第3話 スペランカー
「ぶっ殺してやるよ!」
なんて、恐ろしい事を言われた。
しかし俺に一切の動揺はない。
おそろしく簡単な解決策を知っているからだ
まず、相手を見ながら眉に力を入れる。
そして、うっかり家の鍵を閉め忘れた時のア"と、同じテンションで口を開きこう言う。
「なんだテメェ!?」
すると、俺に恐ろしい事を言ってきた奴は腰を抜かして謝り始めた。
ほらな?簡単だ。
小学生でも、すぐ真似できるので幼稚園のカリキュラムかなんかに加える事を勧めよう
ちなみに、今言ったコツは彼以外には通用しないので、もし日常でそんな事を言われたらごめんなさいと謝るのが無難である。
ぶっ殺す。なんて簡単に言う奴は基本的にヤバい。
戦闘狂の臆病者。
こいつはそんな奴だった。
昼休憩。俺はいつもと気分を変えるために、どこか手頃な場所はないか探していた。
すると、何校舎だったかの裏手に誰も人がいない手頃なスペースを見つけたので、俺はそこで昼を食べることにした。
気分がいいと、いつもは絶対にこれ。とか決めている事でも簡単に翻したりする。
そして、得てしてそういった慣れないことは失敗してしまうのだ。
慣れないことはするもんじゃない。とはよく言ったもんだ。
そして、ハイになってた気分も恐ろしく下がってしまう。
人の感情ってのは大体こんな感じに上下する
なるほど、世の中ってのはよくできてる。こんな仕組みを作る暇があるんだったら、もっと中にいる霊長類様のことを考えてほしいもんだと思ったりするが。しかし、漫画のキャラクターが酷い目にあったりする様に、創造者ってのは作品の出来にこだわるものなので仕方ないんだろう。
要するに、俺のテンションは高かった。
そして、さっきの考えに則ると俺は今から不幸な目にあうらしい。
そんな時にこいつとでくわした。
これを不幸ってことにして、次訪れる幸福を待つことにしよう。
彼は大男である。名前はヴァーン。
これ以上の説明は不要であろう。
そのイメージそのままだからだ。
そして、俺も男の容姿にくどくどと感想をつけるのはごめんだ
つまりは、利害の一致である。
この言葉はマイナスのイメージで使われることがない最も素晴らしい言葉の一つだ。
「お前、昼はどうしたんだ?」
腰を抜かしている彼に近寄り腰を下ろすと、ヴァーンは俺の方を向いた
「いや、もう食べ終わったけど」
「なんだよ。じゃあちょっかいかけにきただけか?」
禄でもないやつだ。
すると、彼はゆっくりとあとずさりし始める。
熊にでも出くわしたのだろうか
だったら、死んだフリをお勧めする。
「ハハハ。じゃあ僕はもう行くね」
「まぁ、待てよ。ちょうどいい、話し相手になってくれ」
俺は端的にお願いをした。絶対に逆らわない相手ってのは最高だ。自分のことを好いてくれたら尚更だが、そんなことはありえない。
要するに、俺はこいつに嫌われてもいいと思っている。
人を殺そうとする奴は悪い奴だからだ。
恐ろしく単純だが、間違いない理屈である。
アンパンだって、俺の行為を見逃すに違いない。
彼は正義のために行動しているのだ。
あの世界に、殺しがあるのかは知らないが。
ヴァーンを俺の隣に座らせると、もう一度脅しを加えておいた。
ある程度時間が経つと、また威勢を取り戻してめんどくさいからだ。
今回は「にんだトムゥ」と言ってみた。口を窄める感じだ。ちょっとしたシャレである
ユーモアってのは人生を豊かにする。もし、素晴らしい人生を送っていないコメディアンがいるとしたら。きっと、そいつにはユーモアが足りなかったのだろう。
「で?」
「でってなんだよぉ」
「面白い話をしてくれるんだろ?」
すべらない話を強要した。
おそらく、芸人が最も嫌うことだろう。テレビでそんな事を言ってた気がする。
しかし、こいつは芸人ではないので嫌ではないはずだ。
殺人犯にも、最低限の人権はある。
そんな法治国家に暮らす俺は、こんなやつにだって優しく接したりする。
それが、道徳ってものらしい。中学校の時に習ったから間違いない。
「そんなものないよぉ」
なかったようだ。
しかし、こいつのこの性格はすべらない性格と言えるのではないだろうか。言葉でなく生き様で表すとはなかなかやる奴だ。
「合格!」
俺は太鼓判を押した
何に押したのか、自分でもわからない。
画面の左下にでも押したのかもしれない。
すべらんなぁ
能力者学校の放課後 大入道雲 @harakiri_girl
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