第21話 喋るフクロウ
俺は千里眼を頼りにダンジョンを歩き回った。昼前も今回も、全部の道を歩いたわけじゃない。
千里眼上の地図には、まだこの先分かれ道の表示がたくさんあった。だがすべての道を散策し終えた後、やはり出口がないことが分かっただけで、俺は背筋が薄ら寒くなった。
ダンジョンボスを倒した後のダンジョンは冷ややかな静けさに静まり返り、ザコすらも湧いて来ない。ボスを守る為にいるのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。
俺は仕方なくネクロマンサーの祭壇の前に戻り、ユニフェイをアイテムボックスから出してやった。
慌ただしくアイテムボックスに突っ込んでしまったので回復する間がなかった為、ユニフェイは戦闘直後の疲弊状態のままだった。
俺はユニフェイに回復魔法をかけると、アイテムボックスから肉を取り出して与え、俺自身も携帯食料と水を口にした。
このまま閉じ込められてしまうのか。脱出の可能性があるとすれば2つ。
1つ目は入り口だったところを破壊する。
これは危険が伴う。ダンジョンの入り口は同じところに同じダンジョンが湧くことも多いが、今回はレアケースのランダム発生だ。
この地域で普段沸かないネクロマンサーをボスに据えたこのダンジョンは、再びダンジョンの入り口が開いた場合、恐らく別の地域に出口がつながる。
その移動過程で入り口を壊した場合、例えば海の底に繋がってたりしないとも限らない。そしたら溺れて即死だ。
2つ目は恐らく再び湧くであろうダンジョンボスの発生を待つ。
一度ボスを倒しても、一定時間が経過すると再度ボスが湧き、ダンジョンが発生する仕組みだ。
そうすれば再び入り口が繋がり、外に出られる筈。これが一番安全で確実だ。
問題なのは、ここのダンジョンが今まであの地域で発生したことがない為に、どの程度の期間で再びボスが湧くのか、その日数が分からないと言う事。
簡単なダンジョンは常駐の場合もあるし、時間湧きでもきっちり決まった時間に定期的に発生する。
ガザンでもマッサンでも、常駐ダンジョンの他に時間湧きのダンジョンが2つあったが、1つはボスを倒してから3時間後、もう1つは一日おきに再び発生していた。
だがそれはすぐに倒せるボスであることを見越しての時間だろう。
この地域の冒険者が少人数で倒せないレベルのダンジョンボスが、そんな頻繁に湧くとも思い難い。
俺がハマっていたオンラインゲームでは、10人以上必要なダンジョンは1週間おき、30人以上必要なダンジョンは2週間おきに湧いた。
このダンジョンでも、レベル3以下の魔法使いばかりでも、聖魔法使いや回復魔法使いを中心に魔法使いを揃え、注意を引くタンクと、弓などの遠距離数人を揃えた大所帯のパーティーであれば、攻略するのは不可能ではない。
最低でも20人。だがそこまでの人数を必要とするダンジョンボスが、果たして一週間程度で再び湧くだろうか?
子どもの頃エレベーターに1日閉じ込められた経験のある俺は、学校に通う際も、常に通学鞄に水と携帯食料を忍ばせていたくらい、手元に飲み物と食べ物がないことを恐れる。
だから今回のダンジョンにおいても、俺とユニフェイの食べ物と水を、アイテムボックスに大量に詰め込んで来た。
少なくとも1か月は保つ見込みだが、もし1か月以上かかるようであれば、最悪入り口を壊すしかなくなる。
後の問題は入り口が繋がるまでの間が非常に退屈だということだ。ゲームもない、人もいない、敵も湧いてこないとなると、現代っ子の俺は、どうやって時間を潰したものかと頭を抱えた。
最初の数日は、ユニフェイと散歩をしたり、一緒に走り回ったり、炭を投げて取ってこさせたりして遊んで過ごした。
次の数日間は、入り口か、せめてまだ見ぬ通路が発生していないかと、千里眼を眺めて過ごした。
ニグナたちを千里眼で検索しては、地図上にいるのを確認し、自分を慰めていたが、段々と位置が移動して行き、ついにはオロス祭司すらも地図から消えた。やはりこのダンジョンは移動しているのだ。
いつネクロマンサーが再び現れてもいいように、寝る時は階段の近くに寝袋を敷いた。
常にユニフェイが見張っていてくれているので、湧いてもすぐに階段で逃げられる。
段々と俺は疲弊し、一日の大半を寝て過ごすようになっていた。
ユニフェイの存在だけが慰めだった。1人だったら今頃叫んでいたかも知れない。
いつ出られるか分からない、食料が尽きる前に出られないかも知れない恐怖は、ジワジワと俺の心を蝕んだ。
「ヴヴヴ〜〜。」
俺はユニフェイの唸り声で飛び起きた。前を見ると、あの日のようにネクロマンサーがアンデットを従え、手に広げた本を持ちながら宙を揺蕩っていた。
──出られるんだ!!!
俺は急いで寝袋から出ると、寝袋を引っ掴んで立ち上がり、寝袋をアイテムボックスにしまう間もなく急いで階段を駆け上がった。ユニフェイが後を追いかけてくる。
階段の向こうに光がさしている。出口だ。ようやく繋がったんだ。
──外に出ると、そこは見知らぬ巨大な門の前だった。高い壁は煉瓦で出来ていて、先端の尖った格子状の鉄の門が一番上まで引き上げられ、そこを楽しげな人たちが行き交っている。
俺のいる場所は周囲を水に囲まれた離れ小島だった。唯一門のある道につながる跳ね橋のようなものが小島に繋がっている。
まだ誰もダンジョンに気付いていないのか、小島には誰もおらず、跳ね橋の向こうの人たちも、ダンジョンの入り口も、小島に立つ俺の事も、気にする様子はなかった。
『ここは一体どこなんだ……?』
俺は取り敢えず手に掴んだままだった寝袋をアイテムボックスにしまい、ユニフェイと共に跳ね橋を渡り、門の中に入ってみた。
そこはたくさんの出店でごった返していた。買い物をする人、食事を取る人。買ったものをその場で食べる人用の木のテーブルと椅子がそこかしこにあり、中央に大きな木が植えられている。
まるで遊園地のイートインコーナーだ。
取り敢えず暖かなスープが飲みたい。暖を取る為の炭は持ち込んでいたが、鍋がないので携帯食料ばかり口にしていたのだ。とにかく暖かな食べ物が恋しかった。
俺は何か暖かな汁物を売る出店がないか、出店をキョロキョロと見て回った。
「匡宏!匡宏じゃねーか!!」
突然こんなところで呼ばれる筈のない俺の名前を呼ぶ声がする。あいつらか?
俺は元クラスメートの姿を探すも、姿が見えない。
「何やってんだよ、ここだよ、ここ!」
俺に話しかけていたのは、小さくて可愛らしい、人の言葉を話す、子どものフクロウだった。
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