第3話【姫様はお忍びで少年に出会うその1】

 マルフィス城の一室。ある少女が部下から貰ったこの前の街の魔物騒ぎに関する報告書を読んでいた。


「なる程……私が少し目を離していた時にこんな事が起きてたのですね………しかし」


 少女は報告書に載っているある人物の名前に注目する。


「このナオ・クレイフという人、一度は会ってみたいものですね」


 少女は意味深げに呟いた。




 あれから数日程が経った………僕はひとまずシンにいの家でお世話になる事になり、流石にそのままただで居候する訳にもいかないのでユーフェス村の時と同様に面作りをして問屋に渡す仕事をする様にしていた。幸いにもこちらでも僕が作った面は割と好評の様で何とか生活費の方まではお世話にならないで済んでいる。そして僕がユーフェス村にいた時や王都に着いた時に現れては魔物を操り襲撃を掛けた仮面の男はあれ以降姿を見せる事はなかった。カナちゃんが父親のゲンシさんから聞いた話によると騎士団の方でも足取りは掴めてないとの事だそうだ。果たしてあの仮面男……いや仮面の男達の狙いは本当に何なのか疑問が深まるばかりだ。

 さて、色々と思う事はあれど今日も今日とて出来上がった面を纏めて問屋さんに届けに行くところである。


「それじゃあシンにい、問屋さん廻りに行ってくるね」


「あぁ、気をつけるんだぞ」


「わかってるよ………って、おっと」


「きゃ!」


 僕が外に出ようとドアを開けたその時、ドアの外側にいた女の人とぶつかり掛けた。だが女の人は思わず転けてしまった。女の人は見た感じシンにいと同い年か1歳上ぐらいで眼鏡をかけており典型的な魔女みたい服装を身につけていた。


「ーーー大丈夫ですか?」


「ーーったく、久々に様子を見に来たら一体なによ!」


「おっ、こんな朝早くから誰かと思ったらルミナか」


「シンにいの知り合い?」


「近所で何でも屋と占いをやってる魔術師だ。何の因果かたまにこっちにこうやって顔を出してくる時があるんだ」


そう言いながら僕達2人は尻餅をついてる彼女を起こさせて家の中に入れてあげた。




「なる程………と言うとこの子が噂になってたナオくんね」


 とりあえず彼女………ルミナさんを家にあげてシンにいに言われた通り僕は簡単な朝食を用意してあげた。シンにいが言うにはルミナさんが朝早くからうちに来るのは飯をたかる時か何か如何わしい仕事の話を持ってくる時が殆どだそうだ。


「しっかし、あんだけの騒ぎだったのまさか知らなかったとはな……」


「仕方ないでしょ、あの日は何でも屋の仕事でちょうど遠出の仕事が入って王都にはいなかった訳だし」


「じゃあシンにい、僕は問屋さんの方に行ってくるね」


「おぅ!」


「ルミナさんもごゆっくり!」


 僕は改めて出掛けることにした。


「しっかし…あんな如何にもピュアっ子な子が召喚術を使えるとはねぇ………」


「お前、もしかしてナオを金儲けに利用したりとか考えてないだろうな?」


「そんなつもりはないわよ。仮に片棒でも担がせたらそっちも黙っちゃいないでしょ?」


「………まあな」


「それそうと……あの子はあなたのかつての"仕事"の事は知っているの?」


「いや……というより、ナオに出会った時にはもうあの仕事には足を洗ってる」


「そりゃあそうよね………」




「さてと………」


出来たお面を問屋さんに届けた日は決まって街の食堂とかで昼食を取るのがここ最近の楽しみの一つだ。

 今日は露店で買ったホットドックを2つ程とジュースをお供に公園の飲食スペースに座って昼食を取る事にした。偶には外で食事を取るのも乙なものだと僕は思う。


「それじゃあいただきます」


 こうして青空の下で昼食を食べてるとまるでこの前までの魔物騒ぎが嘘の様に思えてしまう。そう感じてしまうぐらいに今は平和である。


「すいません、向かい側に座ってもよろしいでしょうか?」


「あ、構いませんよ」


 昼食を取ってる時に見知らぬ女の子が声を掛けてきた。歳は僕よりはちょっと上くらいだろうか?見た限りどことなく高貴な雰囲気を漂わせているので多分、どこかのお嬢様だろう。

 彼女は僕の向かい側に座り、持ってきていたランチボックスをテーブルの上に広げ、水筒を取り出し昼食を取り始める。

 僕の方はというと食事も終えたのですぐに立ち去ろうとした。


「あの……もしよろしければ私に付き合ってもらっても大丈夫でしょうか?」


「はい!?」


 今日はじめて顔を合わせた人に誘われて流石に驚く。


「………失礼しました、私は下級貴族の娘でオリヴィア・サルノと申します。あなたはナオ・クレイフ様ですよね?この前の魔物騒ぎを解決させた………」


「……!?どうして僕の名前を知っているんですか?」


「知り合いに騎士団の方がいらしましてその方から話は伺っております」


 彼女は笑って答えた。


「話を伺ってあなたがどの様なお方が興味があったのでこうしてお会いしたのです」


「そうなんですか……」


初対面ながらも彼女……オリヴィアさんの行動力の早さに驚かないと言うと嘘になる。しかしここで彼女からのお誘いを断るのは失礼にあたる気がした。幸いにも今日は昼以降はフリーだしお面作りも依頼された分に関しては明日からの制作でも十分に間に合う。そして会ったばかりではあるがオリヴィアさんもそこまで悪い人には思えない。

 ここはひとまず彼女の誘いに乗ってみる事にする。


「………いいですよ、何処へでも何なりと」


「ありがとうございます。ここに居座り続けるのもアレなのでひとまず他の場所に移動しましょう」


オリヴィアさんと一緒に僕はまず公園を後にした。そして移動してる時の一部始終を見られてた事をこの時の僕はまだ知らなかった………


「ん?あれはナオさんに………女の人?………何か怪しい物を感じるので尾行してみましょう」


 偶然にもナオとオリヴィアが一緒にいる所をカナに見られていたのである。カナは気になって2人を密かに尾行し始めたのであった。




 それから僕はオリヴィアさんと共に王都の歓楽街や商店街などを見て回った。オリヴィアさんは自身で下級とはいえ貴族の出とは言っていたものの庶民の嗜みには結構馴染んでいた。きっと普段から自分で街を見て回ったりとかしているものだと僕は思った。

 そして僕達2人は郊外の方にある森林公園のベンチでひとまず腰を下ろした。流石にこうして街中を回るのは楽しい反面、少し疲れた。


「いやー色々回りましたね、でも楽しかったですよ」


「それならよかったです………ところでオリヴィアさん」


「はい?」


「僕をと遊び回るためにこうして連れ回してた訳じゃないですよね?………会ったばかりの人に言うのも何なんですけども」


「やはりお気づきでしたか……」


「何となくそんな感じがしたもので……」


「実は………」


 オリヴィアさんが話そうとしたその時だった。僕は何やら不穏な気配を感じた。


「ちょっと待って!」


 オリヴィアさんを静止して僕は集中してこの不穏な気配が何処から来ているのかを探る………そして


「………間違いない、"下"からだ!」


 すると土中から突如としてジャイアントリザードが姿を現した。全長10メートル以上はある巨大な魔物の出現で周りにいた人達は悲鳴をあげ、次々と逃げ出していく。


「オリヴィアさん、こっちです!」


 僕はオリヴィアさんの手を引っ張り彼女を安全そうな場所へ避難させる。




「………はぁ、はぁ、ここまで来ればひとまずは大丈夫かと」


 何とかジャイアントリザードの行動範囲外のところまで無事にオリヴィアさんを避難させる事は出来た。


「それじゃあオリヴィアさんはここで隠れていてください!」


「待ってください!ナオ様はどうするのですか!?」


「僕はあのリザードを食い止めに行きます」


「幾らナオ様でもあの様な巨大な相手では………」


「大丈夫です」


 僕は腰に掛けている魔封の笛を抜いた。そして笑ってオリヴィアさんにこう応えた。


「僕にはこの"魔封の笛"がありますか!」


 そしてジャイアントリザードのいる方へ向かって走った。オリヴィアさんが何かを言おうとするのを振り切って………


「あっ、ナオ様!………それならここから見させてもらいます。ナオ様が使う召喚術を」




 僕はひとまずジャイアントリザードの近くかつ死角になりそうな位置にまで移動した。そして魔封の笛を吹きまずはシャルを召喚させる。


「いでよ、知恵猫シャル!」


 目の前に魔法陣が現れ中からシャルが現れる。


「知恵猫シャル、ただいま参上にゃ!」


「シャル、来てくれてありがとう」


「にゃあに、あるじであるニャオが呼べば例えどこへでもやってる来るのが僕ら魔封の笛の契約に結ばれた13の召喚獣だにゃ。それで今回はにゃんの用だにゃ?」


「あいつを見て欲しんだ」


 僕はジャイアントリザードの方を指差す。


「にゃる程、あのジャイアントリザードの対処に関してにゃね?ここは巨体には巨体をぶつければいいにゃ」


「巨体をぶつける……つまりは巨神を召喚すれば!」


「そうにゃ、巨神ガイア・ゴーレムならあんなトカゲ一捻りできるにゃ」


「わかった!」


 僕は魔封の笛を奏でる。


「いでよ、巨神ガイア・ゴーレム」


展開された魔法陣から巨神ガイア・ゴーレムが出現する。

 巨神ガイア・ゴーレム。全長約15メートル程の巨体を誇り、その青いボディーは鋼鉄に覆われていてゴーレムと言うよりは機械の巨人と言った方がしっくりする見た目だ。オマケに指からミサイルを発射し胸が開いてビームを撃つ事も可能だ。シャルが13の召喚獣で巨大な敵にうってつけの1体と教えてくれるのも納得の1体だ。


「ガイア・ゴーレム、あのジャイアントリザードが街に入る前に食い止めて!」


僕の指示によりガイア・ゴーレムはジャイアントリザードの方へゆっくりと進撃を開始する。一方でジャイアントリザードの方もガイア・ゴーレムの気配に気づいてガイア・ゴーレムのいる方へ向きを変える。そして、両者は睨み合い始める。


「グオォォォ!」


 先に攻撃を仕掛けたのはジャイアントリザードの方だった。しかしガイア・ゴーレムにはジャイアントリザードの体当たりは通用しない。


「ガイア・ゴーレム、あいつにパンチをお見舞いするんだ!」


 僕の指示でガイア・ゴーレムはパンチを一発ジャイアントリザードに浴びせる。流石のジャイアントリザードには痛恨の一撃だった様でその場で一瞬倒れ込む、しかし即座に口から火を吐いてガイア・ゴーレムに反撃するがこれもガイア・ゴーレム相手には全く効いていない。


「ガイア・ゴーレム、ミサイル攻撃だ!」


 ガイア・ゴーレムは両手腕を前に出す、そして指から一発ずつミサイルが展開して全弾一斉にジャイアントリザードに向けて発射する。


「グギャアぁ!!」


 流石のジャイアントリザードもミサイル攻撃の前には耐え切れず断末魔の叫びを声を浴びて絶命した。


「助かったよシャル、ガイア・ゴーレム」


「にゃあに、当然の事をしたまでだにゃ。しかし……」


シャルはジャイアントリザードの死骸を見る。


「ここまで巨大なジャイアントリザードがいるとは聞いた事がないにゃ。もしかしたら誰かが人為的に巨大にさせて送り込んだのかも知れにゃい」


「人為的に?」


「うむ、ところでニャオ。今日君と一緒にいたあの娘さんの事はいいのかにゃ?」


「あっ!」


 僕はまずはシャルとガイア・ゴーレムを送還させてすぐにオリヴィアさんを避難させた場所へと走った。しかし、戻ってみるとオリヴィアさんはそこにはいなかった。もうのこの場を後にしたのだろうか………だがオリヴィアさんと入れ替わったのか別の人がそこに立っていた。


「あれ……カナちゃん!?どうしてここに?」


「あ!?これは違うんです!決してナオさんが女の人と一緒にいる事が気になって尾行してたとかそう言うのじゃなくて…!!」


 慌てふためいてるカナちゃんに対して僕はとりあえず話を振る。


「……とりあえずこれから騎士団の人に説明しないといけないしよかったら一緒に行く?」


「あ、はい!それなら」


 かくして僕とカナちゃんはこちらに向かっているであろう騎士団の人達に会って説明をする事にする。オリヴィアさんがどうなったかも気になるけど状況が状況だから後回しにせざる得ないし……しかし翌日、オリヴィアさんの正体を知る事になるとはこの時は知る由もなかった。

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