは俺の把握している死霊しか召喚できない。

 千里眼は生き物と物体しか検索出来ないが、レベル等で検索可能で、対象のステータスやスキルの情報が知れる。


 その3つを連動させれば、足りない部分を補い合えるんじゃないかと思った。

 今の俺はMP回復のスキルを持っている。まさに無限かつ無制限に魔物が召喚可能となる。


 ノアの出している魔物が30体に対し、俺が出したのは50体。このレベルなら、俺とノアの知力ステータス差を埋めてくれる筈。

 ノアは目を見開いて楽しそうな顔になった。

「いいな!お前!最高だぜ!」


 俺はメモリーオーブの本をめくって、召喚した魔物の能力を急いで把握する。

「ガリオの触手に毒攻撃!」

 俺は毒持ちの魔物に攻撃を指示した。先程俺の体を溶かした、ガリオという魔物の触手が毒で溶けてゆき、やがて体ごと消えた。

 目がなく熱に反応して攻撃するコイツだけは、先に潰しておかなければならない。


 これは勇者特権なのだが、魔物の名前で弱点属性なんかの情報が自分のステータス画面で調べられる。

 名前を知らないと無理だけど、俺は心眼で魔物のステータスが見れるから、名前を確認するくらい造作もない。


 心眼で見た魔物のステータスには、弱点属性表示がないから、まず名前を見て自分のステータス画面で検索して……という手間はあるが、まったく分からないより、戦闘に有利だ。


「ミスト!」

 魔物の放つ霧が、俺たちの姿をノアから隠す。霧が満ちるのに時間がかかるから、相手の攻撃後に放つと防ぐのは難しいが、レーザーやブレスをガードしてくれる。

 こちらも視界が不明瞭にはなるが、千里眼で位置を特定出来るから攻撃に問題はない。


「一斉攻撃!!」

 俺が新たに召喚した魔物が、霧の向こうのノアたちめがけて攻撃を開始する。霧が晴れた瞬間、ノアの周囲には、ノアが乗っている魔物しかいなかった。


「さあどうする?また同じやつを召喚すんのか?何度呼び出しても返り討ちだぜ?」

 ノアはニヤリと笑った。

「──召喚。」

 見たこともない魔物が、新たにノアの周囲に湧く。その数、ゆうに100体近く。俺が今出せる魔物は50体が限界。到底相手にならない。


「そん……な……。」

 まだ、奥の手を隠し持っていやがった!

 ノアが右手を上げる。

「一斉攻撃──」

 その瞬間、ノアと魔物の動きが止まる。

「ぐっ……!?」


「ユニフェイ!!」

 ノアの前に立ちふさがったのは、俺の匂いを追いかけて来たユニフェイだった。ノアに牙をむきながら、グラビティを放っている。チャンスだ。


「このままぶっ潰してやらあ!

 地面に這いつくばれ!

 いくぞ、スキル合成、グラビティ・グラビティ!!」


 ユニフェイのグラビティに俺のグラビティを合成させることで、ノアとすべての魔物の動きが封じられる。

 重みに耐えかねて、1体、また1体と地面に這いつくばる。ノアも乗っている魔物ごと地面に縛り付けられた。


「いつまでもつかな?」

「なんだと?」

 顔を上げて俺にニヤリと笑いかけるノアを睨む。


「断言するぜ、お前のMPよりも、お前が使役してる魔物のMPは少ねえ。

 お前はまだ、先に指示しないと、自分がスキルを使ってる状態で魔物を操れねえ。

 今できる攻撃は、この重さだけってこった。

 だが、動きを封じるにとどまって、俺たちをペチャンコにするまでの力がねえ。

 魔物のMPが切れた時、合成魔法は消える。

 そうすりゃ俺は再び攻撃を開始する……!

 その時がお前の最後だ。」


 確かにその通りだ。俺が使役してる魔物を使う時は、先に攻撃の指示を出してから、俺がスキルを使う。魔法を放っている以上、使役してる魔物を動かせない。


 ユニフェイのMPは俺の4分の1程度。MP回復のスキルは、MP総量の10割を回復してくれるけど、再使用可能になるまでのリキャストタイムがあって、続けて回復は出来ない。


 合成魔法は使うMPの量が同じでなくてはならない。俺はまだまだ余裕でも、ユニフェイはそうじゃない。

 この間にもガンガンMPは減っていってる。重さで倒せず、同時に他の攻撃も出来ないのであれば、1度回復したところで、時間稼ぎでしかないのは明白だった。

 考えろ、何か、何か──!


「……なあ、お前、単に刺激が欲しいんだろ?」

「それがどうした?」

 俺の言葉にノアが首を傾げる。

「──なら、一番刺激的なことをお前にやらせてやんよ。」

「ほう?そいつはいいな。

 ──なんだ?」


「この俺を……お前の弟子にしろ!!!」

 ノアが、予想外だ、という感じで目を丸くする。


「強いネクロマンサーと戦いてえんだろ?

 今のこの世界に、俺より強いネクロマンサーはいねえ。

 けど、俺を倒してどうする?

 敵のいねえ、退屈な時間が始まるぜ?

 だったら、俺をもっと強くして戦った方が、お前にとっちゃあ、面白いんじゃねえのか?」


 ノアがニヤリと笑う。

「そいつはいいな。

 今まで生きて来た中で、感じたことがねえくらい刺激的だ。

 決めた。お前を弟子にしてやるぜ。

 俺を喰えるくらいに強くなれ。

 そして俺が──そんなお前を喰らう。」


 漫画じゃよく聞くセリフだけど、実際それが可能な相手に目の前で目を見て言われると、足首から血が引いて、じっとりと汗をかく。


 だけど、コイツの強さと知識はホンモノだ。ネクロマンサーは数が少ない。力と知識を得るなら、これ以上の相手はいない。


「解除だユニフェイ。」

 俺の言葉に、ユニフェイがグラビティを放つのをやめる。ノアは魔物から降りて立ち上がると、笑いながら俺に近付いて来た。

「お前みたいなやつは初めてだ。

 どっからそんな発想がわくんだ?」


「お前が俺の能力に魅力を感じたように、俺もお前の能力は、敵で終わるにゃ勿体ねえって思っただけだ。

 最強のネクロマンサー。

 これ以上の師匠はいねえからな。」


「確かに、俺以上のネクロマンサーは、世界中を探したって、過去にも未来にもいないだろうぜ。」

 その通りだろう、と思った。

「俺はこれから友だちを助けなきゃいけねえんだ。

 お前の弟子になるのはその後でもいいか?」


「別に構わねえぜ?

 俺は死なねえ。時間だけは馬鹿みてえにタップリあるからな。

 いつでも来いよ。相手してやる。

 寝込みだろうが、女抱いてる時だろうが、大歓迎だぜ。」


「最中は遠慮させて貰うわ……。

 てか、死なねえってどういうことだ?」

「そいつは後でタップリと話してやるよ。

 簡単に説明出来る話でもないんでな。」


「友だちを助けたら、お前と連絡の取れる通信具を作って貰うよ。

 会いたくなったら、お前もいつでも会いに来れるようにな。」

「──怖いもの知らずだな。

 お前、最高だぜ。」

 ノアが初めて、ニッカ、という感じで笑った。


俺は自分の名前と泊まっているホテルをとりあえず教えて、みんなの元に戻るとノアに告げだ。ノアは楽しそうに俺に手を振ってきた。無邪気かよ。

「空間転移!!」

 俺はユニフェイをアイテムボックスに入れると、恭司たちの元へと急いだ。


『──匡宏!!』

 まだ通信が切れていなかったらしい。俺がママさんの店に姿を表すと、心の中で英祐が話しかけてくる。

『どこへ行ってたの!?』

『心配したんだぜ?』

 恭司が飛んできて俺の肩にとまる。


『悪り……。ちょっと拉致られてた。』

『やっぱり……。』

『けど、そっちはもう片付けて来たから。』

『こっちは最悪だよ。

 アンナとママさんを人質に取られた。』

『──なんだと!?』

 英祐が今までの経緯を説明してくれる。


『先に知ってたら、気付かれないようにチュラブルを取ることも出来たけど、俺が戻って来たことを敵に先に知られちまった今となってはムズいな。

 オマケに殺人祭司までまだいやがる。

 ……クッソッ!

色々とタイミングの悪い……。』


『敵の姿はまだ見えないけど、姿を消した君が来たことで、あきらかにざわつきだした。

 君をさらった奴らと、ここを囲んでる奴らが同じということはない?』

 最もな疑問だった。だが、

『……恐らくそれはねえと思う。

 俺がさっき呼び出されたのは偶然だったと思うから。』


 そもそもノアは人の下につくタイプには見えない。ましてや卑怯な手段を好むタイプでもない。何より悪意がない。

 どこかの組織の一員や、殺人祭司の手下じゃないと思えるのだ。


『千里眼に引っかかった、あきらかにおかしな位置に隠れてる奴は16人。

 路地とか、木の場所にいる奴は姿が見えないから、木の上とかだと思う。

 ……?

 今、その2つが近付いて、重なった?

 攻撃の相談でもしてんのかな。』


『エッチ始めたんじゃねえか?

 だって路地裏だろ?』

『『──あ。』』

 俺と英祐が、恭司の言葉に、そうかも知れないという想像をして赤面する。


『じゃあそいつらは関係ねえか。

 敵は14人いるのか。ルドマス一家かも知れねえな。

 ──待て、別の奴が移動して、前の奴に重なったぞ!』

『どんだけエッチ始まんだよ!』


『いや、多分これは違う。

 移動先の奴が白色の○になった。

 白色は意識がない状態なんだ。

 ……後ろから来た奴に気絶させられたと思う。』

『どういうこと?』

 英祐が訝しげに言う。


『分からない……。あ!』

『なんだよ?』

『別の●も動いて、前の●が白い○になった。ひょっとして……、エンリツィオがアンナにつけてる護衛か?』

『きっとそうだよ!

 敵を気絶させてくれてるんだ!』


『ただ物陰にいる怪しい奴ってだけで、気絶させたりはしねえだろ。顔を知ってる相手でもなけりゃ。

 てことは、やっぱり潜んでるのは、ルドマス一家で間違いねえな。』

 恭司の言葉に、俺と英祐は頷いた。


『蟲使いを検索出来る?

 そいつの動きを止めれば問題ないよ。』

『分かった。

 ……いたぜ。あの木の上だ。』

『俺が行くぜ。

 フクロウが暗闇に紛れて近付くのに、気付ける奴はいねえ。』


『頼んだぜ恭司。』

『おう、アンナとママさんは頼んだぜ。』

 恭司が音もなく羽ばたき、蟲使いの潜む木の上に近付いて行く。

 その時、殺人祭司が動いた。


「とても美味しかったです。

 もう少し何かいただいてみたいのですが、あの彼と同じものをいただけませんか?」

 と、アスタロト王子を指し示しながら、ママさんに話しかけた。


「ああ……あれは、まだお試しで作ったもので、店に出してるものじゃないんですよ。

 この子とお友だちだったから、試しに食べて貰ってただけなんです。」


 申し訳なさそうに言うママさんに、

「いいぜ?少し食うか?鉄板に乗ってるから、熱々とまではいかないまでも、まだ冷めてねえからよ。」

 何も知らないとアスタロト王子が、ソーセージの乗った鉄板を持って、殺人祭司に無防備に近付いてしまう。


「それはそれは。

 いただきます。」

 殺人祭司がソーセージを食べて、

「うん、実に美味しいですね。」

 というと、アンナがニッコリ微笑んだ。


「──ママさん、肩に何つけてんだ?」

「え?」

 アスタロト王子が、ヒョイとママさんの肩についたチュラブルを取ってしまう。

『『──!!』』


「いやだ、変な虫だね、気持ち悪い。」

「アンナの肩にも……。」

 アスタロト王子が手をのばした瞬間、チュラブルは虫とは思えぬ速度で、アンナの首にビタッと張り付いた。


「──そこまでだ。動くなよ。」

 ランドルが姿を表す。

「動けはこの娘の中にこの虫を入れて、脳を操ってやるぜ?」

『恭司、失敗だ!』

『なんだと!?

 蟲使いのいる木にいるってのに!』


 ランドルの部下たちが姿を現し、店を取り囲む。

「な、なんだい!あんたたち。」

「キャッ!?」

「アンナ!」

 ランドルの部下が、アンナをカウンターの奥から無理やり連れ出す。


「この娘は人質だ。

 返して欲しけりゃ、後で指定する場所に来るんだな。」

 ランドルたちはそう言い捨てて去っていく。俺は殺人祭司が薄く微笑んだのを見逃さなかった。

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