第3話【姫様はお忍びで少年と出会うその2】

翌日。昨日はあの後カナちゃんと一緒に向かっていた騎士団の方達に事の成り行きを話してそれから家に帰宅した。叱られはしたもの被害を最小限に食い止めた事で許しは貰い、ジャイアントリザードの死骸も後処理も騎士団の方でしてくれる事になった。その後家に帰ってからもシンにいにも叱られはしたけども。

 それから翌朝、僕もシンにいも今日の朝食は遅くにゆっくり取ろうとしていたけど偶然にもカナちゃんとルミナさんが朝から家にやって来て結果4人分も朝食を作る事になってしまった。

 カナちゃんが進んで手伝ってくれたお陰で作るのには手間取らなかったけどこっちに引っ越してはじめて複数人で朝食を取った。


「…………」


「ーーーどうかしたんですかナオさん?」


「あぁ………ちょっと昨日の事でつい……」


 あの騒ぎの前後で突然いなくなっていたオリヴィアさん。無事だと思うけども怪我などはしてないだろうかと心配ではあった。だがそんな時に事態は起こった。


「ーーー!?」


「どうしたのシンにい?」


「みんな動くな!外に誰かがいる」


「へぇー、ちょっと二階から見てみましょうか」


 そう言ってルミナさんは二階へ上がった。それから間も無く慌てて戻ってきた。


「ちょっとちょっと!何で外にあんなに沢山騎士がこの家に取り囲んでんのよ!!それも見た目からして王族直属のじゃない!」


 その言葉を聞いてシンにいは窓を少し開けて外を覗き込んだ。僕も横で一緒に見る。そしたらルミナさんの言葉通り外には騎士団の人達がいっぱいいた。ルミナさんが言うには城にいる王族直属の方の騎士団で同じ騎士団内でもゲンシさんら王都の駐屯地にいる人達とはまた違うとの事である。


「ナオ、万が一の為に武器を持っておけ。ルミナはカナちゃんと一緒に隠れてろ」


「了解、2人とも気をつけてね」


 ルミナさんはカナちゃんと共に身を隠した。それを見届けた後、僕とシンにいは互いに武器を隠し持ちドアの前で構えた。そして外から誰かがドアをノックしてきた。


「すいません、誰もいないのですか!?」


 僕とシンにいはタイミングを伺う。


「ナオ、気をつけろよ」


「そういうシンにいこそ」


 そして僕はドアを思いっきり開けた。そしたら意外な人が待っていた。


「あら、やはり御在宅でしたか」


「…………って、オリヴィアさん!?どうしてここに?」


「ナオ様、昨日はお付き合い頂きありがとうございます」


 オリヴィアさんは昨日と変わらず笑顔で返してきた。そしたらオリヴィアさんの横にいる騎士団の人の1人が出てきた。


「無礼であるぞ!此方におわす方こそ我がマリフィス王国の第一王女であるオリヴィア・S・マリフィス様であらせられるぞ!!」


「エエェー!!?」


 この時、オリヴィアさんの正体を知った僕らは驚きを隠せなかった。




「オリヴィアさん……じゃなかった、お姫様。粗茶ですがどうぞ」


 僕は恐る恐るオリヴィア姫にお茶とお菓子を運んでくる。


「ありがとうございますナオ様。でもそんなに硬くならないでいいんですよ」


「でもこの国の王女様相手にそんな口言える訳が……」


「衛兵も全員外で待機させてますし、お忍びで市井に来た時とか配下がいない時は昨日の時みたいに話し掛けてくれて結構です」


「は、はぁ…」


  僕はただただ恐縮するばかりだった。

 そこでシンにいが話を切り出してくれた。


「しかし……この国の王女であるあなたが何故ナオに用があるんです?」


「それはですね………」


 そこからオリヴィア姫………じゃなかった、オリヴィアさんの話が始まった。何でも騎士団の報告書から僕の活躍を耳にした事がキッカケで自分の目で僕がどういう人間で魔封の笛がどんな物なのか自分の目で確かめたかったから昨日はお忍びで僕に会ったそうな。

 そして昨日の僕の活躍を見て確信を持ち今日こうして改めて自分の身分を明かした上で会いに来たそうだ。


「ナオ様に是非とも協力して欲しい事があるのです」


「協力……ですか?」


「はい……ここ何度かの魔物騒ぎですが実は王都やユーフェス村以外でも似た様な事件が何件かありまして、各地で調査をしている密偵達からの報告を見て私はこの一連の事件の裏に誰かが何か陰謀を企んでると考えてるんです。そこでナオ様には私達とは別で魔物を操っている者達の追って欲しいのです。無論、タダとは言いません、それ相応に報酬なども用意します」


「ちょっと待って下さい!」


 そこでシンにいが話に入って来る。


「姫様、ナオの身を預かってる者として言いますが俺としてはナオを自分から危険に晒す様な事は反対です。それに万が一、ナオに何かあったら俺の事を信じてナオを送り出した御前と奥方……いや、テビエさんとゴルテさんに申しわけ出来ない」


「それは分かっています。もし、ナオ様が断るのであればこの話は最初から無かったものにと考えてましたので……私としてはナオ様の意思を尊重したいと思っています」


「ナオ、お前はどうするんだ?」


 シンにいは僕に話を振る。僕はしばらく考え込んだ。でもすぐに答えは出た。


「シンにい、僕はこの話を引き受けようと思う」


 それが僕の出した結論だった。危険な仕事であるのは百も承知だがそれ以上に魔物を操っている相手の正体の事や父さんの死の真相、そして母さんが何故魔封の笛を持っていたのかを知るチャンスかも知れないと考えたからだ。

 それにこれまで起きた一連の魔物絡みの事件の黒幕も自分の手で探そうとも思っていたし爺ちゃんの事だからその事も承知で僕の事を送り出したとしておかしくない。


「いいよね?シンにい


 シンにいは"やれやれやっぱりな"っとした顔でこちらを向く。


「お前の性格じゃあ俺が反対しようが意地でも引き受けるつもりだったんだろう?だが条件がひとつだけある……」


「条件?」


「俺もその話、乗らせてもらうぜ。ナオ1人に危険な仕事をやらせる訳にはいかないからな」


「シンにい……」


「ーーーちょっと待って下さい」


「カナちゃん!?」


「それならば私も仲間に入れて貰えないでしょうか?戦闘面で役に立つかはわかりませんが回復魔法でサポート役なら務める事が出来ます」


「でもカナちゃんは良くてもゲンシさんが反対するんじゃないかな?」


「父からは私が上手く説得します!だからいいですよね?」


 カナは力強く応える。それに対してオリヴィエさんはどうかと言うと。


「……いいですよ、仲間が1人でも多い方がいいですからね」


 と、笑顔で返した。そしてもう1人話を聞いてくる。当然ルミナさんの事である。


「ちょっといいですかお姫様?」


「はい、何でしょうか?」


「それ相応に報酬を頂けるとの事ですが………一体どれぐらいもらえるんですか?」


「そうですね」


 オリヴィアさんは手近にある紙とペンで提示額を書いた。


「ひとまず一回の依頼で1人あたりこれぐらいの額なら払えますよ」


「5、500万!?」


 ルミナさんは提示された額を見て驚きを隠せないでいた。そして一回深呼吸をして改めて


「ナオく〜ん、あたしも仲間に加わっても大丈夫かなー?」


「………おい、ルミナ」


 シンにいが思わず呆れ顔。


「お前、絶対額を見て釣られただろう。というか戦闘とか大丈夫なのか?」


「何言ってるのよ!今は何でも屋と占いの店をやってるけどこれでもまだ凄腕魔術師としての腕前は未だ衰えてないわ!それに何でも屋の情報網を使えば些細な事も調べられるし………いいでしょナオくん?」


「どうする?ナオ」


「僕としては別に構わないけども………」


「じゃあ、決まりね!」


 ルミナさんはよし、とガッツポーズを取る。一方のオリヴィエさんは動じもせず次に話を進むる。


「仲間は1人でも多いに越した事はないですからね。しかし4人もいるのであれば王都の冒険者ギルドに登録してみたらどうでしょうか?」


「冒険者ギルド………ですか?」


「ええ、それに何かしら繋ぎを取る時に落ち合う場所としても活用できますし」


「そうね………それに他の依頼経由で例の連中にぶち当たる可能性もあり得なくないわ」


 と、ルミナさんは補足してくれる。僕としてはギルドとかの事には詳しくないのでここは知ってる人に任せた方がいいと思い2人の提案を受け入れる。


「それじゃあオリヴィアさんの提案通りでお願いします」


「おいナオ、任せっきりでいいのか?」


 心配そうになったシンにいが僕に声を掛ける。


「大丈夫だよシンにい、きっと何とかなるよ」


 今の僕にはこう応えるしかなかった。これからギルド登録とか手続きもあるけれどもこうして僕達とオリヴィアさんは協力関係を結ぶ事になったのだ。


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