第10話 職業スキルの呪い

 俺がファイアーボールレベル3を強盗の脇に向かって放ち、ユニフェイが唸り声をあげると、強盗たちは一目散に街とは反対の方向へ逃げて行った。

 後でスキルを確認するのが楽しみだ。

 ウキウキした俺は、予定よりも大分早くガザンの街にたどり着いた。


 まずはこの街の冒険者ギルドに挨拶をする。

 移動してきた事を知らせ、ここでもクエスト受注を可能にする為と、身分の保証の為だ。

 訪問予定の対象者がある場合は、対象者がその人の身分を保証する。街の人たちは大抵がこれだ。

 商人は商人ギルドが保証する。こうすることで街に不審者がいなくなる。

 まあ自己申告なので、実際は何の保証もなく歩き回る奴もいるが、そういう奴らは大抵後ろ暗いところのある人間という事になる。


 俺は素材を見せて買取価格を聞いた。元の街のギルドと変わらない。ギルドでは全国一律なのだそうだ。

 買取は断ったが、何と俺の冒険者ランクが1つ上がった。青いスカラベのような魔物──ブルーレリーフ──は、強さこそレッドグリーフよりも弱いが、素早さから捕獲が難しく、だが美しい羽の需要が高い為、捕獲はBランクに相当するクエストなのだと言う。

 ユニフェイ、お前、……凄えな。


 本来の実力はもっと上なのに、一つずつしかランクを上げられなくて申し訳ありません、と受付嬢が申し訳なさそうに頭を下げるのを、俺は気にしないで下さいと、頭を上げるよう促した。

 ギルドの決まりは受付嬢にはどうしようもないことだ。ここで俺がゴネたところで受付嬢が困って終わりだ。


 これでソロでも簡単な狩りなら受注出来るようになった。

 しかし疑問なのは、これだけの数を狩ったにも関わらず、レベルが上がっていないことだ。

 パーティー狩りでもレベル差で分配は減るが、必ず経験値は入るハズだが。

 俺は疑問に思い、受付嬢に聞いてみる。


 ──つまりはこういう事だった。

 レッドグリーフもブルーレリーフも、今の俺よりレベルが高い魔物になる。

 その為、一撃でも食らわさないと、俺自身に経験値は入らない。

 俺が寝ていた間にユニフェイが一人で狩ったので、その経験値はユニフェイにしか入らないのだ。


 俺がユニフェイに出会った日、テイムにより経験値が上がったと思っていたのは、死んだ男からスキルを奪ったことによるもので、俺自身には現時点でスキル移行の経験値以外の一切の経験値が入っていなかったのだ。

 ……まあ、今はレベルが上がり過ぎると困るから、逆にいいんだが……。


 俺はギルドで養護施設の場所を確認すると、商人ギルドに買取をして貰いに行った。

 商人ギルドの受付は、元の街と違い若い女性だった。冒険者ギルドの受付嬢のように制服を着ておらず、私服で無造作に髪を束ねている。

 俺がレッドグリーフ3体とブルーレリーフ7体を机に並べると、一気に目の色が変わった。


「こんなに状態がいいのは久々です。

 解体もキレイに保たれていて……。

 一体につき、金貨一枚と銀貨20枚でいかがでしょう?」

 ブルーレリーフ一体で12万の計算だ。そんなに高いのか!?

 甲殻はそこまで値段がつかないが、とにかく羽の加工価値が高いらしい。


 何故冒険者ギルドと商人ギルドでここまで買取価格が違うかと言うと、地域によって必要な素材が異なる為、冒険者ギルドでは平均値の値段を出しているのだ。

 例えばレッドグリーフが銀貨10枚の地域の冒険者は、冒険者ギルドに売ったほうが高くなる。レッドグリーフが銀貨50枚で売れる街まで売りに行くには、危険と旅費を考えると割りに合わない。


 冒険者ギルドが買い取った素材は、高く売れる地域にギルドを通じてそれぞれ運ばれ、商人におろされる。

 商人は冒険者ギルドや冒険者から素材を仕入れ、高く売れる地域まで運んだり、加工した商品で商売をする。

 ギルドは手数料程度の金額を上乗せして商人に販売する。

 ギルドの設けはクエスト受注料、素材の儲けは商人へ、ということなのだ。


 ちなみにレッドグリーフはここでは銀貨35枚だった。毛皮の需要がそこまでないらしい。

 俺が大量にブルーレリーフを持ち込んでくれたのでオマケだと言われた。

 元の街に戻ればもう少し高く売れるが、アイテムボックスをあけたかったし、冒険者ギルドよりは高い。

 俺は金貨9枚と銀貨45枚を受け取り、ホクホク顔で商人ギルドをあとにした。


 養護施設に向かう前に、まずは宿を取って風呂に入った。生活魔法でキレイに出来るが、俺は日本人なのだ。一日一回風呂に入らないと落ち着かないのだ。

 風呂から上がり、ベッドの上でステータスを確認する。二度目に遭遇した盗賊から奪ったスキルを確認する為だ。


 ───────────────────

 国峰匡宏

 16歳

 男

 人間族

 レベル 17

 HP 4000

 MP 19600

 攻撃力 636

 防御力 517

 俊敏性 358

 知力 1137

 称号 異世界転生者 すべてを奪う者

 魔法 生活魔法レベル6 回復魔法レベル2 火魔法レベル3 風魔法レベル2 水魔法レベル2

 スキル       テイマー(岳飛:フェンリルの幼体) 鍛冶職人 アイテムボックスレベル1 調理 解体 再生 食材探知 索敵 採掘 短剣術 強打 捕獲 騎乗戦闘 剣熟練 投擲 踊り子 狩猟 盗賊 栽培 売春婦

 ───────────────────


 俺はテンションが上がった。

 レベル2とはいえ2つも魔法が手に入ったのだ。辛く長い道のりだったが報われた気がした。


 ……ふと、スキルのところに違和感がある。

 踊り子と売春婦……?

 俺は襲ってきた厳しい面の強盗たちを思い浮かべる。

 この中に、踊り子と、売春婦が……。

 俺は笑いをこらえきれなくなった。転げ回って笑う俺を、ユニフェイが不思議そうに見ている。

 うるせえぞ!と壁を叩かれ静かにした。


 この職業スキルというやつ、実にやっかいなのだ。

 例えば俺の奪ったスキルの中で、鍛冶職人と栽培のスキルを持って生まれてきた奴がいたとしよう。

 そいつは鍛冶職人をしながら、趣味で栽培を使って家庭菜園を楽しんだり、花を育てたり出来る。だが、農家にも造園家にもなることは出来ない。


 その代わり、俺のテイマーのように、低レベルでも、テイムした魔物を遠距離で回復出来る、ソロ狩りでも見張りを立てず魔物に任せて安心して夜寝れる、などの、使い方次第での恩恵も大きい。

 スキルは神が与えたもので、神に定められた職業スキルの仕事にしか就くことが出来ないのだ。

 この世界の宗教に根付いた発想で、インドのカースト制度に似ている。


 今回手に入れた職業スキルは、踊り子と、盗賊と、売春婦の3つ。

 職業スキルが2つあることは、本当にごくまれだと言うので、一人一人がこの職業スキルを持っていたことになる、

 彼らはこの仕事しか選ぶことが出来なかったわけだ。強面の男であっても。

 まあ、盗賊の男だけはピッタリだったわけだが。


 職業スキルさえ邪魔しなければ、少なくとも狩猟と栽培を持った奴は、それを活かした職業で才能を活かす可能性もあったし、魔法を持った奴はそれを活かした職業に就ける可能性もあったのだ。

 実際元クラスメートたちは、大半が職業スキルを持たない。

 職業スキルというのは、こと、生活においては、それ程までに恐ろしいスキルなのだ。


 ひとしきり笑って満足した俺は、手に入れた金で子どもたちへの土産を買い求めることにした。

 見ず知らずの相手が突然訪ねて来るのだ。挨拶の為の手土産くらい必要だろう。

 土産物のような、玩具のような遊具をいくつかと、お菓子を大量に買ってアイテムボックスに入れ、俺はスキルを求めて養護施設に向かったのだった。

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