第23話 しゃぶしゃぶ屋の娘
「お前……いつまでそうしてんだ。」
角度を変えて恭司がオッパイをグリグリし続けるので、目の前で悶るように体をビクつかせる女の子を見ていられず、俺は恭司に突っ込んだ。
「あれっ?
キョーちゃん、今日は別のお友達と一緒?
邪魔しちゃったかな?」
プルンプルンのたゆんたゆんが俺に気付いて恭司に尋ねる。
「ゴメンねえ?キョーちゃんを独り占めしちゃって。
キョーちゃん、またね?」
女の子は胸の谷間から恭司を取り出すと、俺に手渡して手を振りながら去って行った。
恭司がジト目で俺を睨む。
「何だよ。」
「もうちょいで乳首に到達出来るってとこで、邪魔してんじゃねえよ、空気読めよ。
今日こそ齧ってやろうと思ってたのに。」
「──お前よくダチの前でそこまで出来るな。」
寧ろ呆れるより関心する。
「可愛いだろ?サンディってんだ。
俺の今一番お気に入りのオッパイさ。」
人をオッパイでカウントしてんじゃねえよ。俺もプルンプルンのたゆんたゆんで認識してるけども。
「それより恭司、聞きたいことがあんだよ。」
「何だよ。」
「俺、ニナンガに戻りてえんだけど、どうやったら帰れる?」
「は?
おめえ、ここまでどうやって来たんだよ。」
俺はダンジョンに閉じ込められた経緯を話した。
「マジか、あそこ、そんな風になってんのか。」
「知ってんのか?」
「あそこのダンジョンは、何でも時計周りに、ナルガラ、ルクマ、ヘイオス、ニナンガの順で入り口が現れるらしい。
俺らのとこは毎回固定であの場所に湧くのさ。ここが固定だから、よそも同じかと思ってたが、ニナンガはランダムなんだな。
だから入り口の周辺を掘って、周囲を聖水で囲ってあるんだ。何せここは城下町の入り口のど真ん前。
万が一ダンジョンブレイクが起きても、あの中の魔物で飛べるのはネクロマンサーだけだからな。安全ってわけさ。
ネクロマンサーが外に出て来ても、王宮から兵士がすぐに飛んで来れる距離だしな。」
なる程。妙に高い壁に囲まれていると思ったが、ダンジョンブレイクを警戒しての事だったか。
「けどよ……ニナンガって遠いぜ?
何せ海の向こうだ。」
「海!?」
「お前途中でダンジョンの入り口を破らなくて正解だったよ。
ナルガラは四方を海に囲まれた独立国家。
……ダンジョンの移動の途中は、どこで入り口に穴をあけても、多分海の底だったろうぜ。」
……早まらなくて良かった。
「ナルガラ行きの船は出てないのか?」
「あるにはあるんだが……。」
「何だよ。」
「最近海に魔物が出るらしくてな。
交易船がストップしてるんだ。
魚はどこの港でも取れるし、食べるに困っちゃいないんだが、ナルガラは貿易で生計を立ててる国でな。
外貨が入ってこねえってんで、国内消費でしか金が回らなくて、失業者が増えてんだ。
おかげで山賊だとか強盗だとか、犯罪も増えててな。明るい時間は問題ないが、夜は男でも1人歩き出来なくなってんのよ。」
「マジかよ。」
まいったな……。
「待ってりゃ移動出来るんだろ?
最悪ダンジョンが一周するのを待ったらどうだ?」
あれを、また?
ニナンガにダンジョンの入り口が戻るまで、2つの国を経由しなくてはならない。とてもじゃないが遠慮したい。
「──やめとくわ。」
俺はコリゴリ、という表情で親友の提案を却下した。
「そうか。困ったな。船となると、俺にもあてがねえし……。
──そうだ、それより、お前、魚食いたくねえか?
この国、何と刺し身があるんだぜ?」
「マジかよ!?」
ニナンガは国土の大半が海に面していない為、魚は取れるには取れるが高級品で、とても庶民の口には入らない。
「さすがに醤油はないから塩で食うんだが、塩もなかなかにいけるんだぜえ、これが。
あとな、新鮮な刺し身のしゃぶしゃぶ。」
「しゃぶしゃぶ……。」
「魚がこんなに甘くて美味いとは思わなかったよ。俺は刺し身のしゃぶしゃぶが世界で一番美味い料理だと思ってるね。
特に甘鯛に似たナンボって魚があるんだが、それのしゃぶしゃぶが絶品なのさ。」
俺はよだれを3回飲み込んだ。
恭司の案内で、絶品のナンボしゃぶしゃぶを食べさせてくれるという店に来た。
「あらキョーちゃん、今日はその人におねだりするの?」
「キョーちゃんだー!これ食べる?」
「何あれ!カワイイ!」
店員を始め、常連さんから初見の客まで、すっかり恭司の可愛さにハマってチヤホヤしている。恭司はテーブルを飛び回り、客に頬ずりしたり、刺し身を貰ったりしていた。
「──見たか、匡宏、可愛いは正義だ。」
「おめえ、あざとい技覚えやがったな。」
「自分じゃ金を稼げねえし、こうしなきゃ食ってかれねえんだよ、人間の食いもんしか食いたかねえしな。」
そりゃそうか。
ナンボしゃぶしゃぶは想像以上の味だった。
最初は刺し身で。続いてしゃぶしゃぶで。
「くう〜〜!うめえ!」
「だろ?」
俺がナンボの旨味を噛み締めていると、恭司がドヤる。
懐かしいな。あんまり家から出ない俺に、面白いことや、新しいものを見つけては、いつも連れ出してくれるのが恭司だった。変わってねえな、こういうところ。
姿が変わっても、変わらぬ親友の面影に、俺は何だかたまらなくなった。
俺が足元のユニフェイにもナンボの刺し身を分けてやり、3回目のお代わりを注文した時だった。
「女将さん!」
息を切らした男が店に飛び込んで来る。
「何だい、やかましいね!
まだ営業中だよ?裏にまわんな!」
「さ、サンディが……、ゴーダたちにさらわれた……。」
「何だって!?
馬車で移動してたんじゃないのかい?
何だってそんな目に!」
「……馬が、釘か何かを踏んで、歩けなくなったんだ……。
それで、馬車を預けて歩いて帰るところを囲まれて……。」
「……おい、サンディって、まさかさっきの。」
「──ああ。サンディはここの一人娘だ。」
恭司の顔色が変わる。
「ゴーダってのは、昨今の不況で仕事にあぶれた魔法使い崩ればかりを集めて、山賊を気取ってる荒くれ者さ。
レベル4魔法使いを中心に、最低でもレベル3の魔法使い集団になってる。
ゴーダ自身もレベル5の火魔法使いって噂だ。」
ほーお?
「匡宏……。さっき、手伝って欲しい事があったら、いつでも言いな、って言ったけどよ、俺──」
「──みなまで言うな。
ゴーダのアジトは分かってんのか?」
「……!
ああ、案内するぜ!」
レベル4を中心に、最低でもレベル3の魔法使い集団だって?しかもボスがレベル5の火魔法使い?
こんなオイシイ、いや、親友のピンチを、見過ごすわけにはいかねえぜ!
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