冒険者のマナー
「言うな~!」
ドゥルカに『太るよ』と言われて、ティフォリアが声を上げました。
思春期に差し掛かった女の子には耳の痛い言葉だったでしょう。
だけど
『美味しいものを食べたい!』という欲求には勝てず、ティフォリアは自分の好きなものを注文しました。
「美味しい♡」
こうやって楽し気に食事をしているところを見る限りは、本当に普通の女の子ですね。ただ、彼女自身は捨て子だったそうで、魔法使いに拾われて育てられたとのこと。
そんな出自にも拘らず、育ての親が良い人だったらしくとても朗らかな女の子に育ってくれました。
その一方で、僅か十二歳で魔法の修行のためとはいえ一人旅に出るのですから、本質的には豪胆なのか無謀なのか。
ですが、戦いそのものはしっかりと戦況を見る目も持っていて、先ほどの<冒険者のフリをしたならず者>のような者達では、彼女一人でも実は対処できたでしょうね。
彼女の弱体化魔法は、本来は魔族相手に使うものですが、実は人間相手でも使えるんです。特に、悪に染まった者相手には効果が高くなる。
普通の人間相手だと疲労感が増す程度でも、悪に染まった輩に対しては、重度の疲労感に加え、意欲減退・精力減退はもとより、下手をすると意識を失うこともあるとか。
なので、<対魔族>と言うよりは、もしかすると<害意>に反応する魔法なのかもしれないとも言われているそうです。
私は魔法についてはあまり詳しくありませんが、そういうこともあるんですね。
「よく食べるなあ……」
ティフォリアの食べっぷりを見て、ドゥルカは感心していました。そう言うドゥルカも、<ラスタ>という麵料理を大皿一杯に盛ったものを、ティフォリアや私と分けつつですけど、モリモリと食べています。多分、この年頃の子供の二人分くらいは。
力を発揮するためにはたくさん食べないといけないので、しっかり食べられる分にはむしろ頼もしいです。しかもラスタは、多くの食材をたっぷりと麵にからめた料理なので、これ一つでも満足できるものです。
そうして食事を楽しんでいると、私達の席から二つ分離れたところに、見覚えのある背中が。
ナフレリグァヌ・レゾヘでした。
彼は私達に話しかけるでもなく、一人でローストした肉を黙々と食べているのが分かりました。
挨拶はするものの、向こうが話し掛けてこないのなら、こちらも変に関わろうとしないのが冒険者のマナー。なので、
「あ、さっきの人」
ドゥルカも彼に気付きましたけど、
「そうね。でも、挨拶を終えたら、あまり馴れ馴れしくしないのが冒険者のマナーなの。だからそっとしておいてあげてね」
親として、必要な心構えを教え諭すことを心掛けたのでした。
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