第38話 親友の価値

「──具体的にどうしろってんだ、俺に。」

「決まってる。

 オマエが奪ったスキルが欲しい。

 俺の部下たちにそれを与えて、この世界で最強の兵力を持つのさ。」

「……アンタの部下が、裏切らない可能性は?」

「なんだと?」

「俺は俺が直接見た奴しか信用しない。

 アンタの部下がどんなもんか知らねえが、どうしてアンタの女は死んだ?

 ボスの女に護衛がついてねえ訳がねえ。

 それなのに、みすみす攫われて拷問の果てに死なせた?

 その中に裏切りモンがいねえと、ホントに言えんのか。」

 俺とエンリツィオが睨み合う。


「……確かにな。

 テメエの言う事は一理ある。

 俺もそれは疑った。

 だが証拠がねえ。

 証拠がねえ上、誰もが怪しいと感じる奴はいねえと言った。

 そいつらを無理やり締め上げることは出来ねえ。

 その中に裏切りモンがいねえという証拠もねえ。

 そいつらに力を与えたら、俺自身が危なくなる可能性もある。

 だがそんなこたあハナから覚悟の上だ。

 そういう奴らをまとめ上げて使って来たからこそ、俺は今、ここにいる。」


 こんな闇社会の組織に属するような奴らなんて、まともな奴らはいないだろうし、末端を完全に把握するなど無理だ。

 清濁併せ呑んでここまで来たのだろう。

 揺るがない目でエンリツィオが俺を見た。

「……アンタになら。

 アンタにならやってもいい。

 俺も今、スキルは集めてる最中で、そんなに数がある訳じゃない。

 俺も復讐したい奴らがいる。

 その目的を果たしたら、奪ったスキルを売ってもいいとは思ってた。

 だから魔法スキルは今はやれないけど、それまで待ってくれるなら、今ここで、アンタにだけ、協定の証として、魔法以外のスキルを渡すよ。」


「ほう?

 そいつはいいな。

 ──じゃあ早速やってくれ。」

 エンリツィオは俺の手首を掴むと、自分の胸元をはだけて、俺の手のひらを心臓に押し当てさせた。

 俺はウッという嫌な表情になる。

「なんだよ、まだ条件があんのか?」

 エンリツィオが訝しげに眉を動かし、俺を睨む。

「……聞きたいんだけど、そんなエッチなやり方しないと、出来ないものなの?」

「あん?」

 アシルの言葉にエンリツィオが不満げな表情を浮かべる。


「……いえ、直接肌にさわれるなら、どこだって大丈夫です。」

「ハア!?オマエ刑務所で、囚人の胸に次々手を当ててたじゃねえか!」

「それはあそこの服装が、パジャマみたいに胸元が開いてたから、いちいち袖をまくるより、早かったからだよ。」

「必要もないのに、そんなとこ触らせるとか、何かセクハラしてるみたいだよね?」

「……そうなんです。俺も、恋人を亡くしたばかりのボスが、ピチピチの男子高校生にムラムラして、誘惑してきてんのかと思って、気持ち悪くなっちゃって。」

「男が好きなわけじゃねえっつったろうが!!」

 俺とアシルのヒソヒソ話に、思わずエンリツィオが突っ込む。


「……よく知らない人に、同性の恋人がいたって聞かされた後でそんなことされたら、僕なら勘違いするかなあ。」

 アシルの言葉に、エンリツィオは、はーっとため息をつくと、

「勘違いした俺が悪かった。

 ……好きなようにしてくれ。」

 と言った。

 そんな恥ずかしそうなのを我慢した顔で、そんなことを言ってくる奴に触ったら、恭司が見てたら、お前ら何やってんだ?と言って来そうだよなあ、それはそれで。


「……条件というか、1つアンタに聞きたいことがあるんだ。

 人のスキルは3つまで。アンタもそう言ったよな?

 俺はまだ、他人に4つ以上のスキルを渡したことがない。

 人は3つまでしかスキルが与えられないだけなのか、4つ以上持つことが出来ないのかが分からないんだ。

 俺だけがスキルの恩恵で、例外の可能性は捨てきれない。

 もしアンタが3つ持ってたら、そこで追加のスキルを与えた時に、アンタが今まで持ってたスキルにどんな影響を及ぼすか知れねえ。

 アンタ今、スキルいくつ持ってる?」

 エンリツィオが神妙な面持ちになる。

「──3つだ。」


「じゃあさあ、僕で試してみてよ。」

 アシルが事も無げに言う。

「僕のスキルは、土魔法レベル7と、回復魔法レベル6と、隠密だけど、それを奪って貰って、消えても大丈夫なスキルを、何かしら4つくれない?」

「オマエ……そんなこと簡単に……。

 コイツが返さなかったらどうすんだ。」

「もしそうなったら、エンリツィオが僕を守ってくれるだろ?

 部下で試したっていいけど、今持ってるスキルが少ないなら、スキルを集めてることは、彼の為にも僕らの為にも、まだ知られない方がいい。

 君のスキルを奪わせる訳にはいかない。

 ──試せるのは、僕だけだ。」


 何かいいたげだったエンリツィオは、それを飲み込んだ。

「それなら大丈夫です。魔法スキルは同じレベルのものがあるとレベルが合成されちゃうけど、レベルのないその他のスキルは、複数同じのを持っても変わらないし、俺にはそのレベルの土魔法スキルと、回復魔法スキルがないので。」

「は?オマエ、今なんつった?」

「同じレベルの魔法スキルを奪うと、合成されてレベルアップするんだ。」

「……つまり、ザコいレベルの魔法でも、集めりゃ最高レベルの魔法スキルが勝手に出来上がるってワケか。

 なんつーチートスキルだそりゃあ……!」

 俺のスキルの予想以上の効果に、興奮を隠しきれない表情になる。


「──じゃあ、貰いますね?」

 俺は心の中で、3回奪う、と念じる。

 そして、スキルを選択して、4つ渡した。

「どうですか?ステータスを見て下さい。」

「特に何かしらされたっていう感覚はないなあ……。強いて言えば、君の手が少し光ったように見えたくらい……。」

「それだけは、どうしても消せないんですよね。」

「──あ、大丈夫だよ、ちゃんと4つある!

 貰えないってだけで、くれる分にはちゃんと付くみたいだ。

 でも、これ、え……?

 踊り子、売春婦、乞食、大道芸人!?」

 エンリツィオも目を丸くしている。


「いやあ……消えてもいっかなって……。」

「こ、乞食……売春婦……!」

 エンリツィオが腹を抱えて笑っている。分かる。俺も見た時笑ったし。

「まったく。笑い過ぎだよ。

 じゃあ、戻して貰えるかな?」

「はい。──あ、どれかいります?」

「いるわけないでしょ?」

 デスヨネー。

「──うん、ちゃんと戻ったよ。」

 それを見てエンリツィオが安心したような顔をする。

「じゃあ、スキルを渡すよ。

 アンタなら、有効活用出来る筈だ。」

 俺はエンリツィオの手を取り、渡す、と念じた。

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