第45話 現ニナンガ城襲撃、俺視点
決行の日が来た。
月と星明かりしかない暗闇の中、俺はアイテムボックスに、予め購入しておいた玉座のような椅子を入れておき、現ニナンガ城の近くで取り出した。
これに座り、アンデッドに持たせて進むのだ。
俺がコイツらを従えているというアピールと、魔物の王が俺であるという恐怖演出の為だ。
エンリツィオから貰った真っ黒な服を着た俺が、暗闇の中から近付いてくるアンデッドの軍団の中に浮かび上がる。さぞや気味が悪いことだろう。
王宮の近くで取り出したのは、アンデッドに持たれた椅子にずっと腰掛けたまま、本を広げたポーズを決めて行進などしていたら、間が持たないし、間抜け過ぎると思ったからだ。
本当の魔物がそんな風にボスを従えてゾロゾロ歩いていたとしたら、別に魔物側も見てる側も気にしないだろうが、俺がもし見る側の立場で、そんな風に行進を続けてる人間を目撃したら、寧ろクッソダセえと突っ込むことだろう。
単に俺の登場演出の為だけなので、あいつらに見える距離からのスタートで充分だ。
俺を中心に、召喚した30体のアンデッドが周りを囲む。アンデッドの進む速度は常に一定だ。これは変えることが出来ない。
ダンジョンでウロウロしていた時と同じ速度で、ゆっくりと現ニナンガ城に近付いて行く。
城の門が見えてくる。松明の明かりが扉の左右に灯され、それぞれの下に一人ずつ、見張りの兵士が槍を持って立っている。
城を囲む高い壁の上には、見張りが1人立っていて、こちらに気付いた様子で慌てて物見台から姿を消した。
こっちが魔法が使えることを見てから行って欲しかったんだがな。まあ、本来この辺りに現れる筈のないアンデッドが、大量に、まっすぐ城に向かって来ているのだ。動揺しても仕方がない。
俺は魔法の射程距離まで近付いたところで、一斉に魔法攻撃を一発放つように指示を出した。
あえて当たらないように、見張りの兵士の手前に被弾させる。
見張りの兵士は顔を見合わせて何やら話してから頷くと、正門の横の小さな扉を開けて中に逃げた。
そうそう、そうやって、早くあいつらに、この事を伝えてくれよ。
ゆっくりと城に向けて進む内、城の正門が重々しく開いてゆく。
中からお揃いの服に身を包んだ魔法師団と、元クラスメートの魔法スキル持ちだった組を先頭に、次々と姿を現し布陣を組む。弓兵部隊、ついで剣士、竜騎士団と続く。
今考えると、城を守るには随分と少ないが、これで全員なのだ。何故ならエンリツィオに数を減らされたから。
「──さて。復讐開始といきますか。」
俺は暗闇の中、ニヤリと笑った。
「魔法師団、前へ!」
ジュリアン魔法師団長の声と共に、魔法師団が前に進む。後ろでは西田たちを含む弓兵が弓を構えて狙いを定める。
おーおー、大分様になってんじゃねえか。ドヤ顔で、勝てる気満々だな。そう上手くいくといいがね。
「火魔法部隊、前へ!」
アンデッドに最も有効な火魔法使いが、ジュリアン魔法師団長の指揮で先頭に出る。
影森は杖を握ったまま尻込みしていたが、無理やり押し出される形で前に出た。
「ファイアーボール!」
火魔法部隊長の掛け声で、一斉にいくつものファイアーボールが、アンデッドに向かって放たれる。
俺は迎え撃つよう指示をし、アンデッドはそれを、風魔法、水魔法、雷魔法で相殺する。
「影森、何やってんだよ!?」
剣士の益田の罵る声がする。
魔法スキル持ちだった奴ら以外から見たら、初めての実践、かつ、今まで対応したことのないサイズと、相手が魔法を使うってことに、ビビってるだけに見えるのだろう。
影森は杖にしがみついたまま震えていた。
「……撃てねえよなあ。
だってもう影森クン、
──魔法、使えねえもんなあ?」
俺は前を守っていたアンデッドに、囲いを解くよう指示を出す。俺の姿が初めて皆の前に現れる。
「く、国峰!?」
「どういうことだよ!?」
誰かと益田が叫ぶ。
その様子を見た、水魔法の新井、雷魔法の岡崎も気まずそうにしている。
「こいつらの魔法は、ぜえーんぶ、俺の手の中さ。
そこにいるのは魔法使いの勇者なんかじゃない。
スキルも、魔法も奪われた、ただのコスプレイヤー集団だよ。」
俺は嘲るように笑いながら舌を出した。
魔法スキル持ちだった筈の元クラスメートたちは、誰一人魔法を放とうとせず、一様にうなだれている。
それを見て、さすがに俺の言っている事が真実であると気付きだす。
「まさか……ほんとにクラス全員の魔法を奪ったの……?」
「お前ら、ホントなのかよ!?」
「何で俺たちに言わねえんだ!」
影森たちは俯いて答えなかった。
「だって!」
新井が泣きそうになりながら叫ぶ。
「言えねえよなあ。
スキルも魔法も、なくなっちまったなんて。
他の奴らに話せない、状況が分からない、だから自分だけかも知れない。
──無能な国峰君と同じになりました、なんて言ったら、自分だけ追い出されちまうもんなァ!?」
新井がすすり泣きを始める。皆、何も言えなかった。
「俺が用事があるのは、魔法師団の皆さんだけだ。
テイマーと剣や弓のスキルは人気がなくてね?
売れないから別に必要ない。
魔法を使う魔物が大量に現れれば、前衛に出てくると思ってたよ。
さあお前ら、あいつらを連れて来な!」
俺の言葉と共に一斉にアンデッドが魔法を放つ。
元魔法スキル持ち組は、恥も外聞もなく、門の中へと逃げ込んでゆく。
だが、城の入り口は王を守る為に閉ざされ、中に逃げ込む事が出来ない。
開けて!と叫んでいるが、お前らは兵士として雇われてるんだ。指示もなしに撤退が許されると本気で思ってるのか?
思ってんだろうな、所詮お遊び気分なんだからな。お遊び気分の勇者ごっこの訓練が辛くて、俺を追い出したんだからな。
「そんな……ネクロマンサーだと?」
「あの少年はスキルなしの筈では……!」
「慌てるな!迎え撃つんだ!」
ジュリアン魔法師団長の指示で、魔法師団も一斉に魔法を放つ。
だが元々数を減らされている上、元クラスの面々も魔法の戦力だった筈が、一気に戦力が削がれた事で、一方的に押されてゆく。
「くそっ!国峰だ!
ヤツの持っている本を狙え!」
弓部隊が俺を狙う。
「やった!」
殆どの矢はアンデッドの放つ魔法で撃ち落とされたが、西田の矢が俺の持っていた本を貫いて消滅させた。
だが当然アンデッドは止まらない。
「なんで……なんで?」
終始ドヤ顔だった西田が、ここに来て初めて恐怖を表情に表した。
俺は、やれやれ、と肩を竦めると、手をかざして再び本を出現させる。
「……これは誰にどのスキルを付与したか、確認する為のただの帳簿に過ぎない。
覚えてるのが面倒だから、目に見える形にしただけだ。
これを消してもあいつらは止まらないよ。」
そう言いながら、アンデッドが連れて来た魔法師団の一人に触れる。
「な、何を……!」
「はい、これでアンタも、──タダの人。
もう用はないよ、バイバイ。」
そう言って放り出す。
「──来たね。」
後ろに控えていた剣騎士団の間をぬって、皆川紗代子が前に出た。
「私にやらせて下さい!」
ずっと特別扱いを受けていた皆川は、ここに来てようやく戦線に加わった。
アンデッドに効果があるのは火魔法と回復魔法と聖魔法のみだ。
レベルが上なら火力で何とかなるが、ジュリアン魔法師団長以外、レベル5の魔法師団では、アンデッドの放つ魔法を相殺するのがやっと。
さも自分からカッコつけて出て来たかのようにしているが、今まで散々チヤホヤしてくれていた剣騎士団と竜騎士団の面々に、なぜ行かないのかと詰められていたのだろう、デカい男たちに囲まれて、半泣きになっていたのが、俺の位置からは丸見えだった。
「今日の一番の目的は君だよ。
希少スキル、対アンデッドにも効果のある、回復魔法レベル5持ちの、皆川紗代子さん。
魔法の練習に外に出て来ないから、こうして引きずり出すしかなくなった。」
「皆さん、援護お願いします。」
言うが早いか皆川は、
「エターナルヒール!」
特大回復魔法をアンデッドに放つ。
魔法の当たったアンデッドが崩れ落ちる。俺は黙ってやられるままにしておく。
「エターナルヒール!
エターナルヒール!
エターナルヒール!」
元クラスメートの声援を受け、調子に乗った皆川は、魔力の続く限り、エターナルヒールを放つ。
アンデッドも応戦するが、回復魔法を相殺出来ずに次々倒れてゆく。それに鼓舞された残りの魔法師団も魔法を放ち、弓兵たちも矢を連続で放った。
皆川は肩で息をしながら、椅子を支えるアンデッドがいなくなり、地面に降り立った俺を睨む。
「……さあ、どうするの?
もう、あなた一人みたいよ?」
俺はニヤリと笑った。
「──再生。」
魔法師団と皆川の周囲に一気にアンデッドが復活する。アンデッドは皆川と魔法師団の体に取り付き、身動きが取れなくしてしまう。
元クラスメートたちから、一斉に悲鳴が上がった。
アンデッドは死なない。操る俺さえ無事なら、何度だって復活させられるんだ。そんなことも知らねえんだよな。
命の危険をおかしてまで、戦ったことなんてねえもんな、皆川、特にお前は。
アンデッドは魔力の尽きた皆川を捕らえ、俺の元へと引きずり出した。
「力がないって悲しいねえ。
気に入らないヤツ一人殴れない。」
俺は睨む皆川の顔を掴んだ。
奪う、奪う、奪う。光が3回点滅する。
「はい、これでアンタも、──タダの人。」
その時、元クラスメートたちの、それも女子生徒限定で動きが不自然に止まる。
そして体が動くようになった次の瞬間、
「キャ────ッ!!」
一斉に女子生徒たちのパンティーが破れて地面に落ちる。
当然スカートを履いているから、何が見える訳でもないが、人前でパンツが脱げたという事実は変わらない。
思わず両手で前を押さえる女子生徒たちの姿に、男どもが釘付けになる。
「はは……、あいつ、マジでやりやがった。」
俺だけは、女子生徒たちの足元で、恐らく漫画であれば見開き大コマであいつにスポットが当たり、俺のセリフが小さく1コマ入っているだけのイメージで、女子生徒たちの下着を脱がした瞬間、翼を前で交差させ、何やらカッコいいポーズを決めているつもりの、恭司の姿を見逃さなかった。
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