第12話 結果
全て撃ち終えると、背中から、ブラウン!という声がして、視界の右上端に缶が見えた。
灰色に近い空に缶が舞っている。自然と右腕が動いて次弾を装填する。
反射的に発砲する。
すると命中したのだろう、缶は空中で機動を変えて直角的な動きで奥へと吹き飛んでいく。
あと3発――――!!!
――――――声がする。
また自然と右腕が動き弾を装填する。その間も銃身は自然と缶を追いかけ続けている。腕が自然と追ってくれている。
ドン―――――!
空中で再び缶が躍動する。もはや缶の軌道の予測は付かない。
そこでライフルを投げ捨てる。
弾は先程で尽きた。重さがそれを教えてくれる。
腰のホルスターから回転式拳銃を抜き出し腰上で構え、瞬時に発砲する。
ドン―――――!
―――後1発――!
また後方から声が聞こえる。
それと共に、―――――バキン! と言う音とともに缶が真っ二つに裂ける。
二つの破片それぞれがまるで各々の好きな方向に進むとでも言うように不可思議な軌道を描いた。
缶はもはや自分の目の高さ近くまで落ちてきている。
思考はクリアに、脳の回転も追いつかないぐらいに早く、脊髄からの電気信号だけで体を動かす。
手先が自身を動かしてくれる感覚を忘れないように前に進む。
二つの対象に瞬時に狙いを定める。いや狙いを定めると言うのは正確ではない。
ただ手が動く方向に逆らわないようにするだけ。あとは―――――
ドン―――――!
一つ目を瞬時に射抜くと、レバーの上を右の掌で滑らせるように持ってくる。
そうするともう一つの缶の破片へと手が導いてくれる。
ドン―――――!
弾け飛ぶようにもう一つの破片も吹き飛んだ。
似たようなタイミングで二つの破片が地面に落下する。
癖で次弾を装填するためにレバーの上を滑らせる。
すると、後ろから ――良し!!!―――、と声を掛けられた。
はっ、と思い周囲を見渡す。
誰もがこちらを見ている。
隊の皆は全員が全員呆然としながらこちらを見ている。
ジュールに至っては、まるで遠い、そう川向こうにいる誰かを見ているかのような目でこちらを見ている。
パチパチパチと、イゾルダが手を叩いてこちらに近づいてくる。
「そうか、ブラウン、貴様はそのスキルで技能兵の位を勝ち取ったのだな。なんだ軍事教練所の教官などにはなれただろうに」
そう言うと、アズサが手から落としたライフルを拾い上げ、残弾を確認した。
だがアズサが思った通り、弾は残っていなかった。
それから、最初の4缶の時間は何秒だ?と叫ぶように聞く。時間を計っていた兵士からは4秒です、という声が聞えてくる。
「ふむ、だがどうして頼もしいことには変わりはないな」
そう言うと近くの兵に、このライフルを先程の借りた兵士に返しておいてくれと言って手渡した。
アズサは始まる前はやたら高鳴っていた心臓の鼓動が、今は既に静かになっていることに気づいた。
全てがある意味クリアで、遠くのどこかでなっている砲撃の音もやたら良く聞こえる。
「結論は出た」
そう言うと、イゾルダはジュールを呼びアズサの隣に立たせた。
「ブラウン、今回は貴様を我が隊に招聘する。ジュール伍長も素晴らしかった。だが結果は見ての通りだ」
イゾルダから手を差し出されて、アズサはその手を握る。
少女らしい小さな手だった。発育期らしい可愛らしい小さく綺麗な爪が陽に当てられてキラリと光る。
すると自然と周囲から拍手が起こった。周囲を見つつ、ガスコイン軍曹を見ると、やれやれと言った様子でため息をつきながらも笑いながら拍手してくれていた。
他の隊員も同様に笑いながら拍手している。
だがジュールはといえば、拳を握りしめ何かに耐えるように歯を食いしばっているようだった。
「それでは、後ほどミストリと共に我が部隊のテントまで来い。そこで色々と説明する」
軍帽を正すと、イゾルダはでは後ほど、と言ってその場を離れていった。
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