シンと僕とプレモニション

   シンとプレモニション


  プランニング課の課長になって半年が過ぎたある土曜日、僕は休日出勤をしていた。朝一番のルーティーンでメールチェックをしていると、そのほとんどが、特に問題の無い、業務連絡だった。ただ一つを除いて。


 それは、本社からだった。タイトルは”緊急事案” 

 内容は”次の木曜日、午後1時、本社第一会議室に集合する事。”だけだった。

 CCを見てみると、全営業所の、プランニング課課長全員が、対象になっていた。

 「緊急事案って何だろう?シン。」

 「そんなの分からないよ。」


 その日の仕事が終わり、家に帰ると、彼女が夕食の仕込みをしていた。

 「先に、お風呂入っちゃってくれないかなぁ、その間に、作るから。」という事だったので、先に風呂に入った。

 湯船につかりながら、もう一度、あのメールが、どういう事か、考えていたが、いくら考えても何も思いつかなかった。

 シンも「分からない事を、いくら考えても仕方無いよ。」と言っていた。


 風呂から上がると、夕飯が、食卓に並んでいた。

 食事をとりながら、彼女と会話をしていた。最初は、他愛のない話だったが、あの話題を出してみた。

 「今朝、会社に行って、メールチェックしていたら、本社からの受信があって。」

 「なんて?」

 「来週の木曜日に本社に呼ばれたんだ。」

 「特に、不思議な事じゃないじゃない、何か、気になるの?」

 「うん、タイトルが”緊急事案”ってなっていてCCに、全営業所のプランニング課の課長の名前があったんだ。」

 「それは、確かに気になるわね。」

 「まぁ、とにかく、木曜日は本社だから、帰りは、遅くなるか、泊まりになるよ。」

 「うん、分かった。」


 それから月曜日まで彼女も、気になっていたのか、いろいろ本社の事を調べてくれたみたいだ。昔の同僚や、先輩に聞いてくれていたらしい。

 言いにくそうだったが、「詳しい事は、何も分からなかったんだけど、会社にとって、あまりよくない事が起こるかも知れないみたい。」と教えてくれた。

 僕は「調べてくれてたんだね、ありがとう。覚悟して本社に乗り込むよ」と答えていた。

 「不安だけが大きくなったよ、シン。」

 「分かるけど、調べてくれた彼女の為にも、堂々としてなよ。」


 水曜日の夜、彼女は、少し早く帰れたらしく、ハンバーグを作ってくれていた。

 「美味しそうだね、いただきます。」と言って、少し多かったが、残さず食べた。


明日の話になり、「行ってみなければ分からない」と言う当たり前の結論で会話が終わった。


 木曜日になり、朝6時頃に家を出た、もう少しゆっくりでもよかったのだが、早めに行って、仲のいい同僚と挨拶をしたかったのと、今の本社の雰囲気を見ておきたかったのだ。

 彼女は、「行ってらっしゃい、どういう内容だったのか分かったら連絡してね。」といって送り出してくれた。

始発の新幹線に乗り東京へ向かった。

 「出来るだけ、平常心だよ。」とシンが言った。

 「わかってる。」


11時半過ぎに時前に本社に着いた。

 本社時代、親しかった同僚と挨拶をして回った。

 確かに、見る限り役員と呼ばれる人たちは、何か様子が違って感じた。

 

 いよいよ昼休みも終わり、集合時間になった。各営業所のプランニング課の課長が一堂に会した。僕は、最年少だった、しかも、年齢差も少なからずあった。

 「シン、やっぱり緊張して来たよ」

 「緊張は仕方ない、ただ出来るだけ冷静にね。」


 会議室の奥の方は、役員たちの席だった。

 その中でも、一番奥に座っている社長が、「今日集まって貰ったのは他でもない。」


 いよいよ会議が始まった。

 

 「ここに集まってくれたみんなには、言いにくい話なのだが、この度、国税の調査が入る事になった。詳しい事は、副社長と常務からの話を聞いて欲しい。」

 「シン、どういう事だろう。」

 「とにかく今は、話を聞くしかないよ。」


 次に副社長が、口を開いた。「大変言いにくい事なんだが、この会社は、ここ数年粉飾決算をしている。以前から目を付けられている事は分かっていたので、その証拠となる帳簿を各営業所に、隠したのだが、どうやら、そのうちの、どこかの営業所からの内部告発で、国税の耳に入ってしまった。」

 「シン、もしかしたら、1年ほど前、彼女が仙台に持ってきた極秘書類の事かな?」

 「おそらくそうだと思うよ、わざわざ郵便さえ使わず、手渡しにまでしたのだから。」


 副社長は続けて言った。「国税が調査に入るのは、2週間後、だがもう内部リークで粉飾は発覚しているのだから、会社としては、大きな改変を行わなければならない。つまり、会社の規模を縮小、もしくは、売却、と言う事が現実的だろう。

 そこで、私たちは、大幅な企業縮小の決定をした。もちろん、上層部の数名も責任を取る事になる。ここからは、常務の話を聞いて欲しい。

 「シン、どういう事だろう?」

 「話を聞いてみようよ。」


 今度は、常務が話始めた。「上層部の責任問題は、秘密保持のため、君たちにも言えない。」ここまで来て、会場が、少しざわついた。「静かに聞いて欲しい。ここからの話も、この部屋にいない者には他言無用で願いたい。当社は、みんなも知っているように、都市インフラ、総合企業プランニング、人材派遣の三本柱でやって来た訳だが、そのうちの、総合企業プランニング事業の撤退を決定した。そう、君たちの部門だ。」

 「シン、さっきから、この人たち勝手な事ばかり言ってないか?しかも何故あんなに偉そうに話せるんだ。」

 「うん、僕もそう思うよ、でも怒りをぶつけるのは、話を最後まで聞いてからにしないか?」


 常務が続けた。「ついては、本社のプランニング部、および各営業所のプランニング課を解体し、他部署への振り分けをするのだが、約半数の人間に、自主退社を願いたい、もし、従わないものがいれば、残念ながら解雇処分となる。君たち8人については、降格もしくは、関係子会社への出向をして貰う事になる。私たちも非常に残念だが、これは、決定事項なので、もう覆る事はないと思ってもらいたい。

 各辞令は、役1か月後を目安にに発令します。なお、反論もあろうかと思うが、各営業所に帰り、文書で提出してください。」

 「くそっ、問答無用かよ。シン!」

 「うん、そうみたいだね。」


  その時、「ちょっと待って下さい。」と関西営業所の課長が、立ちあがり、「文書以前に人として話をしましょう。無念ですが会社の失態は、我々一人一人の失態と思う事にしましょう。ただ、リストラされる者たち、ひょっとしたら、私も含まれるかもしれませんが、説得は、本社の方でお願いしたい。各営業所の皆さんは、どうですか?」思うところはあったが、僕を含め7名も同意の意志を固めた。

 「シン、もう仕方ないよな。」

 「そうだね」


 関西営業所の課長は、続けた。「これだけは、本社の責任としてしっかりやって貰いたい。聞いてもらえないなら、私1人でも出る所に出ます。」


 役員たちは、何やら相談していたが、「分かった、約束しよう。」と言って会議は終わった。


 僕は疲れ果て、彼女に、「今日泊まって帰ります。詳しい事は明日話します。」とLINEを打っていた。

 

 

 僕とプレモニション


 その日は、土曜日で、休日出勤をだった。朝一番のルーティーンでメールチェックをしていた。

 ほとんどが、特に問題の無い、業務連絡だった。ただ一つを除いて。

 それは、本社からだった。タイトルは”緊急事案” 

 内容は”次の木曜日、午後1時、本社第一会議室に集合する事。”だけだった。

 CCを見てみると、全営業所の、プランニング課課長全員が、対象になっていた。

 

 僕は、休日出勤をしている事もあったので、自分のデスクで彼女に連絡を取った。

 

 「どうしたの?」と彼女が聞いて来た。

 「来週、本社に行く事になったんだけど、水曜日の夜ってそっちに行けたりする?」

 「もちろんいいけど、昨夜の電話では何も言ってなかったじゃない?」

 「うん、さっき、休日出勤で、会社に来たら、昨日の夜遅い時間に受信した、本社からのメールで、僕の出張の件が入っていて。」

 「そうだったの、て言う事は、会社には、木曜日に呼ばれたって訳ね。」

 「そう、何だろう、メールの本文には、”緊急事案”とだけ書かれてあるんだ。

 各営業所からも呼ばれてるみたいだし。それも、プランニング課の課長だけなんだ。」

 「それは、気になるね。う~ん、何だろう?とにかく、水曜日はOKだから、うちに帰って来てね。」横でのアル鳴き声が聞こえた。


 月曜日の夜、彼女から電話がかかって来た。本社に出勤した彼女も、気になっていたのか、いろいろ調べてくれたみたいだ。同僚や、先輩に聞いてくれていたらしい。

 言いにくそうだったが、「詳しい事は、何も分からなかったんだけど、会社にとって、あまりよくない事が起こるかも知れないみたい。」と教えてくれた。

 僕は「調べてくれてたんだね、ありがとう。覚悟して本社に乗り込むよ」と答えていた。

 

 不安はますます大きくなったけど、色々調べてくれて、言いにくい報告までしてくれた彼女の為にも、少しは、平常心でいようと思った。


 水曜日、仕事が終わり、僕は、午後6時時半過ぎの新幹線に乗っていた。彼女の家には午後8時過ぎに着いた。

 遅めの夕食を摂りながら、彼女とは、会えなかった時間の事をお互いに話したりしていたが、お互いいつものような明るさは無かった。

 

 次の日、朝彼女と一緒に出勤をした。もう少しゆっくり出てもよかったのだが、

中のいい同僚と挨拶をしたかったのと、今の本社の雰囲気を見ておきたかったのだ。

 それに何より彼女が嬉しそうだった。

  

本社時代、親しかった同僚と挨拶をして回った。

 確かに、見る限り役員と呼ばれる人たちは、何か様子が違って感じた。

 

 いよいよ昼休みも終わり、集合時間になった。各営業所のプランニング課の課長が一堂に会した。僕は、最年少だった、しかも、年齢差も少なからずあった。

 

 会議室の奥の方は、役員たちの席だった。

 その中でも、一番奥に座っている社長が、「今日集まって貰ったのは他でもない。」


 いよいよ会議が始まった。

「ここに集まってくれたみんなには、言いにくい話なのだが、この度、国税の調査が入る事になった。詳しい事は、副社長と常務からの話を聞いて欲しい。」


 えっ、どういう事だ。僕は声が出そうになった。


 次に副社長が、口を開いた。「大変言いにくい事なんだが、この会社は、ここ数年粉飾決算をしている。以前から目を付けられている事は分かっていたので、その証拠となる帳簿を各営業所に、隠したのだが、どうやら、そのうちの、どこかの営業所からの内部告発で、国税の耳に入ってしまった。」


 おそらく、彼女が1年ほど前に届けた書類だろう。確か極秘だとか言ってたしな。


 副社長は続けて言った。「国税が調査に入るのは、2週間後、だがもう内部リークで粉飾は発覚しているのだから、会社としては、大きな改変を行わなければならない。つまり、会社の規模を縮小、もしくは、売却、と言う事が現実的だろう。

 そこで、私たちは、大幅な企業縮小の決定をした。もちろん、上層部の数名も責任を取る事になる。ここからは、常務の話を聞いて欲しい。

 

 今度は、常務が話始めた。「上層部の責任問題は、秘密保持のため、君たちにも言えない。」ここまで来て、会場が、少しざわついた。「静かに聞いて欲しい。ここからの話も、この部屋にいない者には他言無用で願いたい。当社は、みんなも知っているように、都市インフラ、総合企業プランニング、人材派遣の三本柱でやって来た訳だが、そのうちの、総合企業プランニング事業の撤退を決定した。そう、君たちの部門だ。」

 

 何を偉そうに言ってるんだ、こいつは!


 常務が続けた。「ついては、本社、プランニング部、および各営業所のプランニング課を解体し、他部署への振り分けをするのだが、約半数の人間に、自主退社を願いたい、もし、従わないものがいれば、残念ながら解雇処分となる。君たち8人については、降格もしくは、関係子会社への出向をして貰う事になる。私たちも非常に残念だが、これは、決定事項なので、もう覆る事はないと思ってもらいたい。

 各辞令は、役1か月後を目安にに発令します。なお、反論もあろうかと思うが、各営業所に帰り、文書で提出してください。」

 

 問答無用って訳か。


  その時、「ちょっと待って下さい。」と関西営業所の課長が、立ちあがり、「文書以前に人として話をしましょう。無念ですが会社の失態は、我々一人一人の失態と思う事にしましょう。ただ、リストラされる者たち、ひょっとしたら、私も含まれるかもしれませんが、説得は、本社の方でお願いしたい。各営業所の皆さんは、どうですか?」思うところはあったが、僕を含め7名も同意の意志を固めた。もう、仕方がないのだろう。

 

 関西営業所の課長は、続けた。「これだけは、本社の責任としてしっかりやって貰いたい。聞いてもらえないなら、私1人でも出る所に出ます。」


 役員たちは、何やら相談していたが、「分かった、約束しよう。」と言って会議は終わった。


 帰りは彼女と一緒に帰った。

 疲れ果て、「今日は、泊めてくれないか」と言っていた。






 


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