小鬼

 人間相手だと人見知りなところも見せるドゥルカですけど、露骨に敵意を向けられると、勇者としてのスイッチが入るようです。

 ましてや今回は品性の欠片も感じさせない、魔族と大差ない、明らかに<冒険者の皮をかぶったならず者>。そのような輩相手に遠慮する必要はないでしょう。

 でも、その時また、

「子供相手に何をやってる」

 決して大きなそれではないのに、断固とした強い意志を感じさせる声が掛けられました。

 そちらに視線を向けると、

『え? 小鬼……!?』

 つい、そう思ってしまいましたけど、でも、よく見るとちゃんと人間だと分かりました。ただ、一目見た時の印象は、小鬼型の魔族そのものだったのも事実です。

 身長は、ティフォリアと変わらないくらいしかないのに、横幅はティフォリア2人分はあったのですから。

 突然現れたその小鬼のような男性に対して、<冒険者を名乗るならず者達>は、

「なんだこの小鬼ブタ! 女の前だからって格好つけてんじゃねえ!!」

 と吠えました 。けれど男性は、まるで怯むこともなく、掴みかかってきたならず者の手をガシッと掴みます。するとそれだけで、

「あああああ~!」

 ならず者は情けない声を上げながらその場に跪きました。さほど力を入れているようには見えなかったけれど、男性の力が大変なものであることが私には分かりました。

 男性は、鼻も耳も潰れ、顔も腕も傷だらけでしたけど、だからこそ歴戦の強者であることが分かります。

 そもそもその男性が発する雰囲気からして尋常じゃない剛の者であることは察せられるというのに、ならず者達はきっと、自分達より弱い者ばかりを相手にして調子に乗ってきたのでしょう。そこで本当の強者を前にしても、その力を見抜くことが出来なかった。

 仮にも冒険者を名乗りながら、その体たらく。よくここまで生きてこられたものだと思います。きっと、運の良さだけでなんとか凌げてきたのでしょうね。

 けれど、ならず者達も、運だけでなく卑劣さも活かしてこれまでやってきたのでしょうから、すぐさま狙いをドゥルカへと切り替えて、彼を捕らえようとしました。

 でもそんなもの、勇者の息子であるドゥルカには通じません。

 自分に向けられたならず者の腕を掴み、一瞬でねじり上げて引き倒してしまいます。しかも、男性も、鞘に入ったままの剣を突き出して、ならず者の顔に一撃を入れていたのです。

 こうしてたちまち2人が地面に伏せてしまい、さらに3人目には、その腹に、男性の剣の鞘と、ドゥルカの拳が叩き込まれていたのでした。

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