第32話 魔法師団長の秘密
「それをそのまま鵜呑みにするバカがどこにいんだよ。
俺が助け出したところで、アンタが約束を守る保証も、仲間が本当に助けに来るかも分かんねえ。
全部アンタの口先1つだろ。
大体アンタに叶えて貰わなきゃならないような、願いなんてないね。」
強気に突っぱねる俺を見ながら、ボスは面白そうにクックッと笑う。
「ここまで忍び込んで俺の顔を見に来るくらいだ。
さすがに出会ったばかりの相手の言う事を、はいそうですか、と聞かない程度の頭はあるらしいな。」
「……褒め言葉として受け取っておくよ。」
「──俺は近々ここを出る。
俺に用事があるんなら、早いとこ会いに来るんだな。
ここを出たら、俺の居場所を掴むことの出来ないお前に、二度と俺に会うチャンスはないぜ?」
確かにコイツの言う通りだった。スキルを奪おうにも、闇社会のボスの根城なんて探しようもない。
組織の末端にすら、どうやって近付けばいいか分からない。コイツがここにいる間だけがチャンスなのだ。
「ここは退屈でな。
お前の存在はいい刺激になる。
待ってるぜ?
──どうせお前は、また俺に会いに来る。」
ボスは俺の目を覗き込むように見ながら、ニヤリと笑った。
俺の目的も分からないうちから、確信めいた口調で言う、この男の考えが分からない。
隠密を使っていたのに、風の流れで俺の存在を見抜いたように、俺の態度や表情から、何かを掴んだとでも言うのだろうか。
そんな風に、力ではない別の何かで、コイツには勝てないと思わされる。
コイツだけじゃなく、部下までもが、誰も気付かなかった俺の存在に気付くのだ。
そんな奴を従えているような男を、俺は敵に回すようなことをしようとしている。
若い見た目ながら、大組織のボスというのも納得する、底の知れない恐ろしさを感じた。
初対面は完全に負けた。戦ってもいないのに、負けたと思わされた。
オスとして完全にマウントを取られた気分だ。
俺は何も言い返せないまま、隠密を使って刑務所を出ると、宿に戻ってベッドに体を投げ出した。
ボスは他の囚人同様、鎖に縛られてすらいなかった。恐らくあの鉄格子が、魔法を封じる何かなのだ。
俺が声をかけたところでボスは近寄って来ないだろうし、鍵を手に入れるか、鉄格子を何らかで壊して中に入らない限り、奴の体に触れない。
中に入れたとしても、戦いになったらすぐに看守に気付かれてしまうだろう。どうすれば気付かれずに、奴に触れる事が出来るのか。
最悪の場合、看守に俺の姿を見られる前に逃げる為に、正面突破以外の脱出方法も検討しなくてはならない。
今ある魔法スキルをアンデットの軍団に移せば、看守と戦って逃げるだけであれば余裕だろう。
だが今ここでアンデットの軍団を見せてしまっては、その存在が王宮にバレてしまう。
そんなスキルを持つ奴が刑務所で暴れでもしたら、即効警戒されてしまう。スキル以外で刑務所にアンデットが湧く理由なんてない。
元クラスメートに近付くまでは、奴らに気を抜いていて貰わなくてはならない。
あくまでも、極力静かに、刑務所の中の囚人と、ボスのスキルを奪わなくてはならないのだ。
俺は一晩考えたが、起死回生、一発逆転の妙手は思い付けなかった。
「バチス刑務所に侵入しただあ!?」
「シーッ、──声がデカい!」
俺は昨日の出来事を恭司に話していた。
「何だってそんな真似したんだよ。
この国に戻りたかった理由と、何か関係あんのか?
俺はお前が勇者なんてやりたいクチじゃねえことくらい、充分分かってんだぜ?
お前は俺の同類だからな。」
恭司に見抜かれることに不快感はない。寧ろ俺のことをよく知ってくれている親友と思うだけだ。
だが、今まで巻き込むつもりがないので黙っていたが、恭司の力を借りずに、あのボスに勝てる気はしなかった。
俺は思い切って、俺のスキルについて、これまでの経緯、なぜボスを狙うのかについて恭司にすべてを話した。
「──なる程な、あいつら、お前をそんな目に合わせやがったのか。」
恭司は低い声で唸る。
「親も、家も、金も、情報も、スキルすらない子どもが、こんなところに放り出されたら、どうなるかなんて考えたら分かんだろ。
直接殺さなくても、それは死ねって言ってるのと同義だ。
この世界には、俺たちの国みたく、国が弱者を救う救済制度なんてもんがねえ。
──そういうの、未必の故意って言うんだぜ。
あいつらが積極的に死ねと思ってるわけじゃなくても、放り出せば死ぬことは全員分かってた筈だ。
その上でお前が死んでも、──それでいいと思ってやがるんだ。」
思っていたことだが、恭司にそれを言われ、自分のことのように怒る恭司を見ていると、改めてあいつらに対する怒りがフツフツと湧いてくる。
「──俺はあいつらからスキルを奪って、あの時の俺と同じ絶望を味あわせてやりたい。
手伝ってくれるか?恭司。」
「誰に聞いてると思ってんだ。
俺が同じ目に合ったとしたら、お前に同じ事を頼んでただろうぜ。
寧ろ俺は今お前に怒ってんだ。
何で今の今まで、俺にまでそのことを隠してやがったんだよ。
親友だと思ってたのは俺だけだったのかと、情けなくなってくるぜ。」
俺は、スマン、と、笑っているのか泣いているのか、よく分からない表情で、羽をバタつかせて飛び回り、俺を突いてくる恭司の文句を受け止めた。
「最終確認をするぜ。俺が睡眠を発動させて看守や囚人を眠らせる。
その隙にお前が鍵を奪って牢屋を開け、囚人たちやボスからスキルを奪う。
ただ知っての通り、麻痺や睡眠の持続時間は決まってるし、連続してかけた場合全員にはかからない。
すぐに次をかけるが、最悪逃げることになれば、ユニフェイが陽動して看守の目を引いてる隙に、俺がお前を連れて崖から飛ぶ。いいな?」
恭司は麻痺以外にも、睡眠などの状態異常魔法を使える無属性スキルを持っていた。これは魔法スキルとして持っているものではなく、不死鳥に付随するもので、火魔法レベル7や雷魔法レベル7とは違い、この姿のままでも使う事が出来る。
ただし、セイレーンの混乱もそうだが、一度かかった相手には、次にかける際には耐性が出来るのか、100%の確率ではかからなくなる。
セイレーンの時は100体以上が雨のように連続で放って来たので、解除する先から次々かかったが、こちらは恭司一人なので、そうするのは難しい。
「お前、ほんとにその姿のままで、俺を掴んで飛べるのか?」
手のひらサイズのフクロウを見ながら、俺は疑わしい目を向けてしまう。
「ナメてんのか!?
お前一人くらい余裕だわ!」
確かに、コイツ以外と力が強いんだよなあ。サンディから引き離す時も、苦労したのを思いだす。
「……交代の看守がいなくなった。
そろそろ行くぜ。」
「おう。」
恭司が看守たちに次々と睡眠を放つ。ユニフェイは俺のテイムしている魔物なので、俺の隠密スキルの恩恵を受け、いざという時の為に姿を隠して貰っている。
「……全員いけたな。」
「よし、潜入するぞ。」
俺たちは堂々と刑務所内に侵入した。
「……あれ、なんだ、急に眠く……。」
「おい、どうした?
って、あれ、みんな寝て……。」
囚人最後の一人が睡眠に倒れて横になる。俺は看守から奪った鍵を使い、手早く全員のスキルを奪っていく。
スキルの確認は後だ。とにかくコイツらが一度目を覚ますまで時間がない。
「──面白そうなことやってんじゃねえか?」
見上げると、牢屋の外にボスが立っていて、牢屋の中で囚人に手を触れる俺を見下ろしていた。
何でコイツがここにいるんだ!?
見るとボスの周囲には、看守服を着た男たちと囚人服を着た数人の男たちが、朝礼でもするかのように後ろ手に手を組み、背筋を伸ばして立っていた。
もう仲間が助けに来たのか……!!
「看守たちを眠らせてくれたんだってな?おかげで助かった。」
俺たちの行動を見てたのか?
俺たちのした事すらもボスに利用されていた事に歯噛みする。
「おい、エンリツィオが脱獄してるぞ!」
「魔法師団からの応援はまだか!」
「クソッ!俺たちだけでやるしかない!」
看守たちも目を覚ましやがった。
最悪だ……。
「ひとまず、逃げるぞ!」
俺は恭司に声をかけ、牢屋から飛び出した。
「仲間がいるぞ!」
「仲間から潰せ!」
「レベル5火魔法、ファイヤープリズン!」
恭司を一度殺したゴーダのレベル5火魔法と同じものが、逃げる俺の背中を追う。
「クソッ!」
俺は振り返りながら水魔法レベル6を放った。
「──ダークウォール。」
それより先に、ボスの闇魔法がファイヤープリズンを相殺する。魔法は俺に向けられていたのに、まるで俺をかばったかのようだ。
「ぐわっ!」
「うわっ!」
攻撃を相殺されて阻む物のなくなった、俺の水魔法レベル6が看守たちにぶち当たる。
「やるじゃねえか。」
ボスは面白そうに俺を見ながら言った。
「エンリツィオ!そこまでだ!」
魔法師団が到着し、ボスの前に立ちはだかる。魔法師団長までいる。今見られるのはマズイ!俺は思わずエンリツィオ一家の後ろに体を隠した。
「久し振りだな、ジュリアン。」
「エンリツィオ……!」
元魔法師団長と現魔法師団長は、間に火花を散らすように睨み合う。
「お前一人じゃ俺に勝てねえってのに、ノコノコ出て来やがるとは、魔法師団もたいがい暇らしい。」
ボスがからかうように、クックッと笑う。
「一度捕まっておいて何を言う。
お互い勇者として召喚された身でありながら、悪事に身をやつしたお前を、元クラスメートととして放っておくわけにはいくまい。」
どういうことだ。
ボスと魔法師団長が、この世界に召喚された勇者だと?
俺たち以外にも、召喚された学校があるって言うのか。
俺は逃げるのも忘れて二人の会話を聞き逃すまいとした。
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