第26話 敵部隊
作戦はこうだ。
まず市街地を複数のブロックに分け、それぞれが現地の住民に紛れて作戦時間まで待機。
それから時刻ヒトマルマルマル時に一斉に目的の建物に対して攻撃を開始、目標を破壊した後、ヒトヒトマルマル時までに付近にいるボルビア兵士を排除しつつ離脱エリアまで集合。
目的地まで到達した部隊から順次市街を離脱。離脱した後、敵国からの大規模な反撃が予想される、その場合は随時現地の指揮官に権限を委譲。その判断で本体の援護に回られたし。
中央の広場付近のみボルビアの司令部がある影響で、多数の障害物となるものが設置されている予測。
だが今回は司令部付近での作戦行動はないため気にする必要はない。
作戦司令部からの伝達は以上だった。
部隊はカムデンの西部戦線から腕利きの士官が何人か派遣され、編成された。
それに今回の作戦から新型装備がそれぞれの部隊に配備され、実地でのデータ採取の目論見もあるという。
元々街を破壊することは念頭においてなかったが、敵の侵攻が異常に早いことで、今回の作戦に切り替えられたというのがもっぱらの噂だ。
敵国のエース部隊、「ドッグス」が派遣されているという情報から部隊内には衝撃が走ったが、その動揺も見越していたのか、司令部からの伝令兵は伝言を終えると、そそくさとどこかに行ってしまった。
参加部隊は全部で6つ。6人で1グループが4つ集まり一つの部隊を形成している。街を6つのブロックに分け1部隊が一つのブロックを担当。更にその中で4つのブロックに分け、それを1グループがそれぞれ担当する。
兵士になって3年目、3回目の戦地への派遣だった。小隊長は職業軍人として10年以上の経験を持つブラッドリー軍曹。俺は運がいいと思う。
西部戦線から転属してきた彼の印象はどのような場面にも動じず、その場で最善だと思われる決断をしてくれる。それにとても部下思いだ。この戦場でそのような上官に出会うことは運が良い以上のものだと思っている。
他の仲間は今まで全ての戦場で共に戦った、トム、ジャック、レオ、彼らはすでに家族と言っても差し支えない存在だった。
以前のラーク工業地帯奪取の時には、危険な場面を何度も共に乗り越えてきた。
トムは先日地元の幼馴染と結婚して、数ヶ月後に子供が産まれる。ジャックとレオとは時間があれば酒場で昼間から一緒に酒を飲む仲だ。1人補充兵として派遣されたのがミックだ。
最初出会った時はあまり喋らず、とても物静かな男だった。だが少し話してみると、とても工業技術への造指が深く、様々な部分で部隊を補佐してくれている。元々工兵として派遣されたこともあり、小隊に必要不可欠で、今では部隊のみんなと仲が良い。
モグラと呼ばれる男が、発見したのか、はたまた掘ったのか分からないトンネルを使い、作戦開始前日に市街に入った。先日まで我々カムデン王国が占領していた町は、すでにボルビアに占拠されていて、敵国の兵士たちが我が物顔で歩いているのがやたら目につく。
作戦行動開始時刻まで占領前にカムデン王国に協力的だった民家に小隊単位で潜伏する。
家の主人たちは優しく、大事な作戦の前だからと言って、夕食には少ない食料の中から肉団子のスープを出してくれた。きっと家の庭で飼っていた鳥を潰してくれたのだろう。小隊の皆がそれに感謝して口をつけた。
酒を飲むわけにはいかなかったが、建物の外に聞こえないような小さな声で、スープを手に持ち皆で盛り上がった。
レオはそう言った場では自然と盛り上げ役になり、彼が右に左に話題を振ることでその場の会話が活気付くのだ。
「ロブはこの作戦が終わったらどうするんだ?」
なんでもこの作戦の後には一ヶ月程の休暇が与えられるのだという。それをどうするかが目下の皆の興味だった。だが褒章のような休暇話はそれだけこの任務が危険だということを意味している。
誰もそのことには触れない。死んだ時のことを今考えても仕方ないからだ。
「俺は、――――結婚する」
発すると周囲から冷やかしの声があがる。ミオちゃんか、あの娘は良い娘だからな、――――とか、どうせ浮気すんだろその時は一緒に謝ってやるよ、とか反応は様々だった。だが最後にはみんなで笑った。
次の日、作戦は時刻通りに始まった。全ての小隊が自身の持ち場に付き、対象を攻撃する用意が出来ていた。
時計の針が予定時刻を通過すると同時に目標を攻撃。他部隊の不足の事態に備えて、無事に目標を破壊出来た小隊から陽動のために退路を確保しつつ敵国兵士と交戦。
これらが昨日のブリーフィングで改めて小隊長から共有された内容だった。
「―――――くそ、あれは民間人か。こんな状況でドレスを着込んでいるなんてどういうことだ!?」
ジャックが1人呟く。
目標物までは距離およそ25m程だ。通りの奥にある少し広い踊り場のようなその空間は商店が3店舗あるため、店先は踊り場のような多少のスペースが取られている。
建物の影から頭だけ出して、ジャックの向かい側から同じように通りの奥を見る。
そこには黒いドレスの女が少女と向かい合っている。しゃがみ込み、少女と同じ目線で何かを語りかけてはいるものの、和やかなムードではなさそうだった。
「待て、見せろ」
そう言ってブラッドリー小隊長が奥を見通す。それから懐中時計を取り出して時刻を確認する。
まだ周囲からは爆音などは聞こえてこない。トムとレオは自分たちの後ろを警戒している。ボルビアの兵士のパトロールは、こちらに好意的な住民を使用して足止めをしてもらっている。
彼らも危険なはずだが、引き受けてくれた。私たちに出来る数少ないことだ、と言って笑いながら。そのためパトロールの兵士はここへはまだ来ないはずであるが、警戒は怠らない。
「あれは――――、おそらくボルビアの兵士だ。隣に立っている者は軍服を着ている。それに花屋の右隣にも1人いる。あれもそうだろう。おそらく――――、いや奴らはエースの部隊に間違いないだろう。女が戦場に出てきているということは、そういうことだ」
それに皆着ているのは黒い軍服だ。標準のボルビアの軍服とは違う。エースの――――いや、Wとは違う部隊だろう。
そういうと、ブラッドリーは通りの奥から視線を外し、自分たち小隊メンバーの方を見た。
「トム、レオ、貴様たちは3時の方角に回り込め、私たちが攻撃を始め次第貴様たちも攻撃しろ。単純な十字砲火だが、敵の能力の分からない以上、先手を打ちつつやっていくしかない」
トムとレオが頷き、走って一つ隣の通りに入っていく。
「他の者は聞け、ミック、早速だが新兵器を使う。出し惜しみは無しだ。弾は何発携行している?」
「3発です」
「一発目を第一目標にぶつけろ、新兵器のランチャーは効果が未知数だ、着弾してから俺の合図で残りの者が一斉射撃を加える。その後ミックはそのまま次弾装填のための準備に移れ、あれは多少発射に時間が必要だ」
「了解です」
ブラッドリーが三人の顔を皆がら小さく頷いた。その後銃を握りながら、カムデンに栄光あれ、と呟いた。皆も同様に口の動きだけで同様の言葉を口走る。
「やれっ!」
小さく発した怒気とともに、ミックが建物の影から出ると大きな黒い竹筒のようなものを肩に担ぎ、竹筒の断面を正面のドレスの女性に向ける。
ランチャーと呼ばれる黒い竹筒の上面には垂直に棒が飛び出していて、ミックはそれを勢いよく、まるでへし折るかのように前方に向かって力を入れると、カチン、という金属が小気味良くハマり合う音と共にその垂直の棒を前に倒した。
すると前方の断面から黒い何かが飛び出すと同時に、後ろの断面からもガスが勢いよく噴射した。
前方へ発射した影響からかミックは筒の上へと跳ね上がる力に抗えきれず、体全体が筒に持っていかれて、勢いよく石畳の上に倒れてしまった。
発射されたものは、正面の建物ではなく隣の建物の窓ガラスを突き破って中に入り、そのまま爆発した。
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