第11話 アズサの実力

「おい、どうした。さっさと準備せい」


イゾルダはアズサの若干の変化に気づいたのか、あえて声を大きめに出した。


目の前の赤毛の兵士は、あの生け簀かない貴族ぼっちゃまの射撃を見て動揺したのだろうか、少し呆けた目で先にあるターゲットの缶を見つめている。

30m先では兵士が新しい缶を配置し直していて、準備が出来たのだろうこちらに向かって手を振って合図をしている。


声をかけられたブラウンという兵士は何かに気づいたように、あたりに視線を這わせると、近くのテントを巡回していた兵士に駆け寄っていった。


そしてこちらを見ながら手でこちらを指し示し、何事か話すとその兵士が肩から下げていたライフルを借り受けて走ってこちらまで戻ってきた。


「なんだ、貴様、ライフルならこちらが用意したのだがな」

「いえ、あの、ちょうど使いやすそうなライフルがありましたので、借りてしまいました」


そう言ってこちらに視線を送りながらも、手では持っているライフルの機構を確認している。


「それで、準備の方はどうだ。もう出来そうか?」


ブラウンはライフルのボルト部分を仕切りに動作を確認している。ガチャ、ガチャと何度も金属が触れ合う音が響く。


「あっ、はい。大丈夫そうです」


そう言うと、ブラウンは両手でライフルをしっかりと持って、先程イゾルダが引いた線まで行き、配置についた。


緊張しているのだろうか、仕切りに深呼吸をしている。


それを数回繰り返すと覚悟を決めたのだろう、前方の缶をジッと見据えて息を吐き、大きく吸った。

ゾルダはブラウンの背中についているワッペンを見る。特殊技能兵の黄色のストライプが太陽の光に触れてキラキラと瞬くように見える。


兵士の資質には欠けていそうだな。

それがイゾルダのブラウンと呼ばれる兵士の第一印象だった。

確かに勇敢ではあるかもしれない、だがそれは単純にプロパガンダとしての我々を勘違いしての物見遊山の可能性だってある。最近ではそう言った輩が後を立たないのも事実だ。


そういう奴は戦場に出たことのない新兵に特に多い。本当に戦場を知っているものは、この部隊に立候補するなんてことは確実にないだろう。


だがまあ、募集したのはこちらだからな、そこは見てやらねば、、とも思う。

ジュールは生け簀かないが、まあ技術は悪くない。

それに奴はまだデアランを使用していない。それを考えるとまあ、奴の方が優勢ではあるな。


「準備が出来たのならば始めるぞ」

「は、はい!了解しました!――――お願いします。」


ブラウンは缶に狙いをつけ射撃体制に入る。

旗を持つ右手を上に掲げる。


「時間を測れ、それでは―――――」


―――――始め!!―――


声を出して、手を下に思いっきり振る。


レッツわっしょいと書かれた旗がたなびく。



ドン――――――!!


ライフル特有の重い音が響く。


初弾は命中。綺麗に缶は吹き飛び、机の上から一瞬にして消え去った。


ドン――――――!!


二発目も即座に発射され、綺麗に缶の中央を射抜いた。


その時イゾルダはブラウンの手捌きに一瞬見惚れた。

純粋にその所作が美しいと思った。

まるで流れるような仕草からの次弾装填。

レバーを上げ、手前に引き、それから逆再生のように滑らかな手捌きでボルトを元に戻していく。


銃身の先端は綺麗な半円を描くように左から右に流れて行き、まるでブリキのおもちゃがゼンマイ仕掛けで動いたように、無駄のない軌道だった。


ドン――――――!!


三発目も綺麗に缶を射抜く。



――――――風よ―――――!


心の中で静かに唱える。

イゾルダは指の先端に力を込める。そしてこの射撃が始まる前から準備していた力を開放する。


すると先程のジュールの時と同様に急激な突風が辺りを覆った。砂埃も舞い、先程と同様に皆が顔を覆う。


これでどうだろう、とイゾルダはブラウンを見た。


先程のジュールの時と同様に少し風を出したのだ。


―――――中尉からは、遊んではいけないとは言われていたが、少しの茶目っ気ぐらい許されるだろう。



だが――――――。



ドン――――――!!



それにも構わずブラウンは発砲した。

それは先程のジュールも同様だったが、それにしてもジュールの時と違い一片の迷いもなかった。

そのまま先程と同様にブリキのゼンマイだった。


風が通り過ぎると先にある机の上には綺麗に全ての缶がなくなり、下に落ちていた。

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