第9話 ゲームとリアルの境目

サフランと約束して別れた後、俺はいったんログアウトし渉君の家に本を返しにいった。

渉君は出かけていたので渉君のお母さんに渡して帰ってくるとメールが届いていた。


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『皇宮打破大会参加に関する締切変更のお知らせ』


皇妃見習いの皆さん

いつも皇宮打破に参加していただきありがとうございます。

大会の参加締切日を皆さんの皇妃見習い期間にあわせて変更いたします。

見習い期間が終了し1週間程度の猶予がありますのでその間に大会への参加を希望される皇妃になられた方は、申し込みをすませてください。

皆さんの大会参加を心よりお待ちしております。

                              以上


大会委員会

委員長 野田 大悟

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やっぱりこうなったか…。

短いと思ったんだよな~と思いつつも1週間の猶予をくれたのは正直うれしかった。

なぜなら皇妃決定時刻が夜中の1時であるためその日の申し込みは正直学校にいってる小学生としてはつらいものがあった。

学校終わって帰ってきてからゆっくり登録をしたい。

そう思っていたのでこの変更はありがたいこと。

『父さんにも見ていてほしいしな』

『何がだ?』

『あー大会参加の締切が変更になったんだよ』

『よかったじゃないか!じゃあ帰ってから一緒に申込みするか』

『そだね』

『それで選ばれそうか?』

『それはまだわからないけど…。』

頭をかきながら攻略本に載っていたことをあらかじめ試してみるしか何とも言えないよな‥‥。そう思いながらも少しなんかこのゲームが生活の一部になりつつあるこの状態が自分でも違和感なく受け入れられていることに少しびっくりした。

ログインするとアレクサンドライトの部屋の前に人だかりができていた。

なんだろうと傍を通りつつもそちらへ視線を移すと部屋の中がめちゃくちゃになっていた。

え?

『あの方よ!あの方がやったのよ!』

アレクサンドライトは奇声を発しながらもこちらを指さして叫んだ。

えええ?

『俺は今ログインしたばっかなんだけど?』

『違うわ!あなたの後ろに立っている卑しい奴隷の女がやったのよ!』

後ろを振り返るとサフランが立っていた。

『えええ?サフランも今来たところじゃないの?』

サフランは悲しい眼で俺とアレクサンドライトを見つめた。

『あんたは裏切りものよ!絶対信用できないわ!』

いったいこの二人になにがあったんだ‥‥。

ここまで毛嫌いされるなんてサフランも気の毒だな。

そう思いながらもその場を立ち去ろうとすると衛兵が三人近くへやってきた。

『サフラン様申し訳ありませんが一度こちらで伺ってもよろしいですか?』

サフランはこくりと頷くと

『亜貴さん…。ごめんなさいね、今日は約束を果たせそうもないわ…。また日を改めましょう?』と言ってきた

『サフランに合わせるよ。早く疑いが晴れるといいな…。』


その様子を見ていたアレクサンドライトはにやりと隠れて笑っていた。

サフランが衛兵に連れていかれたので仕方なく俺は鉢植えに水をあげるため井戸へむかった。

井戸はやはり相も変わらず重い!

景色が流れそうになりながらもなんとか耐えて水をあげることができた。

戻ると鉢植えに水をあげてそのあと城の図書館へ行くことにした。

最初の時に図書館があることは教えられていたけど一度もいったことがなかったので調べるのに何かあるかも!と期待しながら図書館に行くと先客がいた。

現在の皇王さまだ・・・。

最初の時にあったぐらいでずっと今まであっていなかった。

久しぶりの皇王様は銀色の髪を後ろに無造作に束ねて本を読んでいる最中だった。

『やぁ…亜貴…調べものかい?』

『皇王さまもですか?』

『私はよくここへきて本を読むのか日課になっているんだ…ここは攻略本よりも詳しくこの世界のことを調べられるアーカイブみたいなものだからね。もうすぐ大会もあるし大会に向けて少し調べていたところだよ』


へえ・・・図書館てそういう使い方ができるんだ?


『俺もちょっと調べものがあって寄りました。』

『皇妃見習いなのに俺なんだ?』

『あ!』


そうだよな…中身は男だけど今ゲームアバターは女性の姿だし気をつけないといけないかな?

『すみません、まだこのゲーム初めて間もないので慣れていないんです。』

『そうか…私はもうすぐで1年になるよ、今年は皇妃が変わるから気を引き締めないと負けてしまいそうだね…もし皇妃になったらサポートよろしく頼むね』

『はい!精一杯頑張ります!』

『元気いいなフフフ・・。』

けど自分のことを俺というのは控えたほうがよさそう?

そう思いながらも図書館の奥へ行きカウンターで手続きをとるため近づいた。

『亜貴さまですね?登録しました。本日からご利用になれます。ただし3か月に一度利用許可証の登録の更新をお願いします。場合によっては利用許可証の取り消しもあります。取り消しにかかる項目はこちらに記載されておりますのでお読みください。』


そういって司書の人から一枚の図書館利用に関する説明書を渡された。

細かいな…。

そこには以下の記載があった。

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図書館利用に関する説明書


図書館を利用される皆さんへ

図書館を利用する人はどんな人でも利用できますが以下の項目をおこなった方には3度目まで注意をいたします。

これを3度注意しても守らなかったものは利用許可を取り消しすることもあるのでご注意ください。

この内容が適用される位(レベル)は宰相クラスから皇民までです。



1. 図書館のものを持ち出ししないでください。

2. 図書館内で騒がないでください。

3. 図書館にあるものを傷つけないでください。

4. 館内は飲食禁止です。(タバコも禁止となっております)

5. 貸出できるものとそうでないものがあります。貸出できるものでも1週間以内の返却をお願いします。貸出できないものについてはいかなる理由があったとしても持ち出し禁止とさせていただきます。


図書館館長

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以外と普通の図書館と一緒だな…。

普通じゃないのは、皇妃になると適用外になるってところか…。

それは頑張らないとw

アーカイブ内をくまなく一通り見て回ると調べたかったものを探した。

この世界におけるサーバーとの相性やネット環境が重くなる原因について調べたかったというのもあるが、とりあえず目当てのものを探した。

キーワードでしか検索できないため苦労した。


サーバー、重い、原因


こんな感じでさがしてヒットしたのが3冊

そのうち2冊は持ち出し禁止だった。

仕方なく2冊を先に読むことにした。

そのうちの1冊は普通にプログラミング言語について

そしてもう1冊は皇宮打破を作成した時についてとこの世界にごみが現れるメカニズムについて書かれていた。

それによると

あるアカウントがログインしてくる

何かをする

するとログ情報が皇宮内に残る

そのログ情報の一部がアカウントにいらないと判断され捨てられるとごみとなる

ごみがたまってくるとそのごみの周りの環境が重くなっていく

ようはパソコンと同じ原理ということらしい

普通にパソコンでネットサーフィンをすると履歴が残るあれと同じ原理らしい。

ここまではなんとなく理解できた。

問題はこのごみは消せるのかどうかというところだけど

どうも消すことができないみたいになっている

となるとこれを利用するしかないってことか…。

そこで俺は仕方なく戦術書を借りて

とりあえず自分の部屋へ戻った。

皇宮打破の大会では他の3か所から城を攻められて落ちるとゲームオーバーになると聞いていた。

そこでここでの戦術をいろいろ応用してあのごみも利用すればどうだろうかと考えてみた。

皇城の見取り図を見て以外とこの城が自然の要塞となっていることに気がついた。

裏側が断崖絶壁になっている。

けどここもうかつに近づいて攻められるとやっかいだな…。

ここにごみを埋めて少しでも重くしておけば裏はあまり人が通ることもないしいいんじゃないかな?

そう思いながらも町から城までの通り道や街道でどこを回ってきたらここに近いのかを細かく分析した。

いろんなところに人員の配置もしないといけないし

考えるだけでますます頭がこんがらがっていくが、だけどこういうのも楽しくて悪くないなと思っていた。


サフランは結局アレクサンドライトにあらぬ疑いをかけられ

1週間拘束されることになった。

『水の調達を誰かにお願いできるか?』

『無理かも』

サフランは涙目でこちらを見た。

『心配しないで俺がなんとかするから』

『でも…』

『大丈夫!』


本当は大丈夫じゃないが、そうでも言わないとなんか気の毒で…。

皇王にもかけあってみたがだめだった。

アレクサンドライトとしては皇妃見習いの候補を減らしたいだけでこんなことをするのだろう…。

卑怯とか思えなかった。

俺もいろいろやられたけど

サフランのほうがひどかった。


植木鉢の水やりを2人分することになった俺はまず自分の分をジョウロに入れて

着てきた衣服に水をたっぷりと含ませるとまずサフランの部屋の鉢植に衣服の水を絞ってあげた。

そして自分の分の鉢植にはジョウロの水をもっていった。

これを繰り返しするのは大変骨の折れる仕事みたいな感じだったがなんとか乗り切れたんじゃないかなと思う。

なんだかんだいって生活の一部になりつつある皇宮打破

その境目があいまいになりつつあることに世間はニュースで危険を訴え始めていた。

課金を注いでいまって生活が成り立たなくなるもの

いろんな人がでてきたらしい。

今回そのゲームの大きな大会がある一方でそういう社会現象にもなりつつあるということがマスコミに大々的に報じられた。


嫌な予感はしていた。


そしてサフランの拘束が取れる日がやっとやってきた。

家に帰ったらすぐログインしよう

そう思って自宅に帰ると母が待っていた。

『悠…ちょっといいかな?』

椅子に座るよう勧められると

母はため息をつきながら切り出した。

『あなた…一体何しているの?』

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