第6話

 新しくなった倉庫の内部は、思っていたよりも整然としていた。


 奥の方に懐中電灯を向けると、車輪の部分が黒ずんでしまっている台車や、クッション部分の破れたパイプ椅子がまるで自分たちの居場所を追いやられてしまったかのように隅に置かれている。けれど逆に言えば、整頓されていない箇所はそこくらいのものだった。


 倉庫の側面には、細かく区切られたいくつもの棚が向かい合うように、壁に沿って端まで並べられている。それはまるで本棚が壁一面に敷き詰められた図書館のようで、ほんの少しだけ壮観でもあった。


 並べられた棚には大きなクリアケースや未開封の段ボール箱、何に使うのか見ただけでは分からないような器具が詰められており、それぞれの棚にはアルファべットと番号が記載された紙が貼られている。どのように分類されてるのか、僕たちは知る由もない。


 けれど、備品が整理されていたことに加え、彩葉がタイムカプセルの形を覚えていたこともあって、それを見つけるのにそこまでの時間は要さなかった。


「─これ、かな」


 僕の片腕を伸ばしたくらいの長さの、ステンレス製の円筒。分断された電柱のようにも、巨大な乾電池のようにも見えるそれの表面には、ご丁寧なことに格式の高い書体で僕たちの卒業年度とクラスが印字されていた。


「うん、それだね」


 棚の奥から慎重にそれを引っ張り出し、そっと倉庫の床に置く。見た目は重いように見えるが、とても軽かった。ただ、鍵穴や錠のようなものは付けられていないものの、開け方が分からない。


 僕と彩葉は揃ってしゃがみ込み、いったいどのようにしたらこのタイムカプセルは開くのか、ということをしばらく話したが、結局はペットボトルのキャップを開けるように開口部を両手で回すと難なくそれは開いた。生徒たちの想いが込められている割には、拍子抜けするくらいに簡素な作りだ。


 中を覗いてみると、ガチャガチャのカプセルとほぼ同じ、半透明のカプセルがいくつも詰め込まれている。腕を突っ込んで適当なものをひとつ取り出してみると、こちらの容器にもラベルが貼られており、そこには黒いマジックペンで氏名が記載されていた。


 鷹野一季。


 少し掠れた文字で書かれていたのは、僕の名前だった。


「それ、一季のじゃん。家に帰ったら読ませてよ」

「持って帰るの?」

「もちろん。─探せば私のもあるよね。いい?」

「自分で探す?」

「うん」


 そう言われて、僕は彩葉にタイムカプセルをゆっくりと渡した。


 彼女は懐中電灯を手元で灯しながら、中に入っているカプセルをひとつずつ取り出していく。自分の物がなかなか見つからないのか、こと、こと、とクラスメイト達のカプセルが次々と、無造作に床に置かれていく。


 そろそろ聞いてもいい頃合いかもしれない。彼女を見つめながら、僕は口を開く。


「彩葉」

「ん?」


「─確かめたいことが何か、教えてもらっていいかな?」

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