第8話 初めての殺人

「気をつけろ!そいつ高レベル回復持ちだ!他にも使ってくるかも知れねえぞ!」

 火魔法の男が叫ぶ。

 俺の回復魔法はレベル2なんだがな。

 恐らく先程の、男が放ったファイアーボールのダメージをほぼ相殺レベルで回復したことと、離れたところにいたのに、ユニフェイを回復したことを言っているのだろう。

 魔法は本人の持つ知力と攻撃力によっても威力が異なる。レベル50の魔法使いが放つファイアーボールと、レベル10の魔法使いが放つファイアーボールの威力は当然違う。

 魔力消費量が一番少ないファイアーボールは、余程高レベルの魔物に一撃必殺を狙うのでもない限り、最も頻繁に使用する魔法だ。


 レベル2の回復魔法でも、俺の知力の高さにより、威力が増しているというわけだ。

 ちなみにMPの総量は、使える魔法の弾数に影響する。

 大抵はレベルが上がるに連れて、MPの総量も、高レベルの魔法が放てるように上がっていくものだ。

 だが、俺のステータスが冒険者ギルドの受付嬢に高いと言われたように、そこには生まれつきの個人差というものが存在する。

 レベルが上がっていっても、高レベル単体魔法や、全体魔法をバンバン打てないMP総量の人も存在する。


 そういう人ほど知力が高い場合が多く、レベルの低い時など、逆に火力の強い低レベル魔法をバンバン打てることで、圧倒的な戦力になったりもする。

 ただしレベルが上がってもMPの総量が低いままなので、全体魔法や高レベルの魔法を数打つことが出来ず、低レベル魔法で戦い続けるか、MP補助の魔道具を手に入れなくてはならないのだ。


 当然そこには俺のような、魔法スキルのない人間なのにMP総量の高い人間も存在するというわけだ。

 その点俺はMPの総量だけなら、受付嬢が見たことのないレベルで、他のステータスもレベル1とは思えない数字らしい。

 本当に、スキルのあるなしだけの問題だったのだ。

 このステータスで魔法スキルなしなのを

 見て、鑑定師は相当首を傾げてガッカリしたことだろう。


 テイマーは魔物を使役して使う事自体にはMPを消費することはないが、どんな魔物を使役出来るかについては、MPの総量が関係してくるらしい。

 MPがどれくらいあれば、どんな魔物までを使役出来るのかについてまでは、受付嬢にも分からなかった。

 けど、俺のMP総量は、あまたの冒険者を見てきた冒険者ギルドの受付嬢が、見たことのない数値だというのだ。


 幼体とはいえ、伝説の魔物と言っていた、フェンリルのユニフェイを使役出来ているのだから、大抵の魔物はいけると思って間違いないだろう。

 そう考えると、ユニフェイを元々使役していたあの死体の男も、MP総量が大分たかかったんだろうなと思う。

 それでもあんなところで死んでいたのだから、人生何があるか分からない。

 冒険者ギルドの受付嬢からは、このあたりは初心者向けのエリアだと言われたけど、それでも気を抜いたら、明日は我が身だ。


 ちなみに回復魔法はレベル5以上でないと離れた相手を回復出来ない。戦闘に使えるのがレベル5からというのは、決して回復量だけの話ではない。

 いちいち回復担当のところに戻らずとも、後方から回復魔法が飛んでくるのだ。効率が断トツで違う。


 俺が離れたところからでもユニフェイを回復出来たのは、レベルの問題ではなく、単にユニフェイが俺のテイムしている魔物だからだ。

 これはテイマー独自の能力だが、テイマーで魔法を使える者がほぼほぼいない為、世間にはあまり知られていない事実だ。


 例えばテイマーがバフスキル持ちであるならば、離れたところからでも、テイムした魔物であれば、バフをかけることが可能だ。

 これは城にいた時に、竜騎士団の団長がバフスキル持ちで、その仕組みを教えて貰っていたテイマーの小松から、西野が伝え聞いたのを、話のついでに俺に教えてくれていなければ、俺も知ることはなかっただろう。


 火の大きさから見ても、恐らくレベル3の火魔法だと思ったが、間違いなさそうだ。

 ちなみに普通の人の知力ステータスなら、レベル1でテニスボールサイズ、レベル3で7号のバスケットボールサイズ程度、レベル2がその中間くらいだ。

 ──コイツはアタリだ。

 俺は男たちに気付かれぬよう、思わず顔に出してほくそ笑んだ。


 隙をついてレベル3魔法を当てられたのだ。本来なら一撃で倒せた筈が、あてが外れて焦ってるんだろう。

 他の作戦を考えていなかったと見える捨て身の攻撃は、最早やけくそにすら見える。

「ユニフェイ!」

 俺の声にユニフェイが男の足に風魔法を放つ。男は突如として右脚を失い、バランスを崩して勢いよく俺の目の前で転んだ。


 片脚を失った男の体に触れる。

 俺が仲間に手をかざしたのを見て、少し離れたところにいた火魔法の男が、無意識にそれを止めようと俺に駆け寄ってくる。

 そして自分の攻撃スタイルを思い出したのか、仲間に伸ばした手を途中で俺に向けた。

「ファイアーボー、」

『──奪う。奪う。奪う。』

 直前で俺の右手が先に男の手首を掴んでいた。


 俺の手が3回連続で光る。

 男の手からファイアーボールは放たれなかった。

「返すぜ。

 ──ファイアーボール。」

 俺の左手からファイアーボールが放たれる。勢いで俺は後ろに吹っ飛んだ。

 火魔法の男──だった男の断末魔と共に、男の上半身から上が炎に包まれ、ゆっくりと焼かれてゆく。

 男は踊るように俺から離れて街道を数歩歩いたところで、倒れて動かなくなった。


 俺は改めて片脚を失った男に触れると、3回、奪う、と念じた。光は2回で消えた。

 スキルは後でゆっくり確認するとしよう。

 人気がないとは言え、誰かが通らないとも限らないし、血と人の燃える匂いの近くに、いつまでもいたくはなかった。


 バッグから水の入った革袋を取り出して一口飲んだ。うまくあけられなくて気付いたが、俺の手は震えていた。

 手のひらをくぼみにして少し水を入れ、屈んでユニフェイに差し出すと、ペロペロ舐めてと水を飲んだ。飲むはしから指の隙間からこぼれて地面に滴ってゆく。俺は服の裾で水を拭った。

 早く安全なところで横になりたかった。


 それから何時間も歩き、すっかり目印の木も見えなくなった頃、腹が鳴る音で昼飯を食っていなかったことに気付く。

 街道の脇の柔らかい草の上に腰をおろし、俺は携帯食料を食べ、ユニフェイには途中で狩って解体してバッグに入れておいた、角のあるウサギの肉をやった。

 俺はステータスを確認してみた。

 ────────────────────

 国峰匡宏

 16歳

 男

 人間族

 レベル 17

 HP 4000

 MP 19600

 攻撃力 636

 防御力 517

 俊敏性 358

 知力 1137

 称号 異世界転生者 すべてを奪う者

 魔法 生活魔法レベル6 回復魔法レベル2 火魔法レベル3

 スキル       テイマー(岳飛:フェンリルの幼体) 鍛冶職人 アイテムボックスレベル1 調理 解体 再生 食材探知 索敵 採掘 短剣術 強打 捕獲 騎乗戦闘 剣熟練 投擲

 ────────────────────

 こんなところで強盗なんてやってる奴らだ。ろくなスキルが割り振られなかったのだろうと思ってはいたが、本当に火魔法以外当たりがなかった。

 初めて攻撃魔法スキルを使った俺は、自らの知力の高さによる、火力増しの程度が分からずに、普通にMP消費が一番低い魔法を放っただけで、男を焼き殺してしまった。


 これは命の奪い合いだ。向こうはこちらを殺しに来ている。死んでもどっちでもいいと思っている。だからこちらも殺すつもりで挑まなくてはならない。

 頭では分かっていたつもりだったのに、そんな覚悟も度胸も、ましてや、あんな火だるまなんて残酷な殺し方も、するつもりはなかった。


 これが、この世界の魔法なのだ。

 これが、魔法で生きた人間と戦うということなのだ。

 元クラスメートたちを。王宮の奴らを。あいつらを同じ目に合わせるには、俺はその覚悟を持たなくてはならない。

「人殺しは経験値に入らねんだな……。」

 俺は自嘲するように呟いた。

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