第95話 古代魔法の継承者

「サイマルティニアスアタック。」

 ランドルス将軍が空中に8つもの、こちらに向いた縦の状態の魔法陣を展開させ、そこからそれぞれ全属性の魔法が飛び出して俺たちを攻撃する。

「アブソロプションゲート!!」

 同時に魔法陣を展開していた英祐の魔法陣が、それを吸い込んで吸収する。


「合成魔法、インフェルノシュート。」

 エンリツィオが両手からそれぞれ闇魔法と火魔法を出して合成して放つ。

 トランプシュートはカード状の刃を作り出し、空中に浮かんだそれを一斉に射出させる、カード自体が影なので物理的な干渉を与えるのが難しい単体闇魔法。

 インフェルノは体にまとわりつく灼熱の炎が襲いかかる広範囲火魔法。

 それらが合成されることで、炎の刃がまとわりつくようにランドルス将軍たちに襲いかかる。


 どこかから光を纏った矢が飛んで来ると、それが空中で拡散し、複数の光の矢となって俺たちに降り注ぐ。

「「ディメンションウォール!!」」

 俺とアシルさんが土魔法の、攻撃に反応する壁を周囲に展開し、エンリツィオの合成魔法攻撃と、弓矢の連撃をそれぞれ防ぐ。

 戦力はほぼ互角に思えた。

 互角なら持久戦になる。ただし元からMPが高く、新しくMP回復スキルを手に入れた俺がいる限り、長引けば長引く程、向こうに不利だと思えた。


「アシルさん、俺、MP回復スキルを手に入れたんですよ。

 長期戦になったら、そっちに勝ち目、ないと思いますけどね?」

「へえ?そりゃ凄いね。

 けど、そう思ったようにいくかな?」

 不敵に笑う俺に、こともなげに笑い返すアシルさん。なんでそんなに余裕そうなんだ?俺は不思議で仕方がなかった。


 空中ではランドルス将軍と英祐の魔法陣が、互いに魔法攻撃を放っては、それを吸収する、というのを繰り返していた。

「僕がただ魔法を受け止めてただけだと思いますか?

 そろそろお返しするよ。

 ──リバースゲート!!!」

 英祐が100を超える魔法陣を、縦に空中に展開したかと思うと、それまでに吸収していたランドルス将軍の魔法が、魔法陣から一斉に飛び出して襲いかかる。

 それを見た、到底人には見えない、表情なんて分からない筈のランドルス将軍の顔が、ニヤリと笑ったように見えた。

「──召喚。」


 ランドルス将軍が、空中に縦に十幾つもの魔法陣を展開する。

「──アダムさん!カールさん!」

 魔法陣の1つ1つに、エンリツィオの部下たちが召喚される。全員で1〜2体がやっとと言っていた魔物と、少ない人数で戦っていたからだろう、みんな見た目が既にボロボロだった。

 そんな彼らが、まるで十字架にはりつけにされたイエス・キリストかのように、両腕を左右に開いた状態で魔法陣にはりついて、そのまま空中に浮かべられ、ランドルス将軍の前を盾のように塞いだ。

 アシルさんの余裕の正体はこれだったのだ。いつでも呼び出す事のできる人質。魔族が味方にいるならではの戦い方だ。

「くっ……!!

 止められない!」

 英祐の放った魔法がみんなを襲う。


「空間転移!!空中浮遊!!知能上昇!!合成魔法、クリムゾンウェイブ!!」

 俺はアダムさんたちがはりつけにされた魔法陣の前に空間転移すると、俺の使役しているアンデットたちを呼び出して、知能上昇を使った。

 アンデットたちと俺の放った魔法が、英祐の放った魔法と相殺される。──だが、100以上は多過ぎた。

「ダークウォール!!」

 空中に土魔法の壁は展開出来ない。俺は魔力の限り範囲を広げて闇魔法の壁を作ったが、撃ち落とし切れなかった魔法たちが、闇魔法の壁を貫き、俺やアダムさんたちに襲いかかる。

「うわああああ〜〜!!」

 俺はまともに魔法攻撃を浴びて、回復魔法を発動させながら、それでも体勢を崩して空中から地面に向けて落ちた。


 地面に激突する!空中浮遊!

「──テレポート、フライト、フォーリングコントロール、テレキネシス、ルーンシールド。」

 だがその前に、俺の体が落ちる速度が遅くなったかと思うと、フワッと空中に浮かびあがり、誰かにそのまま抱きあげられた。

「──人の国で好き勝手やりやがって。

 あんだけ派手にドンパチやってりゃあ、俺の部屋から丸見えなんだよ。」

 俺を横抱きに──要するにお姫様抱っこで──抱きかかえて空に浮かんでいたのは、白く薄い羽のようなオーラをまとい、金色に目を光らせて、髪の毛を逆立てたアスタロト王子だった。

「古代魔法!?

 人間がなぜそんなものを……。」

 ランドルス将軍が驚いた声を出しながら、アスタロト王子を見る。

「こりゃあさすがに予想外かな。

 ストーンブラスト!」

 アシルさんが苦笑しながら、アスタロト王子めがけて土魔法を放つ。だけどアスタロト王子が纏ったオーラはそれを受け付けなかった。


「チムチの王族の祖先は妖精の血を引いてると言われててな。

 だから代々魔物と妖精にしか殆ど現れない筈の、誘惑のスキルを持って生まれてくんのさ。

 俺は特にその力が強くてね。

 ──先祖返りってヤツ?

 この姿じゃねーと使えねーし、周囲を破壊しかねねえから、普段は使わないようにしてたんだけど。

 ……よくもコイツに手え出しやがったな。

 このまま続けるなら、チリすら残らねえと思え。

 ──ストーン・サーヴァント。」

 アシルさんの放った土魔法を流用して、握りこぶし程の大きさの石礫が、みるみるたくさんの人型のストーンゴーレムへと変貌してゆく。

「いけ。」

 ストーンゴーレムたちが一斉にランドルス将軍に襲いかかる。


「くっ!

 バーンクラフト!!」

 アスタロト将軍の魔法陣から放たれた炎の波が、ストーンゴーレムたちを飲み込んでいく。だがストーンゴーレムの進行は止まらない。

「古代魔法で作られたストーンゴーレムに、そんな魔法きくかよ。

 倒したきゃ、お前も古代魔法を使うんだな。」

「そ、そんな。

 うああああ!!!」

 ストーンゴーレムに一斉にのしかかられ、ランドルス将軍がその下に埋もれる。次の瞬間空中の魔法陣が消えたかと思うと、それにはりつけられていたアダムさんたちが地上に落ちて来る。

 手の空いているストーンゴーレムたちが、それを次々に受け止めた。


「──人質とやらもいなくなった。

 ストーンゴーレムにお前らの魔法はきかない。

 さて、どうすんだ?」

 アスタロト王子が見下すようにランドルス将軍を睨む。ヤンキー要素が炸裂している時の、今の恭司の顔だ。

 こんなオラついた妖精見たことないぞ……。いや、妖精自体見たことないけども。

「くっ!すべてが効かぬ訳ではあるまい!ファイヤーイグニッション!」

 ランドルス将軍は諦めることなく、魔法陣から魔法を放つ。

「しつけえなあ。

 力の差もわからねえ奴は、力任せのケンカにすら勝てねえんだぜ。

 マジックリフレクション、スティールマインド。」

 俺を片腕で抱いたまま、アスタロト王子が古代魔法を放つ。


「ぐっ……!?

 があああああ!!!!」

 突如力が抜けたようなランドルス将軍は、展開途中だった魔法陣が消えたかと思うと、そのまま自分の放った魔法をモロにくらった。

「お前のMP、全部貰ったぜ。

 もう攻撃出来ねえだろ。

 ──次は命を貰おうか?」

「クソッ!こんな奴が味方にいるなど想定外だ!」

「さすがに引くしかなさそうだね。

 君ホント、王族をたらし込む才能あり過ぎじゃない?」

 アシルさんが苦笑したみたいに笑うと、そのまま右手を上げる。遠くから矢が飛んできたかと思うと、まばゆい光が広がり、俺たちは一瞬視界を見失った。

 目がなれた時、既にランドルス将軍とアシルさんの姿はなかった。


「──オイ。」

 アスタロト王子が俺を睨む。

「な、なんだよ。」

「王族をたらし込む才能ってなんだ。

 まさか俺以外の奴とも……。」

 そこ引っかかったのかよ!

 そもそもお前とはなんにもねーだろーが!

「別になんもねーよ。

 つか、いつまで抱いてんだ!

 いい加減おろせ!」

「……いや、その言い方は何かあるやつだ。

 正直に言えよ。

 怒らねえから。」

 いや、完全に怒ってんだろ!キレてる時の恭司の顔だわ!


「好きな奴ってそいつのことか?」

 ……まあ、ジルベスタのことは、確かにちょっと好きだったから、ある意味間違ってはねーけど。

 一瞬それを顔に浮かべた俺に、ムッとした表情を浮かべたかと思うと、

「あっ!?オイ、どこ触ってんだ!」

「いいだろ!そいつはお前に好かれてんだから!俺だって尻くらい!」

「よくねーよ!

 てか、別に好きじゃねえよ!」

「……何やってんだアイツら……。」

「さあ……。」

 空中で揉める俺とアスタロト王子を、地上でエンリツィオと英祐が呆れたように眺めていた。


 ようやくアスタロト王子に地上に降ろされた俺は、アダムさんたちに回復魔法を使った。

「大丈夫ですか?」

「石化を防ぐ護符のおかげでなんとか生きてますが、守るのに精一杯で……。すみません。多分、誰も倒せてないと思います。」

 アダムさんが力なく謝ってくる。

「しょうがねえよ、敵が来るなんて予想外だったからな。

 攻撃は一発ずつ最低限当ててあんだろ?

 お前らは休んどけ。

 オイ、俺とお前とで1体ずつ回って倒すぞ。」

 エンリツィオが俺にそう声をかける。

「分かった。」

「僕も手伝います。」

「まだ敵がいんのか?

 俺もサポートすんぜ?」

 英祐とアスタロト王子がそう言ってくれた。


 俺の千里眼で魔物の位置を特定し、そこにアスタロト王子が古代魔法で転送してくれる。

「この人数運べんのはスゲーな!」

「へへ、だろ?」

 俺に褒められて、アスタロト王子が嬉しそうに人差し指で鼻の下をこすりながら喜ぶ。

 経験値の為に、倒すのはエンリツィオをメインにしたいと言うと、2人がサポートに回ってくれたので、俺たちは難なく5体の魔物を倒すことが出来た。

「これ……なんだろうな?」

 レベルが高いだけあって、4体の魔物が魔石をドロップした。その中に、なんだかよく分からないものが落ちていた。

 ドロップアイテムを拾い上げた俺に、

「ああ、封印の魔石だね。

 強すぎる魔物を封印するのに使うんだ。

 激レアだよ。」

 と英祐が教えてくれた。

 へー、いいもん拾った。

 これ、貰っていいか?とエンリツィオに尋ねると、いいと言うので、俺は封印の魔石をアイテムボックスの中にしまった。


 俺がまさに封印の魔石をしまっていた頃、封印の魔石を割っている影があった。

「この国の聖樹に封印されし、強大なる力よ、今こそ解き放たれよ。

 そして我に力を貸したまえ。」

 それはランドルス将軍だった。

 封印の魔石から溢れ出た影は、1つの形となって姿を現した。

「お前が封印されし伝説のネクロマンサーか。我はお前を解き放ち者。

 我が下僕となりて、力となるがいい。

 古代魔法を操る魔物を召喚出来るお前にしか出来ぬ仕事だ。」

「──下僕だあ!?

 ナメたこと言ってんじゃねえぞ。

 力の差を思い知れ。

 お前程度が俺を使おうなんざ、千年はえーんだよ。

 ──召喚。」

「ゲボアッ!?

 な、何を……。」

 影の召喚した魔物が、ランドルス将軍の体を貫く。

「俺の名前を言ってみろ。」

「……ノア・ハイド、お、覚えていろ……。」

「悪いな。

 殺した相手をいちいち覚えちゃいねえんでね。」

 ランドルス将軍はその場に崩れ去ると砂になって風に吹かれて消えた。

「──さて。

 面白そうな奴がいりゃあいいんだがな。」

 男は楽しそうに笑った。


 そんなことがおこっているとも知らず、俺は英祐とアスタロト王子と共に、ホテルの自分の部屋にいた。

 恭司は妖精の姿のアスタロト王子に。英祐はアスタロト王子が元の姿に戻った途端、驚愕したのは言うまでもない。

「お前、いつの間にコイツと仲良くなったんだ。」

「まあ……色々ありまして……。」

 呆れた様子の恭司に、俺はちょっと言葉をにごす。まあ、初対面で襲われてたわけだしな。言いたいことは分かる。

「ホントに恭司にソックリだね。

 ビックリだよ……。

 ──てかさ、彼がいるから、恭司が元に戻れないんじゃないの?いいの?」

 英祐がコソッと俺に耳打ちしてくる。

「そこは恭司が待つって言ったんだ。

 だから気にしないでくれよ。」

「そう……?

 ならいいけど。」

 英祐は納得してくれたらしかった。


「つうか、なんでお前の古代魔法には、ランドルス将軍の魔法がきかなかったんだ?」

「さあ?

 現代魔法は古代魔法に通らねえってことしか、俺も知らねえ。」

 俺が出したゾラッカの蜜で固めたナッツのお菓子を、ポリポリとかじりながらアスタロト王子が答える。

「どこから力を流用してる違いっていうのかな、例えばさ、燃える元の燃料が、ロウソクなのか、ガスなのか、ガソリンなのか、油なのか、それによって消化の対処法が違うようなものかな。

 火のついた油に水を注いだら、消えるどころかもっと燃え広がるって聞いたことない?そんな風に、魔法の発生元が違うと、反応が異なるんだよ。

 それで古代魔法に現代魔法がきかない場合が存在するんだ。まったく、じゃないけど、防ぐのは大分難しいよ。

 精霊にイタズラされたら魔法じゃ逃げ出せないって、この世界じゃ言われてるらしいんだけど、その理由がそういうことみたい。」


 代わりに英祐が答えてくれた。魔族の魔法を勉強する時に、色々と魔法の歴史も学んだのだそうだ。

「現代魔法は大気中の成分を利用してるけど、古代魔法は、精霊とか、神の力を借りてるって言われてるんだよね。

 神の力を借りてるなら、その神に干渉できないと駄目なわけ。

 同等クラスか、より上位の神の力を借りて、直接神に力を貸さないように働きかけるのが、古代魔法の戦い方なんだよね。

 だから神と契約出来ない、対極の存在である魔族には、古代魔法使いは天敵とも言えるんだ。

 彼がそばにいる限り、魔族は誰も手出しが出来ないと思うよ。」

 英祐の言葉に、アスタロト王子が、

「へー。

 じゃあ、俺のそばにいりゃあ安心じゃねえか。俺がずっと守ってやるよ。」

 とニヤリと笑いながら言った。


「確かにそれはそうだけどよ。

 王子にずっと守らせるってわけにも。」

「いいぜ?俺は別に。

 うちはわりかし自由だからな。

 しばらく帰らなくても、別になんも言われねーしな。」

「けど、姿を奪った男のこともあるし、お前は国王のそばにいなきゃだろ?」

「じゃあお前も城に住めばいんじゃね?

 俺の部屋は広いし、ベッド用意してやっからよ、なんならこんなホテルなんかじゃなく、みんなで城に来いよ。あそぼーぜ。」

「城住まいか……悪かねえな。」

 恭司がワクワクしだす。

「みんなで一緒になら、面白そうだね!」

 英祐までそんなことを言い出す。

「ええ?

 けどよ……。ずっとってわけにも……。

 他にも解決しなきゃいけない問題は山積みなわけだし、そこにチムチの王族を巻き込むわけには……。」

 俺1人逡巡していた。


「気にすんなって。

 礼ならホレ、キスしてくれりゃいいぜ?」

 そう言ってニヤリと笑いながら、アスタロト王子があぐらをかいたまま体を傾けて、俺に頬を差し出した瞬間、俺が思わずホッペにチュッとしてしまう。

 初めて見た英祐が目を丸くし、恭司が、あー、と言う顔をして、言い出しっぺのアスタロト王子が、

「まさか、ほんとにするとは……。」

 と、ちょっと頬を染めて一番驚いていた。

「え?え?え?」

 英祐が慌てる。

「あー。俺から説明するとだなー。

 これ、匡宏んちの習慣なんだよ。」

 と恭司が説明しだす。

「コイツんち、両親がアメリカナイズな家でな。家族がおはようのキス、いってらっしゃいのキス、おかえりなさいのキス、おやすみなさいのキスすんだよ。

 しかも小さい頃は父親相手でも口にしてたらしくてよ。

 物心つく前からそれだから、キスを要求されると、要求されてんのが唇だろーが、パブロフの犬みてーに反応しちまうんだ。

 俺も中学時代は大分それでからかってキスさせたからな。」


 ……そうなのである。

 俺は多分家族以外では、恭司と最もキスしてると言える。

 ちなみに俺の名誉の為に言っておくと、他人で初めてキスした相手は幼い頃の江野沢であって恭司ではない。

 江野沢がうちの両親のマネをして、思わず俺が反応してしまったという、色気もへったくれもないものではあるが。

「キスして?」

 チュッ。

 英祐が俺に頬を向けてきて、俺が思わず反応してしまう。ホントだ!と英祐が言い、アスタロト王子は完全に、へー、いいこと聞いた、という表情を浮かべていた。お前諦めたんじゃねーのか!!!

「な……なんだよ。」

 俺にのしかかってくるアスタロト王子に困惑しながら押し戻そうとすると、

「キスして?」

 チュッ。

「キスして?」

 チュッ。

「キスして?」

 チュッ。

 思わず唇にキスしてしまう俺を、言うたびどんどん床に押し倒していくアスタロト王子。


「エッチし──」

 バゴッ!!

 俺の拳がアスタロト王子の顎に炸裂する。俺の78の握力でも、殴り続ければ人の鼻の骨くらいなら簡単に折ってしまうので、極力殴らないようにしているのだが、さすがに反応してしまった。

「だめか。」

 顎をさすりながら舌を出しておどけるアスタロト王子に、恭司と英祐が腹を抱えて大爆笑している。

「遊ぶな俺の体で!!

 俺の純粋さが汚れる!」

 腹を立てる俺に、まったくこたえていない様子のアスタロト王子と、俺がイジられることがツボの恭司、俺の文句を本気に受け止めていない英祐。

 オマエら楽しそうで何よりだな!

 無視か!俺の文句は!

 俺をイジることを通じて、3人は一気に仲良くなった。


 結局、押し切られて、俺たちはしばらくチムチ城にやっかいになることになった。エンリツィオにそのことを告げて了承を得ると、エンリツィオの部屋にいたアダムさんが驚愕の表情で俺を見てきた。

 ……言いたいことはは分かります。けど、みなまで言わんで下さい。

 ゾロゾロと連れ立って城に行くと、アスタロト王子が従者を捕まえて、自分の部屋にベッドを4つ置くように言った。

 ……恭司の分は別にいらねーんじゃねーか?と俺が言うと、いるわ!と恭司が叫んだ。

 ユニフェイ──江野沢を1人ホテルに残すのは可哀想なので連れて来ているのだ。当然ベッドは必要だ。

 ……一緒に寝るのは緊張するから。

 俺を襲ったアスタロト王子に、ユニフェイは完全に警戒の表情を浮かべて、俺にピッタリとくっついて、離れようとはしなかった。

 ……まずい。このままだと、ベッドにも潜り込んでくるかも知れん。


 4人と1匹で食事をして、風呂に入って部屋に戻ってくると、ベッドが4つ、ピッチリくっついて並べられていた。

 それを見たアスタロト王子がニヤリと笑う。

「──枕投げしようぜ。」

「おっしゃ、やったらあ!」

「待て!俺に完全に不利じゃねーか!」

「いいね!修学旅行って感じする!」

 3対1で恭司の抗議は封じられ、俺たちは枕投げに興じた。恭司は殆どユニフェイの後ろに隠れていた。さすがに誰もユニフェイには枕を投げられない。

 それをいいことに、実は怪力の恭司が、ユニフェイの後ろから、しっかりクチバシでくわえた枕を投げてくる。

「わっぷ!?」

「ちょ、おま、ユニフェイの後ろは卑怯だぞ!」

「何とでも言えよ!!」

「負けるかあ〜〜!!」

 結局日付が変わってもなお大騒ぎした俺たちは、翌日の朝食の時間をすっかり寝過ごしてしまったのだった。

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