ナフレリグァヌ・レゾヘ
「残ったのお前だけだぞ。まだやるか?」
ドゥルカと共に瞬く間に3人を倒した男性は、静かに、それでいて決然とした力を込めた声で残った1人に問いかけました。
「くそっ! くそっ!」
と口にしながらも、もう戦意は感じ取れなかったから、その<冒険者のフリをしたならず者>達をそのままにして、私達は改めて宿に向かいました。
そうして少し行ったところで、
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
私とドゥルカは男性にお礼を言いました。ティフォリアは男性の風体に気圧されているのか、やや距離を取りつつ、
「ありがとう……」
と口にしました。
そんな私達に、男性は、
「ああ…いや、なんか余計なお世話だったみたいだな……」
少しバツが悪そうに頭を掻きながら言ったのです。確かに、あの程度の連中であれば、ドゥルカの敵ではありません。それどころか、あの様子だと私一人でも大丈夫だったでしょうね。だけど、そういうことじゃないんです。
「いえ、あなたのような高潔な方がいらっしゃるから、この国は成り立っているんです。私は、元騎士として、あなたに敬意を表したい」
私の言葉に、男性は、ますます気まずそうに、
「そういうのは……勘弁してくれ。俺はそんなことを言ってもらえる人間じゃないんだ……」
ただでさえ丸い体をさらに丸めて恐縮していました。その様子に私もさすがに、
『ああ……きっと大変な過去を背負ってらっしゃるんでしょうね……』
と察してしまいます。傷だらけのその姿を見れば、決して容易ではない人生を送ってらっしゃったことも分かりますし。
「俺の名前は、ナフレリグァヌ・レゾヘ。俺の郷里の言葉で<動ける
どこか自嘲気味に笑みの形を作りながら、彼はそう告げました。
『<動ける豚>……』
まさか本当の名ではないでしょうが、それで冒険者登録をしているのでしょう。いろいろな過去を持つ人達が冒険者にはいますので、本当の名を捨てた人も少なくないとは聞いています。
だから私ももうそれ以上は詮索できませんでした。
そして、
「とにかく、先程は助かりました。では、私達はこれから宿に向かいますので」
「ああ、そうだな」
そう言って別れようとしたんですが、
「……」
「……」
私達が歩いていく方向に、彼の後ろ姿が。
「あの人、ずっと僕達の前を歩いてるよ?」
「そうね……」
ドゥルカが言うように、完全に方向が同じだったのです。
これはまさか……
その『まさか』でした。私達が泊まるはずの宿に、彼が入っていったのが見えたのでした。
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