シンと僕とミーティア

   シンとミーティア


 「なぁ、シン、たしか僕って、猫が苦手だったよね。」

 「うん、昔からね。」

 「なんだろう、たしかにこの家に来た時には、アルにも抵抗があったんだけど、今は、横に居ても、嫌じゃない。しかも、少し動いただけでも付いて離れなくなっているんだ。」

 「いい事じゃないか。それはね、きっと好きていう感情なんだよ。」

 「まさか僕がね。」

 「きっかけって、分からないね。」

 「それはそうと、そろそろ家に帰ろうと思っているんだ。少しぎこちないかも知れないけど、何の支障も無い位歩けるようになったし。」

 「いつ頃?」

 「来週には。」

 「そっか、いよいよ本格復帰だね。」

 「うん、仕事も遅れた分、取り戻さなきゃならないしね。」

 それからは、、あっけない程あっという間に、家に帰る日がやって来た。

 彼女は、いつでも会えるけど、寂しいと言って、家までタクシーで送ってくれた。

 

 数日後、久々の出社をした。遅れた分を取り戻そうと意気揚々と出社をしたのだ。

 会社の入り口で、人事部に呼び止められ、会議室に連れて行かれた。

 そこで、現実を突きつけられたのだ。

 北九州支店への移動命令で、2週間後には、残務を済ませて移動するようにとの事だった。

 会社としては、主任職を長く開けておくわけにはいかないし、今、この本社には僕の就けるポストが無いと言われた。聞くと、僕の事故後1か月で後任が就いたらしい。

 シンが「大丈夫か?」と言っていた。

 蒼白になりながら、部屋から出ると、彼女が、小走りで僕の所に来た。

 僕は、内示を彼女に見せ、「何故言ってくれなかったの。」とだけ言った。

 荷物を守衛に預け、その日は帰った。途中、何回も彼女からの電話が鳴ったが、出る事は無かった。

 昼過ぎに、インターフォンが鳴った。最初は、無視したが、諦めず2回目が鳴ったので、玄関の扉を開けた。

 やはり、彼女が立っていた。

 「入ってもいい?」と聞かれたので、「どうぞ。」と答えた。

 彼女は、僕がソファに腰かけるのを待って、テーブルをはさんだ向かいのカーペットに座った。

 暫くの沈黙があり、僕は何故、主任を降ろされた事を黙っていたのかを聞いた。

 答えは、こうだった。まず他の事を考えずに治療に専念して欲しかったという事らしかった。、移動になる事は分かっていたが、同じ本社内だろうと思っていたし、僕ならすぐに取り返すことが出来るだろうと思っていたみたいだ。

 彼女の表情を見て、嘘が無い事は、よく分かった。

 「シン、僕は、たしかに傷ついているけど、彼女を責める気が、しないんだ。」

 「うん、分かるよ、彼女は、本当に真摯に君の世話をしてくれたし、今回の人事で、彼女もかなり傷ついているのも分かるしね。」

 僕は、今後の、彼女との関係に悩んだ。

 東京と、北九州では、新幹線1本とは言えあまりにも遠すぎる。

 僕は、彼女の判断に任せようと思って、口を開こうとした時、彼女は思いもよらない事を言い出した。

 「私、会社を辞めてあなたに付いていきたいと思っているの。仕事は、向うで探そうと思っているんだけど、どうかな?ちょっと重いかな?」

 「えっ、僕も今、今後の事を相談しようと思っていたんだけど、僕について来るって事は、友達も、家も、職場とも離れるんだよ。」

 うん、分かっている。でも、友達とは距離が離れるだけでしょ。家は、出来たら一緒に住みたいと思っているんだけど、どうかな?」

 「シン、どう思う?」

 「どう、って君はもう決めているんだろう?僕もびっくりしたけど、願ってもない事じゃないか。」

 僕は、彼女に「その気持ち、嬉しいよ。今は僕もそうしたいと思っているんだけど、今晩一晩お互い冷静に考えて、明日お互いの気持ちを確かめ合おう。」

 「うん、そうだね、分かった。じゃあ、明日、仕事が終わったらここに来るね。」と言って、彼女はその日は帰って行った。

 翌日、会社に出勤したが、残務などほとんどなく、その日のうちに、ロッカーまで片付け、次の日から転勤までの間の有給休暇の手続きを取った。元同僚は送別会をしたいと言ってくれたが、今日は、彼女との約束もあったし、明後日には、転勤先に行き、家を探そうと思っていたから、申し訳ないと思いながらも断った。


 もう、戻って来ることは無いだろうな、と思いながら、本社を後にした。


 家に着き、暫くすると彼女が来た。

 夕食は、彼女が素材を買って来て、作ってくれた。この日の夕食は、ほとんど会話がなかった。

 夕食が終わり、食器を片付け、場所をリビングに変えた。

 そこで、お互いの気持ちを話し合った。

 まず、彼女が口を開いた。

 「言われたように、冷静によく考えたわ、でも、やっぱり気持ちは、変わらない。」

 「そうか、僕も、冷静によく考えたよ。僕も、同じ気持ちだと思ったよ。

 改めて言わせて欲しい。僕について来て下さい。」

 彼女は、涙を浮かべ、「はい。」と言ってくれた。

 僕は、「明後日から、現地に行って家を探すよ、暫くはビジネスホテル暮らしになる。

 ビジネスホテルの費用は家が決まるまで、会社が出張扱いとして出してくれるみたいだ。

 ちゃんと”アル”も住める家を探すからね。」と言うと、彼女は、「ありがとう、私は、明日辞表を出して2週間後から有給消化してあなたの元に行くね。暫く離れ離れになっちゃうね。」

 「暫くって、2週間じゃないか。」

 「私にとっては、暫くなの!」

 「ありがとうね。」

 「これで最後にするから言わせて。

 元はと言えば私のせいでごめんね。」

 僕は、彼女の頭をなでながら、「これからもよろしくね。」と言っていた。

 窓の外には流れ星が流れていた。

 まるで、これから僕が流れて行くように。



   僕とミーティア


 僕は、、そろそろ家に帰ろうと思っていた。

 少しぎこちないかも知れないけど、何の支障も無い位歩けるようには、なったし。

 仕事も遅れた分取り戻さなきゃならないし。

 それからは、あっけない程、あっという間に、家に帰る日がやって来た。

 彼女は、いつでも会えるけど、寂しいと言って、家までタクシーで送ってくれた。 

 数日後、久々の出社をした。遅れた分を取り戻そうと意気揚々と出社をしたのだ。

 会社の入り口で、人事部に呼び止められ、会議室に連れて行かれた。

 そこで、現実を突きつけられたのだ。

 仙台支店への移動命令で、2週間後には、残務を済ませて移動するようにとの事だった。

 会社としては、主任職を長く開けておくわけにはいかないし、今、この本社には僕の就けるポストが無いと言われた。聞くと、僕の事故後1か月で後任が就いたらしい。

 蒼白になりながら、部屋から出ると、彼女が、小走りで僕の所に来た。

 僕は、内示を彼女に見せ、「何故言ってくれなかったの。」とだけ言った。

 荷物を守衛に預け、その日は帰った。途中、何回も彼女からの電話が鳴ったが、出る事は無かった。

 昼過ぎに、インターフォンが鳴った。最初は、無視したが、諦めず2回目が鳴ったので、玄関の扉を開けた。

 やはり、彼女が立っていた。

 「入ってもいい?」と聞かれたので、「どうぞ。」と答えた。

 彼女は、僕がソファに腰かけるのを待って、テーブルをはさんだ向かいのカーペットに座った。

 暫くの沈黙があり、僕は何故、主任を降ろされた事を黙っていたのかを聞いた。

 答えは、こうだった。まず他の事を考えずに治療に専念して欲しかったという事らしかった。、移動になる事は分かっていたが、同じ本社内だろうと思っていたし、僕ならすぐに取り返すことが出来るだろうと思っていたみたいだ。

 彼女の表情を見て、嘘が無い事は、よく分かった。

 そして、深く傷ついている事も。

 僕は、今後の、彼女との関係に悩んだ。

 東京と、仙台では、新幹線1本とは言えあまりにも遠すぎる。

 僕は、彼女と今後の相談をしようと思って、口を開こうとした時、彼女は思いもよらない事を言い出した。

 「私、会社を辞めてあなたに付いていきたいと思っているの。仕事は、向うで探そうと思っているんだけど、どうかな?ちょっと重いかな?」

 「えっ、僕も今、今後の事を相談しようと思っていたんだけど、僕について来るって事は、友達も、家も、職場とも離れるんだよ。」

 うん、分かっている。でも、友達とは距離が離れるだけでしょ。家は、出来たら一緒に住みたいと思っているんだけど、どうかな?」

 僕は、彼女に「その気持ち、嬉しいよ。でも、今晩一晩お互い冷静に考えて、明日お互いの気持ちを確かめ合おう。」

 「うん、そうだね、分かった。じゃあ、明日、仕事が終わったら私の家に来てくれないかな。」と言って、彼女はその日は帰って行った。

 翌日、会社に出勤したが、残務などほとんどなく、その日のうちに、ロッカーまで片付け、次の日から転勤までの間の有給休暇の手続きを取った。元同僚は送別会をしたいと言ってくれたが、今日は、彼女との約束もあったし、明後日には、転勤先に行き、家を探そうと思っていたから、申し訳ないと思いながらも断った。


 もう、戻って来ることは無いだろうな、と思いながら、本社を後にした。


 彼女の家に着くと、すでに彼女は帰っていた。

 夕食は、彼女が素材を買って来て、作ってくれた。この日の夕食は、ほとんど会話がなかった。

 夕食が終わり、食器を片付け、元の場所に戻り そこで、お互いの気持ちを話し合った。

 まず、彼女が口を開いた。

 「言われたように、冷静によく考えたわ、でも、やっぱり気持ちは、変わらない。」

 「そうか、僕も、冷静によく考えた。

 でも、君を連れては行けない。君には、今まで築き上げた生活がある。会社も、辞めて欲しくない。遠距離にはなるけど、会いたくなれば新幹線で1本だし、僕の気持ちは変わらない自信がある。

 君は、距離が離れてしまうと、気持ちも離れてしまうのかい?」

 「そんな事ある訳ないじゃない。」

 彼女はよく考えて、「どうしようもなく会いたくなったら、会いに行っていい?」と言ってくれた。

 僕は、「明後日から、現地に行って家を探すよ、暫くはビジネスホテル暮らしになる。

 ビジネスホテルの費用は家が決まるまで、会社が出張扱いとして出してくれるみたいだ。」と言うと、彼女は、「いい家が見つかるといいね。」と少し涙を浮かべて言った。

 そして、「これで最後にするから言わせて。

 元はと言えば私のせいでごめんね。」

 僕は、彼女の頭をなでながら、「これからもよろしくね。」と言っていた。

 窓の外には流れ星が流れていた。

 まるで、これから僕が流れて行くように。


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