第二部 勇者召喚の秘密編

第51話 愛と自由の意味

 エンリツィオの船は、王族専用だけあって豪華だった。船内も船外も黄金の装飾が張り巡らされ、金はこちらの世界の金持ちも大好きな事が分かった。

 元々持っていた本人の船もあるらしいが、国賓として正式に迎えられるわけだから、今回はこちらで行こうとなったらしい。


 娯楽室やバーなんかも備え付けられていて、これで甲板にプールでもあれば最高なのだが、そもそもこの世界にプールというものが存在しないらしい。

 排水の仕組みが確立されていないので、水をためることは出来ても、抜いて捨てるのが難しいのだそうだ。

 ニナンガが発展の遅い国だからかと思っていたが、ナルガラもトイレは水洗じゃなかったしなあ。

 風呂はどうしてるのかと言うと、いちいち湯を手桶ですくって捨てているらしい。


 最初俺と恭司は、アシルさんのはからいで、1人に1部屋が割り当てられたが、俺と恭司とユニフェイで、ベッドが2つある部屋での相部屋に変更して貰った。

 どうせ部屋に遊びに行ってそのまま泊まることになるのだから、広い部屋でベッドが2つあった方がいい。

 長い船旅も、恭司とユニフェイがいるので飽きることはない。

 むしろ俺たちは、出来なかった修学旅行の自由行動を楽しんでいる気分でいた。


 恭司は最初、自分も通行証を、とエンリツィオに求めたが、魔物にそんなもんいらねーだろ、と却下され、ちょっと不満げだった。

 いいだろ、逆に自由にどこでも行けてよ。

 ユニフェイも当然、俺のテイムしている魔物だから必要ない。

 だったらこうしたらどうだと、俺は恭司に提案した。

 ニナンガの竜騎士団長からスキルを奪った際、バフスキル以外も当然奪ったのだが、何と奴はテイマーの中ではレアな、2体をテイム出来るスキルを持っていたのだ。


 恭司をテイム出来れば、バフを始めとした、俺の持つスキルもかけられるし、俺のテイムしている魔物として堂々と入国証なしでの入国が可能になる。

 恭司はバフスキルに興味を示し、俺の提案を快諾した。

 問題は、恭司が元人間である為に、人間としてスキルにカウントされたら、テイム出来ないという不安があることだったが、しっかりテイム出来て、俺のステータスには、テイマー(岳飛:フェンリルの幼体)・(松岡恭司:不死鳥の幼体)と表示されることになった。


 俺は長い船旅の間中、ユニフェイをひたすら構い倒していた。

 元クラスメートやニナンガ城の奴らに仕返しする際、俺はあえてユニフェイを連れて行かなかった。

 俺があいつらにしたことは、俺にとって当然の権利だとは思っていたが、俺は最悪──あいつらを殺してしまうだろうとも思っていた。

 何となく、俺はそれを、ユニフェイにだけは見られたくなかったのだ。


 ユニフェイはテイムされている魔物だ。指示されれば人でも簡単に殺すだろう。

 何より、俺に危険がおよべば、一も二もなく相手を切り裂く。

 いつだって俺を優先してくれるユニフェイの優しさは、テイムされているからだけではないと、俺の中では感じていた。

 甘いかも知れないが、そんなユニフェイに、何より、人殺しの手伝いなんて、させたくはなかった。

 恭司は別だ。

 あいつが誰かを、殺してやりたいと思うくらい酷い目にあわされたら、相手は当然俺が殺すし、あいつもまたしかりだから。


 宿に戻って、いつものように尻尾を振って出迎えてくれたユニフェイを見た瞬間、俺はようやくすべてが終わったのだと、心から安心し、ユニフェイを抱いて眠った。

 俺は自分で思っていた以上に、元クラスメートとニナンガ城の奴らとの戦いに、心をすり減らしていたのかも知れない。

 自覚はないが、ユニフェイに触れていると、いつも以上に落ち着く気がするのは、きっとそういう事なんだろう。

 ユニフェイが俺を、日常へと戻してくれたのだった。


「愛と自由の国か〜。

 なんかアメリカとイタリアかフランスを足したような感じなんかな?」

「うーん、どうだろうな。

 ニナンガはナルガラと比べると、貧乏な国ってか、未開発の土地って感じだったけど、アプリティオはそこそこ発展してて、金持ちが多い国なんだろ?

 デケえ建物は多いかも知んねえよな。」

 広間で昼食を取りながら言う俺の言葉に恭司が答える。


「──アシルさんは、アプリティオに何度も行かれてるんですよね?

 どんな感じなんですか?

 愛と自由の国って。」

 隣のテーブルでエンリツィオと共に食事を取っているアシルさんに尋ねる。

 俺の言葉に、アシルさんは眉間にシワを寄せて眉を下げた。

「う〜ん。

 愛と自由って言うかねえ……。」

 と、なんだか歯切れが悪い。

「まあ、ついてみりゃ、すぐに分かるぜ。

 愛と自由がどんな意味なのかは、よ。」

 エンリツィオがニヤニヤ笑いながら言ってくる。

 その意味を、俺はすぐに理解することになった。


「なんじゃこりゃ……。」

 思わず声に出して言ってしまう。

 街中で堂々と、異性も同性もカップルがイチャつき、何なら公共の場である筈の道端で、普通にセックスしているカップルがたくさんいて、俺と恭司には非常に目の毒だった。

「愛という名のセックスが自由な、フリーセックスの国。

 それがアプリティオって国だ。」

 真っ赤になっている俺に、笑いながらエンリツィオが言う。


 船がついた時も、歓迎の人たちの中から、キレイな女の人たちが代表で、南国風の花の首飾りを全員にかけてくれたのだが、エンリツィオの担当の女性が、首飾りをかけながら、エンリツィオに耳元で、今晩どう?と誘っているのまで聞いてしまった。

 国賓だぞ?よその国の国王だぞ?

 節操ってもんはねーのか?

 酔ってしつこくナンパしているオッサンを見た時よりも笑えない。

 日本の常識を当てはめたら、そこについては、まったくもって理解は出来ない。


 だが、結婚してても自由恋愛可能。

 何人とでも重婚可能。

 同性相手だろうと、相手が人でなかろうと問題なし。

 外でセックスし放題。

 他人のセックスも見放題。

 ビーチが何箇所かあるのだが、基本ヌーディストビーチで──それは後で恭司と2人で必ず行くことをかたく誓った──裸も見放題。

 ただし、相手の同意なしに、無理やりヤったことが判明したら──即、死刑。

 男と、性に奔放な女性と、同性愛を認められない国の人間にとってのパラダイス。

 それがアプリティオという国だった。


 こんなところに召喚されたって、3組の奴らは大丈夫なのか……?

 特に男連中は、魔王そっちのけで、ここに住みたいと──というか、俺と恭司は既にここに住みたくなっている──思うに違いない。

 お遊び勇者気分でまともに訓練をせず、この国を満喫することを優先してしまったら、国益の為に勇者を召喚した国王に何をされるか分からない。

 俺はまずそれが気になってしまった。


 それにもし王女が江野沢であった場合、さすがに簡単に王女に手を出す奴はいないと思うが、だが、いやしかし……と俺の妄想はとまらず、悶々としてしまった。

 なんせ国王の側室が50人と言うのだ。

 50人すべてを満足させるなど、当然出来る筈もないので、フリーセックスの国らしく、側室たちも自由に、他の男とも楽しんでいるらしい。


 そこにきて、国王選定の方法を聞いて俺は愕然としてしまった。

 第一王位継承者は王妃の娘だが、その子を王妃とし、国王は国内外から婿養子として、たくさん子どもを作れそうな男を選ぶのだ。

 どう選ぶのかって?

 第一王位継承者である王妃の娘、つまりここでは江野沢が、国王候補の男たちを、1人ずつ何度か味見をするのだ。

 実践で最も王女を満足させた男。それが一番子どもを多く作れる優秀な男と言うことになる。


 何せ江野沢は、クラスメートのことをまるで覚えていないのだ。

 そんな江野沢が、体の記憶に引きずられて、毎晩違う男を部屋に連れ込んでたら?

 俺のことなど思い出しもせず、国王候補の男たちと、国王選定の名のもとに、セックスを楽しんでいたとしたら?

 可能性がないと言えるか?

 ここまで会いに来ておいて、俺は江野沢に会うのが、急に怖くなってしまったのだった。

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