第19話 最下層での死闘

 一口に戦うと言っても、俺の目的は倒す事でも、経験値でも、剥ぎ取りアイテムでもない。

 あくまでもスキルだ。

 果たしてダンジョンボスからスキルを奪えるものなのか分からないが、高レベルの聖魔法を手に入れたからと言って、バンバン魔法を連発し、スキルを奪う前に倒してしまっては意味がないのだ。

 特にネクロマンサーはこの辺りでは滅多に湧くことのない高レベルの魔物だ。次にいつどこでお目にかかれるかも分からない。

 ある意味普通に倒すよりも大変かも知れなかった。


 レベル7の魔法など、使うの自体が初めてだ。火力の程度が分からない。ましてや対ネクロマンサーに有効な聖属性。

 レベル4魔法で1割増し、レベル5魔法で2割増し、──レベル7魔法で4割増し。そこに自分の知力と攻撃力が自乗で加わる。ワンチャン一撃で消滅させてもおかしくない。

 まずは邪魔なアンデットを片付けなくてはならない。20体程が常にウロウロしていて、それが一気に襲いかかってきたりしたらさすがに面倒だ。


「火力調整に丁度いいな。」

 俺は奴らが襲って来ない距離の安全地帯から、聖魔法レベル5の遠距離単体魔法、ホーリーソードをアンデットに放った。

 アンデットが一瞬で崩れ落ちる。

「やっば……。」

 俺はニヤリと笑った。

 アンデットにはこれでも強過ぎるくらいだ。ではネクロマンサーには?


 ホーリーソードの射程圏内にネクロマンサーはいない。俺が動けばあっちも動くが、安全地帯から一歩踏み出さない限り、ネクロマンサーに攻撃は出来ない。

 まずはホーリーソードでアンデットたちを一掃する。

「──行くぞユニフェイ!」

 俺とユニフェイは安全地帯から飛び出した。


 俺がホーリーソードをネクロマンサーに放ち、ユニフェイが風魔法レベル4を同時に放つ。

 ネクロマンサーはゆらりと杖を持ち上げ目を赤く光らせると、大量の氷柱を放って来た。

「くっ……!」

 ホーリーソードとユニフェイの風魔法が氷柱によって相殺される。

 水魔法は雷属性が弱点だ。同じレベル5同士の聖魔法では、本人の知力と攻撃力にもよるが、ほぼ互角の扱いだ。

 ユニフェイの風魔法では相殺しきれなかった氷柱がユニフェイの足元に刺さり、ユニフェイは後ろへ飛び退いた。


「簡単には当てさせちゃくれねえってか。

 ならこれはどうだ!!」

 レベルが上がるとMPの消費もデカい。俺はレベル5聖魔法とレベル3火魔法を同時に放った。

「ユニフェイ!」

 ユニフェイが風魔法を放つ。

 俺の放った魔法に気を取られ、氷柱が俺の方にだけ飛んで来る。その隙にユニフェイが放った風魔法がネクロマンサーに被弾する。


「グオオォオオ!」

 と恐らく叫んだのだと思う。声のようなノイズのような音を放ち、ネクロマンサーが動揺する。次の瞬間、手にした本が触れもしないのにパラパラとめくれた。

「キャン!?」

「なんだ!?」

 それと同時に倒した筈のアンデットが一斉に復活する。

「キュウ……!」

「くっ……。

 ユニフェイ……!」

 俺にもユニフェイにも何体ものアンデットがしがみつき、物凄い力で締め付けてくる。ユニフェイは口を塞がれ魔法が出せないでいた。もがき苦しむユニフェイに、俺は残りMPなど構っていられなくなった。


「てめえらユニフェイに触るんじゃねえ!

 ホーリードライブ!!!」

 俺を中心にレベル7範囲魔法ホーリードライブが発動する。

 一瞬でアンデットが浄化される。しがみついていたアンデットが消えたものの、口を塞がれ、かなり強い力で締め付け続けられたユニフェイは疲弊し、それでもヨロヨロと立ち上がると、ネクロマンサーを睨み、風魔法を放った。

 ユニフェイをネクロマンサーの氷柱が襲う。


「ホーリーソード!!」

 真横からユニフェイに向かって飛ぶ氷柱めがけてホーリーソードを放ち、そのまま走ってユニフェイの元へと向かう。

 氷柱はホーリーソードに相殺され、空中で砕け散った。次の氷柱が俺めがけて飛んで来る。

 俺は被弾する前にユニフェイを拾い上げると、その場から走って離れた。俺たちのいた場所に氷柱が刺さる。


「もういい!ユニフェイ!

 暫く中に入ってろ!」

 俺はユニフェイをアイテムボックスの中に入れた。

「キュウ……。」

 申し訳なさそうに切なそうにユニフェイが俺を見る。俺は愛おしさが込み上げて来る。犬なのにキスしたくなってくる程だ。

「……俺一人でも大丈夫だ。

 絶対にスキルは手に入れて見せるから。」

 俺はユニフェイの頭を撫でると、そう言ってアイテムボックスを閉じた。


「……やってくれんじゃねえの。」

 まだ倒してはいけないと思いつつも、俺は全力をぶつけてボコボコにしてやりたい気持ちにかられた。

 ネクロマンサーは悠然とたゆたいながら、杖を持ち上げ、目を赤く光らせてくる。

 まだだ……。落ち着け……!

 こいつのすべてを奪うまでは。

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