第50話 魔王候補のハーレム6人衆

「──終わったのか。」

「ああ。」

 皆川へのお仕置きが終わり、執務室を訪ねた俺に、エンリツィオが声をかける。俺と恭司以外は、みんなエンリツィオの執務室に集まっていた。

「篠原も見りゃあ良かったのによ、学年ナンバーワン美少女の、ノーパンスカートめくり。

 俺の華麗な技術が火を吹いたぜ。」

 ドヤる恭司に、

「ぼ、僕は、そういうのはいいかな……。」

 と、赤面したように篠原が答える。

「──ていうか、その人たち、誰。」

 誰も突っ込まなければ紹介もしない、篠原の後ろに控えている、6人の魔族の美女(美少女?)に対し、あえて俺が突っ込む。

 エンリツィオは何故か嫌そうな表情を浮かべていた。


「あ、えと、彼女たちは、その……。」

「ウチはぁ、エイスケのぉ、」

「ちょっと、あんただけのものみたく言わないでよね!?」

「そうだよ、全員のもの、ってことで、ボクたち協定を組んだでしょ?」

「まあ……最終的に選ばれるのは、私だと思いますけど……?」

「はあ!?ざっけんな!マジ!」

「エイスケ……、渡さない……。」

「ちょ、ちょっとみんな、よそ様のところで、ケンカはやめてよ。」


 サキュバスみたいな見た目の垂れ目の黒髪の女に、角をはやしたツリ目の緑髪の女、褐色の肌に金髪ショートの僕っ子、猛禽類の羽が生えたおっとりお嬢様系銀髪ロングに、気の強そうな犬歯の長い赤髪に、薄紫髪のツルペタロリ子。

 ツルペタロリ子を除いて全員が巨乳だ。おまけに全員露出が、まあ、凄い。

 見せたいの?

 隠したいの?

 魔族の国ってそれで歩いて捕まらないの?

 6人が6人とも、篠原を奪おうと争っている。

 ──何じゃこりゃ。


「エイスケは、魔族の女に非常にモテるのだ。

 こいつら以外にもハーレム参加希望者がいたのだが、こいつらが実力で黙らせた事で、今はこの6人で落ち着いている。

 その気になれば、国民すべての女を、ハーレムに入れることも可能だろう。

 魔王は代々世襲制ではなく、実力主義なのだが、魔王様も、エイスケを次期魔王候補として目をかけていらっしゃるのだ。

 魔王たるもの、魔族の女すべてを孕ませられるくらいでないと、つとまらないのでな。」

 アンガーさんが代わりに説明してくれた。


「……そりゃあ、こんな可愛くてエッチなお姉さまたちに、毎日囲まれてハーレム築いてたら、ノーパンスカートめくりなんて、どうだっていいよな……。

 毎日中身見まくりの、突きまくりなんだろうからなあ!?」

 おお、恭司が血の涙を流している……。

 ってか、ホントに流せるもんなんだな、血の涙……。

「そ、そんな、……ぼ、僕まだ、エッチなんて……。」

 篠原が真っ赤になって否定する。


「そーだぜエイスケ、あたしらがこんだけ迫ってんのに、何で誰にも手を出さねんだよ?」

「魅力がないのかしらって、悲しくなりますわよね……。」

「魔力で無理やりその気にさせたらぁ、怒るしぃ?」

「私たちは、今すぐ誰か1人を選べなんて、無理難題を言ってるつもりはないのよ?」

「そうそう、ボクたち6人同時でオッケーってことに、決めたもんね。」

「エイスケ……、私たちのこと、嫌い……?」

「そ、そんな訳ないよ!

 み、みんな可愛いし、一緒にいてドキドキするし……。

 でも、誰か1人に決めずに、そういうことをしたくないだけで……。」


 エイスケ、大好き!と、6人が一斉に抱き着き、篠原がその中心で、く、苦しい……ともがいている。

「なあ……。

 あいつだけは、この世界に連れて来られて、正解だったんじゃねーか?」

「……右に同じく。」

 恭司と俺は、ジト目でそれを眺めていた。

 エンリツィオは、騒がしい女がとにかく大嫌いなようで、だが、協定を組んだ魔族の客人だから、追い出すわけにもいかず、苦虫を噛み潰したような表情で、トントンと指で机を叩きながら、終始イライラとし、それを見ているアシルさんが笑いをこらえきれずクスクス笑っている。


 篠原はアンガーとハーレム6人衆と共に、元クラスメートたちと騎士団の面々を連れて、魔族の国に帰る事になった。

 ニナンガから魔族の国までの距離を、魔法陣で転送は不可能なので、彼女たちは船で奴らを運ぶ為の護衛ということだった。

 アンガーに変身させられていたので見ていなかったが、そういえば心臓を抜いた胸の傷は大丈夫なのかと聞いたら、すぐに塞げるのだと言われた。

 むしろ篠原の自爆スキルを使うのに、心臓が近くにない方が、心臓の扱いに困らなくていいかも、と気の抜けたことを言ってきた。

 心臓だけは自爆の対象にならないので、体すべてを自爆させた場合、むき出しの心臓を狙われたらアウトなのだそうだ。


 オマケに服だと思っていた物は、魔装といって、魔力で服っぽく仕上げた物で、魔族は基本、全裸に魔装で偽装を施している状態らしい。

 どうりで服の上から直接服ごとぶち抜いて、心臓を取り出せたわけだ。

 それを聞いた恭司が、つまりあの6人娘は、全員裸にボディペイントをしてるだけみてーな状態ってことか……?と言い出し、篠原が、まあ、そうだね?と答えた。

 ありがとう親友よ。想像がスゲー広がったわ。


 ちなみに魔族の国に連れて行かれた彼らがどうなるのかと言うと、一応裁判にはかけられるが、人間の国と戦争協定を結んでいる訳でもなければ、一方的な侵略者であるので、国側が引き取るための賠償金を支払わない限りは、一律奴隷として一生を終えるらしい。

 安易に戦争に加担し、他国を侵略しようとしたことの意味と重さを、その身で味わわせると共に、侵略してくる国への戒めとするのだそうだ。


 俺らの世界じゃ、捕虜を人体実験に使うケースも色んな国であったワケだし、それに比べれば、生きてるだけマシなのかも知れねえし、死んだほうがマシなのかも知れねえ。

 それは本人たちにしか分からねえことだが、魔王を討伐する聖戦と言われて、考えなしに侵略戦争に加担したのは自分たちなんだ、そいつはテメエ自身で責任を取るべきだ、とエンリツィオは言った。


 この国の国王は既にエンリツィオなので、当然そんな賠償金などは支払われないし、他の国も助けてなどくれない。

 人間の奴隷は、特に、何をしても壊れにくい、体格のいい騎士の男性が、性奴隷としてとても人気なので、騎士団の連中は、大体そっちにまわされるらしい。

 ワァオ。

 篠原はそれに難色を示すかと思いきや、法律には従わないといけないから、僕も何とも言えないなあ、と言っていた。

 ホント変な方向に真面目だな。


「──それで?

 ここでの用事がすべて終わったら、また俺に会いに来るって話だったが、ついにアプリティオに行くのか?」

「ああ。

 スキルを集めるのと、江野沢を捜しに行くつもりだ。

 世話んなったな。

 きちんと礼を言っておこうと思って。」

「──あん?なんだそりゃ。

 お前、どうやってアプリティオに行くつもりだ?」


「え?そりゃ、ルートはこれから調べるけど、船とか、陸地からとか、まあ何とかなるさ。」 

「──入国証はどうすんだ。」

「え?」

「俺らの世界だってそうだろうが。

 パスポートがなきゃ、よその国になんて入れねえ。

 この世界だって同じだ。

 正式な書類がなきゃ、マトモなルートでその国になんて入れねえよ。」


 入国証……!

 考えても見なかった。

 確かに、街から街に移動する馬車だって、商人ギルドの保証や、祭司の保証が必要だったのだ。

 ナルガラに行った際は、ダンジョンごとの移動の結果で、ほぼ密入国みたいなもんだったし、ナルガラからニナンガに戻る際は、サンディの父親が船に乗せてくれたから帰って来れたのだ。

 この世界の身分証明書なんてある筈が無い。

 俺は一気に真っ青になった。


「──てっきりその為に、俺に会いに来るんだとばかり思ってたぜ。

 裏から渡るルートも、偽造入国証だって、うちなら簡単に手に入るからな。」

 そうか、エンリツィオはそういうルートを持っているのだ。

 なんたって、七つの国を裏から牛耳る、闇の大組織のボスなのだから。

 俺は、ほっと息を吐く。


「──まあ、今なら正式な入国証を、即日発行してやれるぜ?

 何せ俺は、この国の国王様だからな?」

 エンリツィオがニヤリと笑う。

「新国王就任の挨拶で、各国をまわる必要があるからね。

 一番最初の国は、アプリティオにしたんだ。

 もう、あっちの王様とも約束してあるし、──船の定員なら、まだ余裕があるよ?」

 アシルさんが笑顔で言う。


「エンリツィオ……、アシルさん……!」

 俺はちょっと泣きそうになった。

 かくして俺は正式な入国証を発行して貰い、国王就任の挨拶まわりに向かうエンリツィオたちと、同じ船に乗せて貰うことになった。

 目指すは愛と自由の国、アプリティオ。

 待ってろ、江野沢。

 今、会いに行くからな……!!

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