壊さないように…か……
ドゥルカの身体を洗いながら、私は彼に語りかけます。
「勇者の力を受け継いだあなたはとても強いけれど、普通の人の体はとても壊れやすいの。もちろん私やティフォリアの体もちょっと乱暴に扱えばすぐに壊れてしまう。人を守るためには忘れちゃいけないことだよ。
あなたのお父様は、それをとてもよく分かっている人だった。だからみんなから愛されて、この世界を救うことができたの。あなたにもそれを分かってほしい」
すると彼は、
「うん! わかってるよ! だからさっきの奴らも壊さないように気を付けたんだ!」
と少し自慢げに言いました。
『壊さないように…か……』
彼の言い方は正直少し気になるものでしたけど、今の時点では言葉の選択が必ずしも適切でないのもそれほど気にすることでもないでしょう。ただ今後、改まらないようでしたら、もう少し気にしないといけないでしょうね。
ならず者に誅を下すのも力を持つ者の役目ではありますが、命は『壊れる』とか表現するべきものではないと私は父母から教わってきました。それはたとえ、ならず者であってもです。
彼にはちゃんと命というものを分かってもらわないといけませんね。
でもその時、
「上がったよ〜」
ティフォリアが沐浴から戻ってきました。と、
「あ、ごめんなさい…!」
慌てて背中を向けます。ドゥルカがまだ裸だったからです。こんな小さな子なのに、ウブですね。
「…?」
ドゥルカは彼女の反応の意味が分かっていないようでしたけど。
そしてティフォリアは、背中を向けながら、
「ここの沐浴施設って、沐浴っていうより<湯浴み>だよね。お湯だったし」
と、気を逸らそうとしてかそんなことを。
「あら、そうなのね?」
確かに、沐浴は本来、神に祈りを捧げる前に体を清めるために行うものですが、今では一日を無事に過ごせたことを神に感謝するために身を清めるという形に変わりつつありました。
しかも、水で清めるものだったのが、湯で体を洗い流す湯浴みと一緒になってきてるところも多いとか。ここもそうだったということでしょう。
ですが、湯浴みの方が気分が良いのも確かですし、そのようになっていくのも当然の成り行きかもしれません。私達が健やかでいることを神も望んでいることでしょうし、お許しになられるに違いないでしょうね。
「それでは、私も沐浴…湯浴みですか? に行ってきます」
ドゥルカの体も洗い終え、着替えさせたところで、私は湯浴みに行くことにしました。
「いってらっしゃ〜い」
そう言って見送ってくれたティフォリアの顔は、まだ少し赤かったのでした。
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