第13話 エースへの合流

「あの、待って下さい!自分たちはこれからエースの部隊に合流すると言うことでしょうか」


ガスコインはキョトンとした表情でミストリを見ると突然、ガハハ、と笑い、そうかもしれないな、と言うかさっきそう言われただろ、あんまり心配するな、大した役じゃないだろうから。


そう言って2人の肩を叩くと、司令部はあっちだぞと言って丘の頂上を指さした。


装備は一式持っていけ、それと行く途中にある黄色のテントで食量を配っているから、もしも腹が空いていたら貰っていけ、E08小隊だ、と言えばいくつか分けてもらえるはずだ。


そして、—―――――いいか俺には良いかもしれないが、司令部に言って無闇に質問なんかするなよ、と言って真剣な目を向けてきた。


軍隊って言うのはそういう場所だ、お前らのような下の者は上官に対して疑問なんてもっちゃいけないんだよ、と。


ミストリと2人、丘の中間にある黄色のテントで、先日ガスコイン軍曹から分けてもらったビスケットを受け取り、頂上の司令部を目指す。


ピクニックとも言えない15分程の道だが、先ほどまでスコップで土を掻いていたことと比べると、出征する前に生活していた村での休日と言えなくもなかった。


ただ眼下では剥き出しになった黒い土が一面に広がり、光景としてはあまり良いものではなかったが。


「ったく、俺たちどうなっちまうんだ。戦場出てきていきなりこれかよ。ガキの使いじゃないんだぞ」


ミストリはぼやきながらも先ほど貰ったビスケットを食べている。


「銃なんて一発も撃ってないし、来て寝て、穴掘ってるだけだぜ。まるでやってることは農奴だ。もうちょっと兵隊したいぜ」


まあお前さんはもう何発も撃ってるけどさ、とミストリは付け足してぼやいた。


「えっと――――、確かにラジオで聞いていたような英雄譚はまだなさそうだね。でも昨日の砲撃は村にいたんじゃ想像出来なかったな。あれだけでも僕の村の人たちは三日は話を聞きたがるよ」


アズサはこういっているが自身の言葉使いが正しいのか不思議になる。

意外と、男子がこういった言葉遣いをするものなのかいまいち実感が沸かない。


だが今のところ誰からも何も言われないことを考えると、間違ってはいないのだろう。


「お前の村も俺の村も似たようなもんだな。そんなのが嫌で俺は戦場に出てきたんだよ」


ミストリは靴の先端で地面を蹴る。土の飛沫が左右に飛び散る。


「いいか俺は武勲を立ててカッコイイ軍服着て、街で暮らしてんだ。あの退屈な村には帰りたくない。だから早く銃を振り回したいぜ」


アズサは思わず頭を掻いた。正直昨日の砲撃を身近に感じたからか、先頭を切って攻撃はしたくない。


「銃を使うかは分からないけど、少なくともエースの部隊に関われるのは間違いなさそうだね」


「まあ、そう考えると、今回のこの伝令は何かのチャンスかもしれねえな。敵地が目の前にあるんだ、潜入しろとか言われるとは思わないけど、何か特別な任務かもしれんぜ」


ミストリは一通りぼやき疲れたのか、少々興奮気味に言った。

ガスコインからは気楽にと言われたが、おそらくそんなに単純なものではないだろう。


ミストリの将来の夢とでも言えば良いのか、彼の独り言はその後も尽きることはなく、うんうん、とアズサは相槌を打ち続けていた、だが気がつけば丘の頂上に近づき、司令部の灰色のテントは目の前だった。


テントの周囲は人の二倍の身長はあるであろう木の柵で囲まれている。その見た目はどう見ても中途半端な木の柵で、急ごしらえであることを如実に物語っている。


入り口を探すようにその木の柵の周囲を二人して歩いていく。


すると近くの簡易的な木の柵で出来た検問所のような場所を発見し、数人の衛兵にここに来た理由を説明して、所属、来訪した理由を答える。


アズサがイゾルダ曹長からの指令だと答えると、門番は何かを考えた後、お前ら服の襟を見せろと言われた。


身分証として襟の裏に国旗が縫い付けられているのだという。それをルーペのような拡大鏡でマジマジと凝視された後、入ってよし、と言われ敷地の中に足を踏み入れた。


それで我々はどこに行けば良いのでしょうか、と衛兵に聞いてみたが、兵士たちも把握はしておらず、一旦あの1番大きなテントまでいけ、そこの門番に聞けば何か知っているのだろうと言うことだった。


敷地の中では自身の父に似た年齢の将校が数人タバコを吸いながら談笑していて、その横では、自身より少し上くらいの年齢の将校が忙しそうにいくつかの書類を手に持って走り回っている。


一際大きなテントの近くにいき、入り口に立っている衛兵に諸々を話す。


すると、それであればこのテントの奥にあるもう一つの方だな、こちらではない、と言って衛兵は親指を自身の後方に向け、すぐそこだ、急げよと二人に告げた。


言われたテントは真っ黒な重々しい印象のテントで、高さもそれなりにあり、少なくとも、アズサの村の最も大きい村長の建物よりは大きなものだった。


昔村の図書館で読んだ古代の先住民が移動放牧のために使用していたという組み立て式テントのようで、気の骨組みが剥き出しになっていて、厚みのある円盤型をしている。


ミストリと二人そこに向かおうと足を向けると―――――、


「おい貴様ら、一体何奴だ!」


――――――と後ろから声をかけられた。


思わず2人とも後ろを振り向く。

陽はもう夕方だ。振り向くと夕日が視界に入り、目を細めては逆光の中にいるその人物を視界に収める。


そこには金髪の少女が立っていた。

身長はアズサの肩ほどまでしかなく、着ている軍服は彼女に合っているものがないのかもしれない。多少袖の部分が長く、腕を伸ばすと指先しか袖の先から出ることはない。


年齢は自分たちよりも確実に下だろう。村にいたのであれば、まだ恋愛もしたことがないであろう年齢だった。

というかイゾルダもそうだが、この平均年齢の低さはいかがなものだろう。


「貴様たち、そこのテントに何用だ」


ミストリは彼女の軍服の襟章を見て判断したのだろう、すぐさま敬礼して

「はっ、我々はE中隊08小隊から来ました。よろしくお願いします!」と勢いよく、ガスコインから言われたことを一言一句違わず報告した。


自身も釣られて敬礼する。一足遅れで目の前の彼女の襟章を見ると青いボーダーの刺繍が入っている。少尉の位だった。


気付くのが少し、、遅れた。


ふむ、と言って目の前の少女が顎に手をかけると、アズサとミストリの周囲を一周した。

そして全体を隈なく観察すると、何かに納得したのだろう。

こっちだ着いてこいと言って手招きして、アズサたちの一歩先を歩き始めた。


少女の後を着いて行く途中、ミストリが耳打ちしてきた。


「あれも、今噂の女性兵士なのか?。あれ自身がこの国の――――」


「おい!」


少女は前を向きつつ不意に声をかける。ミストリの小声が聞かれていたのだろうか。


「はっ、はい!」アズサとミストリは思わず敬礼してしまった。


「この中だ。入れ。」と言って目の前のテントの入り口に垂れ下がっていた簾を手でかき揚げ2人を中に誘導した。


少女に目を奪われていたが、テントはすでに目の前だったのだ。

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