第6話【剛将の襲撃】

 オリヴィアさんに報告をしてからそれから数日ほどが経った。カナちゃんから聞いた話によるとこれまでの王都での襲撃の件もあったので騎士団の方では警備などを強化する方向で行くそうだ。また、各地方の領主にも厳重な警戒も呼びかけているそうだ。

一方で僕はどうしていたかというと………。


「よし………それじゃあ今日も始めるとするか!」


「お願いします!」


あれからゲンムの狙いのひとつが僕だという事が万が一に備えて自分で自分を守れる様になった方がいいという事になり、こうしてミサトさんに剣の稽古をつけてもらう事になった。

シンにいにもつっこまれたけどももし魔封の笛が何らかの理由で使用できない状況に陥った場合は自分の力で切り抜けならないしここで一から鍛え直そうという事で今に至った。日によってはシンにいが稽古をつけてくれる時もあるが殆どの場合はこうしてミサトさんが担当している。


「それじゃあどこからでも掛かってきな!」


「はい!」


 僕は稽古用に用意してもらった木刀を手に持ちミサトさんに突撃する。


「まだまだ!踏み込みが全然足りないぞ!!」


 ミサトさんも木刀で僕の攻撃を払い除ける。


「なら、これならどうだ!」


 すかさず体勢を立て直した僕は別の角度からミサトさんに攻撃を仕掛ける。


「そう来たか………だがまだまだ甘い!」


「うわっ!?」


 ミサトさんは僕の攻撃を難なく回避して逆に一撃入れてきた。

 僕は回避に間に合わず吹き飛ばされる。


「ナオさん!」


僕の特訓を見に来ていたカナちゃんが思わず声をあげる。そしてこちらに駆け寄ろうとしたけども僕は立ち上がりカナちゃんに待ったをかける。


「大丈夫……これぐらいの傷だったらまだまだいけるから」


確かにミサトさんは強い。僕の攻撃を難なくかわし確実に一撃を入れてくる。恐らく幾分かは手加減をしていると思うけども稽古相手としては十分過ぎる程の実力はある。もしかしたらユーフェス村にいた時に稽古をつけてくれた爺ちゃんと同等かそれ以上の腕前かもしれない。

それでも僕はミサトさんとの稽古を続ける。自分自身を鍛えるために。


「もう一度お願いします!」


「よし、来い!」


 僕は再びミサトさんに立ち向かって行く。




「よし、今日はここまで!」


 それから2時間ぐらいは経ってようやく稽古は終わった。話すまでもなく最後まで僕が挑んではミサトさんに返り討ちに合うだけであった。

 流石に何度も何度もやられていたので僕は地面に倒れ伏せている。


「ナオ坊、立てるか?」


「は………はい、なんとか」


 僕はボロボロになりながらも何とか立ちあがる。そこへカナちゃんが駆け寄ってくる。


「待ってくださいナオさん、いま治療しますから」


 カナちゃんは僕に治癒魔法を掛けてくれた。そのお陰で稽古でついた傷が瞬く間に癒えた。


「ありがとうカナちゃん」


「いえいえ、これくらいお安い御用です。でも恵子にしては少々ハード過ぎませんか?」


 と、言いながらカナちゃんはミサトさんの方を向く。


「カナの言いたい事は分からなくはない。だがナオ坊にはもっと強くなって貰う為にはコレぐらい厳しくしないと駄目だ!それに初めて稽古を付けた時よりは少しは腕はあがってる」


「え?本当ですか!?」


「あくまで少しだけどな、私的わたしてきにはナオ坊の実力はよくて三分の一人前だ」


「そ……そうですか………」


今の実力のレベルを率直に言われて僕は少しガックリした。


「だが元の基礎はしっかり出来てるから稽古を続ければ場合によっては私以上の腕前になれるかもしれないぞ」


 と、ミサトさんはフォローを入れてくれた。


「しかし………流石にこれだけ動いたんだ。そろそろ飯にでもするか?」


「はい!」


 僕らはひとまず昼食を取り出向く事にした。




「………さて、今日は私が奢ってやるから好きな物を頼みな」


 ミサトさんのお気に入りの店に共に入りテーブルに座って早々にそう言い放った。


「………って、ミサトさん、お金は大丈夫なんですか!?僕もカナちゃんも自分の分ぐらいなら払いますよ」


「なぁに、この前のギルドの依頼とルミナが何でも屋の仲介でやった一日用心棒の仕事で入った金があるから大丈夫だ!とにかく好きな物を頼んで食べな、私も自分が好きな物を頼む」


 そうニヤリとしながらミサトさんは自信満々に応えた。

 とりあえず僕達は2人はミサトさんの懐を心配しつつも僕とカナちゃんはそれぞれ定食セットを注文する。一方のミサトさんはというときつねうどんなる物を注文していた。

ミサトさんの故郷であるシノノメの国にある食べ物の一つでミサトさんが調べた限りでは王都ではこの店でしか食べれないそうな。因みにミサトさんが言うにはこれでおからがあれば言うことなしの良店舗だったのに………だそうだ。




 それからしばらくして僕らが食事を終えたその時だった。店にルミナさんが何やら急ぎでやってきた。


「あーここにいたのね、いやよかったよかった」


「そんなに慌てて何かあったんですか?」


「まさか良からぬ事じゃないよな?」


「そんな訳ないでしょう!実はナオくんに会いたいって人があたしのところに来たのよ?」


「僕をですか?」


「そう、だからすぐにでも来てくれると助かるんだけど……」


「まぁ、構いませんけど」


「よかったよかった!じゃあすぐ来て!!」


 カナちゃんとミサトさんをその場に残して僕は無理矢理ルミナさんに引っ張られて後にした。


「………カナ」


「………?どうかしましたか?」


「何か嫌な予感がする。すぐにシンの所に繋ぎをつけてくれないか?」


「あっ、はい!」


カナも急ぎでその場を後にした。


「さて、何も起こらなければいいんだけどね………」


ミサトはポツンと呟いた。




ルミナさんに連れられた僕は会いたい言った人と落ち合う場所までやってきた。


「確かにここいらで待ってるって言ってたんだけどねー」


「その僕に会いたい人って一体どういう人なんですか?」


「イーズさんっていう知り合いの行商人でね、どこから嗅ぎつけたか知らないけどナオくんの面作りの腕前を借りたいんだってさ」


「そうなんですか」


確かにユーフェス村にいた時も王都に暮らす様になってからも僕の作った面は割と好評みたいなので何処かから話を聞きつけてもおかしくない。

ルミナさんを介して話を持ってきたのも知り合いを通した方がいいと思ったからだろうとこの時まではそう考えていた。


「あっ、あんなところに!おーい、イーズさーん!」


そうこうしている内にルミナさんがイーズさんを見つけて駆け寄った。僕が見た限りではイーズさんはとても悪そうに見えないが何かの引っ掛かりを感じた。


「ナオくんも早くこっちに来て挨拶して!」


「あっ、はい!」


僕は一先ず2人の元に行く。


「はじめまして、ナオ・クレイフです。話はルミナさんから伺っています」


「はじめまして、君がナオくんかぁー確かにの様だな………」


イーズさんは一瞬だけニヤリと笑った。そして次の瞬間、何処からともなく武器を取り出して僕らを攻撃してきた。


「っ!?ーーーあぶない!!」


「ひゃあ!?」


僕はルミナさんを抱えて間一髪の所でかわした。


「ーーーほう、俺の攻撃に気づいてかわすとは聞いていた以上にはできる奴だな」


「そういうあなたは誰なんですか?商人にしては尋常じゃない殺気を感じましたけど………」


「ほぅ、そんな事にも気づくとは流石だな………よし、冥土の土産に教えてやろう!」


イーズさんに化けた相手は一瞬の内に変装を解いてその邪悪な姿を僕達の前に見せた。


「俺の名はゲンム四幹部の1人、剛将ゴーリキだ!小僧……貴様には我らが野望の為に消えてもらう!!」


ゴーリキが合図をすると突如、地面から配下だと思うゲンムの兵がワラワラと飛び出してきた。僕もルミナさんも武器を取り出し戦闘体勢に入る。


「さあて、何も知らずあの世に逝って貰おう………やれ、ゲンム兵!」


ゴーリキの指示で配下の兵達が僕とルミナさんに襲い掛かってきた。僕は大地のつるぎで、ルミナさんは攻撃魔法で何とか応戦する。

相手の強さはそうでもないものの人数がこれまでの戦いより多くいてこちらは2人だけなので押されかけている。ルミナさんが防御魔法を展開して攻撃を防いでくれている間に僕が魔封の笛を使えばまだ活路は開ける可能性もあるが当然敵がそんな暇を与えてくれるはずもなく、僕らはただ防戦しながら次から次へとゲンム兵を倒すのに精一杯だ。


「ほぅ、思ってた以上にはやるな………なら俺が相手だ」


ゴーリキは何処から自身の武器である矛を取り出した。矛のサイズはゴーリキの身長に合わせた長い物だ。そしてこちらに挑んでくる。


「ルミナさんは下がってください!」


「でもナオくん1人じゃ………」


「僕がこいつを押さえつけてる間に何か協力な魔法を一発お願いします!」


「………わかったわ!」


確かにルミナさんの言う通り僕が相手では叶わないだろ。でも接近戦になると魔法での戦闘がメインなルミナさんでは条件的に僕以上に不利なのが目に見えている。それに魔封の笛も使う余裕もない。

それならば僕が相手を惹きつけている間にルミナさんに何か強力な魔法を放ってもらえばまだ逆転のチャンスがあると考えた。とにかくルミナさんの詠唱が終わるまで少しでも時間を稼がないといけない。


「行くぞ!」


僕はゴーリキに攻撃を仕掛ける。


「何だ、その程度か」


しかし大地のつるぎによる僕の一撃を矛で軽々と払い除けた。


「まだだ!」


だがすかさず次の攻撃へと移るがまた簡単に払われてしまう。


「小僧、貴様の攻撃はその程度か?今度はこっちから行くぞ!」


「うわぁぁっ!!」


「ナオくん!」


今度はゴーリキの矛による一撃で僕が吹っ飛ばされてしまう。その光景を見てルミナさんも思わず詠唱を解除してしまった。


「くっ………」


ゴーリキの一撃は凄まじく、吹き飛ばされた衝撃によるダメージも相まって僕は立ち上がれずいた。

そしてゴーリキはゆっくりとこちらに近づいてきた。


「それなりの腕前だと思ったが所詮は子供、例の笛がなければこんなものか」


ゴーリキは立てないでいる僕に矛を得意げに向ける。


「くっ………」


「何、苦しまず一撃であの世に逝かせてやる………死ねぃ!」


僕は死を覚悟した。そしてゴーリキが僕の頭上から矛を振り下ろそうとしたその時だった。


「何!?」


突如、何処からともなく鉄扇が飛んできてゴーリキの矛に命中した。ゴーリキが慌てふためいた一瞬をつき僕は立ち上がりその場から離れる。


「ギリギリ間に合ったみたいだな!」


「ミサトさん!」


鉄扇を投げて僕を助けてくれたのはミサトさんだった。


「どうしてここが分かったんですか?」


「ふっ、素浪人の感って奴だ」


ミサトさんは疾風はやての太刀を抜いてこっちに駆けつけてくる。


「カナに頼んでシンや騎士団の連中も来るはずだ。それまでに持ち堪えられるか?」


「これぐらいならまだなんとも………ですよね?ルミナさん」


「そうよ、ミサトが来たなら百人力よ!」


「あのデカブツは私がやる、2人はまだ残ってる雑魚どもを頼む」


「わかりました!」


「ミサトも気をつけて」


ミサトさんはゴーリキの方に向かう。


「ほぉ、今度は女が相手か……だが小僧よりは腕が立ちそうだな」


「おっと、私を舐めてもらっちゃ困るよ。それにナオ坊を傷つけた礼は高くつくからね」


ミサトさんとゴーリキの戦いが始まる。両者共に激しく斬り結んでいる。とても僕が入り込む余地のないぐらいの戦いだった。


「ルミナさん、何か防御魔法をお願いします!」


「任せといて、フォースシールド!」


ルミナさんは僕らの周囲に防御魔法の一つ、フォースシールドを唱えて展開した。このフォースシールドで持ち堪えてる間に僕が魔封の笛で召喚獣を呼ぶという算段だ。

しかし召喚してる間にフォースシールドがどこまで耐えられるかが心配だ。だがそこにまた一人救援が現れた。シンにいである。シンにいが手槍を持って大急ぎでここに駆けつけてくれたのだ。


「ナオ!無事か!?」


「ありがとうシンにい!」


着いて早々とシンにいはゲンム兵を相手に大立ち回りを繰り広げる。シンにいは相手によっては回し蹴りを決め、また違う相手には手槍を突き刺す。


「ナオくん、シンが敵を抑えてる間に早く!」


「はい!」


僕はすぐさま魔封の笛を取り出した。


「………こういう時は達が適任だ!」


僕は魔封の笛で召喚の音色を奏でる。


「現れよ!精霊シエルとユエル!!」


魔法陣から2人の姉妹が現れる。彼女達が魔封の笛の13の召喚獣の一体である精霊のシエルとユエルの姉妹である。姉のシエルと妹のユエルの2人でひとつという精霊だ。


「じゃーん!ナオくん、やっと呼んでくれたのね!!あたしとユエルちゃんが来たからもう大丈夫よ。ここは任せなさい!」


「姉様、ご主人に無駄口叩いてないで早く片付けますよ!」


「わかってるって。行くよ、ユエルちゃん!ナオくんはここで待っててね♪」


「うん、2人とも頼んだよ!」


僕は飛び立つシエルとユエルを見送る。シエルとユエルは上空からそれぞれ左右に分かれ、大方のゲンム兵を把握できる位置に行く。


「それじゃあユエルちゃん、やろう!」


「はい、姉様」


「ツインストーム!!」


シエルとユエルは同時に風魔法を放った。その威力は強力でゲンム兵が次々と吹き飛ばされてゆく。その威力はシンにいもすぐに僕らの方に退避するほど凄まじいものだった。


「まぁ、ざっとこんな感じかな」


シエルとユエルは動きを止める。先程まで沢山いたゲンム兵は一掃され山の積まれていた。


「2人ともありがとう」


「なぁに、ナオくんの為なら例え火の中水の中………ね?ユエルちゃん」


「はい………ですがご主人」


「!?」


「もしも姉様に手を出したりとか何かした場合は容赦しませんからね」


「あっ………う、うん」


シエルとユエル………。姉のシエルの方はこの通り僕にデレデレと言っていいぐらいに甘々で逆に妹のユエルは姉一筋と言うぐらいの姉好きでもある。どちらも悪い精霊と言う訳ではないけど互いがこの性格の為時々扱いに困るのが偶に傷だ。


一方その頃、ミサトさんとゴーリキの戦いはまだ続いていた。勝負はほぼ互角の様に見えてたが身のこなしが素早い分ミサトさんの方が有利であった。


「さぁて、このまま戦い続けるのはいいがあんたの方の子分は全員やられたみたいだよ」


「何!?」


ゴーリキは辺りを見回す。そこでゲンム兵が全滅している事に気づく。


「くっ!覚えていろ!!」


そして捨て台詞を吐いてゴーリキは退散する。


「ふぅー」


「ミサトさん!」


僕らは疾風の太刀を鞘に収めたミサトさんと合流する。


「怪我はないですか!?」


「ご覧の通りよ」


「なら良かった」


ここにいる皆が無事を確認した僕はひとまず安堵する。

しかし問題はこれからだ。今回の時の様にまたゲンムの刺客が襲ってくる事は間違いない。そしてターゲットは確実に僕に定めている。何か対策を考えなければ………


「………ミサトさん」


「なんだい?」


「このままだといけない気がするんです、だから僕をもっと鍛えて下さい!」


「………いいだろう。但し、これまで以上に厳しくするから覚悟するんだぞ!」


「はい!」


ミサトさんは僕の頼みを快く引き受けてくれた。これからは強くなって皆を守れる様にならないと僕も決意を新たにする。

それからしばらくしてからカナちゃんの案内で騎士団の人達が到着したもののまた解決した後だったので言うまでもなく事後処理に追われるのだった。





その頃、ユーフェス村のテビエの家。そこでテビエは1人の若き騎士と話をしていた。


「それじゃあもう行くのか?」


「はい、噂に聞いたテビエ殿の剣技も見れましたし………それに」


騎士は懐から1通の封を出す。


「この様に急な呼び出しが来たので急ぎ王都に戻らねばなりません」


「そうか………なら達者でな」


「はい、テビエ殿の方も体に気をつけて」


「あぁ、ちょっと待ってくれ」


テビエは一旦、騎士を止める。


「どうかしましたか?」


「王都に行くのであればもし孫のナオに会う事があったら爺ちゃんも婆ちゃんも元気でやってると伝えてくれないか?」


「お孫さんですか?」


「そうだ。ちょいと真面目なとこもあるが俺からしたら可愛くて仕方ない孫だ」


「そうですか………もし会う事があれば伝えておきます」


騎士は笑顔で応えた。そしてユーフェス村を後にした。

この若き騎士の名はレオン・ラーハルト。位は低いものの王家に名を連ねる騎士の一人でありオリヴィア姫直属の配下でもある。

彼が王都への帰還により何が起こるのかまだ誰も知らなかった………。

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