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「……おやすみなさい」

ソファと毛布の狭間で縮こまっていた彼女は、いつの間にかすぅすぅと寝息をたてていた。寝るならベットにいけばいいのに。僕は彼女の身体に毛布を掛け直した。


彼女はいつも何かしらの薬を飲んでいた。飲むたびに「どうせ吐くから意味ないのに」と笑った。彼女はいつも笑っていて、その完璧な笑顔の裏に悲しそうな、申し訳なさそうな感情を透かすたびに僕は目をそらした。いつまでも現実には向き合えなかった。例えば前日処方された薬のシートが次の日には空になってゴミ箱に入っていたりすることを僕は知っていた。きちんと二錠ずつ切り離されたシートに彼女の性格を感じた。


「おはようございます」相変わらず朝からげーげーやっている彼女は、僕が背中をさすると少し笑った。「あり、がと……うえ」昨日彼女が寝ていたソファの上に毛布がたたまれているのを見て、かわいい人だと思った。彼女のか細い返事に、僕が守ってあげなきゃいけないんだ、なんて思い上がりをするくらいには。


夜、僕が作った煮込みラーメンをひとくちすすって顔色を悪くした彼女は、ごめんねとひとこと言って毛布に隠れた。ソファにぴったりフィットしている彼女にこんにゃくゼリーを持っていくと、綺麗に笑ってまたごめんねと言った。「先輩、寝るならベットで寝てくださいね」「いいじゃん、小言ばかりの男は好かれないよ」「一応先輩のこと思って言ってるんですよ、第一ベットの方が快適でしょ」「いや、ベットには難点がひとつあってだな」彼女は得意げに言った。「おいしそうにごはんを食べる君の顔が見れない」

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