第46話 俺vs現魔法師団長
「──あまり調子に乗らない方がいい。」
「団長!」
「ジュリアンさん!」
魔法師団長ジュリアンが前に出て来る。
「見たところ、君が率いているアンデッドは、どうやったのか知らないが、すべて魔法を使うらしい。
だが、彼らから奪ったというレベル5の魔法ばかり。君自身は少しも魔法を使えないようだ。
それでこの俺に勝てるとでも?」
「……さあね。
そう思うか?」
「……君の態度は、何だか俺の嫌いな奴を思い出させるよ。」
「かもな。
──じゃあこんなのはどうだ?
合成魔法、スティングシェイドエクスプロージョン!!!」
松明に照らされた魔法師団の影から、いくつもの無数の漆黒の槍が突き出し、それらが被弾して爆発する。
「ぐわああぁっ!」
「うわああー!」
ジュリアン魔法師団長は、驚愕した目で後ろを振り返り、魔法師団の惨状を見る。
「これは……エンリツィオの……!!」
「合成魔法はダブル属性持ちなら、全員使うことが可能なんだぜ?
あえてお前一人を残したんだ、1対1と行こうぜ。」
「……ここに聖魔法の使い手はいないが、エンリツィオと同じなら、1対1で簡単に俺が倒せる筈などない。
お前が奴と、どういう関係かは知らんが、ここで倒させて貰う。」
「──エンリツィオ?誰だそれ。
今お前に復讐してる人間は誰だ?
別の人間を想定して戦ってると、テメエの足元救われんぜ?」
「抜かせ!アイストーム!」
「合成魔法、エアリアルピラー!!」
「うおおおお!!!」
分散した鋭い氷の柱が下から突上げ、それが小さな竜巻のようにジュリアン魔法師団長の体を切り刻んでいく。
「か、風魔法と……水魔法の合成魔法……?何故だ、奴は既に、3つのスキルをすべて披露した筈……。」
「だからお前は、誰と戦ってるつもりなんだよ。
俺がいつ、俺の持ってるスキルを、すべて披露したって?」
「ネクロマンサーに、火魔法スキル、闇魔法スキル、風魔法スキルに、水魔法スキル……。
嘘だ、人の身で5つものスキルを操るなど……。」
「5つ?アンタ本当に馬鹿だな。
俺たちをこの世界に無理やり連れて来て、てめえらの勝手な聖戦とやらに巻き込んでくれたアンタに、──真の絶望ってやつを教えてやるよ。
合成魔法、アースバレットクロス!!!」
ジュリアンは足元に広がる十字架から、継続的に土魔法の弾丸を浴びせられる。
「やめろ!もう死んじまう!」
誰かが言ったその言葉に、俺はゆらりとそいつの方を見た。
「──殺そうとしてんのが、まだ分かんねえのか?
そもそも俺たちを殺したのは誰だ?
この世界に連れて来る時、確実に元の世界で死ぬことが分かってたのに、──それでも俺たちを召喚した。
そして、その癖俺を使えねえからと、着のみ着のまま放り出した。
直接手を下さなきゃ罪にならねえとでも思ってんのか?
雪山で防寒具も食料もテントも通信機器もなく人を放置したら、そいつがテメエで生きて下山出来ると本気で思うのか?
テメエらは人殺しだよ、立派な、な。」
「聖魔法と……ごふっ!土魔法の合成魔法……。」
身動きの出来ないジュリアンの横を、為す術もなく魔法師団の残りの面々が、アンデッドに捕まり俺の元に引きずられてゆく。
俺は1人ずつスキルを奪い、アンデッドにスキルを移して行く。
「……大量に学生が集まって一度に行動する機会が高いのは、日本人だけだと、この世界の国王たちにアドバイスしたのは、テメエだってな?ジュリアン。
他の国は修学旅行に行くのは学校次第で、すべての学校が強制的にまとめて行かさせられるのは、確かに日本だけだわな。
自分も召喚されて元の世界で死んだ立場の癖に、よく他の地球人を同じ目に合わせようと思えるな?
人間の国の側から魔物の国を攻めだした癖に、聖戦なんて言葉に踊らされて、大量殺人に手を貸してんだよ、お前は。」
元クラスメートたちが、それを聞いてザワザワとしだす。半信半疑といった様子で、互いに顔を見合わせる。
「一体お前は、何者なんだ……。」
「──テメエに殺されて、地獄から舞い戻って来た復讐者さ。」
俺はニヤリと笑って見せた。
「俺もニナンガ国魔法師団長、ただではやられん!
デリージュ!
ダイヤモンドダスト!!!」
デリージュは大洪水を起こしてあらゆるものを飲み込む広域魔法。
ダイヤモンドダストは鋭い氷の刃を伴う冷気の嵐を発生させ、範囲内の者すべてを凍結させる広域魔法。
レベル7の広域魔法を2つ同時に放ってくるとは、さすがに腐っても魔法師団長だ。
同時攻撃が俺とアンデッド軍団をまとめて飲み込もうとする。
だが。
「──知能上昇。」
知能上昇は使用者の知力ステータスを、一時的に1.5倍に引き上げるスキルだ。
テイマーと同じく、ネクロマンサーも、従属させている魔物にも、使用者と同様の効果を及ぼすことが出来る。
魔法の火力は攻撃力も影響を及ぼすが、特に元となるのは知力の数値だ。
レベル5の魔法スキルが単純に1.5倍。俺の高い知力ステータスであれば、そこに更に最低1レベル分の火力が乗っかる。
──つまり、レベル8.5の火力を持つ魔法使いアンデッド軍団が一時的に出来上がる。
俺はこの為にあえてレベル5の魔法スキルを使うアンデッド軍団にしたのだ。レベル2の差があれば、何体いようが余裕で倒せる。ジュリアンにそう思わせる為に。
俺の周りのアンデッドたちは、事も無げにジュリアンの魔法を相殺し、相殺しきれなかった30もの魔法攻撃が、一斉にジュリアンを襲う。
ジュリアンは声も出ないまま、ゆっくりと膝をつき、その場に突っ伏した。
俺はゆっくりとジュリアンの前に歩み寄り、眼の前でしゃがむと、髪の毛を引っ掴んでそのツラを無理やり上げさせる。
圧倒的な力の差を思い知らされ、最早何の気力も、戦う意思も見えなかった。
奪う、奪う、奪う。光が3回点滅する。
「はい、これでアンタも、──タダの人。」
魔法師団がすべて倒され、剣騎士団も竜騎士団も既に及び腰だった。弓兵ですら、俺に矢の一本も放って来ない。
「さあどうする?魔法スキル持ちは全員スキルを失った。
こいつらの為に、全員で働くか?
使えねえ奴らを養うには、全員で働く必要があるんだったよなァ!?」
全員が怯えた目で俺を見ている。その時、突如として、ずっと頑なに閉じられたままだった、王宮へと通じる扉が開く。
「な、中だ!王宮の中に逃げるんだ!」
剣騎士団長の言葉に、一斉に我先にと王宮の中に逃げ込んで行く。ああ、なんと浅ましい姿だろうか。これが、自分たちの戦いは聖戦と信じ、魔王と戦おうとしていた奴らの姿とは。
ていうか、こんな程度の奴らが、魔王なんてモンを倒せると、本気で思ってたんだとしたら、オメデタイ話だ。
扉を塞ごうとしている奴らを、アンデッドに命じて攻撃させる。扉を閉めようとしていた奴らも、諦めて慌てて奥へと逃げ込んで行く。
俺は悠然と王宮に入って行った。
千里眼で検索すると、奴らは王の謁見の間に集まっていた。さすがに剣騎士団と竜騎士団は、最後まで王を守ろうとしているというところか。──無駄なのにな。
「ここより先には行かせん!」
剣騎士団が剣と弓を、竜騎士団は日頃乗っている飛竜ではなく、小型の魔物を従えている。さすがにこの中で飛竜で戦うのは無理あるわな。
王の間のすぐ脇に、武器庫と小型の魔物を閉じ込めてある部屋があるのは、最初に城に来た時に知っていたので、これは想定の範囲内だ。
王の横には堂々とした態度の宰相と、怯えた様子の鑑定師がいた。
「──前門の虎、後門の狼、ってね。」
「何を言っている?」
剣騎士団長が、俺の言葉に訝しげになりながら威嚇する。
「そこの鑑定師さん。
あんたなら分かる筈だ。
王様を鑑定してみなよ。
面白い結果が出るからさ。」
俺は手の上に特大のファイアーボールをチラつかせながら鑑定師を見る。
鑑定師は、ヒッ!と小さく声を漏らすと、申し訳ありません、王、と言いながら、恐る恐る王様の前に立ち、鑑定する。
鑑定師の顔が見る見る青ざめる。
「そ、そんな、まぞっ……!!」
言葉を言い終わる前に、王様が鑑定師の腹を右腕で貫いた。口から腹から、大量の血を流して、鑑定師がダラリとなる。
「──短気過ぎますよ、アンガーさん。」
宰相が呆れたように、困ったように言う。
俺と宰相以外は、何が起きているのか分からない、といった表情で王様を見る。
「今更だろう。
どうやらこの小僧に大半がやられたらしい。
ならば姿を隠す必要もあるまい。」
そう言うと、王様はねじれた角を生やし、真っ青な肌の魔族の姿に変身した。
鑑定師がやられた際はしん、としていた奴らも、糸が切れたように悲鳴を上げだした。
俺は城の中の魔族と魔物を、千里眼で事前に検索していたのだ。最初に王を千里眼で検索した際、出てこなかった理由。
王様は特別だから、有事の際の為に、居場所を特定出来なくする魔法でもかけられているのかと、勝手に思ってスルーしていたが、その時点で既に、この国の王は魔族に取って代わられていたのだ。
「お前らの王様は、とっくに魔族にやられてたみたいだぜ?
さて、どうすんの?
俺は当然助けねえぜ?」
俺は、俺と魔族を見比べながら、泣きそうになっている彼らを見ながら笑っていた。
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