第37話 この世界の真実

「お前、そもそも、異世界転生者と、異世界召喚者の違いって、なんだと思う?」

「ええ?

 ……転生者は、一度死んで、異世界でまったく別の人間に生まれ変わることだろ?

 召喚は生きたまま、別の世界に連れて来られるってことで……。」

「そうだ。

 フツーはそういうモンだ。

 だが俺たちはどうだ?

 元の姿と違ってるか?

 お前のクラスメートたちはどうだ?

 ここに来る前と、何か一つでも違う点や、体に違和感があるか?

 スキル以外の部分でだ。」


「……ない。」

「だろうな。

 俺らの時も、俺らの仲間も全員そうだった。

 だが、──俺たちのステータスに書かれた称号は、全員異世界転生者だった。」

 そうだ。確かにそうだ。ぼんやりと違和感に感じながらも、何となくスルーしてしまっていた。

 確かに、元の姿のまま連れて来られるのであれば、どうして俺たちのステータスは──異世界召喚者じゃないんだ?


「……俺のオンナは鑑定スキル持ちでな。

 それも、相手に触れずに覗ける強力なヤツだ。

 心眼って言うスキルで、ニナンガでは、歴史上、一人しか現れたことのない激レアモンらしい。

 オマケに千里眼まで持ってた。

 ──まるで神が、この世界を探れとでも言っているかのようにな。

 異世界転生者で、千里眼を持ってるヤツが心眼を持ってると、どうなるか分かるか?

 千里眼で探したヤツのステータスを、心眼で見ることが出来るのさ。」

 そんなことが出来るとしたら、非戦闘職の中で最上級の、チート中のチートだ。


「俺らがこの世界に来る前は、異世界召喚者の称号を持つステータスの人間と、異世界転生者のステータスを持つ人間はそれぞれ存在した。

 異世界召喚者は言うまでもなく勇者で、王宮が召喚した異世界人。

 異世界転生者は、事故か何かで死んで、この世界に生まれ変わった異世界人。

 転生前の記憶がある者もいれば、ない奴もいた。

 異世界転生者は基本的に一人で死んで、一人で転生して来た奴らだった。

 異世界召喚者も、代々4人までがいいとこだったらしい。

 俺のオンナの学校や、お前らみたく、大人数はそもそもあり得なかった。」


 俺の耳が、聞くのを拒絶しようとしてくる。頭がガンガンする。何かとてつもなく嫌なことを聞かされる。そんな気がして。

「俺のオンナは日本人で、幼稚舎から大学まで存在する、頭のいい奴らばかりが通う学校の、高等科に通っていたらしい。

 みんな、魔法のレベルこそ3が殆どだったが、俺のオンナのように、レアなスキルを持つものが多かったそうだ。

 今の管轄祭祀のように、復活──死者蘇生を持っている、だとかな。」

 エンリツィオも苦々しい思い出を話しているのか、眉間にシワが寄る。


「その時アイツは聞いちまったんだ。

 兵力を増やす為に、今までのように少人数なんかじゃなく、一気に大勢を召喚しようとしたと。

 そして、連れて来る事こそ成功したが、俺のオンナのクラスの奴らは、全員異世界召喚者ではなく、異世界転生者のステータスになっていた。

 ──その時以降、この世界でクラス単位で召喚される奴らのステータスは、全員異世界転生者となった。」


「5人以上を召喚しようとする事と、ステータスが関係ある……ってことか?」

「ああ。

 本来、召喚は大勢を一度に連れて来れない。魔力を多く使うからな。

 だが、この世界の王たちは、どうにかこうにか、召喚の方法を歪めて、大人数を連れて来ることに成功した。

 その方法は王家じゃねえと分からねえ。

 だが代わりに、連れて来られた奴らは、元の世界で死ぬ羽目になった。

 俺たちの事故も、お前らの事故も、この世界の王たちが、──無理やり大勢を召喚しようとした弊害だ。」


 無理やり兵士にする為に召喚された事で、俺らは死んだ。それが分かっていながら、この国の王たちは、代々召喚を行い、勇者だなんだと持て囃して、子どもたちを魔王と戦う戦場に送り込んでいた。

 俺は足元が地面についている感覚がしなかった。勝手に連れて来られ、放り出されただけじゃなく、この世界の奴らに、俺たちは全員殺されていた。


「ただ、俺もそうだが、俺のオンナの国でも、そんな大勢の事故が定期的にあれば、世界的なニュースになって記憶に残る。

 だがそんな記事を俺は見たことがねえ。

 恐らく、俺らの存在した記憶ごと消えてるのか、もしくは、半分だけこっちに来てるのか。

 どちらにしろ、何かしらの力が、元の世界での俺らの存在を歪めてることに違いねえ。召喚方法自体が、歪められたものだからな。」

 確かに、俺たちよりも大分前に、日本人がクラス単位で事故にあってたら、どれだけ昔であっても、何らかで目にしたり耳にしたりする筈だ。

 でも、俺もそんな事故は知らない。


「子どもたちばかりを狙うのは、大人は成長しきっちまってるからか、召喚されても対したスキルがつかねえのさ。

 俺たちの世界でも、才能を開花させる可能性があるのは若者だけで、大人になった時点で、勉強でもスポーツでも、伸びしろがなくなるからな。

 クラス単位なのは、恐らく関係のある奴らが一度に集まってることが、召喚の条件において都合がいいからなんだろう。

 奴らが召喚を行ったタイミングで、関係性があり、集まっていて、まとめて死なせることが出来た奴ら。

 ──それが俺たちが、選ばれた理由だ。」


 あの日バスに乗っていたから。

 あの日修学旅行だったから。

 俺たちは、召喚魔法に選ばれ──死んだ。

「俺はオンナからその事を知らされ、すぐに腑に落ちた。

 色々とこの世界には違和感があり過ぎた。

 勇者が多過ぎることも、それが代々続いていることも。

 俺は魔法師団長をやめ、すぐに仲間を集め出した。そしてこの城を襲い、奪ったのさ。

 今の王宮に勤めてる奴らや、お前のクラスメートたちが外に出られないのは、外の世界を知られないようにする為と、王宮勤めの奴らが大勢死んじまった事実を隠す為だ。

 俺の警備も少なかったろう?あれでもよそから掻き集めて普段より多くした方だ。王宮に人を取られちまったのさ。

 ──俺がここにいる時点で、ムダな足掻きだと思うがな。」

 エンリツィオが嘲るように笑う。


 確かに俺たちは外の世界を何も知らなかった。

 魔物が徘徊していて危ないから、兵士たちと一緒でないと外に出られないと言われればそれに納得した。

 だが出てみれば拍子抜けする程安全で、盗賊に気を付ける必要はあっても、昼間の魔物には気を配る必要すらなかった。

 全部、全部、俺たちを、騙す為。

「だから俺はオマエと取引がしたいんだ。

 俺はこの世界と、──勇者召喚システムをぶっ潰す。」

 目の前の復讐者は、悪魔そのものの顔をしていた。

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