湯浴み
ドゥルカとティフォリアを部屋に残し、私は、沐浴ならぬ湯浴みに向かいました。
なるほど近づいただけで湯気の匂いがしましたから、沐浴というよりは湯浴みだというのは私にもすぐ分かりました。
宿の裏手に建てられたそれは、木塀で囲って簡単な屋根を付けただけの粗末なものではありましたが、入り口から男女で分けられていて、中に入ってみると、地面に掘られた浅い穴を石で固めた<泉>に、皆、体を浸していました。そこから立ち上る湯気。湯浴みとティフォリアが言っていたのでてっきり湯を浴びるだけのものと思ってたのですが、これは湯で沐浴してる感じですね。
でも、気持ちよさそうです。
他の人がさっと湯で体を流して湯の泉に浸かるのを見て、私もそのとおりにしました。
湯も、熱すぎず温すぎず、とてもいい感じです。
見ると、湯の泉に対して時々、湯が流れ込んでるのが見えました。どうやら外で沸かした湯を次々と流し入れてるようですね。湯が流れ込んでくるところからちらりと人影が見えました。これを延々と続けているということでしょうか。大変な仕事です。
その方々のおかげでこのような心地良い湯浴みができるのだと思うと、頭が下がります。
それと同時に、ドゥルカと一緒に入れたらあの子も喜びそうなのになと思い、少し残念な気持ちにもなりました。
家族であれば、子供が幼いうちは一緒に湯浴みをするのも珍しいことではありません。私も幼い頃は母や弟と一緒に湯浴みもしましたし。
いつか旅を終えて王都に戻れば、家族でゆっくりと湯の泉に浸かり湯浴みができる家を建てるのもいいかもしれません。
そんなことを考えつつ体を清め、私は生まれ変わったような気分で部屋に戻りました。
すると、ティフォリアの膝に頭を載せて、ドゥルカが眠ってしまっていたのです。
「あらあら、ごめんなさいね」
私が抑え気味に声をかけると、
「いえ、大丈夫ですから……」
ティフォリアが優しい顔で言ってくれました。
いろいろあるけれど、彼女はちゃんとドゥルカのことを案じてくれてるんだなと感じます。だから一緒に旅を続けられるのです。
私はそっとドゥルカを抱き上げてベッドに寝かせました。ほんの少し前までは赤ん坊だったこの子がこんなに大きくなって……しかも、あの人に似てきた気が……
そう思うと胸があたたかくなります。
それから、ティフォリアと今後のことを少し話し合って、私達も休むことにしました。湯浴みをしたことで心地良くなってしまったからか、強い眠気が襲ってきたのです。
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