第4話 精霊との出会い②
『改めまして、私は魔法王国マグナスの施設制御を目的としてつくられた、第9世代型特殊精霊ミリスティクロストです。活動に必要なマナを補充いただきまして、ありがとうございます』
「特殊精霊のミリスティ……クロストさん。俺は……あ」
(そういえば名前が未設定で、敵が来るかもしれないから、後にしたんだっけ……日本人の名前だと面倒そうだよな……ゲームしてた時のキャラクターの名前でいいか……)
『どうかされましたか?』
「いや、すまない。俺はキャレス。よろしく」
(高校生で初めてオンラインゲームやった当時、好きで聞いていたバンドの曲をちょうど流してて、サビのコーラス~がキャーレス~に聞こえたってだけの理由で付けたんだが、名前の由来の雑談になった時は説明が面倒でキャベツとレタスから取ったって説明してたなぁ……)
『キャレス様、私に敬称等は不要です。ミリスと呼ばれておりましたので、そうお呼びください』
「わかった、ミリス。よろしく」
『まず、私が休眠するに至った経緯をご説明します』
『ここは魔法王国マグナス国内の施設の制御や管理、研究開発などを行う重要施設で、地下に存在する地脈の起点の真上に作られ、そこから生じるマナを活用して運営されていました』
「地脈というのは?」
『大地にはマナの流れの強い場所と弱い場所があり、最も強いところがマナの湧きだす起点、そこから川のように枝分かれしながら流れています。この世界で確認された起点は4つあり、そのうちの一つがここになります』
「なるほど、続けてくれ」
『沸き出たマナを各属性の結晶体を配置し、変換しながら様々な用途で使用していましたが、マナの起点の異常活性が起き。暴走の恐れがあったので結晶を持ち出し避難が始まりました』
『計画では、外部に配置した森の結晶で地脈の異常な力を消費させ、異常活性の収まった頃に施設を再開する一時避難措置を取りました。当初の予測では3か月、長くても半年以内に収まる予想でした』
『私は常に一定量のマナが供給されていないと活動できないため、周囲のマナのみでは休眠状態で存在維持に努めて避難した皆様の帰りを待ちました』
「……が、俺が訪れるまで誰も来なかった?」
『はい……施設内にキャレス様が訪れた事で目覚め、補給して頂いたマナで現状を確認したところ900年以上が経過していました。地脈の異常以外に想定外の事態が起きて皆様が戻られなかったと推測しますが、施設外の状態が分からない為……キャレス様、施設の外はどの様になっているのでしょうか?マグナスは……滅びたのですか?』
恐らく、俺の質問が無ければ一番にそれが聞きたかったのだろう。水晶から出て来そうな勢いでミリスが問いかける。
しかし突然、転生などという事態に巻き込まれた俺に、国の状況など分かる筈もなく。
「すまない、俺に外の状況は分からない。……そうだな、俺の状況を話しておこう……と言っても俺自身、全く把握できていないし、未だ混乱してる状態なんだが」
苦笑いをして、長く息を吐きだし、今までの経緯を話した。
別の世界で眠りにつくと、不思議な空間にいた事。
そこで白い服の少女に会い、転生機というもので、この世界に送られたらしい事。
この世界で目覚め、坑道でシャドウスピリットに追われて、ここに逃げて来た事。
「……そうして、ミリスと出会ったんだ。だから……俺はこの世界の事は全然知らないんだよ。協力できる事があるならしよう。だから助けてほしいんだ」
『私たちは、お互いに助力を欲しているという事ですね』
結晶が光を増すと中から20cmくらいのワンピース姿の少女が現れる。
その姿はうっすら向こう側が透けていた。
『キャレス様、私のマスターになってください』
「マスター?……と、言うのは……」
唐突な申し出に、面食らいながら問いかける。
『現在、私とこの施設には管理者が設定されていません。私の希望するのは
『キャレス様には新たな管理者になって頂き、8種の結晶を施設に戻し機能を回復して欲しいのです。私は、キャレス様が私を必要としなくなるまで、お仕えします』
「施設機能の回復を手伝う代わりに、俺に仕えるという事か?マグナスという国を再建して欲しいのかと思ったが……」
『いえ、交換条件というよりは私の希望です。8種の結晶の場所もわかっていません。ですが、いくつかの結晶の場所は心当たりがあります。いくつかの結晶を集め、施設が使用できるようになれば、拠点もできますし、宝物庫や転送法陣も使用可能になるでしょう』
「なるほど、確かに俺は助かるが、俺にばかりメリットがあるように感じるが……」
『結晶を集めながら情報を収集した後、キャレス様の方針で決めて頂ければいいと思います。マグナスの再建に関しましては国民が残っているかは分かりませんし、周辺国家の情報もありませんので……』
『それに……900年以上、休眠状態だったという事は、誰もお戻りになられなかった。おそらくマグナスはすでに存在しないのでしょう。このままキャレス様と別れたところで、他の誰かが訪れるよりも先に休眠維持に異常が起きて消滅するでしょう。新たなマスターに施設と私を活用して頂ければ、ただの滅びた国の古代遺跡とならずに済みます』
(遺跡として発掘され調べられるか、それ以前に盗掘で破壊されるか……寂しいが元の世界でも聞いた話だな……それならば何かに繋げる?……自信はないが、これといった目的も無いし。国の再建となるとピンと来ないが、8種類の結晶を集めて機能を復活させる。というメインクエストを受けたと考えれば……うん、いいかもな)
「敵対的な相手に会うんじゃないかって心配してたから、この出会いは幸運だったのかもな。ここで情報だけもらって、はい、さようなら。なんて言うわけにもいかないしな」
漂流者と浦島太郎のコンビといったところか、面白い組み合わせだと思いながら、
やっと始まりそうな冒険への期待と、不安が半々の気分で椅子から立ち上がると、
少し背筋を伸ばして、この世界で最初の仲間に、この世界にきて最初の笑顔で告げた。
「長い付き合いになりそうだな。これからよろしく、ミリス」
『はい、よろしくお願いします。マスター』
小さい半透明の体で、勢いよく90度のお辞儀をすると、目の前を通り過ぎて奥の部屋を手で示す。
『施設管理者の登録はこちらの部屋で行います』
ミリスが淡い光を放ちながら浮遊し、3つ並んだ真ん中の部屋の前に移動すると扉が開く。
台座の脇に置いた魔法書を拾い、後に続く。
無機質な場所から部屋に一歩足を踏み入れると、落ち着いた印象を受ける。
『こちらの操作パネルで登録して下さい』
そう言いながらミリスが部屋の奥の大きな机の上に移動する。
ゆっくり奥に歩きながら部屋を見回す、前任者の私室だろうか。
高そうな絨毯が敷いてあって、なかなかに広い。
中央手前に応接用か、ローテーブルとそれを挟んで左右にソファーが二つ、その奥に大きな机。
左側は入り口脇に帽子だけが乗ったコート掛け、奥に向かって大きな本棚が二つ。
右側は広くスペースが取られていて右奥の壁に花瓶とチェスト、鏡とサイドテーブル、衝立とベッドが並んでいた。
広い右側から奥に向かって進んでいると違和感を覚えて、ふと鏡を見た。
「え!?誰だ……?」
姿見の鏡には、見慣れない18歳くらいの薄い
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