チコと私とプレモニション

   チコとプレモニション


 彼とのわだかまりも、解決し、暫く平穏な日々を過ごしていた。

 長距離恋愛にも随分慣れてきた気もする。

 「ねぇチコ、最近、変わった事が無いね。」

 「いい事あったじゃない。彼の人事異動!」

 「そうね、でもそれも半年も前の話じゃない。それに、離れているから実感がわかなくてね。でも、ささやかな噂通り本社に復帰出来たら、嬉しくて踊り出すかもね。」


 初春の日差しが優しい土曜日の朝だった。携帯が震えた。彼からのLINEだった。

 「今、電話出来る?」と言うメッセージだった。私はそのまま、受話器のマークをタップし電話に切り替えた。ワンコールで彼が出た。「どうしたの?」と私が聞くと、「来週、本社に行く事になったんだけど、水曜日の夜ってそっちに行けたりする?」

 「もちろんいいけど、昨夜の電話では何も言ってなかったじゃない?」

 「うん、さっき、休日出勤で、会社に行ったら、昨日の夜遅い時間に受信した、本社からのメールで、僕の出張の件が入っていて。」

 「そうだったの、ていう事は、会社には、木曜日に呼ばれたって訳ね。」

 「そう、何だろう、メールの本文には、”緊急事案”とだけ書かれてあったんだ。

 各営業所からも呼ばれてるみたいだし。それも、プランニング課の課長だけなんだ。」

 「それは、気になるね。う~ん、何だろう?とにかく、水曜日はOKだから、うちに帰って来てね。」

 タイミングよく、アルが「ミャー」と鳴いた

 それが聞こえたのか、「ははっ、待っていてくれて嬉しいよ。」と言って、彼は電話を切った。


 月曜日、会社に出勤すると、やはり何やら、雰囲気がおかしい、何が?と聞かれも”感”としか言いようが無いが、上層部が、バタバタしている気がする。

 庶務課、特に私がいる庶務一課は噂話の宝庫だった、しかも、ほぼ確実な。

 その私が知らないとなると、一切外部には漏らしていないという事だ。

 しかも、上層部のバタバタしている噂だけで内容が全く分からないなんて、あまり無い事だった。間違いなく、会社の上層部は何かを隠していると実感した。 

 いよいよ気になる。大事にいたらならなければいいのだが

 なんか、嫌な予感がして来た。

 「チコ、どう思う?」

 「う~ん、今の所分からないわね。何か、ヒントにでもなるものでもあればねぇ。」

 「ヒントかぁ、う~ん、当たって砕けてみるか!」


 以前新人研修でお世話になった、総務部のお局様。社内の事なら、大概この人に聞けばわかると言われている。私はこの人に聞いてみようと決めた。

 しかし近寄りがたい雰囲気をこの人が纏っていた。それが、私の決心を鈍らせていたのだ。

 私は、勇気を振り絞って「あのぅ、ちょっと聞きたいことがありまして。」と思い切って、話し始めた。「何かしら。」と、お局「何か、会社がばたついてるなぁと思いまして、何かご存じないでしょうか?」と聞いてみた。

 「やっぱりみんな気付いてるみたいね、でも、今回は、私にも分からないのよ。ただ、会社にとっては、よくない事みたいね。」

 「そうですか、よくない事ですか?」

 「私が言ってたって事は内緒にしててよ。」

 「もちろんです。それより何より、このこと自体誰にも言いません。」と言い、総務部を後にした。

 「チコ、どうしよう。よくない事だって。」

 「何が起こるんだろうね。」


私は、悩んだが、その日家に帰ってから、彼が来る前にこの事を彼に連絡した。

 「ありがとう、覚悟して、本社に、乗り込むよ。」と言っていた。


 水曜日が来て、夜、彼が、うちに来た。夕食は一緒に食べる事にしていた。私は、彼の為に、ハンバーグを作っていた。

 「美味しそうだね、いただきます。」と言って、残さず食べてくれた。

 その後、積もる話をしてから、明日の話題になった。

 結論は、「行ってみなければ分からない。」という事だった。当たり前の話だ。

 

 彼は、久しぶりの本社で何が起きるのか、不安でしかなかったようだ。



   私とプレモニション


 ある土曜日、休日出勤から帰った彼と夕食を摂っていた。

 「今朝、会社に行って、メールチェックしてたら、本社からの受信があって。」

 「なんて?」

 「来週の木曜日に、本社に呼ばれたんだ。」

 本社には、たまに呼ばれて言っているのだが。何か気になっているようだった。

 「特に、不思議な事じゃないじゃない、何か、気になるの?」

 「うん、タイトルが”緊急事案”ってなっていてCCに、全営業所の、プランニング課の課長の名前があったんだ。」

 「それは、確かに気になるわね。」

 「まぁ、とにかく、木曜日は本社だから、帰りは遅くなるか、泊まりになるよ。」

 「うん、分かった。」

 

 気になった私は、次の日、かつての同僚に、何か様子がおかしい事がないか電話で、聞くことにした。

 「ごめんね、折角の日曜日に。」

 「いいよ、でも久しぶりだね、いつぶりかしら。」暫く、昔話や、近況を報告しあった。

 そして、最近の社内で、何かおかしな動きや、噂なんかが無いか、聞いてみた。「どうして?」と聞く元同僚に、ありのまま、彼から聞いた事を話してみた。

 「みんなには内緒よ。」という言葉も忘れなかった。

 「確かに、なんか、上層部が最近バタバタしているようだけど、何なのかわからないのよ。あなたも知っているように、こんな事は、珍しいのよね。」

 何か分かったら、連絡して欲しいと言って、電話を切った。

 確かに、珍しい。庶務課、特に私がいた庶務一課は噂話の宝庫だった。しかも、ほぼ確実な。そこに、上層部のバタバタしている噂だけで内容が全く分からないなんて、あまり無い事だった。間違いなく、会社の上層部は何かを隠していると実感した。

 月曜日になり、私は、迷っていた。仕事は、そつなくこなしていたが、ずっと彼の事が気になっていた。

 そこで私は、昔新人研修でお世話になった、総務部のお局様。社内の事なら、大概この人に聞けばわかると言われている。私はこの人に電話で聞いてみようと決めた。

 しかし近寄りがたい雰囲気をこの人が纏っていた。それが、私の決心を鈍らせていたのだ。

 私は、3時の休憩の時に、勇気を振り絞って会社に電話をして、呼び出してもらい電話が繋がった。「ご無沙汰しています。お時間よろしいでしょうか?」

 「久しぶりじゃない?どうしたの?」受話器の向こうから、久しぶりに聞く、女性にしては、少し低い渋い声が聞こえた。

 「あのぅ、ちょっと聞きたいことがありまして。」と思い切って、話し始めた。「何かしら。」と、お局「何か、会社がばたついてると言う噂を聞きまして、何かご存じないでしょうか?」と聞いてみた。

 「どうして、あなたが?」

 「私の彼氏が、今週そちらに出張になりまして、何か気にしているようで。」

 「そうだったわね、しかしやっぱりみんな気付いてるみたいね、でも、今回は、私にも分からないのよ。ただ、会社にとっては、よくない事みたいね。」

 「そうですか、よくない事ですか?」

 「彼氏には、私が言ってたって事は内緒にしてよ。」

 「もちろんです。ありがとうございました。」と言って電話を切った。

 

 私は、悩んだが、その日家に帰ってから、彼にこの事を話した。

 「調べてくれたんだね、ありがとう、覚悟して、本社に、乗り込むよ。」と言っていた

 水曜日の、夕食をいつものように一緒に摂った。少し早く帰れた私は、彼の為に、ハンバーグを作っていた。

 「美味しそうだね、いただきます。」と言って、残さず食べてくれた。

 他愛もない話をしたその後、明日の話題になった。

 結論は、「行ってみなければ分からない。」という事だった。当たり前の話だ。

 

 彼は、久しぶりの本社で何が起きるのか、不安でしかなかったようだ

 


 

 

 

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