第6話   シャドウスピリット戦

 

 部屋を出て、制御室に戻ると薄暗く感じた。


 投影板が消えていて、中央の水晶が光を失っていたからだろう。光ってたミリスが水晶の外に出たから余計にそう感じるのかもしれない。

 制御室から坑道部につながる扉の前に立つと自動で扉が開いた。


「投影板が消えていたな……扉が開いたのはミリスがいるからか?」


(制御室には現在マナが供給されていませんので、先ほど使用した分が尽きたのでしょう。扉は私の意志でも開きますが、マスターが管理者に登録されたので自動で開きました。管理者に登録されていなくても許可されている区画への通行の際には自動で開きます)


「なるほど、管理者でないと許可されていないエリアへの扉は開かないのか、情報管理とかセキュリティとか、そういう問題なんだろうな」


 そのまま通路を進み、坑道部への扉の前に立ち、自動で扉が開くとミリスの緊張のようなものが伝わってくる。


「どうかしたか?」


(すみません。施設内で作られて初期テストが終わった後は、ずっと制御室の水晶の中にいましたので……この扉の外に出るのは初めてなのです。先がどの様になっているか情報では知っていますが)


「と言うと、外にも出たことが無いんだな。でも良かったよ、ミリスに感情があるんだってはっきりわかって。システムというか機械的な感じかも、と思っていたから」


 初級魔法書をインベントリにしまい、扉を通り施設から坑道部へ出て、ゆっくり歩きながら話す。


(そうですね……基本的には施設の管理を目的として作られたので、感情的にならないのが良いと思っていましたし、ごく一部の方を除いては、その様に私と接していましたので)


「そう扱わなかった人もいたのは良かったな」


(良かった、と言われますと少々戸惑いますが、ファルコンフォール様は施設に寄られる度に外での話を聞かせて下さいました)


(魔法名ファルコンフォール、雷帝、イルス・ゼクシード様。放浪癖の変わり者という方もいましたが、私にとっては気さくで優しく、マスター、エルドラン様と仲が良く、お二人とも家族のように接してくれる方でした)


「魔法名ファルコンフォールで雷帝か凄そうな人だな。と、エルドランか……」


(はい、雷帝とは魔法国マグナスの八大魔導士、雷の属性を操る魔術師の頂点で、魔法名とは一定以上の功績を収めた魔術師にのみ、名乗ることの許される二つ名です。元々は真の名を知られると操られたり呪いを受けるとされていたものですが、防御術式が発達してからも伝統として残ったと聞きました)


(前マスターであり施設長、魔法名デザートストーム、風帝、エルドラン・タットバーン様。この姿はエルドラン様の若くして亡くなられた、ご息女をモデルに作られたと聞きました。エルドラン様も仕事の合間によくお話をして下さいました)


 ミリスから楽しさと寂しさが混ざったような感情が感じられる。二人の事が好きだったのだろう。


「エルドランは魔法名では呼ばないんだな、二人とも……会えてたら気が合ったかもしれないな」


(そうかもしれませんね……エルドラン様は、南方の砂漠地域から同盟国が侵攻を受けた際に、巨大な砂嵐を起こして敵の軍勢を追い払った功績で、国王陛下から魔法名を賜ったのですが……その……気に入らなかったらしく……公式の場以外では使われなかったので……?これは……)


 ミリスが何かに気づいたらしく、変わって欲しいと言い、了承すると。行動の壁の結晶に手を当てた。


(マスター、坑道に発生しているマナ結晶の内包マナが著しく低い様です……いったい何が……)


 そのまま、壁のマナ結晶を何度か調べながら奥に進むと、シャドウスピリットの姿が見えた。


(あんなに巨大に……原因はシャドウスピリットでしたか……坑道部に配置されていた長い年月の間に少しずつマナを吸収したのでしょうか……)


 そう言うと、右手を前に突き出しながら巨大な球体に近づいていく。


(元はどのくらいの大きさなんだ?……大丈夫そうか?)


(はい、元は成人の頭部くらいの大きさです。管理者登録されているので襲ってこない筈ですが……襲ってきたとしても……)


 そう言って、球体に光の帯が浮かび、黒い蔦のようなものを伸ばすが、歩く速度は一定のまま3m手前まで近づくと、片方の黒い蔦が横なぎに振るわれる。


 ダアァァァン


 壁を打ち付ける轟音が響く……が、当たるよりも早く右手から衝撃波を放った勢いで後に素早く飛び退き、回避した。

 マナが右手に瞬時に集中し、小さな光る魔方陣を出すと同時に地面を蹴って、ほんの少し宙に浮いた瞬間に衝撃波を放つのが、感覚共有でリアルに体感できる。


(このように風魔法の衝撃波は初級魔法で、殺傷力は低いですが緊急回避の時に便利です。……マナを溜めこみ過ぎて暴走しているようですね。このまま的になって貰いましょう!)


 そこからバックステップで更に5mほど距離をとると右手を上げ、少し腰を落として静止した。


(少しゆっくり行いますので、確認してください。中級以下の魔法は詠唱の省略も可能ですが手順通り行います。声を使用する許可をいただけますか?)


(わかった、許可する。というか入れ替わっている時は、今後許可を取らなくていいぞ)


 セキュリティの問題か、声を出すのは別途許可がいる用だ。

 だから今まで入れ替わっていても、念話のみだったのかと納得したが、今後も一々このやり取りをするのも手間だと思い無制限で許可する。


(わかりました)


『燃え盛る炎の矢よ敵を打て、ファイアアロー!』


 体内のマナが右手に移動すると、手の先に小さな魔方陣が一つ現れ、炎の矢が形作られてシャドウスピリットにまっすぐ飛んでいき命中する。


(前半部分で炎の矢を作り、後半部分で飛ばしてる感じか。俺の声で発するのと同時に、頭の中でもミリスの声がする。変な感じだ)


 シャドウスピリットは攻撃を受けて怒ったのか、こちらにゆっくり浮遊しながら、立て続けに辺りの壁を叩く。


『ステータス……燃え盛る炎の矢よ敵を打て、フレイムアロー!』


 HP:100/100

 MP:173/200


 ステータスが表示され、バックステップで距離をとると、同じ呪文を詠唱した。

 が、今度は魔方陣が5つ現れ5本の炎の矢が、一斉に飛んでいき、全弾球体に命中した。

 シャドウスピリットは衝撃を受けて一瞬停止するが、すぐに2本の蔦を振り回しながら前進を開始する。ノーダメージという事はないだろうが、傷ができるわけでも血が出るわけでもないので、どの程度効いているのか分かりにくい。


 HP:100/100

 MP:163/200


(今度は多重起動しました、今は感覚だけ覚えて頂ければ。5本放ったのでマナも5倍消費されています)


(なるほど、MPは……憑依してから自動回復が止まったと考えれば、12消費したとするとまぁ、こんなもんか、詠唱はそれっぽくて格好いいんだけど、省略できるに越したことはないな。あとで練習するとしよう)


『燃え盛る炎の槍よ敵を貫け、フレイムスピアー!』


 今度は突き出した手の平と小さな魔方陣はそのままだが、魔方陣の前ではなく伸ばした右腕の右上に、1.5m弱の炎の槍が出現すると黒い球体の、ど真ん中を貫通しそのまま数秒残って消えた。

 わかりにくいが、炎の矢5本よりも効いてそうだ。


 HP:100/100

 MP:158/200


(炎の槍は、炎の矢5本分よりも威力が高いですがマナ消費は少ないです。対象が弱く数が多い場合は炎の矢の方が有効な場合もあります。状況による使い分けが必要です)


(問題なく使いこなせるようになって、使い分けができるのには、少しかかりそうだな……)


(はい、出来る限りサポートしますので、頑張りましょう!)


 暴れながら前進してくるシャドウスピリットに先程の倍の距離を取り、少し腰を落として構える。


『猛る炎よ集いて敵を打ち砕け!フレイムカノン!』


 手の前に先程よりも一回り大きな魔方陣が出現し、直径30cmほどの火の玉が出現しソフトボール大まで圧縮されると、一瞬体に衝撃が伝わり高速で飛んでいき命中と同時に爆発した。

 シャドウスピリットが衝撃で少し後退する。

 爆発が収まると球体の1/4ほどが抉れるように消えていた。

 数秒で元の形に戻ったが、ダメージは先程の比ではないようだ。


 HP:100/100

 MP:148/200


(おおお!ファイアーボールみたいな魔法だな!消費MPは10だが派手だし威力も高いな)


(はい、坑道部でなければ壁状や竜巻状の方が効率がいいかもしれませんが、施設の外気取り入れ機能があまり機能していないので……マスターは魔力数値も高いのでもう一度当てれば倒せそうですね)


 ダアァァァン


 前方の少し奥で音が響く。


(!もしかして二体目が寄ってきたのか?)


(その様です。こちらに来る前に、手前を処理します)


 右手を突き出し、急速にマナを集めると手の平が熱を帯びる。


『フレイムカノン!』


 瞬時に魔方陣が生成されると火の玉が圧縮され、衝撃と共に射出される。


 シャドウスピリットに2発目が直撃し爆発すると、さらに1/4程が抉れた状態のまま、ゆっくり地面に落ちて動かなくなった。


(2体目に当たる位置まで進みます)


 前に進み始めると、坑道の地面に落ちたシャドウスピリットの形が崩れ、光の粒子に変わった。

 光の粒子は少し上昇した後、拳大の結晶を残し、幾つかの光の線になり俺の体に吸い込まれた。


(うっ……)


 背中の中心辺りに、一瞬針で刺されたような痛みが走り、気分が悪くなる。


(吸収した?それに、この吐き気は……マスター大丈夫ですか?)


 目の前にいくつかの小さなウインドウが表示される



 レベルが14上昇しました


 各種能力値が上昇しました


 混合因子の活性化が始りました 現在15%



(先に目の前の敵を片付けます!)


 感覚を共有しているので、ミリスにも同じ様な痛みと吐き気があるだろう。

 それでも、素早く移動し2体目を射程に捉えると、一瞬ステータスを確認しすぐに閉じて射撃体勢に入る。


 LV:15


 HP: 800/800

 MP:1600/1600


 筋力:198

 体力:198

 速力:198

 器用:198

 知力:240

 精神:240

 魔力:240


(うっ……レベルが上がって、こんなに能力値が上昇している……これなら一度で倒せそうです)


『フレイムスピアー!』


 先程と同じサイズの炎の槍が生成されるが、存在感が違う。

 炎の槍は黒い球体に吸い込まれるように飛び、そのまま貫通して奥の壁に突き刺さる。

 突き抜けて出来た穴が燃えている。

 2体目のシャドウスピリットはそのまま動きを停止して地面に落ち、光の粒子に変わった。

 結晶を残して、また光の粒子が俺に吸い込まれる。

 また針で刺されるような背の痛みを感じ、先ほどよりも強い吐き気に襲われたところで、頭がクラクラしてくる。


(くっ……ミリス、外に出ろ……)


 なんとかミリスと分離すると、吐き気と悪寒に立っていられず、膝をつく。

 視界が回るような感覚とともに、頭が冷たくなってきて視界が白くなる。


『マスター!大丈夫ですか!マスター!』


 すぐ近くのミリスの声が遠くに聞こえる。


 ウインドウが表示されたが、読むことも出来ずに意識が闇に飲まれた。



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