第5話 マナとは
姿見に見慣れた姿が映らなかった事に混乱したが、会社帰りに寄ったコンビニに張られたポスターが頭に浮かぶ。
(見覚えは……ある。寝る前に調べていた新作ゲームの剣士のビジュアルだ……)
(冴えない純日本人との共通点は身長がだいたい同じ、ってだけだな……)
記憶から設定すると言ってたと思ったが、見た目も適当かと、ため息をつきながら、諦めて奥の机に向かった。
『?……キャレス様、どうかなさいましたか?』
「いや、なんでもない……それで、どうしたらいいんだ?」
『はい、少しお待ちください登録のために一度元の姿に戻ります』
そう言うと、ミリスが隣に移動し光が強くなると、人間サイズになる。
身長170台半ばの俺と同じ目線なので一瞬大きいのかと思ったが浮いていたので、地面に立ったとしたら実際は肩の高さくらいか、小さい時には気付かなかったが、ワンピースは斜めに青から緑のきれいなグラデーションだった。
『机の上の黒い板に手をかざして下さい』
手をかざすと黒い板に見慣れない文字が浮かぶと、すぐ上に半透明で日本語が表示された。
「精霊契約完了?」
『はい、マスター。これで手続きできました。あの……古代魔法文字が読めるのですか?』
「いや、発音とかは分からない。スキルで意味が分かるだけだな。今が元の姿なのか?」
『はい、ですがこの姿は消費が多いので……しかし、スキルですか、凄いですね……』
「そういえば、もうマナ補給してから20分以上経つが、そろそろヤバいんじゃないのか?」
『マスターに憑依すればマナ問題も解決できますし、ある程度の感覚共有がされるので、その都度ご質問にお答えしたり、サポートも出来ます』
「憑依って言うと、あまりいい印象はないが……感覚共有か、それってマナの操作法みたいなものも教えてもらえるのか?初級の魔法書を貰ったんだが、最初の段階で躓いて困ってるんだ」
左手に持ったB4サイズの薄い魔導書を机の上に放り、マナの流れが感じられないことを説明する。
『なるほど、体内のマナ操作は熟練度で差が出ますが、お教えする事は出来ます。憑依……と言っても、元々私の長距離運搬用の為に付与された能力で、許可がなければ憑依できず、意識を交代するのにも許可が必要で、どちらもマスターが
「そうか、それは助かる。憑依ね、いいぞ。やってくれ」
そう言って即、了承するとミリスは戸惑ったような顔をした。
『今すぐですか?マスター、今の説明が虚偽で本当は、私がここから出る為に精神を乗っ取ろうとしているとかは……』
「そう考えてるヤツは、そんなこと聞かないだろ?いいからやってくれ」
ミリスは少し困った顔で、わかりましたと言うと、そのまま前に進み俺の体に重なると一瞬だけ強い光を放ち消えた。
「お?ほんの少し何か入ったって感覚はあるけど、それだけだな……」
(はい、憑依中は休眠状態程ではありませんが、かなり消費が抑えられます。ありがとうございます)
頭の中でミリスの声が聞こえる。最初に壁越しに聞こえた時と違って音質はクリアだ。
(これは、俺が頭の中で考えた事でも伝わるのか?)
(はい、憑依中は声に出さなくても意思の疎通が可能です)
先に聞いておいてよかったな、と思いながら高そうな革張りの椅子に座る。
「確認しておくか、……ステータス。これも見えてるんだよな?」
ステータスを確認すると名前が自動で入力されている。
機会があったら別名を名乗っても自動で変わるのか確かめてみよう。
名前:キャレス
職業:未設定
HP:100/100
MP:174/200
「ん?マナが回復している……体感でも二十数分しかたっていないから、毎分1も回復するのか」
(マスターこれもスキルですか?初めて見ました。マナ回復の魔法具を装備しているのですか?)
「いや、これと言って装備していないはずだが普通は自動回復しないのか?……ええと今持っているのは、これだけだな」
そう言って、右上の光に視線を移しメニューバーからインベントリを開く。
(すごいスキルですね……高度な法術を何種類も組み込んで動作しているようです)
「他にもワケのわからないスキルがいくつかあるんだ、意識の交代ってのができるんだよな?一度見てもらえないか?」
(はい、分かりました。交代します)
(特に何も変わらないな……いや、体も動かせないし声も出ないな)
(再度、交代すると言って下されば解除しますので……なるほどこの光で操作を……スキルはここですか)
スキルのウインドウが広がり一覧が表示される。
剣の才能
魔法の才能
状態異常即時回復
混合因子 !
L ???? !
言語理解
オートマッピング
インベントリ
剣術Lv1
魔法剣術Lv1
魔法Lv1
魔法自動制御Lv1 !
(私も知らないスキルがいくつかあります。状態異常即時回復……これは存在は知っていますが、通常は特殊な魔物が持っている能力で、人種族が獲得したと聞いたことがありません)
(次に、言語理解、オートマッピング、インベントリの3つは、約500年周期で現れる、転生者が持っていたとの記述を見たことがあります。混合因子、自動魔法制御の2つは、初めて見ました。このマークは……)
ミリスが!のマークに視線を向けたのだろう、赤く半透明で小さなウインドウが表示される。
混合因子の成長段階が低いので、使用できないスキルがあります
3つのマーク全てに視線を向けたのだろう、一瞬表示が消えてまた同じものが表示された。
(どうやらマークの付いているスキルは、現在は使用出来ないようですね。剣、魔法の才能というのは、生まれつき稀に獲得される才能です)
(剣術スキルは一般的なものです。魔法スキルは才能ある者が指導を受けて獲得するのが一般的です)
(魔法剣術はとても珍しいスキルで大抵の場合、貴族の家に代々その技が受け継がれるか、剣の聖地で適正のある者に特別に伝授されると言われています)
スキルの説明をすると、ウインドウを閉じて魔法の項目を開くが何も表示されておらず、そのまま閉じる。次に地図の項目を開くと、実際に通ってきた地図だけでなく、投影版に表示されたものとほぼ同じものが表示された。
(このステータスの地図っていう項目は、便利すぎる機能だな。地図を見たから表示されてるのか、元から一定範囲の地図が勝手に表示されているのかは分からないが……)
(そうですね、どういった原理で出来ているのか不思議です。わからない事も多かったですが、マスターはすごい才能を持っているのですね)
(いや……やっつけ仕事で設定されたっぽいし……すごい才能と言っても、全く生かせていないし、マナの流れすら分からなくてお手上げ状態なんだよな、経験を積んで上達するものなんだろうけど、いきなり
(シャドウスピリットは、そこまで強力な相手では無いと思いますが……そうですね、まずは経験を積まれるといいでしょう。能力値もレベルが上がっていない状態なのに、かなり高いですし。特殊な魔法具を装備せずにマナが回復するのには驚きましたが、そうですね……まずは、マナの流れからやってみましょう)
そう言うと椅子から立ち、目を閉じ力を抜いて手の平を上に向ける。丁度、前へならえのポーズで手の平だけ上に向けた感じだ。
(体の中心に意識を向けてください)
言われた通り意識すると、鳩尾のあたりが温かくなってくる。
(右胸、右肩、右肘、右手の順に移動させます)
鳩尾で感じた温かさが、ゆっくりと右肩を通って右手に移動したのが分かる。
(温かいのが移動していくのを感じた!これがマナの流れか)
(いいえ、少し違います。まずはマナを意識して頂きたかったので、体の中心に多めに集めたものを右手へと移動しました。これはマナ操作という動作になります。マナが意識出来たところで、もう一度体の中心にマナを集めます。次は全身を意識して下さい)
今度は、逆に温かさが右手から右肩を通り鳩尾にゆっくり移動する。
全身にぼんやりと意識していると、鳩尾の温かさがゆっくり収まっていくと同時に
(マナが全身に広がるのを感じましたか?)
(ああ、何かが広がっていくのを感じた。これがマナか)
(はい、では次はマナを体内で移動したり止めたり、一か所に集中させたり拡散させたり、複数ヵ所に集中させたりしますので。それを感じてください)
ミリスはそれから5分程マナの流れを操作すると椅子に座って、インベントリから水差しと湯飲みを取り出し、水差しにマナを通して湯飲みに水を注ぐと、意識の主導権を手放す。
(お疲れ様でした。マスター、後はご自身で練習してみてください)
「ありがとう、ほとんど分かったと思う。しかし感覚をそのまま共有出来るってのは凄いな。これがなかったら何か月かかってた事か……感覚を鮮明に覚えているうちに練習するよ」
そう言って部屋の色調に合わない渋い焼き物の湯飲みで常温の水を飲んで一息つくと、さらに10分程反復練習する。
感覚を他の人に、言葉や映像、文章で伝え、同じレベルで出来るようにするのは非常に難しい。
今回みたいに感覚をダイレクトに共有出来ていたら、逆上がりもバク転もすんなり出来るようになっていたんだろうなと思う。
ある程度、体内のマナの操作ができてきたなと思ったところで、視界の少し右上に半透明のウインドウが表示される。
[魔力操作]のスキルを獲得しました
表示は数秒で消えると視界の左上に光の玉が現れた、視線を向けると先ほどウインドウで表示された内容が記されていた。万一見逃してもログが残るようだ。
数分休むとミリスから声がかかる。
(マスター、次は実践ですね。この場所で攻撃魔法の練習をする訳にはいきませんので、シャドウスピリットを相手に実際に攻撃魔法を使ってみましょう)
「わかった、俺もこの感覚を忘れないうちに、やってみたい」
先程、全力で逃げて来た相手だがミリスのサポートがあれば何とかなるだろうと、
机の上の水差しと、空になった湯飲みをしまい、初級魔法書を手に部屋を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます