第20話 ダンジョン最後の罠

「──まずはソイツを潰さねえとな。」

 俺はネクロマンサーの持つ本を睨んだ。

 昼間来た時にユニフェイが撃ち抜いたのに、今また再生している。顔も爆弾で一部損壊したのに、やはり再生している。

 そのことを考えると、破壊しても時間がくればいずれ再生する筈だが、少なくとも再生するまではアンデットは沸かない。

 ユニフェイもいない。何度も破壊してでも、アンデットの大量発生は防がなくてはならない。


 まともに魔法を撃っても相殺される。ネクロマンサーに攻撃が当たったのが3回。

 昼間の時。転んだ俺に気を取られ、ユニフェイの放った風魔法で本を切り裂いた。

 同じく昼間の時。走る俺に気を取られ、魔法で作成したが魔法ではない爆弾を顔にくらった。

 そしてさっき。俺の複数攻撃に気を取られ、ユニフェイの風魔法を受けた。


 コイツは攻撃の範囲と火力こそ高いが、コイツ自身の動きは鈍い。なのに魔法攻撃が反比例するかのように早い。その緩急に感覚を惑わされる。

 そして爆弾を投げた時に感じた違和感。俺が投げた爆弾は人が人力で投げたデカい球体。せいぜいドッジボールぐらいの速度だ。

 俺は爆弾を顔に投げ付けた時、それこそ途中で撃ち落とされる覚悟をしていた。少しでも近くで爆発させられれば怯むだろうという程度の期待だった。


 だが、期待以上の効果を発揮し、爆弾はネクロマンサーの顔の前まで到達し、顔の一部を削り取った。

 それよりも確実に早い魔法攻撃に対しては、まるで反射のようにすぐに攻撃を返すが、爆弾が顔の前に到着するまで、まるで反応をしなかった。

 反応したのは爆弾を投げた瞬間ではなく、落ちないよう風魔法を放った瞬間だ。

「魔法感知……か?」


 魔法が発動されたことを感知する能力。

 魔法が発動しなければ分からない能力。

 思えばただ走っている時に受けた攻撃と、魔法攻撃をした際に受けた攻撃では、攻撃が来るまでのスピードが違っていた。

 爆弾は魔法で作成したものだが、爆弾を生み出す呪文があるわけではなく、あくまで魔法を手で作る代わりに利用しただけだ。爆弾自体は魔法じゃない。


「なんとなく、見えてきたぜ……!」

 俺は攻略の糸口が掴めたのを感じた。

「……火魔法レベル1+聖魔法レベル1+風魔法レベル2。ファイヤーボールをセイクリッドレインの拡散方法のみと合成、風魔法で撹拌。

 ──くらえ、ファイヤーセイクリッドレイン!!!」

 無数の火の玉が雨粒のようにネクロマンサーに降り注ぎ、それを風魔法が不規則に拡散する。ネクロマンサーは辺りをキョロキョロと見回しだし、四方八方にやたらめったら魔法を乱発しだした。

「360度同じ威力の魔法攻撃の雨だ。

 反応しちまうよなあ?お前は。」

 ネクロマンサーが気を取られている隙に俺は両手に魔法を発動させ、本と顔面に打ち込んだ。

「ホーリーソード!!!」


 ネクロマンサーがグオオォオオと雄叫びを上げてよろめく。俺はその隙を見逃さなかった。

 俺はネクロマンサーの手首を掴む。

『奪う、奪う、奪う!』

 ──光が反応しない。

 ネクロマンサーが広域毒魔法を周囲に放つ。

「うわっ!」

 俺はまともにレベル5毒魔法をくらい、ネクロマンサーから離れ、聖魔法で解毒した。

「奪えなかった……だと?」

 俺は初めての出来事に、ただただ驚愕した。

 ネクロマンサーは俺を気にせず、まだ多数空中を浮遊しているファイヤーセイクリッドレインをまるでうるさい小蝿の群れを潰そうとするかの如く格闘していた。


 魔物からはスキルは奪えないのか?

 そもそもネクロマンサーはそういう存在の魔物で、スキルではないのだろうか。

 ここまで来て。

 俺は絶望に打ちひしがれた。

 どうする?逃げるか?

 スキルが奪えないのであれば、倒す必要はない。


 ──いや?

 俺は最初にユニフェイに出会った頃を思い出す。スキル強奪を試す為、何度となくユニフェイにスキルを移し、それを奪った。

 魔法やスキルがあれば、魔物であってもそれは奪える。少なくともネクロマンサーが職業ではなく、そうした存在の生き物だったとしても、奴の使う水魔法レベル5と、闇魔法レベル5は奪えなくてはおかしいのだ。


 何か条件がある筈。ゲームなんかじゃ特定の条件の元、アイテムドロップする敵も多い。コイツの条件はなんだ?

 クソッ!鑑定があれば見えたかも知れないのに!

 俺はギリギリと歯を食いしばった。

 ──コイツはダンジョンボスだ。ダンジョンボスの特徴はなんだ?

 共通する事柄は幾つかある。

 複数の属性の魔法を使うことが多い。

 配下を従えていることが多い。

 他にない独自の攻撃方法で倒さなくてはならないことも多い。

 ──HPが一定以上低下すると、攻撃方法や魔法属性の性質が変化する奴も多い。


 残りHPが一定以上減ることが条件なのか……?

 試してみる価値はある。今はまだ本を消して、ユニフェイの風魔法と俺の聖魔法がそれぞれ体に一発ずつ当たった程度。倒れる気配なんてない。

 奴はまだファイヤーセイクリッドレインに気を取られてる。今がチャンスだ!

 俺は再び近付き、くるくると回りながらファイヤーセイクリッドレインを撃ち落としているネクロマンサーにしがみついた。


 ネクロマンサーが広域毒魔法を放つ。俺は怯まず解毒魔法を使いながら、0距離でホーリーソードを打ち込む。

 奪う、奪う、奪う。

 反応しない。

 2発目!

 奪う、奪う、奪う。

 反応しない。

 3発目!

 ネクロマンサーがグオオォオオと唸り、氷柱を放つが、しがみついている俺には当たらない。

 奪う、奪う、奪う。

 反応しない。

 魔法以外の攻撃をしてこないので、しがみついている俺を殴ったり引き離す事が出来ず、ひたすら氷柱と広域毒魔法を繰り返す。

 こんな戦い方、想定外だっただろ?

 俺はニヤリと笑いつつ、4発目のホーリーソードを打ち込んだ。

 グ、グオオォオオ……。

 まずい、消える!

 奪う、奪う、奪う、奪う、奪う、奪う、奪う、奪う、奪う、奪う、奪う、奪う、奪う、奪う、奪う、奪う、奪う、奪う、奪う、奪う!

 辺りはまばゆい光に包まれた。


 気が付くと静かな空間には、何の気配もしなかった。

「やべえ……。倒しちまった……。」

 イチからやり直しだ。また探さなくてはならない。

 取り敢えずダンジョンを出よう。

 俺はステータスを開き、千里眼でダンジョンの地図を検索しようとした。


 ───────────────────

 国峰匡宏

 16歳

 男

 人間族

 レベル 20

 HP 4150

 MP 19900

 攻撃力 645

 防御力 526

 俊敏性 367

 知力 1146

 称号 異世界転生者 すべてを奪う者

 魔法 生活魔法レベル6 回復魔法レベル2 火魔法レベル3 風魔法レベル2 水魔法レベル2 土魔法レベル1 聖魔法レベル7 闇魔法レベル5 水魔法レベル5

 スキル       テイマー(岳飛:フェンリルの幼体) アイテムボックスレベル1 解体 再生 食材探知 索敵 採掘 強打 捕獲 騎乗戦闘 投擲 踊り子 盗賊 売春婦 アイテムボックスレベル5 千里眼 隠密 聖職者 賢者 魔法感知 闇操作 消音行動 打撃無効 斬撃無効 物理無効 知能上昇 ネクロマンサー

 ───────────────────


「や……、やったああああ!」

 あいつ10個もスキル持ってやがった……。さすがはダブル属性持ちのレベル5魔法を操るダンジョンボス。

 HP残り30〜10%というところだっただろうか。

「厳し過ぎんだろ……。

 残りHP見えねえの、きちい〜……。」

 ともかく目的を果たしたのだ。

 快い疲れと共に、俺は出口を目指した。


「……あれ?」

 元来た入り口まで到達し、俺は戸惑った。出口がないのだ。千里眼を確認すると、確かに入る時にはあった入り口の表示がない。

 ボスを倒すとダンジョンが塞がるのは知っていたが、まさか、閉じ込められたのか……?

 目的を果たし有頂天だった俺は、再び絶望の底に突き落とされたのだった。

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