第17話 ―――突貫!?
すると部屋に入ってきた2人に気が付いたのかグロリアが、ちょっと待って、と言ってその場を中断させると、こちらの方に近寄ってきて声をかけてくれた。
「おはようございます。2人とも昨日はよく眠れましたか?」
ミストリと2人で、間髪なく、―――――はい!、と大きな声で答える。
ただミストリは昨日既にここのメンバーとは挨拶を済ませているのだろう、幾分余裕があるようだった。
「えっと、アズサさんですね、昨日は挨拶しかしてませんでしたから、とりあえずメンバーと自己紹介からやりましょうか」
その言葉でテント内の注目が自分に集まるのを感じる。
テント内には自分とミストリ以外に全部で六人いて、グレン中尉以外は皆女性だ。
デヴラともう一人、髪の長い女性は円卓の周りにいるが、それ以外の人物はテントの端っこで各々自由に行動しているようだった。
銃を磨いていたもの、書類仕事をしているもの、はたまたお菓子を食べながらお茶を飲んでいるもの。
だが皆手を止めてこちらを見ている。
村でも皆の注目を集める機会なんてなかったから、どこか急に恥ずかしくなり、何を言えば良いのか分からなくなる。
えっと、、、と言葉に詰まると、グロリア曹長がすかさず助け舟を出してくれる。
「とりあえず、名前、出身地、と、、、後は意気込み?かな、などなどをどうぞ〜」
グロリアは身振りでこのテント内の注目を集めようと、多少大袈裟に手を広げてアズサの方へと視線を誘導させるように両手で指し示す。
アズサは一瞬、思いっきり息を吸い、前に吐き出した。
「ブラウン・エンリケスです。ライルストーンという村から来ました。えっと、この部隊に参加させて頂いて光栄です。これからよろしくお願い致します!!」
自然と大きな声となってテント内に響き渡った。そして最後はどうしたら良いのか分からず、とりあえず右手を掲げて敬礼で終わらせた。
―――――今のは間違っていなかっただろうか。
周囲を見渡すが、皆あっけに取られているのか分からないが、誰も何も言わなかった。
まるで何かが通り過ぎていってしまったかのように静かにだった。
しかし、乾いた破裂音とでもいうべきという拍手がその静寂を打ち破った。
パチパチパチ―――――
音を返すような硬い壁がないため音は四方に霧散しつつ、小さくなって消えていく。
「ブラウン技能兵、自己紹介ありがとうございます。私はルース・ウェラー特技技能士官です。階級は軍曹。よろしくお願いします」
壁際でナイフを研いでいた女性兵士がその手を休めて、喋りながらこちらに向かってきた。
女性兵士は明るい茶色の髪を後ろで束ねていて、軍服をラフに着こなしている。
上着のジャケットのボタンは一つとして留められることはなく、隙間からは白い肌着が見えていて、それが大ぶりな胸を申し訳ない程度に包んでいる。
履いているブーツには彼女の好みが反映されているのだろうか、周囲の人間が履いているような軍から支給されたものではなく、派手な蛍光色とでもいうような明るい黄色のボーダーが入っている。
顔の第一印象は猫のようだと思った。
瞳が大きくそして目尻が多少釣り上がっている。そしていつも笑っているのか口角が上がっていて、溌溂とした雰囲気とでもいえば良いのだろうか、明るいオーラを身に纏っている。
自身のことをルースと紹介した女性兵士はそう言って、アズサの前まで来ると右手を差し出してきた。
アズサは思考するまでもなく咄嗟に、差し出された右手に対して自身の右手を差し出した。
力をあまり入れないようにしてふんわりと握り、相手の顔を見る。
目の大きい彼女の顔を見つめると、まるで吸い込まれてしまいそうだと思う。
それからルースは、アズサの顔を見ながら口角を先程以上に上げると、やっぱりなー、と誰に聞こえるでもなく言い、握っている手に力を込められた気がした。
「皆さー、この子どっちだと思う。私たちの方かなー、それともグレンっちの方かなー」
そうアズサの手を握りながら周りを見渡しつつ言葉を発した。
―――――グレンっち、、、?
隣のグロリアはやれやれと言った様子でおでこに右手の指先を持ってくると、やっぱりねと何かを諦めるようにため息をついた。
ルースはアズサの手を離そうとしない。まるで捕まえたうさぎが逃げないようにしっかりと握っている。
周囲のメンバーから、こっちでしょ、とか、本人が言うまではそのままでいた方がいいじゃ、とか、一目瞭然、とかさまざまな声が聞こえてくる。
「ありゃー、みんなこっち側かー、それじゃー賭けが成立しないわなー。誰か、グレンっち側に賭ける御仁はいないもんかい?。今なら大穴だよー。ちなみにデヴラっちは喋っちゃダメね。それ反則だから」
デヴラは無表情のまま、じっとこちらを見ている。どうやら約束を守るつもりらしい。
ルースはアズサを握っている逆の方の手を掲げ指を広げて、今ならこれだよ、と言って5本の指を掲げた。
だが、―――――大穴すぎて無理だわ〜、とか、―――――分が悪過ぎる、など似たような声が返ってきた。
それに対して不服だとでも言うようにルースと呼ばれた女性兵士は両方のほっぺを膨らました。
そしてその声に観念したのか、さも残念そうにため息をつくと、――――1人ぐらいカモがいないもんかね、と言って呆れるように肩を落とした。
グレンっちはどう?と聞くが、顔を左右に振るだけでその質問に答える素振りは見受けられない。
それからルースはアズサの方を向き直ると、
「それじゃ、私めルース少尉が答え合わせさせて頂きます」
と言って胸を張り、指を広げていた左手を空中で数回何かを握るような仕草をすると、
――――――――――突貫!―――――
と言って前方に手を伸ばし、アズサの胸に触れそこをやんわりと握った。
――――――――――っヘぁ――――?
という間抜けな声が、、誰かの口から出た気がしたが、ルースはそのまま数回指を握っては力を緩め、緩めては力を込めるを繰り返した。
――――間抜けな声だと思った。何だろう、まるで腹を膨らました蛙の腹を思いっきり手で潰した時に出るような、内臓の器官から無理矢理に出した音のようだった。
と思ったがそれが出たのはアズサ自身の口からだった。
アズサは視線をルースの顔から自身の胸に移動させる。そしてルースに握られている右手の握力に意識が向けられた。
ルースの握力はとても強くて咄嗟には引き剥がせないほどだった。逃げられない。
―――――瞬間、叫んだ!!
「きゃっ、あっっっ、えっっ、ええええええええ」
「あー、こらこら動かない、動かない。今はお姉さんが診断中なんでね。しばーし待ってね」
「えっ、いや、きゃっちょちょっと、辞め、止めてください言いいいい!!」
「うーむ、これは、、、包帯か何かを胸に巻きつけているな。うむ、悪い娘だ」
左手を握っては離すのをルースが辞める気配はない。そして右手を掴まれているから、どうしても逃げることは出来ない。
ルースの視線はそのままアズサの股の方に向けられていて、視線だけで次はそっちだと言っているようだった。
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