第11話 怪しい男
俺は養護施設の前で中に入らずウロウロしている不審な男を目撃した。
俺と同い年くらい。中を覗いては躊躇い、また覗くのを繰り返している。
入るなら入れよ。入らねんなら退いてくれ。邪魔だから。
俺が男を避けて門を通ろうとすると、それに気付いた男がさっと逃げた。
何だあれ?
気にせず養護施設の扉を叩いた。
「はい……?」
白髪混じりの女性が、訝しげに扉を開けて出てくる。白髪の割に肌がきれいだ。うちの親より大分年上かと思ったが、実際は同じくらいだろうか。
うちの母も白髪染めをしているので黒々とした髪をしてるが、その文化がないのであれば、母くらいの年代は皆このぐらい白髪があるのかも知れない。
「あの……。初めまして。
アテア君たちの出身の養護施設ですよね?
僕がこっちに行くと聞いて、彼らから荷物を言付かって来ました。
これ、アテア君たちからで、これは僕からのお土産です。」
そう言って、俺は玩具とお菓子を見せる。
ちなみに子どもたちにもみくちゃにされそうなので、ユニフェイは宿に置いてきた。
女性の表情が明るくなる。
「どうぞ、入って下さい。」
俺が招き入れられる様子を、さっきの男が外から見ているのを、俺は目の端にとらえていた。
「まあ、じゃあ、旅先で彼らと?」
「はい、とてもよくして貰いました。」
一緒に飲んで、スキルの判明してない大量の子どもたちの情報をくれた。嘘は言っていない。
「グスタフもノエルも、とても元気ですよ。」
「良かった。
ここを出た子どもたちは、基本帰って来ないから、心配はしているけど、情報が入って来ないから……。
来てくれてとても嬉しいわ。」
俺がアテアたちと同年代の子どもだと言う事と、アテアたちの知り合いだという事で、養護施設の施設長──ケイレスさん──は朗らかに微笑んだ。
「ちなみに今ここには何人子どもたちがいるんですか?」
「24人よ。アテアたちがいた頃より、ちょっと増えたわね。」
「良かった、今の子どもの数が分からないから、玩具の数が足りなくなるかもって、彼らが言ってて。
多めに用意して来たつもりではいたんですけど、足りそうです。」
「まあ。それはありがとうございます。」
俺は聞き出したかった情報を聞いた理由を、それっぽい理由で誤魔化した。実際子どもの数を事前にアテアたちに聞いていなかったので、万が一足りなかった可能性を踏まえて30人分用意していたが、予想より大分子どもの数が多い。
俺は期待に胸が震えた。
「あっ、こら、入ってきては駄目よ?」
「せんせー、お菓子〜?」
「玩具だー!」
遊戯場と思われる広い部屋で、床に腰掛けて話していたのだが、とにかく殆ど玩具らしきものがない。食い付くのも無理はなかった。
「はは、構いませんよ。」
むしろチャンスなんで。
「ほら、一人ずつ並んで。お兄ちゃんが玩具とお菓子をあげよう。」
子どもたちがワイワイ言いながら、歪んだ形ながら一列に並ぶ。
俺は一人ずつ玩具を渡しては手に触れ、ステータスを確認し、お菓子を手渡しながら手に触れ、いらないスキルを戻した。
ステータスは念じるだけで開くので、スキル名を確認するだけであればこれで充分なのだ。
親のいない子どもたちから、俺にとって必要のないスキルまでは、さすがに奪う気はしない。
しかしハズレスキルばかりだ。アテアたちが同い年で3人も良質なスキル持ちがいたのであれば、これだけいたら魔法の1つや2つくらい、持ってそうなものだが。
そう思っていたら、11人目で土魔法レベル1の男の子がいた。
所有者の数も少なく、魔法の中ではハズレと言われる土魔法。
初期こそサンドショットという、砂を飛ばすだけの目潰しみたいな威力のない魔法しかないが、レベルが上がると、岩を頭上に降らすロックレイン、隕石を召喚するメテオストライク、地震をおこして地面を割って相手を飲み込むアースシェイクなど、割と派手で威力のある魔法が使えるようになる。
ただレベル7以上の高位魔法なので、そこまで育つのが大変なのだ。俺のテイマーと同じく、新人はパーティーで嫌われる為、ソロ狩りを余儀なくされる。
他に有効なスキルがあった場合、魔法使いを選ばない者も多い。
よしよし、俺が大事に育ててやるからな。
しかし問題は、この子が土魔法しかないという事だ。これを取ってしまったら、最初の頃の俺になってしまう。
俺は考えた挙げ句、短剣術と剣熟練を付与することにした。職業スキルは職業が固定されてしまうから、この子が鍛冶職人を望まなかった場合悲しい事になる。
土魔法を一人でコツコツレベル上げするしか選択肢のない地味で孤独な人生より、こちらの方が仲間と楽しく暮らせるかも知れなかった。
この子が子どもの頃から、メテオストライクがこの世で一番カッコいい魔法と憧れを持っている変わり者だったら申し訳ないことをしているが。
ちなみにその変わり者とは俺だ。
どの魔法を手に入れた時よりウッキウキになってしまい、思わず顔に出して不審がられてしまった。
次にテンションが上がったのは、23番目の子どものアイテムボックスレベル5だった。
5!?いきなり5!?
家とか入っちまうんじゃねえの?コレ!
何とか顔に出さずにいただいた。
この子は他に剣聖のスキル持ちだったので何も与えなかった。生まれた時からチートかよ。
「あれ?──君はいらないの?」
列にも加わらず、壁に背をつけたまま、こちらを見ている3歳くらいの女の子がいた。
「ダリアちゃん、ちょっと人見知りなんです、ごめんなさい?」
ケイレスさんが頬に手を当てながら申し訳なさそうに言う。
俺はダリアちゃんの前にしゃがみ込むと、子どもの目線で挨拶することにした。
「──こんにちは?」
近くで見ると、とても美人だった。将来は確実に皆川紗代子を超えるであろう。他の子どもたちと並ぶと、顔面偏差値の差がエグい。
「今ね?みんなに玩具とお菓子を配ってるんだよ?ダリアちゃんも欲しい?」
声を出さずにコクッと頷く。
俺は玩具を渡しながら手に触れ、ステータスを開いた。
『千里眼……??』
何だか凄そうなスキルだ。使い方は試してみないと分からないが、一応貰っておいた方がいいだろう。
彼女は他に薬師のスキルがあったので何も与えなかった。将来大人になって、こんな子が薬を作ってたら、偽の患者が殺到して医者が儲かりそうだ。
俺はケイレスさんと子どもたちに挨拶をして、養護施設をあとにした。目当てのスキルは手に入らなかったが、無駄足ではなかった。
他の養護施設も回れば、目当てのスキルだけでなく、もっと色々集まるかも知れない。
俺は宿に戻る道を歩いた。
風が木を揺らす音がする。
「──おい、いつまでついて来る気だ。」
俺は後ろから付けて来る男に声をかけた。
「気付いてたのか。」
養護施設の入口で見かけた男が木の陰から姿を現す。
「お前、アテアと知り合いって嘘だろ。」
「さあね。
……だったら?」
俺は見知らぬ男と睨み合った。
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