第71話 神獣転生の理由

「──それでここが、ドメール王子の収監されてる独房だよ。

 仮にも王子だからね。

 一応離れたところにおいてるみたい。

 でも、そこに行くまでに扉が3つ。

 これを突破しなくちゃならない。」

 俺たちはエンリツィオの部屋で、アシルさんからドメール王子が収監されているという、ラダナン刑務所の内部の地図を見せられながら、潜入ルートのレクチャーを受けていた。

「最後の扉だけ、人がいないんですね。」

「うん。

 けど、代わりに特殊錠になってる。外からは鍵穴があるけど、内側からはドアノブも鍵穴もなくて開けられない。

 必ず2人以上で行動して、中に人が入ったら一度鍵をしめるのさ。中に入った人の合図で外の人が鍵をまたあける。

 ──こいつは看守が直接鍵を持ってないんだ。

 持っているのは、副看守長以上の人間が鍵を持ってる、専用の鍵入れの中だ。

 これを手に入れない事には先へは進めないよ。他の2つは扉の前の看守が持ってるから、どうとでもしようがあると思うけどね。」


「──特殊錠の見本てありますか?

 あと扉の素材が分かると有難いです。」

「取り寄せさせようか?早くて夕方、遅くて明日の朝には届くと思うよ。」

「鍵と扉の材質が分かったからって、どうにか出来るもんなのか?」

 恭司が俺に聞いてくる。

「実際見本を見て、試してみてからじゃないと、なんとも言えねえけど、材質次第でどうにか出来っかもしんねえ。」

 そう言う俺に、

「──ほう?

 ラダナン刑務所と言えば、脱出不可能で知られる刑務所の1つだ。

 そいつをオマエが簡単に破れるってんなら、俺の部下もついでに救い出す算段をしたいとこだな。」

 とエンリツィオが言ってくる。

「今回はあくまでも、ドメール王子に会いにいくのが目的だけど、確かに、鍵を手に入れるんじゃなく、錠そのものがどうにか出来るのであれば、次に行く時までに、救出の準備を整えたいね。」

 アシルさんも同意する。


「魔法感知スキル持ちにだけ対応出来る手段があれば、中は監視カメラとか当然ないわけだし、錠がどうにか出来る素材であれば、それは可能だと思います。」

 俺はうなずきながら答えた。

「──なら、部下を救うついでに、中にいる奴らのスキルも根こそぎ奪う。

 あそこはこの国唯一の刑務所だ。

 アプリティオ中の犯罪者が集まってる。

 当然、レベルの高い魔法スキル持ちも大量にな。

 レベルの高い魔法使いは、魔法師団か、冒険者か、犯罪者のいずれかにしかいねえ。

 ──この国の3分の1の魔法スキルを、ごっそりいただくチャンスだ。」

「ちなみに何人くらいいるんだ?」

「ざっと見積もっても、200人以上はいるよ。それ全部一度に奪える?」

 エンリツィオに対する質問に、アシルさんが答える。


「……普通に逃がすことは出来ても、そいつらのスキルをその場でいちいち全部奪ってたら、俺が囲まれると思います。

 戦えば逃げられるけど、それじゃ目立っちまう。スキルを奪ってる人間がいることは最悪知られたとしても、それを俺がやってると知られたくはない。」

「──管轄祭司か。」

 エンリツィオが鋭い目つきで俺を見る。

 俺はうなずきながら、

「エンリツィオを狙ってるって言うそいつは、スキルのレベルや本人のレベル次第で、殺した時に得られる経験値が高くなるから、貴重なレベル7の魔法スキルを2つも持ってるお前を執拗に狙ってるわけだろ?

 そんな奴からしたら、……俺以上に殺した時の経験値のウマい人間はいないと思う。だから、知られたくはない。」

「……確かに。知られてなおかつ僕らが匿ってることを知られたら、スキルを集める点においても、僕らに対する執拗さが増すって点においても、ちょっと面倒だね。」

 そうか、エンリツィオだけが狙われてる訳じゃないのか。アシルさんだって、レベル7の土魔法とレベル6の回復魔法を持っているのだ。


「なら、一度中にいる奴らを、部下たちに引き渡して、どこかに匿っておいてから、順繰りにスキルを奪ったほうが安全だね。」

「──はい。

 それと、そんなにたくさんスキルを奪うのなら、スキルが合成されちゃう前に、いくつか他の人に渡したいです。

 レベルアップしてから渡してもいいけど、今レベル6の魔法スキルを持ってる人のスキルを一度奪って合成して、レベルアップしてから戻した方がいいと思う。

 奪う相手が誰かどんなスキルを持ってるのか、現時点じゃ分からないし、いくらなんでも、レベル8以上のスキルを、エンリツィオの部下に渡すのなんて変でしょ?」

 エンリツィオが、俺がアシルさんに向けた言葉にピクッとする。

「……確かにね。

 火の女神の加護で実際の火力は上とはいえ、他のスキルのレベルがエンリツィオを超えちゃうのは、ちょっと組織のバランス的にも、今はまずいかな。」

 アシルさんがうなずきながら言う。


「じゃあ、どの魔法スキルを持ってる部下を呼べばいい?

 今いる中から、君が渡したいスキルのレベル6の奴らを連れて来るよ。」

「土魔法と聖魔法と闇魔法以外でお願いします。

 火魔法は2人いけます。」

 俺がレベル7以上を持っていて、なおかつレベル6があるのがその5種類の魔法だった。

 火魔法レベル6は、別々のアンデッドに付与してあるから、合成されずにレベル6のまま持つことが出来るのだ。

「──火魔法が2人の、合計6人だね?

 分かった。ちょっと待ってて。」

 アシルさんは確認するように言うと、部下の人を呼びに去って行った。

 程なくして6人の男たちがやって来た。

 レベル6の雷魔法使いと、レベル6の火魔法使いの内の1人は、ジュリアン魔法師団長とエンリツィオが戦った際に、エンリツィオの代わりに戦闘を引き受けた2人だった。

 お久しぶりですと言ったけど、2人は俺を覚えていなかった。まあ、そりゃそうか。俺はあの時、殆ど後ろに隠れてたわけだしな。


 レベル6の水魔法使いは王子様マネキンで、ワイルドマネキンがもう1人のレベル6の火魔法使いだった。相変わらずちょっとびっくりする顔面だな。2人揃うと更に。

 レベル6の風魔法使いは、いつもドアの外に立っている警護の人で、他の人に警護を任せてから来たらしい。

 レベル6の回復魔法の人は初めて見る人だった。

「……全員若いんだな?」

 俺は前から思っていた疑問をぶつけた。

 エンリツィオとアシルさんが俺を見る。

「この世界には、レベル4の壁があるんだろ?レベル5になるまでに、人生の半分以上を使うんだろ?

 ──どうしてこの人たちは、レベル6なのに全員若いんだ……?」

 その疑問には、ワイルドマネキン──アダムさんと言うらしい──が答えてくれた。

「それは俺たちも、他の国に召喚された元勇者だからですよ。

 俺たちはレベル4スタートだったんです。

 ……エンリツィオ一家は、この世界における勇者召喚の、被害者たちの集まりなんです。」

 ここの人たちが、俺たちに妙に優しい理由が分かった。みんな同じ境遇だから、同情的な仲間意識で俺たちを見てくれていたのだ。


「──よし、全員揃ったな?

 今からオマエらの魔法のレベルを1つ上げてやる。

 このことは現時点ではオマエらだけの秘密にしておけ。

 いずれ全員の分を上げる予定ではあるが、それを俺たちが画策していることが外部に漏れるのは得策じゃねえ。

 ……いいな?」

 エンリツィオが全員を見渡してそう告げる。男たちは後ろ手に手を組んで立ちながら、エンリツィオに一斉にハイと答えた。

「──皆さんがお持ちのスキルを、一度全部俺が預かるんですが、預かる前にスキルを1人ずつ教えて貰えますか?

 間違いなく戻せるようにしたいんで。」

 アシルさんの誘導で、順番に並んで俺の前に立った。最初の男は刑務所で会った火魔法使い──ウッツさん──だった。

「火魔法レベル6と隠密、それと投擲です。」

「あ、隠密あるんだ。

 ねえ、消音行動追加であげてもいい?

 俺2つもいらないし、重ねがけ出来た方が今後便利でしょ?」


 アシルさんが、どうする?という風にエンリツィオを振り返る。

 1人だけオマケというのを気にしているらしい。

「魔法以外はいっぱい余ってるから、なんなら他の人にも使えそうなのがあれば渡すけど?」

 エンリツィオがアシルさんにうなずいて見せる。

「──いいんじゃないかな。」

 とエンリツィオの代わりに答えた。普段なら直接話さないなんて面倒なことしない癖に、こういう時は、やっぱボスっぽさを演出してんのかな。

 俺はスキルをすべて奪い、レベル7になった火魔法と、隠密、投擲、追加で消音行動を渡した。

 ちなみに俺自身の魔法スキルは、一度アンデッドに渡して、万が一にも混ざらないよう対策済みだ。


 次の人も刑務所で会った雷魔法使い──ローマンさん──だ。

「雷魔法レベル6と読心です。」

 この人には雷魔法レベル7と読心を戻して、追加で洗脳をあげた。

 読心持ちに洗脳は大分ヤバいね、とアシルさんに言われた。心を見られた挙げ句、一番弱いところをピンポイントでついて洗脳をかければ、敵を捕まえて吐かせる必要のある時とかに便利だと思う。

 次が護衛の風魔法使い──フランツさん──の人。

「風魔法レベル6、当身、格闘術です。」

 なるほど、近接スキルも持ってんのか、だから護衛ね。

 この人には風魔法レベル7、当身、格闘術を戻して、ダブってた打撃無効をあげた。魔法と違ってMPを気にせず発動しっぱなしに出来るから、死角から突然武器で殴られても気にならなくなる。護衛にピッタリだ。


 次が回復魔法使いの初めて会う人──ギュンターさん──だ。

「回復魔法レベル6、加速、回避です。」

 この人には回復魔法レベル7、加速、回避を戻して、反射をあげた。回復魔法は戦闘に加わりにくいし、回避と反射があれば、かなり生き残りやすくなるだろう。

 続いて王子様マネキン、カールさん──プリンスとかじゃねんだ──が俺の前に立った。

「水魔法レベル6、調理、菓子作成です。」

 何か魔法以外はレストランでも開けそうだな。水魔法レベル7、調理、菓子作成を戻して、水魔法熟練をあげた。俺の知能上昇やエンリツィオにあげた火の女神の加護と違って、短時間で切れるけど、攻撃力5割増しかつ、水魔法耐性70%を仲間にかけられる。相方が火魔法使いのアダムさんだし、2人揃った時に戦いやすくなると思う。


 最後はアダムさんだった。

「火魔法レベル6、間合い、蹴術です。」

 この人も近接持ちなのか。

「──ちょっと待ってて下さいね。」

 俺はアンデッドを一体呼び出した。エンリツィオとアシルさん以外が、ギョッとして俺とアンデッドを見比べた後、2人が落ち着き払っているのを見て、すぐに平静を取り戻した。

 アンデッドに預けておいた火魔法レベル6を奪い、アダムさんからも火魔法レベル6、間合い、蹴術を奪い、強打と合わせて戻した。一瞬で間合いを詰めて蹴り一発で相手を沈められる可能性が高くなる。

 魔法が使えない場所に行く時にも有効だろう。

「──全員終わったよ。みなさん勇者召喚されて来たなら、ステータス画面を自分で見れますよね?

 間違いないか確認して貰えますか?」


 みんなレベルが上がったことで嬉しそうだったが、特にカールさんがヤバかった。人間の顔してる。──いや人間だけどさ。アダムさん以上に、基本殆ど表情筋動かねんだもん。

 まあ短時間とはいえ、この6人の中で一番強くなれるわけだしな。

 知能上昇と二重がけ出来なかったからあげたけど、他の人の分も手に入れば渡したいところだ。

「──全員、これまで以上に組織に尽くせよ?」

 エンリツィオの言葉でその場がしめられ、全員持ち場に戻って行った。

 ありがとうね、スキルを買った分のお金どうする?今渡す?とアシルさんが聞いてきた。

 今までだって散々奢って貰ってきているのだ。ここのホテル代だって食事代だってエンリツィオ持ち、リスリーの洋服代のこともある。

 いくら渡すつもりなのかが分からないけど、そのへんから適当に引いておいて下さい、と伝えた。了解、とアシルさんが答えた。


 錠と扉の素材の見本が届いたら持って行かせるから、部屋で待っていてとアシルさんから言われて、自分の部屋で待っていると、回復魔法使いのギュンターさんが、先程は有難うございましたと言って、錠と扉の素材の見本をくれた。

 見本は同じものがそれぞれ3つあった。さすがアシルさん。何も言わなくても、俺がこれに加工を加えて試してみることを見越して、失敗した時の為に、数を用意してくれたらしい。

 俺は早速外に出て試してみることにした。

 流石にホテルの部屋の中で魔法は使えない。

 魔法を細く練り上げ、扉に手を加えてみる。錠にも同様に施してみる。──いけそうだった。

 準備は整った。俺は万が一の時の為に、恭司を伴ってラダナン刑務所に向かうことをアシルさんに告げた。

 今日は囚人を奪う訳でも、下見ですらなく、ドメール王子に会いに行くだけ。看守に気付かれさえしなければ、問題なく行って帰って来れる筈だ。

 最悪の時の為に、2番目の扉まで逃げて来られれば、エンリツィオの部下が脱出出来るよう手筈を整えておいてくれることになった。


 俺は恭司と自分自身に隠密と消音行動を使い、ラダナン刑務所に潜入していた。

 警備員の数が尋常じゃなく多い。

 魔法使いだけでも200人以上。全体で700人近い数の囚人が収容されている。このすべてが死刑執行を待つ死刑囚だと言う。

 この国はとても極端だ。死刑か、それ以外か。逆に言えば、盗みとかなら刑務所に入る事はない。

 鞭打ち100回とか、そんなんで済んでしまう。もちろん背中の皮は剥がれ、死ぬ程痛い思いはするが、それで終わりだ。

 国民の税金で刑務所が賄われているので、死刑以外の犯罪者にタダ飯を食らわせるのを、国民がよしとしないらしい。

 確かに日本でも、食うに困って罪を犯し、何度も刑務所に入りたがるお年寄りなんかがいるというから、そういうのを収容しないようにしているのだろう。


 つまりドメール王子は死刑囚なのだ。確かに王位継承権第一位の王女の殺害未遂ともなれば、それは正しい扱いだと思うけど、ドメール王子はいわれなき罪で投獄されているとジルベスタは言っていた。

 つまり無罪の死刑囚。最高裁とか地方裁判所みたいなのがないから、一度罪が確定してしまうと、裁判がやり直される機会はない。

 誰も助けの来ないまま、1人死刑執行を待っているのだ。仮にもこの国の王子が、どんな証拠があればそんな目に合わされるのだろうか。

 俺は第1の扉、第2の扉を、看守の見回り時間を根気よく待った。扉が開けられ、看守が中に入るのに合わせて中に入る。

 第2の扉を突破してしまえば、後は逆に、扉の前に人がいないことがあだになる。


 俺は第3の扉の前に立った。魔法感知の魔道具や、スキルを持つ人間が近くにいないことは分かっている。この特殊錠の存在をよほど過信しているのだろう。

 確かに誰かを連れて逃げるのは難しいが、潜入するなら俺にとってこれ程楽な環境はない。

 火魔法と風魔法と土魔法を合成して練り上げ、見本で試したように、細く噴射させて、バーナーのように錠とドアノブの周辺を丸ごと焼き切る。

 ドアノブが落ちる寸前受け止め、恭司に見張りに外に立って貰って、再生でドアノブを元に戻す。これで外からは一見中に侵入されたとは分からなくなる。

 中に入ると、左右に檻が作られていて、その右側にドメール王子がいた。


 ドメール王子は、なんか……、王子っていうから、もっと爽やかなそうな感じを想像してたのに、なんていうかこう……。汚い。

 あんまり風呂にも入らせて貰えないんだろうか。無精ひげにボサボサの髪を後ろで縛って、くたびれたバーテンダーみたいな、垂れた目が女好きそうなスケベな感じ。

 けど、ちょっと退廃的な雰囲気の色気のある大人の男って感じで、エンリツィオとは別方向から女にモテる気がする。

 あの国王の息子とはとても思えない。女王陛下がよっぽど美人だったんだろうな。

 国王選定の儀で選ばれたんだから、国王もエッチだけは凄いんだろうけど。

 江野沢とは大分年齢が離れていて、江野沢が生まれた時既にある程度の年齢の少年だったわけだから、多分30歳かその手前くらい。

 背が高くて、俺よりデカくてエンリツィオより低いくらいか。エンリツィオみたくガッチリはしてないけど、刑務所の中がよっぽど暇なのか、腹筋したり腕立て伏せをしたりして鍛えているところを見ると、この筋肉は刑務所に入ってからついたのかも知れなかった。


「──ドメール王子。」

 俺は消音行動だけをといて、ドメール王子に声をかけた。何もないところを、声の出どころを探ろうと、ドメール王子がキョロキョロとあたりを見渡す。

「ちょっと万が一にも看守に姿を見られたくないもんで、姿を消してますけど、今あなたの目の前にいます。

 ジルベスタから、あなたの事を聞きました。

 ──合成魔法の研究を、一緒にしていた時のこと。」

 ジルベスタの名前に、ドメール王子がピクリと反応を見せる。

「俺はこの世界に無理やり連れて来られた勇者の1人です。

 この世界で、大量勇者召喚を初めて成功させたのがあなたで、それ以前に何度も行っていた実験の結果次第では、あなたしか知らない実験結果があるかも知れない。

 そうジルベスタから聞かされて、こんなところまで訪ねて来ました。

 聞かせて貰えませんか?その時のこと。」


「……そうか。

 君は、俺たちがこの世界に無理やり引っ張って来てしまった、……被害者の1人なんだな。」

 ドメール王子は俺たちを、はっきり被害者だと言った。大量勇者召喚を後悔している王族は、ジルベスタで2人目だ。

 この人が大量勇者召喚を試みたのは、自分自身の足場がための為でもあったけど、ジルベスタの言う通り、本当に単純に国の未来を憂いでいたのだろう。やり方は、間違っていたけれど。

「何が知りたいんだ?

 殆ど彼女と実験結果は共有していたから、彼女に既に話を聞いたのであれば、あまり俺が話せることはないと思うぜ?」

 ドメール王子はジルベスタの事を、彼ではなく“彼女”、と呼んだ。ジルベスタは世間一般的には王弟殿下だ。

 けど、ちゃんと物事の本質を見ている人なんだな。ジルベスタを1人の人間として見てくれていることがよく分かった。


「俺の友人は、勇者召喚で連れて来られた際に、人ではなく、魔物として転生をさせられました。

 あなたが行った実験の中で、本来人である筈の存在が、人以外の姿で転生させられたことはありませんか?

 あなたは鑑定スキルをお持ちだ。

 目の前に現れた人以外の存在が、本来人であったかどうか確認出来る筈。

 そんな事は実験の中でありませんでしたか?

 あるとしたら、共通点はなかったのでしょうか。

 また、その人たちは、──人間に戻ることは出来ましたか?」


 俺はこの声が恭司に届いていないことを願った。

 今まで口にしたことはなかった。けど、ずっと考えていた。恭司は魔物のまま、一生を終えるのかと。

 恭司は不死鳥だ。この世界で不死鳥とは、滅多に産まれることがなく、一万年以上生きるとされていることを知った。

 恭司がこの先誰と知り合って、仲良くなって、好きになる事があっても、みんな恭司を置いて死んでしまう。──俺も。

 もしも可能性があるなら知りたかった。あいつを独りぼっちにさせない為に。 

「1つ1つ、答えていくが、まず、勇者が人以外で転生したことは──あったよ。

そこに確かに共通点もあった。」

 俺は今、すべての真相にたどりつこうとしているのかも知れなかった。

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