第29話 スキルの変化

 俺もアンドレたちも戦慄していた。

 既に成体3体を相手に、かなりのMPを消費している。

 魔物の幼体は成体に比べ、当然HPや防御力などのステータスの数値は低い。レベル5の魔法であれば、攻撃が一発でも当たれば即死だろう。

 だがユニフェイや恭司がそうなように、魔物はそれぞれの持つ特性を、幼体の段階から、生まれつき使う事が出来る。

 相手は、雷魔法完全耐性、土魔法完全耐性を交互に、そして混乱を操るセイレーン。

 360度から襲い来る混乱を解除しながら、100体以上のセイレーンに、雷魔法と土魔法を連発する?

 ──そんなこと、不可能だ。


 恭司のレベル7雷魔法であれば、上空から全体攻撃が可能だが、土魔法レベル5は、広範囲攻撃魔法を持たない。

 仮に恭司に広範囲魔法を使わせたとしても、こちらが土魔法で攻撃できるのは1体ずつ。皆のMPの残りも少ない。

 レベル7の広範囲攻撃魔法は、当然MPの消費もデカい。恭司に何十発と打たせる。これもまた、不可能だ。


 詰んだ。

 せめてゴーダたちから奪ったスキルが土魔法レベル7なら、恭司と同時に全体攻撃が出来たのに。

 ──そうなのだ。俺はあの後、実はちゃっかり気絶したゴーダたちからスキルを回収していた。

 いずれスキルがなくなったことに気付くだろうが、スキルを奪うスキルが知られていない以上、現時点では犯罪者に神罰が下って、スキルを取り上げられたと判断されるのだろう。

 ゴーダの仲間は何と34人もいた。彼らは一人最低一つずつ魔法スキルを持っていた筈。だが帰ってからステータスを開いた後、俺はその数とレベルに驚愕した。


 回復魔法レベル5

 火魔法レベル5

 火魔法レベル7

 風魔法レベル4

 風魔法レベル6

 雷魔法レベル4

 雷魔法レベル6

 水魔法レベル3

 土魔法レベル3

 土魔法レベル5


 ゴーダたちの中でレベル5の魔法スキルを持っているのはゴーダだけの筈だった。

 大半がレベル4の魔法スキルを持つ34人の魔法使い。だが手に入れた魔法スキルの数は10。

 最高が火魔法レベル7で、俺がネクロマンサーから奪った闇魔法レベル5と水魔法レベル5も、レベル6に進化していた。

 魔法スキルのレベルと数が合わないのだ。


 そこで俺は1つの推測を立てた。

 ──同じレベルの魔法スキルを2つ以上同時に俺が持った場合、それらが合成されてレベルアップされる。

 火魔法レベル3と火魔法レベル3で火魔法レベル4。

 火魔法レベル3が4人いれば、レベルアップした火魔法レベル4と、同じくレベルアップした火魔法レベル4が、更に合成されてレベル5、という風に。


 試しに風魔法レベル4をユニフェイから奪ってみたところ、俺の風魔法レベル4が風魔法レベル5へと進化した。

 これは新たな発見だった。

 俺自身のレベルが上がらなくとも、奪ったスキルを合成すれば、一気に高レベルのスキルが出来上がる。

 火魔法のレベルが一番高かったのは、ゴーダが火魔法レベル5を持っていたことと、火魔法使いがこの世で最も多いからなのだろう。

 そしてこれだけ人数がいても、やはり聖魔法使いはいなかった。


 ただ一つ誤算だったのは、俺はレベル5の魔法を使うアンデット軍団を作りたかったのに、合成されてスキルの数が減ってしまったこと。

 大半がレベル4のスキル持ちだったゴーダの仲間のスキルを奪い、俺自身がレベルアップすれば、アンデットすべてにレベル5以上の魔法スキルを付与出来る筈だったのが、これでは数が足りないのだ。

 元クラスメートから奪うにしても、魔法使いの数は11人。ダブルスキル持ちの野見山の分を合わせても、奪える魔法スキルは12。

 どこかでまた、大量に魔法スキルを手に入れなくてはならない。


 ──俺は突如我に返った。混乱にかかっていたらしく、バロスをボコボコに殴っていた。

 辺りを見回すと、全員漏れなく混乱にかかり、バロスはまたしても素っ裸だった。

 考える間もなく、セイレーンが混乱を放ってきていたらしい。

 ユニフェイが心配そうにこちらを見ていた。

 やはりスキルを移しておいて正解だった。

 俺はユニフェイに、風魔法レベル6と聖魔法レベル7を移しておいたのだ。

 ユニフェイから奪ってレベルアップした、風魔法レベル5が今俺の手元にある。レベル6の風魔法は、風魔法を使い慣れたユニフェイが持っていたほうがいいだろうとの判断からだ。


 魔物は混乱にかかりにくい。まったくかからない訳ではないのだが、10回に1回かかればいい方で、無駄撃ちになるので、冒険者であれば、例えばスキルを持っていたとしても魔物に混乱は使わない。

 だがそんなことは知ったこっちゃないセイレーンは、バンバン混乱を放ち、しっかり恭司がかかって、女〜〜!女はどこだ〜〜!と叫びながら船の上をぐるぐると飛んでいた。

 やっぱりバロスがやたらと脱ぐのは、本人の本性が混乱で暴かれてるだけなんじゃないのか?


 俺自身は賢者の職業スキルでレベル7の聖魔法が使えるし、聖職者の職業スキルで使える聖魔法レベル5でも混乱の解除は可能だ。

 ただ、360度から混乱を放たれては、壁となる人間がいないので、俺自身にも混乱がかけられてしまう。

 もう一人聖魔法の使い手が欲しいと思った俺は、咄嗟にユニフェイに聖魔法レベル7を移しておいたのだ。

 俺が混乱にかかったとしてもユニフェイが解除してくれる。


 恭司に託しても良かったのだが、スキル移行を話すのに躊躇ったことと、本来、人が持てるスキルは3つまでと決まっている。

 ネクロマンサーがそうだったように、魔物であるユニフェイには、いくつスキルを付与しても問題はなかった。

 だが、人は3つまでしかスキルが与えられないだけなのか、4つ以上持つことが出来ないのかが分からない。

 俺だけがスキルの恩恵で、例外の可能性は捨てきれないのだ。

 ましてや恭司は魔物だが元人間だ。いざ付与した場合、人と魔物、どっちのカテゴリーに属するのかも悩ましい。


 仮に人間のカテゴリーに属するとして、恭司が持つスキルが、雷魔法レベル7、火魔法レベル7、不死再生、だとしたら、どれか1つを奪わないとスキルを付与出来ない。

 試してみたことはないが、4つ目を与えて恭司のスキルが消失でもしたら目も当てられない。

 かといって雷魔法レベル7は使用して欲しいから奪えないし、火魔法レベル7を下手に奪えば、俺の火魔法レベル7と合成されてレベルアップし、俺のスキルが消えてしまう。

 不死再生は不死鳥の根源に根付くスキルだ。奪ってしまったらどんな効果が起きるかも分からないのも恐ろしい。

 スキルが奪えるのはランダム。恭司とスキルのやり取りをするのはリスキー過ぎた。


 だが、混乱に対する対応は出来たが、セイレーンを倒す手段がない。このまま混乱を解除し続けたところで、いずれMPが尽きて自滅するのも時間の問題だった。

 雷が水を伝うように、土魔法も何かを伝って全体に広める事が出来れば、広域魔法のないレベル5の土魔法であっても、一気に全体に当てる事が出来るのに。

 だが鉱石を操る土魔法は、何かが伝わる事はあっても伝えることは出来ない。

 全体魔法と違い、セイレーン1体それぞれを狙って攻撃しなくちゃならないのだ。


 考えている間もセイレーンはバンバン混乱を放ってくる。俺や他の仲間に攻撃を仕掛ける奴らや、裸で海に飛び込もうとするバロスの混乱をいちいち解いても、もうきりがなかった。

 まったく、幼体の癖にMPだけは高いんだからな。こちとら一人で魔法を使い続けるにも限界があるってのに……!


 ──魔法?

 セイレーンはもれなくすべての個体が混乱の魔法を放って来ている。即ち、放たれた魔法を対象として検索して誘導すれば、それを伝って一度に魔法を当てる事が出来る。

「……魔法感知+雷魔法レベル6、対象を空気中の水分と、魔法感知の結果に固定+水魔法レベル6、空気中の水分をミニマムウォーターボールに凝縮+土魔法レベル5、対象をミニマムウォーターボールと連動、魔法感知の結果に固定。

 ──くらえ、ミニマムサンダーアースバレット!!!!!」


 魔法感知は360度全方位で、魔法が使用されたのを感知する。

 アースバレットは弾速や威力を変更出来る土の弾丸。

 ミニマムウォーターボールは、ウォーターボールより威力もサイズも小さいが、より球数の多い水の弾丸。

 そこに空気中の水分を対象にサンダーカッターを放ち凝縮する。

 それらが魔法感知に従い誘導され、混乱を放つセイレーンに向かって飛散する。いわば360度拡散する、雷と土と水の散弾の波動。

「グゲキャギャギャギャ!!!」

 混乱を放っていたセイレーンの幼体は、漏れなく魔力感知に引っかかり、まるでドミノ倒しのように、バタバタと倒れて海面へと浮かぶと、やがてゆっくり沈んで行った。


「ヤバかった……。成体だったらワンキル不可能だったぜ。」

 俺は順番に皆の混乱を解いていき、セイレーンたちはまだ子どもだったので、レベルの高い魔法に驚いて逃げたと話した。

 ここは魔物と共存する海だ。船を襲ってきさえしなければ、討伐の必要はない。

 皆が歓声を上げる。俺はぐったりして、ニナンガに到着するまでの時間、ひたすら自室のベッドで眠りこけたのだった。

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