第11話

 クソッ! 迂闊だった!


 体育倉庫に誰も来ないよう、見張りでもさせていたんだろう。執事服姿の男が近付いて来る。


「ヨーゼフ! こいつを捕まえて!」


 私の足首を掴んだままカミラが叫ぶ。ヨーゼフと呼ばれた男の手が伸びて来た。もうラインパウダーは使い切った。万事休す。あぁ、ここまでか...私が諦め掛けた時だった。


「おいっ! お前ら! なにをしている!」


 この声はキース様! 体育倉庫に飛び込んで来たキース様は、まずヨーゼフを殴り飛ばして気絶させ、更に破落戸どもをあっという間に一網打尽にした。


 その間、私も暴れるカミラを後ろから馬乗りになって拘束した。

 

「クソッ! この汚ならしい平民が! 私に触るんじゃないわよ!」


「やかましいわっ! 今はあんたもその平民だろうがぁ! 偉そうにギャンギャン吠えるんじゃねぇ! この勘違い女がぁ!」


 あまりにも腹が立ったので、後頭部を殴り付けてやったら、やっと静かになった。すると、


「お見事」


 とキース様がとても良い笑顔でそう言った。



◇◇◇



 その後すぐに、マリク殿下が学園の警備員を伴って現れ、カミラ含む一味を全員を拘束した。


「リリアナ、良かった! 無事だったんだね!」


「はい、あの、どうして私がここに居ると分かったんですか?」


「学園に外部の者が侵入したって聞いてね。もしかして君が狙われているのかも知れないと思って、キースと一緒に真っ先に君のクラスに行ったんだ。そしたら体育の授業の後から姿が見えないって聞いて、ここじゃないかと思ってキースに先行して貰って、僕はその間に警備員を呼びに行ったんだ」


「そうだったんですね。マリク殿下、そしてキース様、本当にありがとうございました」

 

「いいってことよ! 気にすんな!」


「君が無事で本当に良かったよ」


 こうして私はまたもこのお二人に助けられた。ありがとう。心より感謝申し上げます。



◇◇◇



 その後の取り調べで、カミラは父親から廃嫡を言い渡された後、修道院に送られる途中で、ヨーゼフの手引きにより脱走したこと、ヨーゼフとはただならぬ仲だったことなどが判明した。


 また、カミラ達を学園に引き入れた協力者は、アマンダだったことも判明した。彼女は退学処分になった。カミラ達は平民ということで普通に裁判に掛けられる。良くて国外追放、悪ければ絞首刑も有り得るとのこと。特にカミラは謂わば執行猶予中の再犯ということで情状酌量の余地は無いそうだ。


 当然だ。厳罰に処して欲しい。二度も怖い目に合わされた私は切にそう願う。


 しかしこれで大司教子息ルートも消えた訳だ。しかもついにこのルートでは、悪役令嬢にも大司教子息とも顔を合わすことなく終わったという異例? とも言える展開になった訳だが、ストーリーとしてはこれでいいんだろうか?


 まぁそれはともかく、これで残りのルートは一つだけになった。さすがにもう生き延びることは確定したんじゃないだろうか? それともまだ楽観は出来ないんだろうか?


 そんなことを考えながら歩いていたら、意外な人物に声を掛けられた。


「リリアナさんだったわね。ちょっとよろしいかしら?」


「か、カトリーナ王女殿下!?」


 えっ!? 王女殿下がなんで私に!?

 

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