第9話 束の間の休息
街道に昼間出る魔物は、自分から襲ってくるものが少ない。闇に紛れて襲ってくる魔物や、盗賊に対してこそ、貴族や商人は馬車移動の際に護衛をつけるのだ。
この隣街への街道のど真ん中。どちらの街からも遠く、冒険者もあまり現れないポイントに、最も多くの魔物が存在する。
俺は日が暮れたところで、街道から少し離れたところに、草がほぼなく土が柔らかく、開けた場所を見つけ、野営の準備に寝袋を広げて焚き火をたいた。火を付ける道具はランプとセットで付いていた物だ。
全然まったく眠くなどないが、月と星の明かりしかないので、足元がまったく見えず、例え一本道だと言っても、危険だから仕方がない。
今から寝て、日が昇り始めた頃に移動を再開する予定だ。このペースなら、元の街を出たくらいの時間にガザンに着けそうだ。
馬車移動でも、人も馬も参ってしまうので、適宜休憩を取りながら進む。その為所々にこうしたポイントがある。
ちなみに馬車移動でも護衛が徒歩だと、のんびり進むことになるので、やはり野営をしなくてはならない。
歩いて2日という距離は、寝る時間も含めた休息を加味して、人の歩く速度から割り出した大体の時間だ。
ちなみに隣街と言っても、街と呼称しているから便宜上そう呼んでいるだけで、俺たちの感覚でいう、ちょっとそこまで、の距離ではない。
県から県を移動するぐらいの距離があるのだ。
昔の人が一日で30kmから、凄い人で40kmも歩いて移動したらしいが、相当足が早く、かつ、体力がないと不可能だ。
時速4kmで歩いたとしても、30kmで8時間弱。休息なしでだ。
まあ、今まさに俺がそれをやっているのだが。
数学のテストに、たけしくんは50km先の遊園地に時速4kmで歩いて向かいました、ゆみこちゃんは80km離れた自宅から自転車で遊園地に向かいました。2人は同時に遊園地に到着しました、さてゆみこちゃんは時速何kmで移動したでしょう、という、たけしとゆみこ、どちらにもツッコミたくなる問題がよく出るが、それをリアルにやってのけるのだ。
かく言う俺も中学時代は、休みのたびに仲間と自転車で県を越えて少しでも遠くに遊びに行ったものだが。
中学生男子に自転車と自由な時間を与えたら、多分陸地さえ続いていたなら、地球を一周するだろう。
俺とユニフェイは回復魔法があるので体の休息は必要ない。
通常のレベル2魔法と違い、レベル3の火魔法による怪我を一瞬で治せるレベルだ。
ただし、脳の休息は別物らしい。体が疲れていなくとも、睡眠は必ず必要だ。
どれだけスタミナのある人でもずっと寝ないなんて無理だし、栄養ドリンクなんかで一時的に疲れを取ったり脳を覚醒させても、いつか必ず寝なくてはならないのと恐らくは同じだ。
寝なくていいスキルや魔法があったとしても、それを続ける限り、きっといつか死ぬだろう。
俺は横になって星空を眺めた。世界のすべてが星に埋め尽くされたかのように、星々がひしめき合っている様はちょっと感動する。
俺は星座を探したが、別の世界なのだと思い出した。この世界にも星座はあるのだろうか。
街の灯りをすべて消せば、現代でも星が見えるらしいが、山かどこかに行って、故郷の星を一度見ておくべきだったと思った。
二度と見ることの出来ない、目に焼き付けたかった景色。
この星のどこかに、元の星もあるかも知れない。あの少しだけ青く輝いている星が、ひょっとしたら地球かも知れない。そんな風に俺は自分を慰め、いつの間にか眠りに落ちた。
目が覚めると、俺の横にユニフェイがちょこんと座っている。
まだあたりは薄暗く、少し肌寒かった。
「お前……随分狩ったな。」
俺がこんな魔物ばかりの場所で堂々と眠りにつけたのは、テイムした魔物は絶対に主人を守る、からだ。
俺はユニフェイの実力を信じていた。少なくともレベル4の風魔法は、この街道に住まう魔物レベルには絶対に負けない。
魔物を連れたテイマーの主な仕事は、移動時や野営時、またはクエストの際の魔物の索敵だ。
テイマーの連れた魔物は何より早く、近くに魔物がいないか察知し、実力のある魔物であれば単独でそれを狩ることもある。
新人テイマーには当然無理だが、レベルが上がると、宮廷勤めか、パーティーでの索敵担当になるか、凄い人だと魔物を使ってのソロ狩りも行う。
成長段階は辛いが、レベルが上がれば寧ろそこいらの剣士では太刀打ち出来なくなるのがテイマーという職業なのだ。
それにしても目の前に広がる景色は凄かった。
レッドグリーフが3体、スカラベに似た青くて硬い体のサッカーボールくらいの大きさの昆虫が7体。
これが夜中に襲って来てたのか。
俺はまずは朝食を取ることにし、ユニフェイにはアイテムボックスから出した生肉を半分切って与えた。
ユニフェイの体のサイズから言うと、一日に生肉で1.5kg〜2kgの肉が必要だ。俺は1kgのブロック肉を買ったが、重さに反して見た目がデカい。半分なくなるだけでもアイテムボックスがかなりあいた。
食事を終えて解体に移る。レッドグリーフは先日の買取の際に、首から下の皮しか売れないことが分かっている。肉、頭、骨、足、尻尾はこの場に捨てていく。
肉はマズいのでユニフェイも食わない。
問題はスカラベみたいな昆虫の魔物だ。どの部分が売り物になるのか、そもそも売り物になるのかが分からない。
アイテムボックスは少しあいたが、それでも持てる量は知れている。
買取出来る素材を調べておくべきだったと思った。次の街で必ず調べよう。
俺はスカラベの魔物を見ながら頭を悩ませる。
ゲームの剥ぎ取りなんかだと、大体羽とか甲殻なんかが素材になるんだが。
俺は青くて硬い外羽根、内側の薄羽、甲殻に分けて他は捨てることにした。羽は重ねられるので結構かさばらない。
俺は予備の水と携帯食料、ナイフなどをバッグに移し、素材をすべてアイテムボックスにしまった。
ここから先は街に近付くにつれ魔物の数は減るし、この付近の昼間の魔物はほぼ襲って来ない。
さすがにまた強盗に出くわすようなこともないだろう。のんびりした道のりだ。
俺は出発した時よりも軽い足取りで、街道を歩いた。
1、2、3。
「こんな人気のないところを歩くなんてな。」
「殺されても誰がやったか分かんねえんだぜえ?」
「お前の持ちもん全部よこしな。」
ここの強盗は何か?NPCか?まったく同じことしか言えない仕様にでもなってんのか?
俺はガザンの街と、昨晩野営をしていた場所の中間地点よりも少し街に近い所で、再び強盗に出くわしていた。
見た目がまったく同じだったり、色違いだったり、強盗A、強盗B、強盗C、なんて名前がついている──わけはない。
「ユニフェイ、右!
ファイアーボール!
ファイアーボール!」
俺はユニフェイに右の強盗を任せて、左と真ん中の強盗に、威力を抑えたファイアーボールを、左右の手から放った。
「うわっ!」
「痛え!」
「アチチチ!」
さすがに丸焦げにはならない。だが怯んだ隙に俺は男たちの体に触れて回る。
奪う、奪う、奪う、
奪う、奪う、奪う、
奪う、奪う、奪う。
光は7回点滅した。俺はニヤリと強盗たちに笑ってみせる。
「はい、これでアンタも、──タダの人。」
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