第3話 鏡
黙々と洞窟を進んでいたセイルは、しばらくして部屋のように開けた場所へと出た。
足元を照らすのがやっとという質の悪いランタンでは、壁までどれだけあるかも分からない。
「なんだろう、この場所……あ!」
あたりを見回していたセイルは、部屋の一点に、こちらの明かりを仄かに反射しているものがあるのを見付けた。
「もしかして、あれが……」
宝という単語から、漠然と宝石の煌めきや黄金の光沢を連想していたセイルは、この光を投げ返す何物かが、きっとそれなのだと確信した。
早く持ち帰って皆を開放したいという気持ちと、伝承に聞く神器を見られるかもしれないという興奮とで、その足が自然と早まる。
途中、小石のようなものに躓いて何度か転びそうになりながらも、セイルは足を緩めることなく、そこに駆け寄った。
「これは……鏡?」
光を反射していたものの正体を確認しようと目を凝らすと、セイルは神妙な面持ちをした自らの顔に覗き返された。
そこにあったのは、彼の手のひらを四つ合わせたほどの大きさの鏡だった。
木製と思われるフレームは古めかしい意匠であったが、その鏡面には曇りも傷も見当たらない。
「きれいな鏡……宝って、これかな?」
神話の時代の遺物にしてはいささか拍子抜けする見た目だが、このような場所に放置されて劣化していない鏡であれば、不思議なものであることは変わりない。
ひとまず持って帰ろうと鏡を手に取ったセイルは、また急いできた道を戻ろうとした。
「――わっ!」
数歩も行かない内に、またセイルの足を何かが引っかけた。
今度は鏡を割らないようにと抱えていたこともあって、バランスを崩した少年は地面に倒れた。
「いたた……」
持っていた鏡が無事であることを確認して、体を起こそうと地面に手をつく。
するとその手に、少しざらついた感触の玉のようなものが触れた。
「……え?」
瞬間、セイルは先ほどから自分の足にぶつかっていたものの正体を理解し、絶句した。
ランタンで照らされた手元に転がっていたのは、人間の頭蓋骨であった。
「これ、骸骨……? なんで……!?」
衝撃で硬直したセイルの体を、少し遅れて恐怖と緊張とが走り抜けた。
冷汗が一筋、頬を伝う。
「――っ!」
持っていた鏡が目も眩むような輝きを放ったのは、その一滴が鏡面に滴り落ちた、その時であった。
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