シンと僕とトゥーサイズ

   シンとトゥーサイズ

 

 「シン、この新幹線を降りれば、もう小倉なんだね。」

 「そうだね、ずいぶん離れてしまうね。」


 「さっきまでは、彼女と話していたのに。」と呟きながら、まだ、自分が置かれた立場に失望感を覚えていた。

 しかし、会社と言うのは非常なものだ。特に大手ともなると、簡単に人を、紙飛行機でも飛ばすみたいな扱いをする。

 僕も、飛ばされてしまったんだなぁ。


 しかし、彼女の前では、出来るだけ明るく振舞おうとしていた。

 救いなのは、彼女が傍にいてくれるからだ。


 5時間ほどで、小倉に着いた。

 昼過ぎに着いたので、取り合えず、改札を出て、予約していたビジネスホテルに荷物を預け、近くのファミレスで、少し遅めの昼食を採った。

 会社も、近くにあったので、顔を出すことにしていた。アポは取ってある。

 地方の支店とは言え10階建てのビルだった。

 受付に要件を言うと、すぐに僕の上司になる部長が、僕の部下になる係長を連れて、エレベーターから出て来た。部下になると言っても、僕より3歳年上なのだが。

 この支店の総務部は、中国地方から九州地方までをカバーしていた。

 基本、リモートでやり取りするのだが、出張も多い仕事だ。

 規模の問題だろう本社の総務部は、本社だけを見ていた。

 今までいた庶務課も同様だった。

 僕は、支店のみんなに笑顔で挨拶したが、負け犬のような気持でいた。おそらく、全員ではないにしろ”本社を追い出されたお荷物”と思っている人はいるだろう。

 会社を出て、「なんか、みじめな気持ちになってきたよ、シン。」と言っていた。

 「何を言っているんだい、これからどうなっていくか分からないじゃないか。」

 夏も、終わりを告げ、高くなった空を見上げて、「早く家を探そう」と呟き、その日から、夜はホテルで、ノートP・Cを使い、情報を集め、昼はそれを基に、不動産屋回りをした。

 僕が家に求める条件は、眺めのいいマンションでペット可である事だった。

 運よく、条件に合う、即入居可の物件に1週間で入居することが出来る事になった。

 「シン、このマンション、どう思う?」

 「どうって、もう決めたんでしょ。」


 すぐに、彼女に電話をすると、会社を休んで今の家の片付けを手伝ってくれると言った。

 「会社を休んでまでは、いいよ。」と言ったが、「私がそうしたいの。」と言ってくれた。

 僕は、引っ越しの前日の始発で東京に戻る事にした。

 彼女は、東京駅まで迎えに来てくれていた。

 まだ、少し早かったが、丸の内のビルに入っているレストランでランチを食べ、家に向かった。

 引っ越しの荷造りを2人でしながら、そんなに長い間でもない想い出話をしていた。

 彼女はその日、僕の家に泊まり、引っ越しの準備は昼過ぎに終わった。帰りの新幹線は7時前発だったので、余った時間は短いデートをした。荷物を引っ越し屋に託すと、東京駅に向かい早めの夕食を摂った。


 帰りの新幹線で、「シン、もう、あの家とはさよならだね。」

 「うん、寂しいものだね。」

 車窓を見ながら、、駅で買ったビールを飲んでいた。


 引っ越し屋は、次の日の夕方来てくれた。取り敢えず1部屋は何も、物を入れずにいた。


 1週間後、彼女が来た。同棲生活の始まりである。もちろんアルも一緒だ。

 一通り家を見て貰った。そこで、彼女とレイアウトの相談をした。嬉しかったのは、寝室を共にしたいと言ってくれた事だった。

 その日の夕食に取った出前のお寿司を美味しそうに食べる彼女の笑顔が印象的だった。


 僕は、その2日後から出社をした。

 彼女も早く仕事を探すと言っていた。

 

 僕は、いやな事を忘れるように働いた。

 しかし、やはり、僕の事を本社からのお荷物だと思っている人間が何人かいる事を肌で感じていた。

 「シン、やっぱりいるね。」

 「そりゃ、仕方ないんじゃないの、いきなり本社から、上司が現れたんだから。」

 「そりゃ、そうか。」

 特に、係長は面白くないだろう。

 自分より年下の上司が突然現れたのだから。

 それでも、少しずつ、仲のいい部下も出来始めていた。

 僕は、率先して出張にも出ていた。

 バリバリ働く僕を、やはり、係長はじめ、一部の部下は、よく思ってないらしかった。

 仲良くなった部下が、それとはなしに教えてくれたのだ。


 その頃、彼女は就職先を決めた。

 事務用品を扱う会社らしい。

 素直に彼女に「おめでとう。」と言いたかった。


 しかし社内に、僕を疎んじてる人達との確執がはっきりした頃で、同時に、自分が情けなく、みじめな思いも蘇っていた。


 そんな僕が、上手く、笑顔を作れたか、不安だった。

 

 きっかけとは、あっけないものである。係長が、僕の出張中に、致命的なミスを犯

し、会社を自主退社した。

 そうすると、僕を疎んじていた部下たちも、手の平を返したように、話しかけてくるようになった。

 

 全てがばかばかしくなって、笑ってしまっていた。と同時に、自分の小ささも思い知った。

 肩から、力が抜けていくような、清々しさを感じていた。

 「シン、なんか、全てふっきれたよ。」

 「よかったね、ほんとうに。」


 家に帰ると、僕は彼女に、転勤してから、今日までの自分を洗いざらい話した。

 その時は、自分でも分かる本当の笑顔だったと思う。

 彼女も「よく、こらえて頑張って来たね。」と言ってくれた。


 それからは、何もかもが順調だった。会社も近かったから、彼女ともよくランチにも行っていた。


 秋も過ぎ、本格的に冬がやって来た。今日はケーキでも買って帰ろうと、駅の近くまで行くと、見てはいけないものを見てしまった。

 彼女が、楽しそうに見知らぬ男と腕を組んで歩いているところを。



   ぼくとトゥーサイズ


 たった1時間半後、この新幹線を降りれば、もう仙台だ。

 僕は、車窓を見ながら、まだ自分が置かれた立場に失望感を覚えていた。


 しかし、会社と言うのは非常なものだ。特に大手ともなると、簡単に人を、紙飛行機でも飛ばすみたいな扱いをする。

 僕も、飛ばされてしまったんだなぁ。


 しかし、彼女の前では、出来るだけ明るく振舞おうとしていた。

 何故なら救いだったのは、彼女が傍に居てくれたから。

 しかしもうすぐ、彼女とも離れて暮らさなければならない。


 予定通り1時間半程で仙台に着いた。

 昼過ぎに着いたので、取り合えず、改札を出て、予約していたビジネスホテルに荷物を預け、近くのファミレスで、少し遅めの昼食を採った。

 会社も、近くにあったので、顔を出すことにしていた。アポは取ってある。

 地方の支店とは言え12階建てのビルだった。

 受付に要件を言うと、すぐに僕の上司になる部長が、僕の部下になる係長を連れて、エレベーターから出て来た。部下になると言っても、僕より3歳年上なのだが。

 この支店の総務部は、東北地方から北陸地方までをカバーしていた。

 基本、リモートでやり取りするのだが、出張も多い仕事だ。

 規模の問題だろう本社の総務部は、本社だけを見ていた。

 今までいた庶務課も同様だった。

 僕は、支店のみんなに笑顔で挨拶したが、負け犬のような気持でいた。おそらく、全員ではないにしろ”本社を追い出されたお荷物”と思っている人はいるだろう。

 会社を出て、「なんか、みじめな気持ちになってきた」と呟いた。

 「何を言っているんだい、これからどうなっていくか分からないじゃないか。」

 夏も、終わりを告げ、高くなった空を見上げて、「早く家を探そう」と呟き、その日から、夜はホテルで、ノートP・Cを使い、情報を集め、昼はそれを基に、不動産屋回りをした。

 僕が家に求める条件は、眺めのいいマンションである事だった。

 運よく、条件に合う、即入居可の物件に1週間で入居することが出来る事になった。

 すぐに、彼女に電話をすると、会社を休んで今の家の片付けを手伝ってくれると言った。

 「会社を休んでまでは、いいよ。」と言ったが、「私がそうしたいの。」と言ってくれた。

 僕は、引っ越しの前日の10時発の新幹線で東京に戻る事にした。

 彼女は、東京駅まで迎えに来てくれていた。

 まだ、少し早かったが、丸の内のビルに入っているレストランでランチを食べ、家に向かった。

 引っ越しの荷造りを2人でしながら、そんなに長い間でもない想い出話をしていた。

 彼女はその日、僕の家に泊まり、引っ越しの準備は昼過ぎに終わった。帰りの新幹線は7時前発だったので、余った時間は短いデートをした。荷物を引っ越し屋に託すと、東京駅に向かい早めの夕食を摂った。


 これから長い別れになるのに、お互い笑顔で手を振っていた。

 帰りの新幹線で、車窓を見ながら、駅で買ったビールを飲んでいた。


 その1週間後から僕は、いやな事を忘れるように働いた。

 しかし、やはり、僕の事を本社からのお荷物だと思っている人間が何人かいる事を肌で感じていた。

 

 特に、係長は面白くないだろう。

 自分より年下の上司が突然現れたのだから。

 それでも、少しずつ、仲のいい部下も出来始めていた。

 僕は、率先して出張にも出ていた。

 バリバリ働く僕を、やはり、係長はじめ、一部の部下は、よく思ってないらしかった。

 仲良くなった部下が、それとはなしに教えてくれたのだ。


 僕は毎日のように彼女と電話をしていた。


 ある日、いつものように電話をしていると、慰めのつもりか、彼女が、「課長なんて、昇進じゃない」と言う台詞を言った。

 しかし、この会社では、遠方の支店に移動するだけで、関係子会社への出向に匹敵する左遷なのだ。

 肩書は、有ってないようなものなのだ。

 僕は、「ごめん、君のその言葉には、優しさが無い。僕の人間が小さいのかもしれないけど、まだ、今の自分の状況を受けとめようとしている所なんだよ。悪いけど、暫く僕から連絡するまで電話をかけて来ないで欲しい。」と言って電話を切ってしまった。


 しかも、その頃は、社内に僕を疎んじてる人達との確執がはっきりした頃で、同時に、自分が情けなく、みじめな思いも蘇っていた。


 2か月位経った頃、突然彼女が訪れて来た。

 インターフォンが鳴り、画面を見ると、彼女が映っていた。「何故、どうして来たの?」と言った後、玄関のドアを開けた。そんなに時間が経ったわけではないが、懐かしい顔がそこにあった。

 「とにかく入って。」と僕が言った。

 僕は、彼女にリビングのソファに座るように促した。僕は、テーブルをはさんだ反対側にあるボックススツールに腰かけた。

 「どうして来たの?僕は何の連絡もしていないはずだけど。」

 「だって、いつまで経っても、連絡をくれないから、寂しくて。」

 「僕はね、全てを忘れて働こうとしてたんだ。そんな時に言われた君の心無い一言を早く忘れようと、必死に働いていた。でも、頑張れば頑張る程、虚しさが大きくなって。

 自分でも、何て小さい人間なんだってわかっている、分かっているんだ。でも、もうちょっと時間が欲しかった。

 僕もね、君に会えない事は、寂しくてたまらない。正直最初は怒っていたけど、今は、少しも君の事は怒っていないんだ。。ただ、こんな情けない自分は、君に合わせる顔が無い。

 だから、今はまだ、君に会っちゃいけないんだ。」

 「私じゃ力になれない?」

 「違うんだ、分かって欲しい、君の力が必要と言えるようになるまで待って欲しいんだ。」

 「そっか、まだ、スタートラインに立てていないって事なのね。分かった。ごめんね、急に来て、今日は、もう帰るね。」

 「ごめん、必ずその時を自分のものにするから、待っていて欲しい。」

 「分かった、でも、この事でもう二度と謝らないで。」

 と言って帰って行った。

 

 きっかけとは、あっけないものである。係長が、僕の出張中に、致命的なミスを犯

し、会社を自主退社した。

 そうすると、僕を疎んじていた部下たちも、手の平を返したように、話しかけてくるようになった。

 

 全てがばかばかしくなって、笑ってしまっていた。と同時に、自分の小ささも思い知った。

 肩から、力が抜けていくような、清々しさを感じていた。

 

 それから1か月後、彼女に連絡を入れた。

 「次の土曜日、泊りでそっちに行ってもいいかな?」

 胸のドキドキが止まらなくなった。

 「もちろん、待ってる。」


 土曜日が来た。僕は、彼女の家のインターフォンを鳴らした。

 ガチャ、ドアが開いて彼女が出て来た。

 「ただいま。でいいのかな?」

 「もちろん、お帰り。」と彼女は、僕に抱き着いてきた。「おいおい、アルが変な顔で見ているよ。」「あっごめん、つい。」と言って、彼女は照れていた。

 「入ってもいいのかな?」「何も言わないで入って来てよ。」と彼女。

 アルは最初、きょとんとしていたが、思い出したのか、気が付いたら傍に来ていた。

 僕は、彼女とテーブルに向かい合わせで座り、話をした。

 「随分待たせてごめん。」

 「うん、でも、あの私が勝手に行った日に決めたんだ。何か月でも、何年でも待とうって。」

 「そうか、ありがとう。」

  

 僕は彼女に、転勤してから、今日までの自分を洗いざらい話した。

 その時は、自分でも分かる本当の笑顔だったと思う。

 彼女も「よく、こらえて頑張って来たね。」と言ってくれた。

 その2日間は、2人とアルで、目いっぱい楽しい時間を過ごした。

 

 

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