第33話 元魔法師団長vs現魔法師団長

「俺たちがこの世界に召喚されて一体何年経った?

 未だにこの戦争に決着がつかねえ。

 なのに、またどっかから勇者だなんだと持て囃されて、ノリノリで厳しい訓練に耐える、足りねえガキどもを連れて来て世話してんだってな。

 いい加減気付いたらどうだ?

 この世界の奴らに利用されてるだけだって。」

「この世界の人々は、戦う力を持たない人や、持っていても俺たち程強くない人たちばかりだ。

 魔王が攻めて来ているのも事実だ。

 なぜお前は助けようとしない?」


「その根底がそもそも間違いだっつってんだよ。

 魔族や魔物は悪いもの。

 倒すべきものとするこの世界の経典を盾に、こっちが先に戦争を仕掛けてんだ。

 宗教を盾に取られたら、獣人の国もエルフの国も口出しが出来ねえ。

 あいつらが魔族でなかったら、コイツはただの他国に対する侵略と略奪だ。

 魔族の国を制覇して、人の国が世界一になったとすればどうする?

 エルフの国よりも、獣人の国よりも、どこよりも力を持った人の国の王たちが、世界統一を目指そうとしねえと言えんのか?」


「……話にならんな。

 起きてもいないことを前提に、我々の聖戦を愚弄するとは。」

「お前のその選民意識、学生時代から鼻についてたまらなかったぜ。」

「俺はお前を尊敬して憧れていたよ。

 成績優秀、スポーツ万能。女子生徒はみんなお前に夢中だった。

 誰もがお前と親しくなりたい、お前のようになりたいと思っていた。

 俺もその一人だった。

 お前だから俺は、魔法師団長の座に選ばれたのが俺でなくとも納得したんだ。

 ──今となっては黒歴史だがな。」

「そうやって、目に見える、他人が評価してくれるとこしか見ねえから、お前にはいつまで経っても、自分ってものがねえのさ。

 この国にとって、この上なく御しやすい人材だろうよ。」


 俺はボス──エンリツィオ──と、魔法師団長──ジュリアン──のやり取りを一言一句漏らさず聞いていた。

 エンリツィオとジュリアンは、俺たちよりも何年も前に、この国に勇者として召喚されてきた学生だった。

 だが勇者とは名ばかりの、この世界の人間の国の国民の代わりに、魔族の国を侵略しにいくコマに過ぎなかった。

 召喚された異世界人は、皆一律で初期に付与されるスキルのレベルやステータス値が高い。

 召喚に成功しさえすれば、ほんのちょっとの期間の訓練で、自国民の血を流すことなく、強い捨て駒がたくさん手に入る。


 だから使えないと判断した奴を生かす為に労働が必要だったのだ。捨て駒に金を払う価値がないから。

 だからあちこちの国で召喚を行っていたのだ。自分の国の兵士が魔王を倒せば、人間の国で覇権を握れるから。

 利用されているとも知らず、捨て駒になる訓練の為に、元クラスメートたちは、俺の命を切り捨てた。

 俺は笑い出しそうになるのをこらえるのに必死だった。

 なんてくだらない、くだらない理由で。

 家族や、今まで積み上げてきたものすべてを捨てさせられ。

 クラスメートの命を犠牲にしてまで、捨て駒になる為に俺たちは。

 こんなところに連れて来られたというのか。


 エンリツィオはどこかでそれに気付き、魔法師団長をやめて、この世界を裏側から牛耳ることを決めたのだ。

 裏社会を仕切っていれば、どこかの国が勇者を召喚した情報など、すぐに知れるだろう。

 そんな時に、毛色の違うガキがウロチョロして、自分の目の前に現れた。

 すぐに俺が召喚された勇者の一人だと気付いた事だろう。

 訓練もせず、たった一人で刑務所に乗り込んで来た俺の目的が、他の勇者たちと違うことは当然すぐに分かる。


 だから自分にまた会いに来ることが分かったのだ。エンリツィオの知るこの世界の真実は、俺にとって喉から手が出るほど欲しいものの筈だから。

 元クラスメートからスキルを奪うのが先でも、この世界について探るうち、勇者召喚システムについて、俺は遅かれ早かれ違和感を感じるようになっただろう。

 タネが分かれば簡単な事だった。俺よりたくさんの情報を握っているからこそ、俺が何者であるかをすぐに察した。

 俺の行動の目的そのものは分からなくとも、はぐれ勇者がこの世界について知ろうとする限り、いずれはエンリツィオに辿り着くのだ。


「さて、俺はそろそろ失礼させて貰うぜ。

 なんせ長い間サボってたもんで、仕事がたまって仕方ねえんだ。」

「──そうはいきませんよエンリツィオ。

 こちらもあなたを簡単にここから逃がす訳には参りませんのでね。」

 エンリツィオが舌打ちする。

「お前も来てたのか、強欲祭司アレクサンドル。」

 現れたのはラグナス祭司だった。アレクサンドル?ラグナスは名字なのか?


「来る途中、近くの祭司をまとめてひろってきた。管轄祭司様ほどではないにしても、レベル5聖魔法使いが3人だ。

 お前も手こずることだろう。」

 ジュリアン魔法師団長が言う。

「相変わらず失礼ですね。強欲なのはあなたの方でしょう、闇社会のボス、エンリツィオ。

 7つの国を裏から制覇して、かなり稼いでると伺ってますよ?」

 やっぱりラグナス祭司の一番の興味は金なんだな。


「そうだな。だから……。

 ──俺の商売の邪魔はするな。」

 エンリツィオが左手から火魔法、右手に闇魔法を発動させる。

「合成魔法、スティングシェイドエクスプロージョン!」

 エンリツィオも魔法が合成出来ることを知ってるのか!

 スティングシェイドは相手の影から無数の漆黒の槍を突き出して、直線上にいるものを貫く単体闇魔法。

 エクスプロージョンは指定位置を大爆発させ、範囲内のものを吹き飛ばす広域火魔法。

 それらを合成させることで、ジュリアン魔法師団長やラグナス祭司たちの影から、一斉に槍が突き出し、それが被弾爆発する。


「ぐああああっ!?」

「くっ……。ヒールアント!」

 ラグナス祭司たちが回復魔法を放ち、無数の細かい光が、怪我の酷いところを探すように集まり、すぐに回復してゆく。

「レベル5の聖魔法使いが3人だあ?

 俺の魔法に反応も出来ない奴らをいくら集めたところで、ザコはザコなんだよ。」

「くそっ!アイスストーム!」

「──ダークウォール。」


 戦いは始まってしまった。

 火魔法レベル7と闇魔法レベル7魔法使いvs水魔法レベル7魔法使いの戦い。

 ていうか、てめえら、こんな狭いとこでバンバン魔法打ち合ってんじゃねえ!

 高レベル魔法の応酬に、俺は完全に逃げる隙を失ってしまった。

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