1話(5)






「訳わかんねぇ! なんでこうなるんだよ!」


 ユニリスタは叫んだ。その声はどこまでも響いたが、それに文句を言う者はいない。何故ならこの棟には、彼ら以外に誰も収容されていないからだ。


「日頃の行いが悪いのでしょうね」


 アリアの言う通り、いくら説明したところで無駄だった。聴取と言いながらも騎士達は、問題児であるユニリスタ達の話を聞こうとしなかったのだ。初めから彼らが悪いのだと決めつけ、最後まで話を聞くふりをしていた。

 結果、ユニリスタ達は一晩牢屋に入れられる事となった。だが幸いか、魔法使いとしての拘束はなく手足は自由だ。それに牢屋といっても、三方を石壁で囲み、廊下側が格子柵になっているだけの簡単な作り。部屋の中には、清潔感のあるトイレと必要最低限の家具もあり、それが一人一人に与えられている。


「あーあー、何となくわかってた。わかってたけど……女転ばせて一晩牢屋とか重過ぎだろ」

「個人に部屋が与えられ、雨風が凌げ、温かい寝床と食事がある。宿代が浮いたと考えればいい」

「それに、宿屋にはない見回りもあるので、部屋が荒らされる心配もありませんしね」

「肝心の荷物が朝までお預かりだっての」


 大きなため息をつきながら、ユニリスタはベッドへ横になった。


「あれ、もうお休みですか?」

「そうだよ。それ以外にやることないだろ。ご飯も食べたし、寝て起きてさっさと解放されよーぜ」

「あの娘の事はいいのか?」


 横になったまま、ユニリスタはリンに目を向けた。彼は柵のそばに立ち、廊下の奥をじっと眺めている。


「どうせもう会わないんだから、考えたって仕方ねぇだろ。何も話してくれなかったしな」


 一瞬、リンはユニリスタの方を見た。


「なるほど、機会があれば考えるのか」


 リンの様子を不思議に思ったのか、アリアは彼と同じように廊下の奥を見始めた。そんな二人の行動に、ユニリスタは首を傾げる。

 やがて静かになった廊下に足音が響き始めた。


「来たぞ」


 その言葉に、ユニリスタはゆっくり体を起こした。徐々に大きくなる足音。それと同時に息遣いも反響している。

 やがて、ユニリスタの牢屋の前で音が止まった。


「お前、なんで……」


 現れたのは青眼の少女だった。


「…………」


 返事をする余裕がないのか、彼女はユニリスタを見つめるだけで何も答えない。不意に目を反らしたかと思うと、呼吸を整えないまま両手で抱えていた箱を床に置き、黙って牢屋の鍵を開けた。


「出て」


 そう素っ気なく言い、少女はユニリスタの牢屋から離れる。


「え、いや、俺達朝になりゃ――」

「出られないよ」


 彼女は話しながらアリアも解放した。


「問題児は無期限で牢の中。外で騎士が話してた」

「何だよそれ。俺達なんもしてねーだろ!」


 カチッと、乾いた音が鳴る。丁度リンの鍵も開け終わったらしい。少女はサッとユニリスタの方を向いて口を開いた。


「だから言ったでしょ。私は、危険で貴重な存在だって」


 痛く冷めた瞳だった。温かみの欠片すらない突き刺すようなその視線は、ほんの僅かな時間ユニリスタを黙らせた。


「……お前と関わったせいって事かよ」

「そうだよ。わかったらその荷物しまって。出口まで案内するから」


 何かを諦めるかのように深く息を吐くと、ユニリスタは黙って牢屋から出た。そして言われた通り箱から荷物を取り出し、いつも通りに装備していく。リンとアリアも、ユニリスタに続いて牢屋から出る。


「こっち」


 言われるがまま、ユニリスタ達は歩き出した少女の後を追った。本来であれば、見張りや巡回している騎士を警戒して慎重に進むだろう。しかし彼女に忍ぶ様子は無い。


「なぁ、こんな堂々と移動して大丈夫なのか? ここの出入口に見張りとか――」

「いないよ」

「は?」


 少女の言う通りだった。巡回はもちろん、本来見張りがいる場所も無人だった。その異常な状況にユニリスタが歩みを止めると、続けてリンとアリアも足を止めた。少し遅れてそれに気付いた少女は、その場で止まり振り返る。


「ちょっと。止まってる時間なんて無いんだけど」


 少女の言葉を無視し、ユニリスタは周りを見渡した。

 ここは牢屋と外を繋ぐ唯一の出入口。普段ならば、太く頑丈な格子状の扉によって固く閉ざされるのだろう。だが今は、何故か鍵が開けられている。

 扉の側には、人が二人ほど入れそうな部屋があるが、中にあるのは机と椅子だけだ。どこを見ても争った形跡はなく、まるで自らいなくなったかのように何もない。騎士達は何故、どこへ消えたのか。その手がかりとなりそうなのは、目の前にいる少女と不自然な白い砂くらいだ。


「……お前何なんだよ」


 ぽろっと溢れたユニリスタの疑問に、返ってくるものはない。


「見張りを消して荷物届けて、その上脱走の手伝いなんて……そんなの、誰ができるんだよ」


 沈黙が流れた。だが十秒と経たないうちに、少女はユニリスタへ静かに歩み寄った。アリアがそっとユニリスタに近付き警戒を見せるも、少女が気にする様子はない。ユニリスタの目の前まで来ると、少女は口を開いた。


「時間が無いの。いいからついてきて」


 そう言って彼女は、ユニリスタ達に背を向けると再び歩き出した。


「答えてくれませんでしたね。どうしますか?」

「……今はついていくしかないな。牢屋棟に入ったのは初めてだから出口が分からない。壊して脱出してもいいけど後が面倒だ」


 「行くぞ」と言いながら、ユニリスタは再び少女を追い始めた。

 再会してからの彼女の態度は、良いと言えるものではない。むしろ冷たく突き放すような雰囲気をまとっている。だがその案内は、安心と安全を与えるものだった。分かれ道で迷わないのはもちろん、壁に隠された通路も使って誰にも会わない道を進んでいる。罠なんて物はその痕跡もない。だからと言って、身の危険がゼロというわけではなかった。ここは、帝都にある牢屋棟。別の棟へ行けば、凶悪犯も住む最恐の家なのだ。


「ユニ」


 どれくらい時間が経っただろうか。牢屋を出てしばらくの後、最後尾にいるリンがユニリスタへ小さく声を掛けた。ユニリスタは少しだけ下がり、黙ってリンの言葉に耳を傾ける。


「つけられている。まだ増えそうだ」

「退かしましょうか? それとも彼女に聞きますか?」


 アリアは振り返ることなく、歩きながらそんな事を提案した。


「いや、今はいい。後ろをかまってる間に前から来る可能性もある。それに……」


 ユニリスタはチラッと前を行く少女へ視線を向ける。


「あいつは知らなそうだから様子を見る」

「どうしてそう思うんですか?」

「俺の勘だ」


 フッと自信有り気にユニリスタは笑みを浮かべた。


「でも、出口へ行くのにずっと登り続けているんですよ? おかしくないですか?」


 アリアの素朴な疑問にユニリスタが一瞬止まる。


「おい! 本当にこっちであってるのか?」


 急に不安になったのか、ユニリスタは少女へ向けて声を張り上げた。


「常に見回りをしていて、周囲は高い塀と深い堀に囲まれてる。外へ出られる門は一つだし、夜は閉じてて見張りもいる。そんな地上からどうやって逃げるつもり?」

「それなら上へ向かう理由は何だよ。塀を越えるためか? だとするなら堀はどうするんだ。待ち伏せされてたらどうする?」


 その言葉に、彼女は少しだけ沈黙する。


「……飛び越える」

「はぁ? お前自分が何言ってるかわかっ――」

「止まって」


 言われるがまま、ユニリスタ達は足を止めた。目の前には、重厚感のある鉄製の扉がある。


「ずいぶん頑丈そうな扉だな。開けるの手伝うか?」


 その答えは返ってこなかった。ユニリスタ達に背を向けたまま、少女が近くにあるレバーを下ろすと扉が開かれた。

 開けた先に広がっていたのは巨大な石橋。牢屋に繋がっている影響か、欄干の装飾は小さな突起と剣のレリーフが彫ってあるだけの控えめなものだ。そのレリーフを照らすように、火の灯るランタンが棒の先で座るように乗っている。夜の影響でわかりにくいが、橋はさほど高くないようだ。火の光によって、橋下を流れる水が時々煌めくのが見られた。

 辺りはもう、明かり無くしては歩けないほどの暗闇に包まれている。そんな橋の中央に人影が一つ。


「来て」


 さっさと前へ歩いていく少女を、ユニリスタ達は追った。やがて互いの表情が確認できる距離に迫った時、緑の服が揺れた。


「間に合ったようですね」


 ルガーノはパチンッと蓋を閉じると、手にしていた懐中時計を懐へしまう。


「用意してくれましたか?」


 少女の問いに答えるかのように、突如ルガーノの側に黒く四角い箱が現れた。宙に浮くそれに手を入れ引いた時、彼は板状の魔石を手にしていた。


「転移先の指定は発動する前に刻印してください。守っていただかないと、魔法が正常に発動しません」

「わかりました」

「いやわかんねぇよ」


 ユニリスタの言葉に少女は振り返った。


「転移魔法使って俺達を逃がそうって考えてんのはわかった。けど、そんな事してお前達に何の得があるんだ?」

「得がなければ助けちゃいけないの?」

「じゃぁお前は、出会ったばかりの人間を信用できるのか? ちょっと優しくされただけで、そいつの言う事聞くようなバカなのか?」

「それとは違――」

「同じだよ。上手い話には裏があるってやつだ。しかもこんな所に転がってるなんてあり得ない。あぁでも、お前は本当に気付いてないらしいな」


 ユニリスタは鞄から魔石を取り出すと振り返り、先ほど出てきた扉へ向かって思い切り投げた。魔石が地面に接触した瞬間、それは爆発し橋の一部を破壊する。やがて爆煙の中からわらわらと騎士が現れた。

 その様子を目の当たりにし、少女はハッとしてルガーノを見る。


「さて質問だ、ルガーノ・トゥリール。あんたと俺達の背後に隠れている騎士は、一体何のために存在してるんだ?」


 いつの間にか、橋の両端に大量の騎士が構えていた。先ほどの爆発によって多少は減っただろう。それでも、一体どこにこんな数が潜んでいたのかと疑問に思うほど、ここは騎士で溢れていた。


「……ここまでか」


 ボソリと言い、ルガーノは少女へ板状の魔石を押し付ける。そしてそのまま、彼女が口を開くよりも先にルガーノは詠唱を始めた。


「“切らずして守り 裂かずして散らせ この風は神の御心なり――”」


 濃い緑色に輝いた魔力が風となってルガーノの手に絡みつく。風は触れていた板状の魔石を、それを手にしていた少女をユニリスタへ向けて吹き飛ばした。

 風魔法 風神の祈りかぜかみのいのり。人や物に付与する事で、それに触れたものを吹き飛ばす魔法。


「どわっ!」


 ユニリスタは、飛ばされてきた少女をなんとか受け止める事ができた。しかし、二人は勢いのまま地面に転がされる。


「ってて…………危ねぇなこら!」

「……ごめん」

「あ、いやお前じゃなくて……。それより怪我してないか?」


 「大丈夫」と答え起き上がると、少女は板状の魔石を心配そうに確認した。どうやら異状はないらしく、小さく息を漏らす。


「ルガーノ様ぁ!」

「遅れて申し訳ありません!」


 いち早くルガーノの元へ駆け寄った騎士達は、彼を守るように武器を構えた。


「おいあれ、ルガーノ様の物じゃないか?」

「まさかあの娘、問題児共あいつらの仲間で窃盗が目的だったんじゃ……」

「今さら理由など不要だ! 全員捕えろ!」


 威勢よく現れた後続の騎士達は、そのままユニリスタ達の元へ向かっていく。そんな中、小さな影がユニリスタの前へ躍り出た。


「退かします」


 アリアはスカートをたくしあげると、足に固定していたナイフを両手に取る。同時に、彼女の回りに数体の骸骨が出現した。黒いオーラを身に纏い、手には武器を持ち、骨だけの体で動くそれは、死霊と呼ばれる存在。未練を残してこの地に留まった、死者の霊だ。


「あら、ここには質の良い霊がいるようですね」


 死霊達の力は圧倒的だった。鎧を砕き、剣を折り、騎士を次々に倒していく。


「ひ、怯むなぁ! 問題児を狙え!」


 その一声により、騎士達の標的がアリアからユニリスタへ瞬時に切り替わった。死霊達の間をすり抜けられた騎士はアリアを無視するようになり、ユニリスタの元へ駆けていく。


「あっ」


 アリアは振り返るがもう遅い。騎士達はあっという間にユニリスタの目の前に現れた。


「観念しろぉぉ!」


 騎士達は一斉に剣を振り上げる。しかし、それがユニリスタに届くことはなかった。


「下がっていろ」


 騎士よりも遥かに早くリンの拳が振るわれた。それは、たった一人の騎士に一発だけ。だがその勢いと風圧は異常なものだった。ユニリスタの近くにいた者はもちろん、少し離れた場所にいるアリアの側にいた者も巻き込んだ。一瞬にして、多くの騎士が橋の下や遥か後方へ飛ばされ落ちていく。


「派手に飛ばしたな。あいつら大丈夫か?」

「加減はした。ところで、敵はまだ増えるようだがどうする」


 リンに言われ、ユニリスタは辺りを見渡した。アリアが対峙している側の騎士は絶えず援軍があり、数で押し倒そうと必死な様子が伺える。一方反対側は、現在動く気配がない。しかし、ユニリスタ達が仕掛ければ即座に武器を振りかざし、両側から挟まれる事は容易に想像できた。


「吹き飛ばすか?」

「だめ‼」


 リンの提案を拒否したのは少女だった。突然のことに驚き、ユニリスタの肩がビクリと震える。


「それはだめ。そんな事したら、余計に目立っちゃう」


 彼女はユニリスタの方へ近寄ると、大切そうに持っていた板状の魔石を彼のそばに置いた。


「これを使って今すぐ逃げて。迷惑かけてごめんなさい」


 そう言って離れようとする少女の手を、ユニリスタは咄嗟に掴んだ。


「待てよ! お前はどうするんだよ」

「あなたには関係ない」

「関係あるだろ! 元はといえば、お前のせいでこんな事になってるんだぞ!」


 その言葉に彼女の動きがピタリと止まった。かと思うと、ユニリスタの手を強引に振り解き、数歩離れて視線を向ける。


「そうだよ。あなた達は悪くない。何もしてないし何も見てない。だから、何も知らない今なら他人でいられる」

「どういう意味だ?」

「私達は――」

「ユニ‼」


 リンの叫びと共にユニリスタは腕を捕まれ後ろへ引かれた。そこでようやく、少女へ迫る火の玉が視界に映る。咄嗟に手を伸ばしたが、ユニリスタの手は彼女へ届かなかった。少女が気付き振り返った時、火の玉は彼女に触れる直前だった。

 間に合わない――はずだった。

 少女は、あろう事か火の玉へ手を伸ばし自ら触れる。瞬間、火の玉は光に包まれ一瞬で砂と化し落ちた。白い砂は夜風に連れて行かれ、音もなく少しずつ空へ運ばれていく。

 どれだけの人間がこの光景を目の当たりにしていたのだろうか。気付かず戦い続けている者もいれば、武器を振るう手を止め呆然としている者もいた。ユニリスタもその一人であり、一瞬呼吸をするのも忘れていた。


「魔法を、消した」


 大勢いる騎士の中から、それは何故かはっきりと聞こえた。


「皇城の魔法使いが放った魔法だぞ」

「でもあれって、何か見覚えが……」

「…………ぁ……聖剣?」


 誰かの発した一言が、その場の動揺と緊張を増幅させた。一瞬で空気が変わる。騎士達の少女に対する目が先程よりも鋭利になった。


「総員に告ぐ‼」


 直後ルガーノの声が響き渡る。


「脱獄者を拘束せよ‼ 青眼の娘以外は殺してもかまわん‼」

「やめ――」


 少女の声は、騎士の雄叫びで掻き消された。そばに居たはずのユニリスタですら、その声はもうほとんど聞こえない。だが手は届いた。リンの制止を振り切り、必死に伸ばしたユニリスタの手は、震える彼女の手をしっかりと掴む。驚いた表情をする少女に構わず、彼はグッと自身の方へと引き寄せた。


「逃げるぞ‼」


 そう言ってユニリスタは、返事も聞かずに彼女を抱きかかえると、そのまま橋の欄干へ向かって走っていく。


「ま、待って! 逃げるなら私を置いて――」

「もう遅い‼」


 足をかけるのに丁度よさそうな装飾部分に足を乗せると、ユニリスタは思い切り蹴った。少し高さのある欄干を軽々と越え、勢いのままに二人は落ちていく。


「リン‼‼」


 呼ばれたリンも、アリアを抱き抱え欄干から飛び落ちる。直後、その姿は人間の形からドラゴンへと変化していた。尾の無い真っ白なドラゴンは力強く翼を広げ、二人をその手で救い上げる。


「撃てぇ! 何としてでも撃ち落とすんだぁ!」

「だ、駄目です! 届きません!」


 そんな彼らを、帝国の騎士達は黙って見送る事しかできなかった。弓も魔法も、一瞬にして空高く舞ったドラゴンにはもう届かない。


「――な、何で私を連れて来たの!? バカなの!?」


 夜空から見下ろす帝都が、コインほどの大きさに見えた頃。少女はハッとしてそう叫んだ。


「助けてやったのになんだよそれ」

「頼んでない! それに……彼が来なかったら、死んでたんだよ」


 少女は震えていた。目はしっかりとユニリスタを見ているが、薄く潤んでいる。


「悪かったな、怖がらせて」

「もういい。それより、私をどうするつもり?」

「特に考えてねぇけど、とりあえず聞きたいことが山ほどあるからなぁ……」


 「うーん」と考える様子を見せながら空を見上げるユニリスタ。ほどなくして「あ」と声をあげる。


「じゃぁ家まで送るからさ、その間俺の質問に答えてくれよ。普段なら依頼金が発生するけど、今回は無しにするから。それでどうだ?」


 「あのねぇ……」と少女は大きなため息をついた。


「分かってないみたいだからもう一度言うけど、私といると危ないし一生追われ続けるの。だから――」

「今すぐ降りるか?」


 その言葉に少女はピクリと眉をひそめる。


「あぁでも、ここから落ちたらきっとぺちゃんこじゃ済まないな。そもそも落下の途中で死ぬかもしれないし」

「それは脅してるの?」

「交渉って言ってくれよ。俺達は悪党じゃないんだからさ」

「問題児ではあるけどね」

「それは合ってる。けど良い話だと思うぞ。質問に答えるだけで、ちゃんと家まで送ってやるんだ。安いもんだろ?」


 少女は少し悩むような素振りをして、やがて顔を上げた。


「答えられない質問はどうしたらいいの?」

「そう言ってくれれば諦めて質問し直す」

「質問は何回されるの?」

「え、こういう時っていくらでも答えてくれるもんじゃないのか?」

「そんな訳ないでしょ。私の情報料は高いの、無限に答える気ないから」


 彼女の強気な態度に、ユニリスタは「うっ」と一瞬怯む。


「仕方ねぇな……それじゃ三回。お前のせいで冤罪かけられた分、さっきの戦闘でお前に傷一つつけてない分、帝都から逃がしてやった分。これでどうだ?」

「……わかった」

「よし! あ、俺はユニ。今飛んでるのがリン。んで、さっき骸骨呼んでたのがアリア。二人は俺の使い魔で……ってこれは後でいいか。お前は?」


 笑って話すユニリスタを見て、少女はきゅっと手を握る。


「……ロコ。家は向こう」


 金髪青眼の少女――ロコが指差す方向にあるのは、淡い光を放つ森。ルーマの森と呼ばれ、妖精が住む神聖な場所と言われており、立ち入り禁止区域に指定されている。そんな所に人里はもちろん、小屋の一軒すら無いのは子供でも知っている。


「あの森に、家があるの」


 またの名を迷いの森。妖精の遊びによって年中濃霧に覆われ、一度入れば彼らの導きなくして出られない。獰猛な魔物が彷徨う、悪の箱庭である。






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