第22話 親友はフェニックス

「は……?」

 俺に当然フクロウの知り合いなんていない。

 それよりも、ここに来るまでで、喋る動物はおろか、喋る魔物にすら遭遇していない。俺は誰かが後ろで話しているのが、さもフクロウが話しているかのようにアテレコされて見えているのかと思い、フクロウの周囲をキョロキョロと探した。

「……何してんだよ。」

 やはりフクロウが話している。

「俺だよ俺!恭司だよ!」

「はああぁあ!?恭司ィ!?」


 俺の知る恭司とは、松岡恭司ただ1人だ。俺の中学時代からのツレ。同じ高校に進んでからは、クラスが同じになることはなかったが、それでも帰りは待ち合わせて一緒に帰ったり、休みの日を一緒に過ごしたりと、お互い彼女もいなかったので、ベッタリと一緒にいるような仲だ。

「お前……ほんとに恭司なのか?

 てか、何なんだよその姿。

 可愛らしくなっちまってまあ。」

「だろ?カワイイだろ?俺。」

 フクロウというものは、俺から見て元々常にドヤ顔しているような見た目と思っていたが、更にその上を行くドヤ顔で恭司は目を閉じた。

 悔しいが確かにその仕草は可愛い。恭司の癖に。


「てか、何でこんなとこにいんだよ?」

「異世界転生ってやつさ。

 お前もそうなんだろ?」

 恭司は事も無げにそう言う。

「……ちょっと待てよ、お前がここにいるってことはまさか。」

「──俺も今同じことを思ってた。」

 今まで考えたこともなかった可能性について、俺と恭司が同時に思い付く。

「俺たちは修学旅行の途中で、急な崖崩れに遭遇し、バスが崖から転落した。

 落ちたのは匡宏のクラスのバスが先だったのに、お前らのバスも、俺らのバスも、気が付くとなかった。

 そして突然この国の王宮に連れて来られたのさ。

 俺らはクラス全員、このナルガラ王国の国王に召喚された勇者だとよ。」

「ナルガラ!?ここナルガラって言うのか?」

「お前のとこは何てとこなんだ?」

「……俺らのとこはニナンガ王国だ。」

「つまり俺らは、クラス単位で別々の国に、同時に勇者として召喚されたってことだな。」


 周りに他のクラスの奴らがいなかったから、俺たちは、てっきり自分のクラスだけなのだと思っていた。

 だが事故に遭ったのは他のクラスも同じだ。別々の国に召喚されていたので、今まで知らなかったのだ。

「待てよ、てことは……。」

「ああ、匡宏の1組、俺らの2組がこっちに来てるんだ。バスは全部落ちた。──3組も来てる可能性があるんじゃないか?」

 俺の心臓が急に跳ねた。3組。

 江野沢綾那がいるクラス。俺の幼馴染。思春期に突入してから下の名前で呼べなくなった、大好きな女の子。

 この世界に召喚され、2度と会うこともないと、思い出さないようにしていた存在。

『アイツがこの世界に……来てる可能性があるってのか?』


「つか、他の奴らはどうしたんだよ?

 俺らのとこは、みんな王宮で訓練させられてるぜ?」

「ああ、撒いてきた。」

「撒いてきた?」

「だって俺この格好だぜ?

 魔王退治とか、何が出来るってんだよ?

 魔物でも突けってか?平手打ち一発で終わりだろ。」

 まあ、確かに。

「そんなことより、俺の夢知ってんだろ?

 俺は魔王退治なんかより、可愛いエルフとイチャイチャして過ごすのさ。」

「エルフがいんのか?」

 魔物と魔王の存在は知っているが、エルフなんて見たこともない。この世界は人と魔物が戦っているのだとばかり思っていた。


「いるぜ?

 海を渡ったところに、エルフの国、獣人の国、当然魔族の国もな。

 待てよ、ケモミミ娘もいいな、いやいや、露出度高めの魔族のオネーサマ方も捨てがたい……。」

 松岡恭司とは、つまりこういう奴である。

「俺のカワイイ姿に女の子たちはメロメロなのさ。見てな?」

 そう言うと、恭司は黒目いっぱいのデカい目をきらきらさせて、ちょっと小首を傾げてみせた。

 まるくてモフモフ、短足2頭身の小動物が、ちょっとドヤ顔でカワイイ仕草を決めてくる。

「あっ!おい!触んな!

 男には撫でられたくねーんだよ!」

 いや、触るだろ、こんなんモフりまくりだろ。


「お前中身が俺だって忘れてねーだろな!

 想像してみろよ!ムサい高校生男子が、同級生の男の体を撫でまくってんだぞ!

 気持ち悪いにも程があるわ!」

 確かに、恭司の感覚からしたらそうなのだろう。俺もリアル恭司を撫でている自分を思い浮かべてちょっと寒くなった。

「……すまん。」

「わかりゃいーんだ。」

 俺に撫でられたのが余程気持ち悪かったのか、恭司はブルブルと羽を震わせた。


「そういやお前は何のスキル貰ったんだ?

 ちなみに俺は──聞いて驚けよ。

 何とフェニックスだ。」

 はあ?

 この可愛らしさ全開の、目の中に入れても痛くなさそうな、何度でもモフりまくりたい小動物の、どこに神話の獣の要素があると言うのか。

「フェニックスがフクロウの見た目してるなんて聞いたことねーよ。」

「仕方ねーだろ!実際こんな見た目なんだから!

 見ろ!俺のステータスを!

 神獣(不死鳥の幼体)って書いてあっから!

 俺が魔物なのに喋れるのだって、神獣だからなんだぜ?

 神獣はみんな喋るんだとよ。」

「──いや、見れねーよ他人のステータス。鑑定スキルでもなきゃ。」

「くああああ!」


 そうなのだ。ステータス確認は俺たち異世界転生者独自の仕様だが、これまた他人が見ることが出来ない。

 堂々と目の前で開いても、相手は何をしているのかすら分からないのだ。これは異世界転生者相手でも変わらない。

 だから養護施設でも、ガッツたちの前でも、俺は堂々とステータスを開いてたという訳だ。

「俺は今テイマーをやってるぜ。」

 傍らのユニフェイを紹介がてら言った。

 俺はスキル強奪の話しを恭司にしなかった。恭司を信用してない訳じゃない。だが俺がこれからやろうとしていることに、恭司を巻き込む気はしなかった。


「……お前、何か思い詰めた目ぇしてんな。

 親友を誤魔化せると思うなよ?」

 俺の表情の変化を恭司が読み取り、鋭く突っ込んでくる。昔からそういうのに敏い奴だった。恭司を誤魔化せるとは思っていないが、話すつもりもなかった。

「……まあ、話したくなったら話せよ。

 お前もどうせ逃げてきたんだろ?

 俺はもう暫くここで目ぼしいカワイコちゃんの乳という乳を堪能したら、よその街に移るつもりなんだ。

 手伝って欲しい事があったら、いつでも言いな、相棒。」

 ──分かったよ、相棒。


 ん?てかお前今、乳って言ったか?

 ちょっと感動的なセリフに挟まれた違和感のある言葉を、俺は聞き逃さなかった。

「──キョーちゃあーん!」

 人混みをぬって可愛らしい女の子がこちらに手を振りながら近付いてくる。

 その子が近付くに連れ、俺が驚愕したのはその子の胸だった。

 それはもう、プルンプルンのたわんたわん。大きな胸を揺らしながら、胸元のざっくりあいた服を着ている。

 おお、刺激つえぇ……。

 恭司は羽ばたくとその子の肩にとまって頬にスリスリした。

「キョーちゃん今日もカンワイイ〜〜。

 あっ!やぁーん。

 キョーちゃんのエッチィ。」

 恭司は女の子の開いた胸元に潜り込んで、オッパイにスリスリしだした。

 お前……その体、堪能してんなあ……。

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