チコと私とデシジョン
チコとデシジョン
彼は、疲れ果てているようだった。彼から話をしてくれるまで、何も聞かないでおこうと決めた。
帰りの電車は、ほとんど無言だった。たった一言「今日は泊めてくれないか?」と言う言葉以外は。私は、頷いて返事をしていた。
「ねぇ、チコ、会議で一体何が話し合われたんだろう?」
「彼が、話してくれるのを、待つしかないね。」
家に着くと、「悪いんだけど、少し頭を整理する時間をくれないか?」細々とした声で言った。
「じゃあ、お風呂に入って考えてみたらどうかしら。」
風呂は、携帯で操作ができるタイプに改造していた。いつも通り、帰ったら沸くようにセットしていたのだ。
「ありがとう、そうさせて貰うよ。」
「チコ、彼、大丈夫かなぁ?」
「とりあえず、話を聞せてもらおうよ。」
私は彼を気にしながらも、夕飯の準備をしていた。今日は、軽めの方がいいだろうと、サラダと、サーモンマリネのタコスにした。まだ食べられそうだったら、それから作ってもいいと思った。
暫くして、彼が、風呂から上がった。
私は、「食欲があまりないと思って軽めにしたんだけど、よかった?」と聞いた。
彼は「うん、気を使わせてごめんね。話は、長くなるから、ご飯が終わってからにしよう。と食事中は、あまり中身のない話をした。
食事が終わり、後片付けも一段落した。
彼が「お風呂も済ませて来てくれないか。」と言った。
「チコ、彼は、何を話すんだろう?」
「……」
「上がったよ」と言いながら彼の元へ。
彼は、「君も社員だから、口止めはされてるんだけど、君は、誰にも言わないって信じているから、話すね。」
「よっぽどの事なのね。分かった、誰にも話さない。」
彼は、今日の会議で起こった事を、全て話してくれた。
「何それ、会社の横暴じゃない。しかも、自分たちの事は何も言わないなんて!」
「それが、会社組織なのかも知れないね。」
「でも……」
「だから、よく聞いて欲しい。僕は、確実に降格か出向になる。現実問題、給料も減るだろう。そんな僕が、嫌になったら正直に言って欲しい。」
「考えるまでもないわ、どんな結論が出ようと、私はあなたとは、別れないからね。」
「ありがとう、本当は、よく考えてって言わなきゃならないんだろうけど、今は君のやさしさに甘えるよ。」
「あなたこそ、考えすぎないでね。」
「ありがとう」
次の日の朝、彼は帰って行った。
「チコ、大変な事になっちゃった。」
「うん、でもあなたは、しっかりね。
2週間後、彼の言っていた通り、国税庁の調査が入った。その期間中は、通常業務もままならなかった。
次の週から、これも彼が言っていたように、企業プランニング部の人切りが始まった。
その1週間後、掲示板に本社全員分の人事異動通知が張り出された。基本、企業プランニング部の人以外はそのままだったが、中には、移動になる者や、退社を余儀なくされたものまでいた。退社をしていった者の穴埋めに元企業プランニング部の人間が入っていた。
幹部は、社長が解任、副社長が常務に降格、常務は、副常務と言う新しいポジションを新しく作ってそこに名目上降格していた。社長と副社長は、外部から来るらしい。
私は、何故か、庶務一課のグループリーダーにちょっとだけ昇進していた。
「チコ、素直に喜べないよ。」
「そうでしょうね、みんな色々大変みたいだもんね。」
「うん、それに、彼の事もあるし。」
それからさらに1週間後、彼の人事が決まった。
空白になっていた、本社総務部主任だった。
移動は、2週間後との事だった。
彼は、人事が決まった次の土日を使って、私の家に来ていた。
人事が決まって、すぐ、改まった感じで「話があるから、次の土日、空けておいてくれないか」との事だった。
「僕の考えを言う前に、君の意見が聞きたい。」と言われたので、正直に答えた。
「私は、あなたが帰って来てくれたら、とても嬉しいわ、でも、複雑なの。あなたは、果たしてそれで納得するのかしらって。あなたが嫌な事は、私も嫌だわ。だから、嬉しいけど、手放しでは喜べない。これが本音。」
「ありがとう、僕は今、正直悩んでいるんだ。降格になる事は覚悟していたけど、2つも落ちるとは、その分、本社勤務なんだろうけど、ただ、直接の上司になる係長は、僕の同期なんだ。」
「それは、知っているわ、だからこそ、私も複雑なの。」
「会社を辞めようとも思ってる自分もいるんだ。」
「うん。」
「でも、君は、僕が納得して本社に戻ったら、喜んでくれるんだよね?」
「当たり前じゃない。」
「分かった、明日、僕が帰る時に答えを言うよ。それまで待っていて。」
「うん、いいよ。」
「これでいいんだよね、チコ。」
「うん、これでいい。」
次の日が来た。彼は、夕方帰るらしい。その日は、全てを忘れるようにデートを楽しんだ。
そして帰りの新幹線のホームで答えを言ってくれた。
私とデシジョン
会社帰りの途中で、携帯が震えた。彼からのLINEだった。
たった2行の文字に、何か、大変な事が起こったんだなと悟った。
「はい」とだけ返事を打って、後は彼からの連絡を待つ事にした。
次の日の出勤前、彼から、「今から帰るよ、昨日はごめんね。」と電話があった。
私は「お疲れ様。今日は会社に寄るの?」
「うん、一応出張扱いだから、帰りには出社しなくちゃ。」
「そう、じゃあ、気を付けて帰って来てね。」
「ありがとう。」と電話を切った。
その日私は、会社を少しだけ早上がりさせて貰った。そして、お風呂を沸かし、食事を用意して彼の帰りを待った。
インターフォンが鳴った。
私は玄関まで彼を迎えに行った。
「お帰りなさい。」
「ただいま。」
彼は、まだ疲れた様子だった。よっぽどの事があったんだなと思った。
私は「お風呂沸いてるから、入る?」
彼は「助かる。ありがとう。」と言って風呂に入った。
一体本社で何があったんだろう?
暫くして、彼が、風呂から上がった。
私は、「食欲があまりないと思って食事は軽めにしたんだけど、よかった?」と聞いた。
彼は「うん、気を使わせてごめんね。話は、長くなるから、ご飯が終わってからにしよう。と食事中は、あまり中身のない話をした。
食事が終わり、後片付けも一段落した。
彼が「お風呂も済ませて来てくれないか。」と言った。
「上がったよ」と言いながら彼の元へ。
彼は、今日の会議で起こった事を、全て話してくれた。
「何それ、会社の横暴じゃない。しかも、自分たちの事は何も言わないなんて!」
「それが、会社組織なのかも知れないね。」
「でも……」
「だから、よく聞いて欲しい。僕は、確実に降格か出向になる。現実問題、給料も減るだろう。そんな僕が、嫌になったら正直に言って欲しい。」
「考えるまでもないわ、どんな結論が出ようと、私はあなたとは、別れないからね。」
「ありがとう、本当は、よく考えてって言わなきゃならないんだろうけど、今は君のやさしさに甘えるよ。」
「あなたこそ、考えすぎないでね。」
「ありがとう」
彼の会社は、彼の言った通りになっているようだ。
テレビでも、よく報道されていた。
それから2週間程経った頃、彼の人事が決まった。
それは私にとっても、衝撃的なものだった。
本社総務部主任だった。
移動は、2週間後との事だった。
彼は考える時間が欲しいと言った。
それは、私も同様だった。
それから、3日程過ぎ、お互いの考えを話し合った。
彼はいまだに複雑な気持ちでいると言った。
「僕は今、正直悩んでいるんだ。降格になる事は覚悟していたけど、2つも落ちるとは、その分、本社勤務なんだろうけど、ただ、直接の上司になる係長は、僕の同期なんだ。そして、何より大きいのは君と離れなければならない。だから、会社を辞めようとも考えているんだ。」
「私も複雑だわ。あなたと別れるって考えただけで涙が出そうになる。でも、今の仕事も前と比べて、やりがいが、けた違いにあるの。
ただ、私は、あなたが、どんな地位でも、どこで勤めていても絶対に別れない。決して遠距離になっても。」
こういったやり取りを数日話し合った。
その頃テレビでこんな報道もされていた。
幹部は、社長が解任、副社長が常務に降格、常務は、副常務と言う新しいポジションを新しく作ってそこに名目上降格していた。社長と副社長は、外部から来るらしい。
ようやく彼は、結論を出したようだ。
その日は、全てを忘れるようにデートを楽しんだ。
そして、家に帰ると、その答えを言ってくれた。
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