第3話   精霊との出会い①

 

今、声が聞こえた?感度の悪いラジオのように途切れ途切れだったが……

 どこからか聞こえたというより、頭の中というか、両耳の中間でと言うか不思議な感覚だ。


(どなたか、そ……ら……か?)


「誰か、話しかけているのか?」


 閉じられた扉は1箇所しかないので、その奥からかと思い、扉に向かって問いかける。


(よかっ……い……にあ………)


 もしかして、向こうは聞こえているが。こっち側だけ途切れて聞こえるのだろうか?


「すまないが、俺には途切れてほとんど聞こえないんだ」


 どうしたものかと思いながら、扉の前まで移動すると、扉に青白い光が十字に浮かぶ。

 光が扉を4分割すると、それぞれが斜め外側の壁にスライドして収まった。


(横でも前後でもなく、中心から斜めに開くとは……まぁ、開く方向がわかったところで開けられなかっただろうけど……もしかして開いてた所も同じ構造なのかな?)


 開いた先は、まっすぐな通路でまた扉があった。通路の中間あたりにも左右に扉がある。

石……では無いようだな何の素材で出来てるんだろう……金属では無いようだが、滑らかに加工された構造物に近代的な印象を受ける。

 奥に歩き始めると、正面の扉が十字に光り出した。途中の左右の扉は特に反応は無いようだ。


(まっすぐ来いってことか……この先にいるのが、友好的な相手だと良いんだが)


 奥の扉の前まで進むと、目の前の扉が開き、背後で扉の閉まる音がした。


(退路は絶たれたけれど……アレに襲われる危険も無くなったか?開かなければ扉を壊して追ってくるとなると……まぁ、そうなった時に考えるか)


 中に入ると、少しだけ部屋の明るさが増した。かなり広い部屋だ。

 部屋の中心にある丸い台座の上にある水晶のようなものがこの部屋の光源のようだ。


『そのまま中央まで、お進み下さい』


(今度ははっきり聞こえたな、真ん中の水晶みたいなのから声がしたな。30cm弱はあるな、冬瓜くらいのサイズか?声色に敵対的な感じはしないが……)


 部屋の中心に向かって歩くと、淡い光を放つ水晶の中に女性の姿が見える。


『私は、第9世代型特殊精霊ミリスティクロスト。貴方は王国民の方でございますか?』


(第9……特殊精霊?王国民……違うとヤバイのだろうか、一応肯定しておくか……?いや、すぐバレるな……やめておこう)


「王国民……は、違うと思うが……黒い蔦か触手のようなものを振り回す、黒い玉のようなものから逃げてきて、正直、今の自分の置かれている状況の理解も追い付いていない感じで……」


『黒い玉……は、恐らく坑道部に配置してあるシャドウスピリットですね。状況は……申し訳ありません。私も、休眠状態から再起動した直後で情報が足りず正確な返答が出来ません』


「配置した?シャドウスピリットと言うのが、ここまで追いかけてきて襲って来ないという事か?」


『はい、制御区画へ移動してくる事はありません。活動に必要なマナが足りず、正確な位置の把握は出来ません。濃縮マナリキッドをお持ちでしたら、追加の情報をお調べ出来ますが、どう致しますか?』


(濃縮マナリキッドは持っていないが、とりあえず安全と言う事でいいのか?)


 完全に安心は出来ないが、極度の緊張から解放されたら喉が渇いてきたが情報収集が先だろう。


「濃縮マナリキッドという物は持っていないが、エネルギー不足で機能が使えないって事か?」


『はい、他には直接マナを補給する方法がありますが。マナ保有量は個人差がありますので、1度で必要量を確保できるかはわかりません』


(なるほど、マナ保有量ってのはさっきステータスで見たMPって事だろう、200で足りるかわからないがステータスを見ながら全然足りなそうならストップかければいいか……)


「わかった、それでやってくれ。出来れば一気に、じゃなくて少しずつ頼む。……ステータス」


『了解しました。私の下部台座側面、貴方から見て右側に水晶球が埋め込まれていますので、手を置いてマナの補給が出来ます。補給を中止される場合は手を離して下さい』


 台座に埋め込まれた水晶に右手を置き、開いたステータスのMPの数値に注視する。


「……いいぞ、やってくれ」


『了解しました。生体からのマナ補給を開始します』


 水晶が淡い光を帯びてきた、俺の手首から先も少し光っているだろうか。ステータスのMPの数字が毎秒1ぐらいの速度で減っていく。少し引っ張られているような感覚はあるが痛みや異常は感じられない。


(マナの流れも感じられるかと思ったが、手のひら全体を勢いの弱い掃除機で吸われてるくらいの感覚しか無いな……30くらい減ったか、体に異常も無さそうだ)


『マナが必要最低量に達しました。補給を終了します。稼働可能時間は30分、情報の収集を開始します』


 部屋の中が明るくなり、はっきり見えるようになった。

 手を離し見回すと部屋は円形で、入って来た所以外に扉が4つある。


 モニタールームのような感じだろうか、正面にスクリーンのようなもの、後ろに長机と椅子がある。他には水晶の無い台座がいくつかある。


 ステータスではMPが50減っている、1時間稼働させるには100必要という事らしい。


『管理者が未登録です』

『魔力結晶が施設内に確認できません。各施設機能が使用できません』

『外部のリンクがほぼ途絶しています。施設内の情報を更新します』

『現在の施設状況を投影板に反映します』


 巨大なスクリーンの中央に施設の地図のようなものが表示される。

 円形のこの部屋の右側に部屋が3つ、上に1つ、下側には通ってきた通路と部屋。

 通路の途中にあった2つの扉から、この部屋の外側を一周するように円形の通路があり、等間隔で部屋が7つ、部屋は赤で表示されている。

 この部屋の右側の一番外側は、最初にいた坑道が半円状になっていて、それぞれ円形の部屋に繋がっていた。

 入ってきたのは下側、上側の更に真上に通路が伸びているが、途中で切れているのは表示の問題か、物理的に塞がっているのか。


(この部屋が円形……の周りに円形の通路……の外側に半円の坑道か……結局、シャドウスピリットを避けて外に出るルートは無さそうだが……事情を説明したら助けて貰え……無くても助言はくれるかもしれないな)


『外部市街地に森の結晶を確認』

『地脈接続の優先権取得に失敗しました。外部の台座での切り替えが必要です』


(外に市街地があるのか!僻地じゃなくて良かった)


『施設内、シャドウスピリット3体の位置情報を投影板に反映します』


 真上に伸びている道と坑道部を繋ぐ部屋に1体、坑道部の1時と3時の方向に1体ずつ赤い点が表示される。


「よかった、追って来ていたヤツは引き返したみたいだな」


『申し訳ありません、予想外の問題がいくつか発生しています。そこで、貴方にお願いがあるのですが、話を聞いてもらえませんか?』


「ここが安全ならとりあえず問題ない。まず、話を聞こう。その後、教えて欲しいことが色々あるんだがいいか?……と、向こうの椅子持ってくるから少し待ってくれ」


 一度、ステータスを閉じ、椅子を一脚、中央まで運んで腰かける。

 水晶の中の女性を見つめ、話の続きを促した。





(……さて、予想外の状態が、厄介なものでなければいいが)

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